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発達障害の子どもたち 学校での合理的配慮とは?

記事公開日:2018年03月30日

2016年4月に施行された障害者差別解消法により、発達障害のある子どもたちに、学校が「合理的配慮」をすることが義務づけられました。しかし実際は、適切な支援がなく、不登校に陥いる子どももいます。どうしたら発達障害のある子どもたちが、いきいきとした学校生活を送れるのか?そのヒントを探ります。

「合理的配慮」の義務化も、学校はなお理解不足

対人関係が苦手、こだわりが強いなどの特徴がある、自閉スペクトラム症「ASD」。注意を持続させられない、じっとしていられないなど特徴がある、注意欠如多動症の「ADHD」。読む、書く、計算するなどが苦手な学習障害「LD」などを主とする「発達障害」は、脳機能の一部がうまく働かないために生じると考えられています。

2016年4月に障害者差別解消法が施行され、障害のある子どもが他の子どもと平等に学べるよう、国公立学校が「合理的配慮」(*1)をすることを義務化されました。しかし、その配慮はまだまだ全体に行き渡ってはいません。

*1「合理的配慮」とは?
障害のある人が他の人と平等に暮らすために、
周囲の人や学校、会社などが無理のない範囲で行うべき①支援や②ルールの変更、③環境の調整。
例えば、①見えない人に声で文字情報を伝える、②音に敏感な子どもに教室でヘッドフォンの着用を認める、③車いすの人のために動線を広くする…など。

番組にはこの問題について、さまざまな声が寄せられました。そのなかには次のようなメッセージがありました。

自閉症スペクトラムの小4の息子。IQは高く、学習には問題なし。学校では、大きな問題はなく過ごしていると言われてきました。しかし、3年生の後半から自宅で荒れ始め、行き渋りが増え、4年生になってすぐに不登校になってしまいました。(むらさん、クモくん)

メッセージを寄せてくれた、むらさん(仮名)と息子のクモくん(仮名)。クモくんは小学1年生の時、「自閉症スペクトラム」と診断されました。

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クモくんは、全国の路線を知り尽くす鉄道博士。関心のある特定のことに強いこだわりがある一方、相手のちょっとした言葉遣いに敏感で、つい攻撃的になってしまいます。

3年生になった頃から、一部の友達の言葉や態度に強いストレスを感じるようになりました。次第に学校に行くのが怖くなり、4年生からは通えなくなってしまいました。母親のむらさんは学校に、5年生では苦手な子とクラスを分けてもらいたいと伝えました。そして、その結果を事前に教えてほしいと頼みます。しかし、前向きな返答はありませんでした。

「苦手な子とクラスが違うと前もって分かっていたら、皆と同じ時間に私と一緒なら、もしかしたら行けるかもっていう期待もちょっとあって。とにかく閉ざされているというか、クレーマー的にだけとらえられているというか。配慮とか支援とは思ってなくて、まあ、直訴されたぐらいの感じに受け取っているんじゃないかっていう印象は持ちましたよね。」(むらさん)

結果的に、クモくんは新学期に合わせたクラス替えで配慮されました。ただ始業式よりも前に知らされるということはなく、始業式の当日に知りました。
しかし、このように配慮されるケースばかりではありません。そもそも発達障害がどういうものなのか、なかなか学校で理解してもらえないという声がたくさん届きました。

「自分の弟はADHD、LD、自閉症スペクトラムの複合障害と診断されました。公立の中学校に入学したのですが、教員たちが発達障害に知識がないため、弟を責め立てて、特に英語の教員は、特別課題として英語の単語を次の日までに1000回書いてくるなど、無茶な課題を出すなどにより、登校も渋るようになってしまいました。」

発達障害に詳しい筑波大学教授の柘植雅義さんは、クモくんのケースのように、クラス替えは発達障害の子どもに対する「合理的配慮」として有効な方法だと評価する一方、単語を1000回書く課題を出すような指導法には問題があると指摘します。

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「昔は、発達障害に限らず、障害のある子どもが学べないのは、本人の勉強が足りないなど、本人の障害のせいだと考える時代がありましたが、今は違います。ある指導、支援をして、子どもがうまく学べないのは、その指導や支援がよくないので、それを変えていこうというのがまさに特別支援教育の基本的な理念。そのことを学校が理解する必要があると思います。」(柘植教授)

教師と保護者の連携 促進のカギは「個別の指導計画

まだまだ学校側の理解不足が指摘されるなか、その理解を得るためのヒントになる体験談が寄せられました。」

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ともぞうさん(仮名)の長男Aくんは、5歳の時、アスペルガー症候群と診断。集団行動が苦手で中学に入ると学校になじめず、不安定になっていきました。

「本人もつらいんですよね、やっぱりね。怒られてパニックになって、また教室から出てしまってっていうのが見えるというか。そういうことが続いていることが多かったので、私も息子もやっぱり大変でしたね。」(ともぞうさん)

学校で何が起こっているのか。ともぞうさんは、担任の先生と交換日記をすることにしました。始めた当初、担任からの記述は問題行動の報告ばかりでした。

Aくんがなぜそういう行動をとってしまうのか、ともぞうさんは先生に丁寧に伝え続けます。しかし、半年間やりとりを重ねても、なかなか状況は変わりません。秋には、担任から「通常学級ではもう難しいのでは」と持ちかけられました。

そんな時、転機となる出来事が起こります。発端は、掃除の時間、紙しか入れてはいけないゴミ箱に別のゴミを捨ててしまったこと。それを友達に注意されたことがきっかけで、Aくんはパニックになってしまいました。

ともぞうさんがAくんに話を聞くと、「紙ゴミ」と書かれたゴミ箱を「紙」と「ゴミ」ととらえ、紙とゴミを入れていいものだと思ったというのです。発達障害の子と他の人との間にはとらえ方のズレがあることを、ともぞうさんは先生に丁寧に説明しました。

するとこの出来事をきっかけに、担任からの報告の内容に変化がありました。できなかったことではなく、できたことをみつけ、伝えてくれるようになったのです。Aくんは少しずつ落ち着いて過ごせるようになっていきました。

交換ノートを通じて教師と保護者が連携し、Aくんの学びにくさや行動の意味を一緒に考えることが、学校を過ごしやすい場所に変えました。こうした「連携」を仕組みとして広げていくために、 重要なカギとなりうるのが「個別の指導計画(IEP)」だと柘植教授は言います。

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「個別の指導計画」は教師が子ども1人ひとりにあった指導の目標と支援の方法を定めるものです。
例えば1学期に『ドッチボールなどでぶつけられても怒らない』といった指導の目標を立てます。
次に『仲良しペアで投げ合い、ルールを理解させる』といった支援の方法を定めます。そして支援の結果についても記し、次に繋げていきます。

「この『個別の指導計画』は教師だけではなかなか作れません。たとえば学校で起きている問題が、家庭では起きているのか、いないのかといった情報は非常に重要です。そういった実態を把握し、目標を掲げるところも含めて、保護者との綿密な連携が必要になるのです。」(柘植教授)

2016年6月の発達障害者支援法の改正では、これまで任意だった「個別指導計画」の作成の推進が盛り込まれました。これによって、小学校では平成32年度まで、中学ではその翌年度までに、通級や特別支援学級に通うすべての子どもについて作成が義務化される予定です。

「個別の指導計画」の作成を通して、教師と保護者の連携が促され、子どもに対する共通理解が進むことが期待されます。

教師が抱える悩み 解決の糸口は「チーム支援」

学校側の理解不足が指摘される一方、人手不足で十分なことができず、支援が必要な子どもと他の子どもへの対応の板挟みで悩む先生もいます。

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今年、教師12年目になる飴子(あめこ・仮名)さんのクラスは19人、そのうち発達障害の可能性があり支援が必要な子どもが6人います。トラブルが起きて、その子たちにかかりきりになる間、他の子どもには自習をさせているのを申し訳なく思っています。

さらに、支援を受けている子ども自身も、「みんなに迷惑をかけているのではないか」と心苦しく思っていることに気付き、発達障害のある子と、そうでない子のどちらも助けられていないと飴子さんは悩みます。他の先生に補助を求めたくても、どのクラスも大変で、なかなか助けてもらえないのが現実。学校は慢性的な人手不足に悩んでいます。

では実際、どうすればいいのでしょうか。
その糸口として、柘植教授が挙げるのは、「教師1人が頑張るのではなく、学校のなかでチームを作って、その問題や支援策を共有すること。」

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担任を支える仕組みとして国が示しているのは、まず、特別支援教育コーディネーターという役割の先生をおき 定め、保護者などから相談の窓口となりつつ、担任や校長、養護の先生などと連携して、一人ひとりの子どもの支援を押し進めます。そして定期的に校内委員会という会議を開いて、学校全体で子どもの支援を検討。さらに学校が困った時には、外部の専門家に相談できる仕組みもあります。

こうした仕組みをうまく機能させるには、次のような二点が重要だと柘植教授は言います。

1.コーディネーターとなる先生の人選
保護者との連携がうまくいかないケースが多いときには、ベテランの教師をコーディネーターにするなど、必要に応じて誰にするのかを考える。

2、校内委員会では意識の醸成をする
学校で起こっている問題を認識し、それを変えていこうといメンバー全体の意識の醸成が必要。そのためには、年に1回の開催では足りず、月に1~2回とか週1回くらい必要と思われる。

発達障害の子どもの教育が全体の底上げに

発達障害の子どもの教育に力を注ぐ、東京都日野市。支援の必要な子が全国平均よりも多いこの学校では、10年前から改革に取り組んでいます。

授業が始まると、気が散りやすい子が、黒板に集中するため掲示物にカーテンをひきます。漢字が読みにくい子のため、プリントの裏には、ふりがなをふった文章。

さらに、授業の進め方にもさまざまな工夫があります。国語の授業で先生が取り出したのは、この日読む文章にでてくるアリジゴクの写真。

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先生:アリジゴクについて知っていること?
男児:穴を掘って、その穴に蟻を落としてそれを食べる。
先生:おー。

目的が曖昧だと混乱する子のため、最初に授業の焦点を定めます。文章の内容を読み解く際にも、工夫があります。

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先生:このアリジゴクの写真は、一段落なんですねこれ。
(黒板の他の写真3枚を指さす)
先生:この写真はどの段落に行く写真かな?
(考える子どもたち)

段落ごとに、その内容を現わす写真を選んでいきます。耳で聞いただけでは理解しにくい子のため、視覚化するのです。

発達障害の子どものため試行錯誤を重ねて10年。その結果、他の子の理解度も上がり、90%が「授業が分かる」と答えるようになりました。

「特別支援教育っていうのは特別なお子さんだけではなくて、すべての子どもたちが居心地がよい学級であったり、授業が楽しい、分かりやすいっていうことが大事なんじゃないかなと思っています。『分かった』とか『楽しい』って言ってくれる実感がありますので、教員も頑張って取り組んでいると思います。」(校長先生)

障害のある子の困り感をヒントにしたら、皆が分かりやすくなった。「発達障害の子どもの教育に本格的に取り組むと、教育全体の底上げになるんじゃないんでしょうか。」と柘植教授は言います。

発達障害のある子どもをどう理解し、授業の改革や学校全体の変化へとつなげていくか。現場の模索がつづきます。

専門家から

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「障害のある子どもたちが望む教育を受けられるには、多様な仕組みをバランスよく使うことが大事」 柘植 雅義さん

筑波大学教授。特別支援教育が専門。日本LD学会理事長。

「国の調査では、100人中6~7人という割合で発達障害の可能性がある子どもたちがいることが分かっていますが、その6~7人に当てはまらなかった児童は、発達障害の可能性がないのかといえば、そうではありません。人間関係の作り方や関わり方など、多かれ少なかれそういう可能性を持っていると思います。発達障害は、稀な障害ではなく、誰にでも起こりえるものなんだという認識を持てば、おのずと障害について関心がでてくるのではないでしょうか。通常の学級のなかでもできることはたくさんありますし、公立の小中学校には、『通級による指導』と『特別支援学級』という仕組みもあります。障害のある子どもたちが望む教育を受けられるようにするためには、こうした多様な仕組みをバランスよく使っていくことが理想。特別支援学級の設置も自治体によりまだ差があるので、多様なニーズのお子さんに多様な仕組みで応える。その体制を作り上げるということが必要だと思います。」

※この記事はハートネットTV 2017年5月3日(水)放送「シリーズ 障害のある子どもと学校 第2回 発達障害」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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