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福祉の知識をイチから! 点字(1) 読み方の基本と誕生の歴史

記事公開日:2023年01月11日

暮らしのいろいろな場面で見かける「点字」。しかし、「何て書いてある?」「どんな仕組み?」など、知らないことがたくさんあります。実は、点字には規則性があって、意外と分かりやすい文字なのです。今回のフクチッチでは、点字の読み方や仕組み、点字ユーザーの日常、点字誕生の歴史まで、知られざる点字の世界を深掘りします。

点字の仕組みを覚えよう

アルコール飲料の缶のふたや調味料、エレベーターのボタンなど、暮らしのいろいろな場面で見かける「点字」。

点字1つの単位を”マス”といい、横2点と縦3点、計6点の組み合わせでできています。それぞれに番号が付いており、左上から「1」「2」「3」、右上から「4」「5」「6」です。

画像(点字の仕組み)

「1」「2」「4」の点の組み合わせで母音、「3」「5」「6」の点を組み合わせて子音を表します。点字にはひらがなとカタカナの区別はなく、漢字もありません。6個の点の組み合わせは64通りあり、50音すべてを表すことができるのです。

例えば「1」の点だけだと「あ」。「1」と「2」の点だと「い」です。

画像(点字の母音の表し方)

そして、「あ」「い」「う」「え」「お」に「6」の点を組み合わせると、それぞれ「か」「き」「く」「け」「こ」になります。その仕組みは、日本語のローマ字表記と同じです。

画像(点字のあ行、か行の表し方)

数字は2つのマスを使います。1つ目に数字を表す「数符」を打って、2つ目に数字の点を打ちます。

画像(点字の数字の表し方)

濁点も2つのマスで表します。「5」の点を1つだけ打って、そのあとに文字を打つことによって、濁音だと認識できます。

画像(点字の濁音の表し方)

ほかにも、点字は発音通りに書くのが原則です。例えば「東京(とうきょう)」は「とーきょー」、「お父さん」は「おとーさん」のように、長音符を使って表します。

これらが点字の基本的な仕組みです。実は、私たちの身近な場所に点字があふれています。例えばエレベーターのボタンや自動販売機。

子どもなどが誤って飲まないよう、多くのアルコール飲料の缶にも「おさけ」と書かれています。食卓の定番調味料、ケチャップやソースのボトルなどにも付いているので、触れて読んでみましょう。

画像(暮らしの中にある点字)

全盲の小学生 点字を使う日常に密着

点字ユーザーはどのような生活を送っているのでしょうか。

全盲のここみさんは、盲学校に通う小学4年生です。使っている教科書はすべて点字に対応していますが、点字は指で触ってわかるよう、ベースの大きさが決められているため、通常の教科書よりもサイズが大きく、ページも増えてしまいます。例えば、1年間に使う算数の教科書は10冊もあります。

画像(授業で使う教科書の一部)

💡点字はすべて横書き 左から右に読む

国語の授業が始まると、まずは音読です。ここみさんは教科書の点字を左から右へ指でなぞり、スラスラと読み進めます。

画像(点字教科書を読む様子)

💡書くときは右から左

音読の次は書き取りです。点字盤という道具を使って紙に点筆で打ちますが、方向は読むときの逆で、右から左へと書いていきます。さらに、文字も左右反転させて打たないといけません。凹の穴を打つので、読むときは紙の裏側の凸に触れるからです。

画像(点字盤で点字を打つ様子)

ここみさんは慣れた手つきで、リズムよく書き進めます。

「今から点字打ちま~す。点字盤で打っていく。四角に点筆を入れて、とんとんとんとん…」(ここみさん)

授業が終わり、帰宅の準備。ランドセルだけでなく手提げかばんにもたくさんの教科書を入れて、持ち帰ります。

💡どんな体勢でも読むことができる

読書が大好きなここみさんは、図書室で点字の本を借りてきました。家に着くとクッションで横になり、リラックスした姿勢で読書を始めます。ときには夜中に母親から隠れて、布団の中で本を読むほど読書好きです。

画像(ここみさん)

「よくこうやって、寝っ転がって読んでるの。このあいだは、ママに見つかったらヤバそうだから、毛布に隠して読んでた。目をつぶっていても読めるから、楽ちん!楽ちん!」(ここみさん)

点字を使えることが幸せと思える瞬間

大学3年生の北名美雨さんは弱視です。自宅の部屋の壁には、好きなタレントのポスターと一緒に「恋です」と書かれた紙が貼ってあります。

画像(北名さんの部屋)

「少し前に流行ったドラマなんですけど、手紙を『恋です!』って、弱視の子に送るシーンがあったんです。(ドラマの)マネをして、友だちが誕生日プレゼントに送ってくれて、うれしかったので貼ってます。『です』なのか『てす』なのか、濁点を判別するのは、近づけば何かあるかなと分かる感じです」(北名さん)

北名さんは、1年半ほど前から点字を勉強し始めました。

「視力が昔から落ち続けていて、今後どう視力が変化するかが分からないので、(点字が)読めたら、のちのち便利かなと始めました」(北名さん)

💡自作の点字シールを貼って調味料を判別

お昼になり、料理の準備を始めた北名さん。調味料のボトルには、手作りの点字シールが貼ってあります。

画像(北名さんの手作り点字)

「強力粉と薄力粉は特に区別がつきにくいので、(点字を)打てなかったときは、強力粉を使うのを諦めていました。両方買って、どっちも分からなくなるくらいだったら、薄力粉だけ買って、パンケーキを食べたかたったら焼けばいいかなという認識でした。(点字が)書いてあると、ナンを作りたかったら強力粉だな、パンケーキを焼きたかったら薄力粉だなみたいな感じで使い分けられます」(北名さん)

💡一人でも切符を買うことができる

昼食が終わるとお出かけです。点字を使い始めて、駅を利用するときに便利になったことがあります。

「上にある運賃表が目で見て確認できないので、ここ(券売機の隣)にある点字の運賃表を活用しています。駅名が50音順に並んでいて、自分のいる場所からいくらというのが、分かるようになっているので、使いやすい」(北名さん)

画像(駅の券売機)

💡点字があっても情報がないと気づかないことがある

さまざまな場所に点字があるおかげで便利になりましたが、まだすべて有効に活用できているとはいえません。
例えば北名さんは、点字の「駅構内の案内板」があることに気が付きませんでした。

画像(駅構内の案内板)

「触って分かるものがあるのは、初めて知りました。迷ったときに、自分が今どこにいるのかが分かる。こういうものがあるという情報自体が入ってこないので、こんなのがあるのをいま知ってびっくりしたところでした」(北名さん)

帰宅すると、最近使い始めた点字タイプライターを取り出しました。

画像(点字タイプライターを打つ北名さん)

「友達に手紙を書くときにはこれを使ってます。手書きの文字を書くのがほとんどできないので、今までは(パソコンで)打った文章を印刷するぐらいしか手段がなかったんです。それが(点字タイプライターなら)自分の手で書いたようなものをそのまま送れる。機械で作った文字じゃないものを送れるのが嬉しいなって。いつもは『(点字を)実用的に使えて良かった』なんですけど、これは『点字が使えて幸せだな』と思える瞬間です」(北名さん)

点字ユーザーからのお願い

全盲の弁護士、大胡田 誠さんは、司法試験の勉強を点字で行って合格しました。

画像(大胡田 誠さん)

「ずっと受からなくて、僕は司法試験を8年ぐらい勉強したんです。点字ってぬれると点がつぶれちゃうんですけども、『涙で点がつぶれて読めません』みたいな(笑)。そんな日々でした」(大胡田さん)

点字を始めたのは中学生のとき。慣れるまで大変だったと振り返りますが、今では両手で点字を読めるほどです。

「点字は右手と左手の人さし指で読むんです。ほかの指でも何となく分かるけど、いちばん敏感なのは人さし指だから、人さし指で読みたいですね。(両手を使うのは)速く読むためなんです。行の左半分を左指で読んで、右半分を右指で読んで、リレーみたいな感じですね。
われわれは、触ってみないとそこに点字があるかどうかが分からない。遠くから見て、あそこに点字があるというのは気づけないんです。だから周りの人は、視覚障害者が点字の場所に気づいてないのが分かったら、『ここに点字が書いてありますよ』と、ちょっと教えてあげるといいなと思うんです。その人が助けてほしいかどうかが分からない段階だと、『何かお手伝いすることありますか?』と、明るく気軽に聞いていただくのがいいですね」(大胡田さん)

日本の点字の誕生秘話

現在使われている点字の起源は、200年ほど前に溯ります。フランスでルイ・ブライユが6つの点で表す点字を発明しました。

日本における点字のルーツは、どのようなものだったのでしょうか?1878年に開校した日本初の盲学校・京都府立盲学校では、点字が使われる前から、視覚に障害のある子どもたちへの教育を行っていました。日本盲教育史研究会事務局長の岸博実さんが「盲生背書之図(もうせいはいしょのず)」と「木刻凸(もっこくおうとつもじ)」を紹介しながら、当時の学習方法を解説します。

「『盲生背書之図』で描かれているように生徒の背中や手のひらに、先生が指先で字を書いて教えました。わりと誰もが思いつく、最初の方法だったのではないでしょうか。『木刻凹凸文字』では、板の両面に浮き上がった文字と、彫り下げた文字とが刻まれています」(岸さん)

画像(盲生背書之図)
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木刻凹凸文字

子どもたちは、木に彫りこまれた字を何度も触って、文字の形を覚えたのです。一方、書く時には、熱で柔らかくしたロウに文字を書く、いわば“立体文字ノート”が使われていました。

「『ろう盤』という教材が実物として残っています。鉛筆や筆では、見えない子にとっては(書いた文字の)出来栄えを確かめることができない。ろう盤だと、先生がお手本の字を書いて、生徒が指でなぞって字の形をつかんだうえで、その横に釘とかヘラで同じ字をまねることができます。ひらがなやカタカナや漢字といった文字(墨字)を何とかして覚えようと必死で取り組んだと思います」(岸さん)

画像(ろう板)

文字を書こうと、懸命に努力を重ねた子どもたち。しかし、文字の習得は困難をきわめ、退学者が非常に多かったといいます。

1887年、この状況を変えようと、東京で盲学校の教師をしていた石川倉次が立ち上がります。「子どもたちがもっと簡単に文字を学べるようにしたい」と、石川はルイ・ブライユが作った点字で、日本語を表せないか考えます。

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筑波大学附属視覚特別支援学校資料室 所蔵

しかし、カナは48文字あり、アルファベットの26文字と比べて大きな壁がありました。うまく配列する法則が見つからず、石川は没頭するあまり妻の出産を忘れてしまったほどです。

そして、試行錯誤すること4年。ついに今でも使われる日本語の点字が完成しました。それは、6点のうち、1、2、4の点を母音、3、5、6の点を子音に当てたもの。母音の配置をベースに、子音ごとに点を加えるという、シンプルで覚えやすい配列にたどり着いたのです。

画像(石川倉次が発案した点字)

この点字は、全国の盲学校で使われ始め、学校の数も100校ちかくまで急拡大。自分たちの文字を手にしたことで、視覚に障害のある人たちの生活は一変したといいます。

1922年には、視覚障害者向けの情報を点字で届ける新聞が創刊。さらに1925年には、世界で初めて選挙で点字投票が認められました。

岸博実さん

岸博実さん

「(点字によって)自分の体験を日記に書いたり、詩や短歌や俳句に表したりすることができるようになった。点字は視覚障害者の水準を文化的に高めていく入り口にもなった。自由の獲得と、見えない人たちの人としての尊厳を支えた。点字が果たした役割は非常に大きい」(岸さん)

点字には、石川のある思いが込められていました。筑波大学附属視覚特別支援学校で副校長を務める山口崇さんが、点字にまつわる秘話を紹介します。

画像(山口崇さん)

「点字の配列を決めるときに、ま行の“め”を先に決めた。ま行の“め”と視覚の“目”を関連させて、すべての点を用いた“め”を完成させた。視覚障害にとっての心の目になる。その“め”というものを非常に大切にしていました」(山口さん)

画像(点字の“め”)

日本点字の父・石川倉次の晩年の貴重な肉声が残されています。

この点字が今後わが国幾百万の盲人の明かりとなって、見える人以上の功績をわが文化の上にたてられる人が出てこられることを心から祈ってやみません。
(石川倉次の肉声より)

点字が発明されたことによって、文字が読めること以上の効果をもたらしていると、大胡田さんも日々の生活で実感しています。

「僕にとって点字はすごく大事で、点字があることによって生活の質も、ものすごく上がっているんですよね。文字を獲得した喜びって、自分の思いを誰かに伝えることができる、遠く離れた誰かに伝えることができる喜びでもあるんです」(大胡田さん)

今回は点字の仕組みや読み方、誕生の歴史を見てきました。後編では点字図書館の舞台裏や点字で人やアートをつなぐ人たちを紹介します。

福祉の知識をイチから学ぶ“フクチッチ”
点字(1)読み方の基本と誕生の歴史 ←今回の記事
点字(2)点字図書館の舞台裏

※この記事はハートネットTV 2022年11月7日放送「フクチッチ 点字(前編)」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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