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認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編

記事公開日:2023年03月08日

NHKとNHK厚生文化事業団が主催する「認知症とともに生きるまち大賞」。第6回を迎えた今回も、ユニークな活動が全国から寄せられ、4つの団体が表彰されました。後編では“人生100年時代、誰でも活躍できる”秋田県藤里町の取り組みと、サッカー観戦で高齢者が元気になるユニークな活動を紹介します。

町民すべてが目指す“生涯現役”

6回目を迎えた「認知症とともに生きるまち大賞」には、全国からユニークな活動が寄せられ、4つの団体が表彰されました。前編では愛知県豊田市の「おんぶにだっこ」と、北海道北見市の「希望をかなえるヘルプカード」を紹介しました。後編では、残り2つの団体を紹介します。

まずは、秋田県藤里町の取り組み。人口3000のこの町では、ワラビを育てて収穫し、わらび餅に加工して町の特産品にしようとしています。

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ワラビを収穫する様子

作業するのは、「プラチナバンク」に登録した60代から70代のみなさんで、農作業の経験がない人もいます。「プラチナバンク」とは、団体や企業、そして個人から仕事を請け負い、登録している会員を派遣する活動のこと。毎日、20人ほどの人たちが、町のあちこちで働いています。

農作業のほかにも「うどんづくり」から「施設の受付」まで活躍の場は幅広く、仕事の数はおよそ100種類。なかには、自分のスキルをいかした仕事もあります。

桂田良子さんは80歳の「プラチナバンク」会員です。手先の器用さをいかして、月に2度ほど、切り絵教室を開いています。

画像(切り絵教室の様子)

「そろそろ(引退)と思うんだけど、みなさんが喜んでくれるのでついつい(教室に)走ってきます」(桂田良子さん)

2015年に発足した「プラチナバンク」の登録者数は現在400人を超え、町民の約8人に1人が会員となっています。「プラチナバンク」を運営しているのは町の社会福祉協議会。会長の菊池まゆみさんの発案で始まりました。

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菊池まゆみさん

「地域のために役に立ちたいという思いを応援できる仕組みとして始めました。町民の力を少しずつ頂いて、町づくりに貢献したいなというところで始めました」(菊池さん)

高齢者の働き口として知られている「シルバー人材」は、原則60歳以上で健康であることが条件です。一方、「プラチナバンク」には年齢制限もなく、誰でも参加できます。そこには菊池さんの思いが込められていました。

「認知症については、私が相談員として関わった人のほとんどが隠そうとする。そういうのは、ちょっと悲し過ぎるかなと思ったんですね。だからプラチナバンクは、認知症でも何にしても、自分の思いがあるんだったら参加できる仕組みにしたかった」(菊池さん)

誰でも参加できるようにするために、「プラチナバンク」にはさまざまな工夫があります。

プラチナバンクの工夫 ①
プラチナスタッフ(リーダー)を現場に配置し、困っている人を手助けする。

プラチナスタッフと呼ばれている現場のリーダーを任された会員が、作業を初めて経験する若者や、高齢者にアドバイス。困っている人がいれば手助けする役割の人を現場ごとに配置しています。

プラチナバンクの工夫 ②
安全面・人数・報酬額などを、仕事を受ける前に必ず確認する。

仕事を受ける際には、安全面や、作業に必要な人数、そして報酬額などを、担当者が必ず確認します。現場を入念にチェックし、危険と判断した場合は仕事を断る場合もあります。

プラチナバンクの工夫 ③
会員1人1人の要望を聞き、自分に合った仕事をしてもらう。

現場確認が終わったら、依頼された仕事に適した会員を探します。このマッチングで役に立つのが、会員登録のときに書いてもらうアンケートシートです。

画像(アンケートシート)

やりたい仕事や苦手な仕事、働ける時間帯など、会員は自分にあった条件を事前に提示しているので、自分の生活スタイルや、得意分野でのびのびと仕事ができるのです。

「プラチナバンク」で広がる可能性

認知症の人も、そうでない人も、みんなが自分にできる役割を果たしている「プラチナバンク」。年齢制限がないので20代の参加者もいて、さまざまなメリットになっていると社会福祉協議会の菊池さんが語ります。

「若い方たちは経験値が少なくて自信がなかったりしますので、高齢者の方が指導や助言していただくと、自信を持って一緒にやれます。そして高齢者の方は、荷物を持ってくれるとありがたい。高齢者だけの活動より、若い方が入ると雰囲気が明るくなっていいなと思います」(菊池さん)

福祉ジャーナリストの町永俊雄さんは、「プラチナバンク」は取り組みとして成熟していると考えます。

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福祉ジャーナリスト 町永俊雄さん

「丁寧に本人の声を聞くことによって、何をしたいのか(が分かる)。働きたい、地域で役に立ちたいということがあって、それなら働いてもらおうと。つまり、誰もが『生涯現役』という、“みんなが生き生きとできるまち”こそが“認知症とともに生きるまち”という、ある種の成熟した形の共生モデルと捉えています」(町永さん)

認知症バリアフリーの専門家・永田久美子さんは、制度に合わせるのではなく、当事者とともに変えていく姿勢に共感します。

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認知症介護研究・研修東京センター研究部長 永田久美子さん

「これまでは、対象とか、制度とか、何かつくられたものに合わせないとダメで、合わないと諦めざるを得なかった。周りもそうした諦める姿を見て悲しい思いを持っている。それをほうっておかないで、一緒に変えようとする力が、この町から学べると思います」(永田さん)

認知症当事者による相談窓口「おれんじドア」代表で、若年性アルツハイマーの当事者として講演活動を続ける丹野智文さんは、まちの柔軟な取り組みに価値を感じています。

画像(おれんじドア 代表 丹野智文さん)

「認知症や障害というと、今までやってきたことを中心に物事を進めてくいと思うんだけど、今までやってきたことだけを考えるのではなくて、新しいことに挑戦して、いままでのイメージを変える、いい取り組みだと思います」(丹野さん)

「プラチナバンク」のみなさんには夢があります。

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プラチナバンクのみなさん

「今のところは、まずワラビの処理をしてますけれども、わらび餅をみんなに食べていただきたいと思っています」(小森和子さん)

いくつになってもワクワクできる

続いては、「ニューウェーブ賞」の紹介です。従来の取り組みにはない新しい発想があり、その活動がほかの地域にも広がることを期待されています。

場所は富山県富山市。84歳の松﨑久子さんは、4年前に認知症と診断されて週に6日、介護施設に通っています。

松﨑さんをはじめ、この施設の利用者が“はまって”いるものが、地元のサッカーJ3クラブ、カターレ富山の応援です。

午後1時を過ぎるとリビングに続々と人が集まり、ユニホームに着替えて、太鼓やペンライトを手に持って準備完了。

試合が始まると、94歳の山本正さんは太鼓をたたいて応援し、施設に来てからサッカーを知った90歳の山本アイ子さんも大興奮です。

画像(応援するみなさん)

実はみなさん、ただのサッカーファンではありません。富山県の30施設の高齢者が参加する、クラブ公認のサポーター「Be supporters!(ビー・サポーターズ)」なのです。

活動を企画したのは健康食品を扱う東京の企業で、始まったのは2020年から。

企業がクラブチームと介護施設をつなぎ、地域を盛り上げる提案をし、高齢者をスタジアムに招待して試合の熱気をじかに感じてもらったり、オンラインで選手と交流したりしてきました。

こうした活動によってクラブチームは新たな年齢層のサポーターを獲得でき、選手にとっても励みになっています。

「応援してもらえているのをすごく感じる。それが僕たちの力になっているので、本当に感謝しています」(カターレ富山 松岡大智選手)

クラブだけではなく、介護施設側にもメリットがあると、介護福祉士の荒山浩子さんが語ります。

画像(荒山浩子さん)

「以前は外食や外出などがあったんですけども、コロナ禍でそれができない。でも、応援したら顔がぱっと明るくなって、元気になられた。そういう方たちが1人じゃないんですよね。私たちの想像をはるかに超えている状態です」(荒山さん)

富山県でスタートしたこの取り組みは、山口、神戸、川崎など、全国各地のまちに広がり、3年目となった今シーズンは、100の施設で2500人の高齢者が参加しています。

サポーターになったことで、さまざまな良い変化が生まれています。施設内の廊下には選手の写真がいたるところに貼られ、お気に入りの選手の笑顔で運動にも張り合いが出るそうです。

画像(室内で運動する利用者)

4年前から高岡市の施設で生活している森岡和子さんの楽しみは、試合の翌日、新聞片手に選手を分析すること。

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新聞で試合結果を分析する森岡和子さん

試合の評価やこれからの課題など、事細かにメモをとるほど熱中しているのです。

画像(森岡さんのノート)

「昨日(の試合)は良かったわよ。1点がモノを言うけんね。負けるのと勝つのでは」(森岡さん)

介護支援専門員の福野友美さんも、森岡さんの変化に驚いています。

「森岡さんは部屋で過ごすことが好きだったんですけど、リビングでサッカーの話をするとか会話がすごく多くなりました」(福野さん)

当事者が幸せになれば地域も幸せになる

地域の高齢者がサッカーを通して、いくつになってもワクワクできる「ニューウェーブ賞」の活動。3人は次のように評価します。

画像(スタジオの3人)

「まさに“ニューウェーブ”と言うように、これまでの福祉の発想から懸け離れていますよね。『みんなで応援しよう』という、その1点に絞っている。もうひとつは企業参加です。この社会は、福祉関係者あるいは当事者だけではなくて、企業社会でもある。その企業社会とどう関わるか、ひとつの実例がここにあります」(町永さん)

「私もそうですが、すごくワクワクドキドキして、サッカーでは(応援しているチームが)勝つと知らない人とハイタッチするんですよね。周りの人たちとの関わりがすごくいい」(丹野さん)

「私たちはまだまだ本人の仮の姿しか見ていなかったんじゃないでしょうか。もっとチャンスを作れば、いくつになっても、認知症になっても、こんなにワクワクして、新しい出会いと可能性に気付けるというメッセージを発信してくれる取り組みです」(永田さん)

「認知症とともに生きるまち大賞」のユニークなアイデアを見てきた3人が、最後にそれぞれの感想を語ります。

画像(スタジオの3人)

「特徴的なのは、すでに認知症の人を支援する・されるという関係じゃなくなっているところですね。『認知症の人のために』だけじゃなくて、地域全体が『ともに生きる』ということをどう考えるか。そのことを問い掛けている『まち大賞』だと思います」(町永さん)

「うちのまちでもやれないかとか、まずは本人や周りの声を聞いて、小さな動きからでも広げていただけるといいなと思いました」(永田さん)

「当事者がワクワクドキドキすることで、行動が変わる、体が動くようになる。行動が変わることで、生活が変わる。そうすることで、当事者が前向きに、笑顔になり、家族が幸せになる。地域も幸せになる。みんなが幸せになると思いました」(丹野さん)

ハートネットTVでは、これからも認知症をはじめ、あらゆる人が住みやすくなる「まちづくり」のヒントをみなさんと一緒に考えていきます。

バリフリ・タウン
(1)認知症の人が生き生きできる“場所”
(2)認知症の人との外出
(3)認知症の人でも楽しく働ける! 京都のSitteプロジェクト
(4)認知症の人が地域を元気にする!
(5)認知症当事者の声から始まるバリアフリーなまちづくり
(6)認知症の仲間とつくる、仕事と働く場所
(7)チーム上京!地域の力でウインドサーフィンに挑戦
(8)認知症当事者と家族が幸せに暮らす取り組み
(9)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 前編
(10)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編 ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2023年1月25日(水)放送「認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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