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障害者権利条約 国連勧告で問われる日本の障害者施策

記事公開日:2022年11月18日

障害のある人の人権や自由を守ることを定めた「障害者権利条約」。日本は2014年に条約を批准し、政府がどのような取り組みをしてきたのか、国連の権利委員会による初めての審査が今年(2022年)8月に行われました。障害のある人たちが社会で安心して暮らすためには何が必要か。障害者権利条約をめぐる国連の審査と勧告、日本に求められていることを考えます。

日本でも始まった障害権利条約の国連審査

「私たちのことを私たち抜きに決めないで」

この合言葉のもと、世界中の障害のある人たちが参加して、「障害者権利条約」が作成されました。

目的は、障害のある人たちが差別を受けることなく、好きな場所で暮らし、学んだり働いたりできるという、当たり前の権利の保障です。現在、批准国は185の国と地域で、日本は2014年に批准しました。

新型コロナの影響もあって延期されてきましたが、日本にとって2022年が初めての対面審査です。

画像(障害権利条約とは)

障害者権利条約を批准した国の義務と審査のプロセス
①権利条約の効力が生じた2年以内に「政府報告」(どのような法律を定め施行しているかなど)を障害者権利委員会に提出
②障害者団体や日弁連などの団体がパラレルレポート(障害者施策の現状や課題・改善点をまとめたもの)を障害者権利委員会に提出
③双方の報告書に基づき書面による質疑応答が行われたのち、権利委員会と政府による対面審査
④この審査を経て権利委員会が政府に勧告。政府は改善に取り組み、4年ごとに権利条約の実施状況を報告 (このプロセスを繰り返す)

障害権利条約の審査は、スイスのジュネーブで8月22日から2日間、条約の第1条から第33条について行われました。出席したのは権利委員会と日本政府、そして内閣府の障害者政策委員会です。

画像(障害権利条約の審査)

これに先立ち、政府は「報告書」を権利委員会に提出していました。同時に、障害者団体や日弁連など民間団体が独自に「課題」や「改善点」をまとめた「パラレルレポート」を提出しています。

委員会の専門家18人がそれらを読み込み、「虐待は防げているか」「雇用は進んでいるか」「障害のある女性の人権は守られているか」などの現状を質問し、政府が回答するというのが流れです。

審査の様子はインターネットで中継されましたが、質問と回答がかみ合わない場面が多く見られました。象徴的だったのが、障害のある人が施設を出て地域で暮らすことや、精神科病院の退院支援について問われたときの厚生労働省の回答です。

日本の施設は高い塀や鉄の扉で囲まれてはいない。桜を施設の外や中で楽しむ方もいる。
(厚生労働省の回答)

この回答は、「障害による差別を受けることなく、好きな場所で暮らせること」を保障する条約の趣旨とはかけ離れています。現地では日本から詰めかけたおよそ100人の障害のある人と家族が傍聴していましたが、失笑も漏れていたようです。

閉会の挨拶では権利委員会のキム・ミヨン副議長が「パラレルレポートが示す実状と、政府報告書に大きなギャップが見受けられる」と述べるなど、日本の課題が浮き彫りになったといえます。

国連の改善勧告①:地域移行・強制入院

2日間の審査を経て、総括所見がまとめられました。総括では「民間企業にも合理的配慮が義務付けられた」「アクセシビリティー、情報やサービスなどの利用についての基準が整備された」など、評価された点もありましたが、数多くの改善勧告が出されています。

画像(障害者権利条約の総括所見)

障害者政策委員会の委員長 石川准さん(静岡県立大学名誉教授)は、勧告に従って改善するのは簡単なことではないと語ります。

「他の国と比べて評価された点は多かった。一方で、出された勧告は条約の実施と向かおうとしている方向が違ったり、停滞したりしているもの。軌道修正し政策を積み上げることは容易ではない」(石川委員長)

権利委員会が最も重視したのが、第19条「自立した生活および地域生活への包容」と、第24条「教育」です。

第19条は「施設から地域に出て自立した生活を送る」ことを定めた条文ですが、権利委員会は「障害児を含む障害者が施設を出て地域で暮らす権利が保障されていない」ことから「脱施設化」を求めます。

そして、精神科病院の強制入院を障害に基づく「差別である」とし、自由を奪っている法令の廃止も勧告しました。

画像(地域移行・強制入院について改善勧告)

この勧告に対し、加藤勝信厚生労働大臣は「条約に法的拘束力はないと」と前置きしつつ、「障害者の希望に応じた地域生活の実現や一層の権利擁護の確保に向け、引き続き取り組んでいきたい」と述べました。

国はこれまで障害のある人の、施設から地域への移行を進めてきました。しかし、年々その動きは鈍くなっており、いまもおよそ12万7000人が施設で暮らしています。

画像

出典:国保連データ、社会福祉施設等調査、施設入所者の地域生活の移行に関する状況調査)

また、精神科病院の入院患者数は、厚労省の調査によると2020年はおよそ29万人。平均入院日数は277日とOECDのなかでも突出しており、特異な状況です。

権利委員会で副委員長を務めるヨナス・ラスカスさんも厳しく指摘しています。

「不当に長い入院は、障害を理由にした人権侵害。医療者だけでなく、独立した機関が入院の必要性をチェックできるようにすることが必要。強制医療ではなく、地域でのケアサポートが重要」(ラスカス副委員長)

画像(地域移行・強制入院について改善勧告)

勧告では、地域で暮らすための法的枠組みの整備や、予算配分の見直しも求めています。

どのくらいの費用や支援が必要なのか早急に分析するとともに、ヘルパーの育成など地域の体制を整え、権利委員会が公表した「脱施設化に関するガイドライン」にのっとり、期限を決めて計画を実行していくことも必要です。

国連の改善勧告②:インクルーシブ教育

続いて権利委員会が重視したのが第24条の「教育」です。障害のある子のなかに、いわゆる“通常”の学級で学べない子がいることを問題視しています。

分離された特別支援教育の中止に向け、障害のある子もない子も共に学ぶ「インクルーシブ教育」に関する、国の行動計画を作ることを求めました。

これに対し、永岡桂子文部科学大臣は「多様な学びの場で行われている特別支援教育の中止は考えていない」と、現行の教育システムを維持しつつ、「勧告の趣旨を踏まえて引き続きインクルーシブ教育システムの推進に努めたい」と述べました。

画像(インクルーシブ教育について改善勧告)

特別支援教育を受ける子どもの数は、2021年度はおよそ57万人。10年前と比べておよそ2倍です。

背景には「知的あるいは発達障害の早期発見」「本人や保護者の意向」などがあり、学校選択について文部科学省は「本人や保護者の意向を最大限尊重する」としています。

しかし、少しでも障害があると、教育委員会によっては特別支援学級や支援学校を強くすすめ、考えを押し付けることも起きています。

「通常学級で学べることを知らなかった」という声さえあり、障害のある子や保護者の受け止めは必ずしも一致しません。

画像(インクルーシブ教育について改善勧告)

インクルーシブ教育は、障害のある子を含むすべての子がそれぞれに合わせた必要な支援を受けつつ、共に関わり合いながら一緒に学ぶことで実現します。

そのためには、教員の増員や他職種との連携、そして教員の質の向上、障害を理解して障害のある子の尊厳を学ぶことなど、解決しなければならない課題は山積しています。

権利委員会はそうした状況を認識していますが、それでもインクルーシブ教育を求めてきました。なぜなら、ラスカス副委員長が述べるように、「分離教育は分断した社会を生み出す。インクルーシブ教育は共に生きる社会を作る礎」と考えているからです。

文部科学省は、権利委員会の意図するインクルーシブ教育と改めて向き合う必要があります。

画像(インクルーシブ教育について改善勧告)

次回の国連審査に向けて必要なこと

権利委員会が重要視した勧告では、特に支援を多く必要とする、あるいは偏見にさらされやすい人の権利が守られていないと指摘していました。

国は障害があってもなくても、人生は一度しかないということを念頭に置いて、真摯に向き合い早急に改革を検討すべきなのです。

一方、私たちも障害のある人たちが安心して暮らせる社会を作っていかなければなりません。「地域で暮らしたい」「一緒に学びたい」「一緒に働きたい」と言われたときに、積極的に受け入れる必要があります。

次回の審査は2028年です。国の動向を注意深く見守りつつ、私たちの意識も変えていくことが求められています。

※この記事はNHK解説委員室「障害者権利条約  国連勧告で問われる障害者施策」(竹内哲哉 解説委員)を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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