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~生理について学校でだからこそ教えられること~ 性教育について考える(1)

記事公開日:2023年03月22日

多くの人が悩まされる生理痛やPMS(月経前症候群)。中には勉強や仕事に大きな支障をきたすケースも少なくありません。社会全体で生理に対する理解を進める必要がありますが、今回NHKシチズンラボで行った調査「生理リサーチ」(10歳から69歳の男女1,201人が回答)で、男性の3人に1人は生理について学校で学ぶ機会を得ていなかったこと、授業を受けた女性の間でも理解が十分に進んでいなかった可能性が見えてきました。
調査を監修した、ジェンダー・性教育が専門の東海大学国際学部教授・小貫大輔さんに見解を伺いました。
(この調査の詳しい分析についてはこちらの記事もご覧ください)

画像(東海大学国際学部教授・小貫大輔さん)小貫大輔(おぬき・だいすけ):東海大学国際学部教授。専門はジェンダーとセクシュアリティーの教育。保護者や高校生・大学生向けに性教育のワークショップを頻繁に実施している。ユネスコの提唱する「包括的性教育」について一目でわかるインフォグラフィッック(全体像を視覚化したポスター)を作成中。

男性の3人に1人は生理について教わっていない

大学生に性教育の授業をしていると、男性の学生の中には、そもそも生理について学校でまったく教わったことがないという人がいます。女性の学生も、小学校で受けた生理の授業が男女別々だったという人が多く、そのことを「変な感じがした」と思い返す人がたくさんいます。

そこで今回の調査では、小学校での生理の授業を男女一緒に受けたか別々に受けたかについての質問も尋ねてみました。すると、ほとんどの世代で「男女別々だった」という回答が圧倒的に多数でした。しかも、男性の36%が「(生理の授業は)受けたことがない」、21%が「おぼえていない」と答えていました。

男性回答者の数は全体で66人しかいなかったので確かなことは言えませんが、女性回答者が「男女別々に受けた」と答えた授業も、単に別々だったというだけでなく、女子だけが対象とされていた可能性がうかがえます。

画像(棒グラフ:小学校での「生理についての授業」は男女別だったか)

文部科学省が定める指導要領には「初経」について教えることは記されていますが、「思春期になると生理がはじまる」ということ以上に、何をどのくらい教えるかは学校や担任の先生に委ねられています。

教科書の内容とは別に、多くの小学校がいわゆる「生理の授業」と呼ばれる特別な授業を設けています。林間学校や臨海学校のような宿泊行事の前に実施されることが多いようです。学校の自由裁量でおこなわれる部分なので、男女一緒に教えるのか、男女別々で男子生徒には別途教えるのか、男子生徒には教えずに女子生徒だけに教えるのか、学校によってまちまちになるのです。

男性を排除する「生理の授業」が偏見を生む?

男女別々で「生理の授業」を受けたという回答者の中からは、少数派ながらそれでよかったという意見も聞かれました。「男女は分けた方が照れがなくすすむのでいいと思う(50代女性)」などの理由です。

しかし、多くの回答者からは、男女別々で授業を受けたことを否定的に捉える声が聞かれました。「男子にも一緒に学んでほしかった。…どんなに生理が大変なことなのかとか、いろいろ知ってほしい」という40代の女性や、「わざわざ男女を分けて授業したことで、生理は秘匿しないといけない、というような暗黙のルールがあったような気がします」と書いた20代の女性に代表されるものです。

生理の授業のような特別な授業には、単に知識を伝えるというだけでなくクラスや学校全体へのメッセージを発信している側面があります。男女別に授業をすることが、「生理は隠すこと」というタブー意識を伝えることになってしまっているとしたら、それは教育的には逆効果と言えるのではないでしょうか。

生理について小学校で授業を受けなかったという男性からはこのような意見も寄せられました。

生理について学校教育で教わった記憶はありません。
実際に生理というものがここまで大変で、生活にも影響がでるとわかったのは交際する女性ができてからでした。(30代・男性)

そもそも詳細な事を学校で教わった記憶がありません。
知識がないので、パートナーの生理の際のサポートもどうしたら良いかわかりません。かと言って女性は話したがらないので、本人に聞く訳にもいかない事がほとんとです。また望まない妊娠のリスクが高いのはいつなのか、と言った知識にも欠けるので不安に思います。(30代・男性)

私の当時は小学校高学年くらいで女子には説明があったが、男子にはなかった
その結果、男側は個々が身につけた知識のみで、知るタイミングやその中身にも偏りが大きかったと思う。また、その後も正しい知識を学ぶ機会はなかったと思う 結果、30代となった今も正しい知識がないまま女性と接している(30代・男性)

男性の中にも、女性の生理のことを理解したいと思う人がたくさんいるのです。私の授業の中で、ある女性が「男の人が生理のことに詳しかったらポイントアップだよね」と言ったことがあります。私は、男性が生理の知識を持つことは、男女のカップルにとっても家庭を築いてからも「幸せのレシピ」だと思っています。

学校の授業だけでは理解しきれていない

小学校で主に女子生徒を対象に「生理の授業」をおこなうのは、11歳(およそ小5)と12歳(およそ小6)で女子のほぼ半数が初めての生理を迎えるからです。そのとき何も知らなくてびっくりしたりしないように、そして、手当の仕方など最低限の知識を教えておこうという配慮があるのです。しかし、その授業で本当に役に立つ知識が伝えられているかというと、どうやら必ずしもそうとは言えないようです。

今回の調査では、小学校のときの「生理の授業」でどんなことを教わったかを尋ねました。「生理というものがあること」「生理では血が出てくること」「生理はおよそ毎月繰り返し来ること」については、回答者の多くが教わったことがあると記憶していました。

しかし、「生理用品の使い方」や「生理と妊娠の関係」について教わったという人は半数以下、「生理の血はオシッコともウンチとも違う出口から出てくること」を教わったという人は37%しかいませんでした。つまり、生理について表面的な部分しか伝わっていない可能性が見えてきたのでした。

画像(棒グラフ:生理について小学校で教わった内容)

生理の授業は受けたけれども、十分に理解できなかったという意見も多数寄せられました。以下にいくつかの例をあげます。

学校で4年生ぐらいの時、女子だけ集められて一度話を聞いたが全く正確に理解が出来ず、尿が赤くなると誤解していた。それすらそのうち忘れてしまったので、ほぼ何も知らないに等しかった。(40代・女性)

実際に自分で大人になってから鏡で見るまで位置関係もよく分かっていなかったので、教科書によくある子宮の断面図だけじゃなく尿道や肛門と比べて大きいとかぐらいは具体的に言って欲しかった。(20代・女性)

生理というものは学校で習って知っていましたが、いざ初めて自分がなるとそれが生理だと分からずに、病気か何かだと思って慌てました。(40代・女性)

小学校では男女が分かれた授業があり、男性器のことや妊娠のことについては多少教えられた記憶があるが、生理については何か教わったかどうかすら全く思い出せない。中学校の保健の授業では生理について習ったが、あくまでも文章上のものでしかなく、現実に女性の身体に起こっていることだという実感は得られないままで、20代になっても正直よくわかっていない。(20代男性)

生理の無い男性に対して、あまりに情報を与えなさすぎている。中学校くらいで男女に分かれて保健体育の授業を受けたときに、生理用品をもらった女子をイジる子がいたり、興味本位で聞いても答えてもらえなかったりした。(30代・男性)

小5のころ「明日は保健という特別授業があります」と言われ、何かビデオを見ました。私がちゃんと聞いていなかったのもありますが「股間から血が出る」ことの意味が、ほとんどわかりませんでした。(40代・男性)

スパイラルを描いて、何回も立ち戻って教える

小学校の「生理の授業」が中途半端な知識しか伝えられていないのは、それまで触れたことのない「性」のテーマに、ある日突然取り組む授業になってしまっているからではないでしょうか。

たった一回の授業で、女性のからだの仕組みや、生理と妊娠との関係、実際に生理が来たときのケアの仕方まで教えられるものではありません。本当に意味のある「生理の授業」をしようと思ったら、低学年のときから、そのときどきの発達段階にあった形で、少しずつ人間の性に関連した知識を伝えておかなければいけません。

そのように、同じことに何回も立ち返って、次第に詳しいことを教えていくやり方を「スパイラル(螺旋状)」方式のカリキュラムアプローチといいます。新しい知識が、すでに学んだことに支えられて身についていく学習の方法です。ユネスコが力を入れて推進する「包括的セクシュアリティ教育」の中でも、要とされる考え方です。

今回の調査では、半数近くの人が「膣」の存在を知らないうちに初めての生理を迎えていたことがわかりました。その背景には、「赤ちゃんの通り道はどこにあるのか」といった小さな子どもの自然な問いに家庭が答えられていない様子が垣間見られました。赤ちゃんの通り道のことを知らず、膣の存在も知らない子どもに、生理の授業で何もかも教えようとしても駆け足になってしまうし、それでは「スパイラル」なアプローチとは言えないでしょう。

しかし、小学校の教科書では、3・4年生の保健で先に扱うのが第二次性徴と生理のテーマであり、5年生の理科で出てくるのが「人のたんじょう」という順番になっています。「スパイラル」の発想から言えば、順番が逆になっているのです。

命の起源についてのイメージから、生理についての知識へ

私は、生理の授業のずっと前に、子どもが自分自身の「命の起源」について知るステップが必要だと考えています。

すべての子どもは、生まれてくる前にはお母さんのお腹の中で育っていました。自分自身の命が始まったときのことを、自分ごととして知るステップがあって、その上に生理の授業が来ることが「スパイラル」なアプローチではないでしょうか。

生理の血は膣を通って出てくるということも、そもそも生理ではどうして血が出てくるのかも、自分がお母さんのお腹の中で育っていたという事実に結びつけて理解できるはずです。「赤ちゃんの育つ場所は、毎月一回きれいにしておく必要があるんだ。そのとき要らなくなったものを洗い流すのが生理の血なんだよ。赤ちゃんの通り道と同じ道を通って出てくるんだ」と説明できるわけです。

妊娠と出産の詳しいことは5年生の理科で勉強するにしても、命の起源のイメージは、1・2年生のときから道徳や生活科、あるいは総合的な学習の時間で扱っておくべきたいせつなテーマだと思います。「スパイラル」のカリキュラムアプローチでおこなう性教育とは、そういう小さなステップを一歩一歩踏んでいく教育のことなのです。

おわりに

性のことは、知識さえ与えれば本人だけで問題解決できるテーマばかりではありません。クラスや学校、保護者を含むコミュニティー全体に、個人の性を尊重し、お互いのことを思いやる雰囲気がないことには解決できないことがたくさんあります。保護者と学校の連携で、少しずつでもそういう文化が広がっていけば、今の子どもたちが大人になるにつれて、それぞれのいるところで社会の雰囲気や人々の対応を変えていくことにもつながるのではないでしょうか。

執筆者:柿沼緑(NHKディレクター)

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