2022年4月、発達障害のある子をもつ親の不安解消につながるようなデータが発表されました。「好きなもの」が、子どもたちの社会参加や自立生活によい影響を与えている可能性があるというのです。なぜ、「好きなもの」が大切だといえるのか?余暇活動支援とは?サードプレイスとは? 信州大学医学部教授の本田秀夫さん、東京学芸大学大学院教授の藤野博さん、2人の専門家に伺いました。
本田秀夫 信州大学医学部教授。子どもから大人まで発達障害の当事者を30年以上診察してきた精神科医
藤野博 東京学芸大学大学院教授。専門はコミュニケーション障害学、臨床発達心理学など。特に発達障害のある子どものコミュニケーションの研究を多数行う
小中学生の11人に1人はいるといわれる「発達障害」。
※2022年12月発表の文部科学省データより
発達障害とは、先天的な脳機能の偏りによって発達にアンバランスさが生じ、日常生活に支障をきたしている状態のことです。
じっとしていられない、忘れ物が多いなどの特性がある「注意欠如・多動症」(ADHD)。
「書く」「読む」「計算する」などに著しい困難がある「学習障害」(LD)。
そして、こだわりが強く集団行動が苦手などの特性がある「自閉スペクトラム症」(ASD)。
2022年4月、そんな発達障害の中でもASDのある子どもを持つ保護者の不安解消につながるようなデータが発表されました。
対象は横浜市港北区で同じ時期(1988年~1996年)に生まれた子どもたち。その中から発達障害(ASD)のある子どもたちに調査を依頼し、170人の了解を得て、20年間追跡しました。その信頼性の高さは、国際的に高く評価されています。
結果は、大人になって「社会参加」や「自立生活」が良好と思われる人が全体のおよそ7割を占めていたのです。
出典:「出生コホートにおける7歳までの累積発生率調査で把握した自閉スペクトラム症の人たちの20年間の追跡調査」/取材協力:岩佐光章医師
そして「社会参加」や「自立生活」を促した要因の可能性があるとして注目されるのが「好きなもの」との関わりでした。
この調査結果をどのように受け止め、どうやって発達障害のある子どもの成長に生かしていけばよいのでしょうか。
調査の中心メンバーで、発達障害のある子どもと親に30年以上向き合ってきた精神科医で信州大学医学部教授の本田秀夫さんにお話を聞くとともに、コミュニケーションと子どもの発達を研究している東京学芸大学大学院教授の藤野博さんにもお話を伺いました。
――「社会参加」や「自立生活」が良好だと回答した人が約7割という結果は、どのような意味があるのでしょうか?
本田:従来の長期追跡調査では良好と回答する人は5割くらいになるので、相対的に良い結果になっています。よくある調査は対象者をピックアップするので、どうしても偏りが起こる可能性があるのですが、今回の調査は地域のお子さんほぼすべてをフォローアップしているので、偏りはないといえます。ただし、メカニズムを解析するのはこれからです。おそらく、学校や勉強、仕事、余暇活動など複数の要因が絡んでいます。
――本田さんは、それらの要因のうち余暇活動に注目されています。
本田:余暇とは、要は好きなことをする時間のことで、趣味やレクリエーションともいいます。発達障害のある人たちの多くは興味が狭く偏りがちで、そうでない人に比べると余暇活動の機会をうまく持てないことが少なくありません。
ところが、余暇活動の機会が十分に保障されると、モチベーションが上がります。とくに、社会に前向きに参加する意欲を高めるためには、「社会の中で好きなことをやるんだ」という気持ちを引き出すことが大事です。その意味で、余暇活動支援は重要だと思っています。
発達障害のある人たちは、ちゃんと支援すれば自分で計画を立てて好きなことを楽しむことは十分に可能ですし、達成感も得られます。好きなことなら、誰にも言われなくても能動的に自分からやろうとするし、多少の困難も自分で克服しようと工夫しますから。余暇活動を日常生活の中で保障することは、自立にもつながりますし、本人のメンタルヘルスにも意味があると思います。
今回の調査でも、何らかの余暇活動を楽しんでいる方が多く見られました。具体的には、鉄道、天文学、図鑑、収集、歴史、スポーツ観戦やスポーツに関する情報。最近だと、ゲームやインターネット、SNSなどもあります。ほかにも、物を作る、絵を描く、音楽演奏などいろいろです。発達障害のある人は、趣味として考えられるあらゆる領域に関心を持つ可能性がありますし、さらには一般の人は手をつけないマニアックな領域にのめり込むかもしれませんね。こうした余暇活動が発達障害のある人に果たす役割を、見ていく必要があると考えています。
大好きな電車を撮影する福沢睦弥さん(11)
――余暇活動と二次障害との関係は、どのようにとらえていらっしゃいますか?
本田:二次障害の多くはうつや不安です。それらの症状は、見通しが持てない状況や、意欲が出ないことをやらなければいけない状況だと強くなります。一方で、自分がやりたいことをやれる時間が十分に保障されると、日頃の嫌なことを発散してうつを防げるし、「好きなことをやってもいいんだよ」と周りの人が認めてくれていることで安心し、不安も解消しやすくなります。
その意味で、好きなことに熱中する余暇活動を保障することは、二次障害の予防にかなり寄与するのではと考えています。また、運悪く二次障害が起こってしまった方に対しても、「好きなことをゆっくり、たっぷりやっていいんだよ」と安全を確保してあげれば、二次障害の軽減につながると思います。
今回の調査では、170名のうち、二次障害で治療が必要な方が少ないんです。むしろ、余暇活動を社会活動の一環として楽しめている方が多い。小さいときから医療や福祉、教育による何らかの支援を受けてきたという要因もあるとは思いますが、多くの方が余暇活動をそれなりに持っているという実態も、二次障害が少なくて済んでいる要因になりうるのではと考えています。
――では、「好きではないこと」との向き合い方はどうすればよいのでしょうか?たとえば、本人は行きたくないのに、親は将来のためにと学校に行かせようとするケースは珍しくありません。
本田:本人が好きでないことを頑張らせたり、好きなことを「役に立たないから」とやめさせたりなど、親からの外圧が加わると、「自由な判断をしちゃいけないんだ」という印象を子どもに植え付けることになります。頑張らせているつもりで、子どもの自立心の芽を摘んでしまっているんですね。
休みたければ休めばいいんです。「いつでも休んでいい」という気持ちを持っているからこそ、行こうと思ったときに行けるんです。「絶対に行かなきゃ」と追い詰められるとエネルギーが消耗して、むしろ学校に行く意欲がうせてしまうこともあります。無理やり行かせようとすればするほど親子関係が悪くなりますし、仮に学校を休んでも家の中では心が休まらず、「明日からまた行こう」という気持ちになれません。
自立した大人は、自分が取るべき行動を自分で判断して、自分で計画を立てて、自分で行い、自分で後始末をつけますよね。ですから、「自分のやることは自分で決める」ということを保障する。その一環として、学校を休む判断もありだと思います。
――本人の判断に任せて好きなことばかりさせてしまうと、わがままな子になってしまうのでは、という親からの質問も寄せられています。
本田:わがままを規定する要素は、「他の人に配慮できるかどうか」ですよね。たとえば、家庭で他の人が生活上の被害を受けるケースならわがままなので、「迷惑だからやめてほしい」と好きなことを止めさせるのは問題ありません。けれど、本人のためと称して、「好きなことだけやっているなんて」とか「遊んでばかりいないで勉強しろ」と苦言を呈するのは筋違いです。この場合は、好きなことをしていても誰にも迷惑をかけていません。勉強するかどうかは自分で決めることです。結局、わがままは他人との関係性で決まります。
その点でいうと、発達障害のある人にとって、他の人への配慮と好きなことの両立は十分可能です。周囲が好きなことをセーブさせようと強いるのではなく、本人が好きなことをやる以外の時間で、他の人と友好関係を保ちながら楽しく一緒に生活する時間を持つことが大事です。そういう経験を通じて、他の人に配慮する習慣が身につきますから。
――好きなことがない子はどうすればよいのでしょうか?
本田:好きなことがあるかどうかは、暇な時間に何をするか見ればわかります。時間があいて本当に暇なときに、その人が何をやっているのか。また、生活の中で相対的に見れば、本人はあまり自覚していなくても、「これが好きなのかもしれないな」ということが見えてくる可能性はありますね。周りが一生懸命に探すよりは、むしろ暇な時間を作ってあげるのが大事なのではないでしょうか。
発達障害のお子さんの中には、楽しんでいるのかどうかは表情からは読み取れないけど、なぜか家の仕事をテキパキといろいろやりたがる人がいるんです。その場合は、何時になったら風呂掃除をするとか、何時になったら洗濯物を取り込むとかを淡々と続けてもいいんですよ。決して好きなものにこだわりが強いケースでもなくてもいいんです。他人と比較することなく、その子が好きなものをやること自体が素晴らしいんです。ただ、二次障害が起こっている方の場合は、「好きなことをやってはいけない」という価値観を身につけてしまって、「好きなことをやると世間に申し訳ない」とか「好きなことをやる暇があったら、もっと勉強や練習をしなきゃいけない」などの気持ちが強くなっている方がいます。その場合は、対応が難しいときがあるかもしれません。
――NHKスペシャル「キラキラムチュー ~発達障害と生きる~」(2022年12月3日放送)で紹介された子どもや保護者のうまくいっている事例を見て、「うちもまねしよう」と考える人もいると思います。
本田:どの事例もいろいろなプロセスを経た結果であって、その結果を目標にしてきたわけではありません。日々の生活の中で、試行錯誤しながらやってきた結果として今の状態がある。不思議なもので、あの結果を目指そうと頑張っても、かえってうまくいかないことがあるんです。メンタルヘルスの問題は、変な外圧がかかることによってゆがみます。なので、いかに外圧が少ない状態で、自分の自由意志で考える余地を残しながら、大きな失敗をせずに学べるか。そのプロセスの繰り返しだと思います。
自作のカードゲームを作る上間友輝さん(11)
――試行錯誤が大切なのですね。
本田:試行錯誤しかないですね。試行錯誤は失敗があるのが前提なんですよ。大失敗するとまずいけど、ちょっとぐらい失敗して、「あれ?」と思ったときに次の手を考える。その繰り返しなんですね。それは、基本的には「子どもさんが安心して楽しい日々を送れるかどうか」の試行錯誤であってほしいですね。親御さんは、失敗を恐れちゃいけません。「ちょっと失敗したな」と思ったときに、方向をすぐ修正する柔軟さが必要です。
――ここまでのお話を伺って、「好きに夢中になること」は発達障害の有無に関係なく、誰にとっても大事なキーワードだと感じました。
本田:昔は「よく遊び、よく学べ」という言葉を結構いろんな人が言っていたと思うんですよ。最近は、どちらかというと「学べ、学べ」という感じ。実は、ほとんどの人にとって遊びはとても大事です。遊びを大事にすることこそが生活のエネルギーになる。楽しみとか遊べることをちゃんと持っているかどうかは、すべての人に通じることだと思いますね。
メンタルヘルスが不調の人や生活がつらいと感じている人は、実は楽しみにできることが少なくなっている場合があります。不調やつらさを予防したり回復したりするプロセスの中で、好きなことに熱中する機会を持つことが鍵になる人は多いのではないでしょうか。
私は、診察で「最近、何か楽しかったことやおもしろかったことはあった?」とか、「暇なときは何してるの?」と必ず聞きます。つまり、その人が何を鍵にして、何を中心に据えて生活しているのかです。大事なのは勉強とか仕事ではなくて、「自分が何を楽しみにしているのか」だと思うんです。臨床的な感触としては、好きなことや楽しみに思えることを通じた生活支援が、非常に重要な鍵になるのではないかと思います。
コミュニケーションと子どもの発達を研究している東京学芸大学大学院教授の藤野博さん。藤野さんは、子どもが好きなことに取り組み、それを受け入れてくれる環境や同じ価値観を共有できる場所が重要だと話します。
――信州大学の本田教授が中心となって発表された調査結果では、「好きなもの」の重要性が浮かび上がってきました。発達障害のある子どもが好きなものに夢中になることや、そうした時間を持てるように支援することについて、どのようにお考えでしょうか?
藤野:好きなものに夢中になる時間、つまり余暇活動は、自分一人で過ごすのもありですし、他の人と一緒に過ごすのもありです。また、一人ではできず、仲間と一緒だと楽しくなる活動もあります。そのような活動に取り組むにあたって、とくに発達障害のある子どもたちの場合は、自発的な仲間作りが難しい側面もあるので、気の合った仲間と一緒に楽しみたい気持ちはあっても、なかなかそういう場が作れなかったり、そういう活動に入り込めなかったりします。そこで、仲間と一緒に楽しく過ごす場を設定してあげることが、余暇活動支援の目的の一つになるのかなと思います。
――余暇活動のどのような点がよいのでしょうか?
藤野:心のエネルギーの回復になるところですね。社会で生きるにはルールや、周囲に合わせなきゃいけないことがあります。それなりに緊張もしますし、疲れます。そうやって、すり減ったエネルギーをどこで補充するかというと、やはり自分の好きなことに夢中になることが大事な手段になるんじゃないかと思います。
――発達障害のある子どもへの支援が、状況に応じてどのように行動したらよいかを訓練する方向性だけでなく、特性を生かす方向の支援も注目されるようになってきたのはなぜでしょうか?
藤野:訓練型のアプローチでは、いわゆる社会一般で良しとされる行動様式に近づくことが目標になります。しかしそれは、発達障害のある子が持つユニークな個性を一般的なスタイルに変えることを意味します。つまり、その子の個性を否定することにつながる危険性があります。年齢が上がって、自分と他の子との違いにだんだん気付いてくると、そういう傾向がより強くなっていきます。
一方で、余暇活動支援のようにその子の持っている個性や良さをそのまま生かすアプローチは、「内発的な動機付け」という自発的に取り組む姿勢や、「自己効力感」という自分の力に対する自信を伸ばすことにつながると思います。
私は決して訓練型のアプローチは否定しませんし、意義はあると思うのですが、型どおりにやるとどうしても受験勉強みたいになってしまうんです。それに対して、クラブ活動や趣味で身につけたものは、残っていきますよね。そして発展していきますし、自分で使おうという気持ちにもなります。
道路が大好きな石黒豪輝さん(11)
――余暇活動支援に関連して、発達障害のある子が「好きなこと」に夢中になれる居場所として「サードプレイス」があります。具体的にどのような場所なのでしょうか?
藤野:家庭がファーストプレイス(第1の居場所)、学校がセカンドプレイス(第2の居場所)だとすると、サードプレイスはそれらに次ぐ第3 の居場所とされています。力を抜いてリラックスして自分の好きなことができる場所、エネルギーが回復できる場所、ありのままの自分で過ごせる場所ということになります。また、他の子どもと一緒に「好きなこと」を楽しめる場所であるのも、サードプレイスの意義だと感じています。
――何かを「好き」と思う気持ちは、もともとは自分一人の感情から始まるものだと思います。そうした気持ちをほかの人と共有したくなるのは自然なことなのでしょうか?
藤野:発達障害のある子どもたちは「共感性が乏しい」というような言い方をされることもありました。しかし、最近の研究で、とくに発達障害のあるお子さんは、似たようなタイプの子どもに対して共感が生じるという結果が出ています。学校の通常のクラスでは自分の好きなことを語っても浮いてしまって、仲間作りが難しい面がありますよね。でも、自然に受け入れてもらえる場所、誰かと一緒に楽しめる場所があると、共感的な感情が生まれて、仲間との自然な付き合いにつながっていくんです。
たとえば、私たちの研究室では「趣味トーク」と呼ばれる、自分の好きなことを語る活動をしています。自分が語って、聞いてくれる人がいるのがうれしい。この中で、自然にコミュニケーションが生まれるんです。聞いてもらうために話し、相手の話を受け止め、話題を広げていく。「好き」を基軸にすると、このやりとりが自発的に生まれます。参加した子に感想を聞くと、「話し方を学べた」という意見もあります。教えるのではなく、場を設定することで自然と学びが生まれるのはすごいなと思っています。
また、もう一つの活動として「テーブルトーク・ロールプレイングゲーム」(TRPG)というものもあります。会話型のロールプレイングゲームで、ゲームマスターと呼ばれる進行役のナビに従って、プレイヤーたちが協力して物語を進めていくものです。最初は子どもたちの会話は一方通行だったり、とっちらかったりしているのですが、ゲームが進むと自然にすごくまとまっていくんです。会話の作法を教えたり、訓練的にやったりしているわけではないのですが。ゲームに没頭することで自然なコミュニケーションが生まれるのは非常におもしろいですね。
自分が好きなことを中軸にすると、話がまとまってくるといいますか、一つのことに向かって収束していくんです。好きなことやサードプレイスには、そういう力があると思います。まったく興味・関心のないところに話題を設定されて「さあ、しゃべれ」と言われてもそうはいきません。発達障害のあるお子さんは、何のテーマもない雑談がとても苦手な面があるんです。
――NHKスペシャル「キラキラムチュー ~発達障害と生きる~」(2022年12月3日放送)でも、ADHDとASDを持つ子が、カフェで大人たちとカードゲームをしている姿がありました。
藤野:カフェでの彼の笑顔が印象的でしたね。とても饒舌で学校での様子と違うと思いました。ゲームに熟達した、いわば達人たちと一緒に楽しむ中で、会話が広がったり、アドバイスを受けたりして、自然な学びも生まれているんじゃないでしょうか。
カードゲームで遊ぶ上間友輝くんと大人たち
――インターネット空間のサードプレイスにも可能性がありそうです。
藤野:昔と違って、今はインターネットでどんなマニアックな情報でも掘り下げて調べられます。現実の空間だとマニアックなことを共有できる友だちは見つけにくいですが、インターネット空間だとそういう同好の士が見つかりやすいかもしれません。
最近注目されているメタバースは、バーチャル空間の中でコミュニティーを作ることができますよね。あの世界観は、発達障害のお子さんたちに親和性があるんじゃないかという気もしています。TRPGも、自分でキャラクター設定して、そのキャラになりきって活動するわけですが、それをバーチャル空間でやるのがまさにメタバースなんです。ですから、メタバースの動きにはとても注目しています。
――お話を伺うと発達障害のある子のこだわりなどの特性は、ネガティブにとらえなくても良いのではと感じています。
藤野:以前は、こだわりはどっちかといえばマイナスの側面で認識されていました。昔の自閉症の文献などを見ますと、「強迫的な興味」などと非常にネガティブな言い方で表現されていたんです。それが最近の研究では、そういった表現ではなくて「special interests」(特別な興味)という表現が使われるようになってきています。むしろ、それが発達障害のある子の可能性を伸ばしていく土台になるのではないかという捉え方がされて、支援のあり方が考え直されてきているのが現状です。
――今後、発達障害のある子への支援はどのように変化していくとお考えでしょうか?
藤野:定型発達の子どもと発達障害のある子どもの違いについては多くの研究がなされていますが、そのうちの一つに、「コミュニケーションスタイルの違い」に着目したものがあります。最近の言葉でいうと「ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)」という分野です。「Neuro(脳・神経)」と「Diversity(多様性)」という2つが組み合わされた言葉で「脳や神経、それに由来する個人の様々な特性の違いは、多様性と捉えて相互に尊重していこう」という考え方です。定型発達の子どもと発達障害のある子の「できること・できないこと」を見るのではなく、それぞれのスタイルをどうやって尊重していくか。そして、お互いが共存するために共有できる部分を探していく。このような視点が、今後の支援に必要なのではと思います。
発達障害のある子どものスタイルを尊重して、その子の可能性を広げるために基軸になるのは、やはり「好きなこと」です。好きなことに自発的に取り組めるよう、本人の興味関心をどう生かしていくかが問われています。
※この記事はNHKスペシャル 2022年12月3日放送「キラキラムチュー ~発達障害と生きる~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。