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本田秀夫さんと考える 発達障害の子育ては“好き”を大切に

記事公開日:2022年11月16日

発達障害のいろいろな特性がある子どもたち。育て方も多種多様ですが、“好き”を大切にすることでうまくいったり、二次障害を予防する可能性もあります。特技や夢中なことに取り組む様子を見守り、嫌なことを無理強いしないなど、その方法はさまざま。今回は、“好き”を大切にした子育てを実践する3組の保護者と信州大学医学部教授・本田秀夫さんにお話を伺いました。

試行錯誤して見つけた我が家の子育て

今回の語り合う舞台は長野県野尻湖のカフェ。“好き”を大切にした子育てを実践している3組の保護者と、その子どもたちに集まっていただきました。

画像(左から、上間さん親子、石黒さん親子、近野さん親子)

一緒にお話を伺うのは、信州大学医学部教授・本田秀夫さんです。本田さんは精神科医として、子どもから大人まで発達障害の当事者を30年以上にわたって診察しています。

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信州大学医学部教授 本田秀夫さん

小学6年生の近野樹(いつき)くんは数字や計算のとりこです。今は因数分解にハマっています。

画像(近野樹くん)

小学5年生の石黒豪輝(ごうき)くんは、天気予報と道路が大好き。これまでいろいろ興味が変わってきました。

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石黒豪輝くん

小学5年生の上間友輝(ともき)くんは、カードゲーム作りに夢中です。工作や作ることがいちばん楽しいと話します。

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上間友輝くん

3人にはそれぞれ発達障害があり、「疲れやすい」「感情のコントロールが苦手」などの特性が見られます。しかし、「好き」を大切にする子育てによって、自分のペースでゆっくり成長してきました。

“好き”を大切にして子育てすると、どのようないいことがあるのでしょうか? まずは、近野樹くんの母・菜穂子さんにお話を伺いました。

「もともと保育園に行っているときに、順番待ちができなかったり、集団行動ができなかったり、運動会でもそこにいられない。なぜそこにいなければいけないのか、みたいな感じです。
3歳のころ、『おにぎりになろう!』って、先生と一緒にみんなが楽しそうにおにぎり(の振り付けをして)になっているなかで、ずっと砂を触っていました。あとで『なんでおにぎりやらないの? お母さんおにぎり見たかったな』と言うと、真面目な顔で『おにぎりになる理由がわからない』って」(近野さん)

そこで、近野さんが樹くんに持たせたのが小さなメモ帳です。

「いつも持ち歩いています。3歳当時のものがこれです。白紙でまだ使ってないページにも数字を振っています。彼にとって、ノートも本も、大事なのはページ(の数字)なんです。運動会のテントの中で、一人黙々と書いているみたいな。(保育園の先生は)こうするとおとなしく一緒にいてくれると気づいてくれて、みんなと同じことができなくてもOKにしてくれました。先生にもあきらめていただいて(笑)。数字の効能です」(近野さん)

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樹くんが書いた3歳の頃のメモ帳

この話に深くうなずいていたのは石黒豪輝くんの母・仁女(ひとめ)さんです。

「同じ感じです。小さいときは集団行動も苦手なので、どこでも暴れる。床に寝っ転がる。デパートのど真ん中で『ワー!』みたいな感じ。そのころは、エレベーターがいちばん好きで、エレベーターに乗るために横浜駅に行く。2時間ぐらい乗れば気が済むので(笑)」(石黒さん)

好きなものが、いろいろと変わってきた豪輝くん。3歳のときは「エレベーターにある数字」にのめり込んでいました。そこで石黒さんは、エレベーターのボタンを模した手作りのおもちゃを作りました。

エレベーターの階数表示や、ドアの開け閉めボタンのマークを押すことで、豪輝くんは落ち着くようになりました。

「こんな薄っぺらな紙の絵でもずっと集中して遊んでくれるんです。そのくらい数字が好きでした」(石黒さん)

画像(石黒さんが作ったエレベーターのおもちゃ)

“好きなこと”は子どもにとって大切な充電になります。友輝くんが保育園で社会性を身につけるSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)をやって帰宅した後、上間友輝くんの母・春江さんは、息子とのやり取りで気づいたことを話してくれました。

「保育園では時間を教えるために、『友ちゃん、あと何分だよ』みたいに視覚的にシールを貼ったり、タイマーを使ったりしてくれていました。『お母さん、これで切り替えられましたよ』と教えていただいたので、うちでもやってみようと息子に言ったら『お母さん、園でも頑張っているのに、うちでも切り替えとか、もう無理です』って言われて(笑)。そうか、保育園で集団生活することは、もう十分頑張っているんだなと。じゃあ家ではご褒美じゃないんですけど、たっぷりとゆるく好きな活動をさせてあげようと思いました」(上間さん)

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(左から)上間さん、石黒さん、近野さん

その子が好きなこと、落ち着くことを優先して自由にやらせてあげる。この方法で解決することがある一方で、「できないことを直さず、やるべきことをやらず、わがままな子どもに育ってしまうのでは?」と疑問もでてきそうです。

しかし、本田さんは「“好き”を優先していい」と明言します。

画像(本田さん)

「好きなこと優先でいいんです。小さいうちは好きじゃないものを好きになりなさいと言われても、そう簡単にはいかないんです。少し周りが見えるようになってきてから身につけても遅くはないと思います。一人ひとりのお子さんの特性や興味の持ち方は、ぜんぜん違います。大切なのは、好きなことを大事にすることと、子どもさんのモチベーションがどこにあるのかを見極めることだけは共通なんだけど、具体的にどんなやり方がいいか(子育ての)ハウツーみたいなことは人によって違うので、試行錯誤しながら見つけるしかないかなと思いますね」(本田さん)

自分の子どもの特性を見て、子どもが能動的に“好きなこと”や“興味のあること”は何か?を見極めていく大切さ。どんな子どもにも当てはまるハウツー・マニュアルは存在しないので、日々、試行錯誤しながら自分の子どもに合った子育てが重要だと本田さんは語ってくれました。

“好き”を優先する理由

本田さんが「“好き”を優先していい」と話すのには、発達障害の子どもをおおぜい診てきた経験に裏付けされた理由があります。

「僕は、二次障害※が起こった発達障害の人たちをたくさん診るようになってから、本当に痛感しているんです。いくら『社会にはルールがあるから、守ることも教えなきゃいけない』と言っても、それを押しつけすぎることによって、子どもが社会参加への意欲を失ってしまったり、自信をなくしてひきこもってしまったりしたら、結局もっと社会参加できなくなっちゃうんですよ。
例えば、大人になるまでにこれを全部教えなきゃいけないとか、1年生になったらこれぐらいのことはできなきゃ困るとか、そういうことを押しつけすぎちゃうことによって、二次的な問題が起こることのほうが問題です。だからこそ、本人がどうやってモチベーションを保ちながら社会に出ていくか、それを保障する最低限の条件が“好きなこと”なんです」(本田さん)

※二次障害 発達障害への周囲の理解不足などが原因で起こる不登校・ひきこもり・うつ病などの身体・精神症状

画像(本田さんと二次障害の説明)

3組の親子とも、 “好きなこと”を大切にして、試行錯誤しながら問題を改善してきました。そして最初から “好きなこと”を大切にすると、よりいいと本田さんはいいます。

「“好き”を利用することのメリットは、本人がハッピーになることです。目先の楽しいことをやっていればとりあえず落ち着いて、楽しいし、お母さんたちも安心するので、平和な時間が過ぎますよね。最初のうちはそういうところからスタートして、だんだん大きくなってくるにつれて、お子さんもほかの知識が少しずつ身についてきたり、社会のルールに目が行き届くようになってきたりしますから。だから、取っかかりとして好きなものから入るのは、いちばんスムーズにいく手だと思います」(本田さん)

通常学級と特別支援学級の選択

続いての話題は、学校について。発達障害のある子どもが小学校に入学する際に直面するのが、「通常学級と特別支援学級のどちらを選ぶか」です。

近野さんと石黒さんは特別支援学級、上間さんは通常学級を選択しました。

画像(入学時にそれぞれの親子が選んだ学級)

まず、特別支援学級はどのようなところなのか、豪輝くんの学校生活を見せていただきました。

豪輝くんは、横浜市立三ツ沢小学校に通っています。集団行動が苦手だったため、入学当初から特別支援学級※に入りました。(※横浜市での呼称は「個別支援学級」)

さまざまな障害のある子どもたちが利用できる特別支援学級。1クラスの児童数は8人以下と定められており、このクラスでは主に発達障害などの特性がある子どもたちが在籍しています。

画像(豪輝くんが特別支援学級で学ぶ様子)

特別支援学級では、子どもの特性や学力などに応じて勉強することになっています。撮影当時、小学4年生だった豪輝くんは、通常学級と同じ4年生の教科書を使っていました。テストで100点満点をとって、喜ぶ姿も見られました。

画像(豪輝くんの100点満点の答案)

専門知識のある先生が、一人ひとりの学びに合わせて授業を進めていきます。担任の三代結子さんはこう話します。

「個別支援学級が自分の居場所で、ゆっくりもできるし、自分のいいところも悪いところも全部出しても認めてもらえる場所。『学校の中での家』みたいな感じ」(豪輝くんの担任 三代さん)

4年生のころから豪輝くんは、授業の半分ほどを通常学級(※)で学んでいます。(※横浜市での呼称は「一般学級」)

画像(通常学級の豪輝くんの様子)

これまで苦手だった集団の中でも、徐々に授業を受けられるようになりました。

「こういうふうなことは嫌だとか、こうしたらいいとか、先生が息子の特性をよくわかっているのでとても助かっています。息子も楽しく通学できています」(石黒さん)

同じく、樹くんを特別支援学級に通わせていた近野さんは、どう考えているのでしょうか。

「特別支援学級に入学することで、座って先生の話を聞いて、先生が黒板に書いたらこれをそのまま書くというやり方を全部教えてもらえたのが大きかったと思います。
入学前に在籍する小学校に面談に行って、そのころすでに掛け算とかをやっていたと思うんですけど、今このくらいのことをやっていますと(息子の)特性も話しました。すると校長先生が、6年生までプリントがあるので、特別支援学級なら本人の興味のある範囲でいくらやってもらっても構わないと冗談っぽく言ってくださって、すごくホッとしました。だから、これだったら特別支援学級を選ぼうというのが、そのときの気持ちですね。間違ってなかったと今でも思っています」(近野さん)

発達障害のある子どもや、その親にとって、特別支援学級と通常学級のどちらに通うのかは大きな選択となります。通常学級においても原則、特別支援教育が受けられることも考慮してよいと、本田さんは指摘します。

「発達障害がある限りは、なんらかの支援は受けるべきです。よく誤解されますが、特別支援教育は特別支援学級だけではなく、通常学級の中にいても受けられます。これを合理的配慮(※2016年に法制化。障害に応じたサポートを可能な範囲で行うこと)といいます。
だからその子にどんな支援がいちばんあっているのかを前提にして、学校と親御さんとでよく相談して、やり方を決めていただく必要があります。
例えば、通常学級でだいたいは楽しく過ごせるけど、要所要所で個別の配慮が必要なお子さんだったら、通常学級で合理的配慮を受けられるのか相談すればいい。通常学級よりは、少人数で勉強したほうがいいのであれば、特別支援学級に在籍したほうがいいと決めればいいんです」(本田さん)

学校への向き合い方

一方で、特別支援学級、通常学級にかかわらず、子どもにとっては学校へ行くこと自体が大きな壁になることもあります。

友輝くんが学校に行く前の様子を見せていただきました。

登校前の午前6:50。
前の日にできなかった宿題をやり始める友輝くん。得意な算数の計算ですが、突然ドリルをテーブルの横に置き、ため息をつきました。

上間さんはいつも、友輝くんの体調の変化を気にかけています。

画像(体が疲れて動けなくなる友輝くん)

「朝、急にくるんですよね。もう今日は体が疲れて動けないみたいな感じで、スイッチが切れちゃうみたいな」(上間さん)

友輝くんは、自閉スペクトラム症の特性から疲れがたまりやすく、たまに動けなくなることもあります。こんなとき、上間さんは筆談して、友輝くんの気持ちを確認します。

「視覚的に(情報を)入れておかないと、切り替えられないのでだいたい書いています」(上間さん)

画像(視覚的な選択肢を見る友輝くん)

友輝くんは「遅刻」を選択。友輝くんからの「学校へ行けない」というSOSでした。スクールカウンセラーをしている上間さんは決して無理させません。月に1度、体調を整えるための休みを設けています。こうした家族のサポートもあって、友輝くんは自分のペースで通学しています。

「学校で楽しい活動とか学べることもたくさんあるので、難しければときどきお休みしたり、調整したりしながら、自分のなかでのいいペースを見つけながら、楽しく過ごしてもらえるといいかなと思っています。学校の先生も、『友輝くんがちょっとお休みしながら、そのあとやれるんだったら、それでいいと思います』と言ってくださったので、受け止めていただけていると思います」(上間さん)

画像(上間さん)

上間さんの対応は、自身のスクールカウンセラーとしての経験がもとになっています。

「不登校を経験しても、社会で自立して頑張っているお子さんをたくさん見させてもらっています。無理を重ねてポキっと折れてしまうより、予防するほうが、長い目で見たときには大事かなという思いです」(上間さん)

上間さんの理解もあり、自分のペースで学校に通っている友輝くん。学校を休ませると、「ずっと行けなくなってしまうのでは?」という不安を感じてしまいそうですが、本田さんも学校よりも、今後の人生を見据えたほうがいいと話します。

「上間さんの言うとおりだと思います。お子さんたちはもともと真面目なんですよ。学校に行かなきゃいけないのは百も承知だし、頑張りたいと思っているけど、パワーがなくなってしまうと、学校に行きたくない状態になりますよね。
まずはパワーを充電するところから始めないと、そのあとが続かなくなります。発達障害のあるお子さんって基本的にはサボれないですからね。極限まで頑張ってダウンするので、それをサボっているとみなすのは、子どもへの配慮を先生がサボっているんです。
学校のあとに何十年も長い人生が待っていますから、学校に行くことを人生の目標にしちゃいけません。社会にどうやって出ていくのか、というほうがより重要です。大切なのは二次障害(の予防)ですよね。親御さんと先生とで協力しながら、二次障害を防ぐことを意識してもらいたいです。
症状が出てからだと、本当に大変です。もちろん、治療はやれなくはないのですが、時間がかかります。ですから二次障害を防ぐためにも、自分が自信を持てるものを用意しておく。それが“好きなこと”ですよね」(本田さん)

画像(本田さん)

“好き”を取り入れた家庭の工夫

「数字」が好きな近野樹くんは、“好き”を生活にうまく取り入れることで、登校しぶりが減りました。いったいどんな工夫をしているのか、見せていただきました。

午前6:30。樹くんは朝、一人で起床します。2年前から近野さんは、樹くんと相談して「朝のフリータイム」を実施。数字好きの樹くんは、心ゆくまで数学の問題に取り組みます。

朝食を作るのは自分で。朝のゴミ出しは樹くんの担当です。

画像(樹くんの朝のフリータイム)

「やっぱり楽しいから。面倒くさいとか嫌だなとかに(気持ちが)勝つから、やっていても嫌な感じはしないかなと思います」(樹くん)

「自由」と「責任」を与えたことで変わった樹くん。かんしゃくを起こすことも、登校しぶりも減ったのです。

実は近野さんは毎朝、寝室のある2階でずっと耳をそばだてています。

「そばにいたら『顔の洗い方が悪い』『歯の磨き方が悪い』『パン1枚でいいの?』とか言いたくなっちゃうんです。向こうは言われたくないじゃないですか。お互いの心の平和のために(こうやっています)。関係も良好ですね」(近野さん)

画像(近野さん)

この形に落ち着くまでには、数々の試行錯誤がありました。

「いきなり始まったわけではなくて、徐々に最終形態にたどり着きましたね。やっぱり口も出したくなりますし、(私に)朝から言われてへこんでしまったりとか、学校に行くパワーを使い果たさせてしまったりとか・・・。(朝食は)スープを作っておいたり、お膳立てはなんとなくしています。宿題をやってない日もあるとは思いますが(何もいいません)、自己満足はすごくしていると思います」(近野さん)

陰で見守りながら、一人でできることを任せる。この姿勢が大事だと本田さんは話します。

「本人は一人でやっているつもり、なのが大事なんです。最大のポイントは、親にペースを乱されたくないということをお母さんがわかったということ。お母さんの意向でこうさせようじゃなくて、どうすればうまくいくのか、試行錯誤しているうちにこうなったんだと思うんです。お母さんに探究心があって、それがうまくかみ合ったんだと思います。
樹くんは社会に出ていくときに大事なことを身につけているんですよ。身の回りのことをやるのっていちばん大事なことだから、本人がそのことにモチベーションを持って、朝の貴重な時間を自分の思いのままにできて、どう過ごそうかと考えていくなかで自立心が生まれて、ああいう形になってきたと思うんですよね。
将来、樹くんと『あのときこんなことあったよね』って笑い話できるような関係になっていただけるといいですね」(本田さん)

「試してみよう」の気持ちで

樹くんのペースを尊重できるようになった近野さん。樹くんが発達障害と診断されたころは、深く悩んでいたといいます。

「つらいというか苦しい。なんで(周りと)違うんだろう、周りのお子さんと同じことができないっていうことも、どうしようどうしようって・・・。自分のせいかな、自分の子どものせいかな、迷惑かけたらいけないなって、ずっと考えていましたね」(近野さん)

豪輝くんの母・石黒さんも、同じような気持ちだったと話します。

「赤ちゃんのときから周りのお子さんとぜんぜん違う。なんでだろう・・・と思っていたので、逆に診断がついて、対処の仕方がわかってホッとしました」(石黒さん)

試行錯誤しながら発達障害と向き合ってきた保護者のみなさん。今も悩みは尽きません。

「特性だと思うんですけど、樹の場合、本当に世界に自分しかいないと思っているような節があって、ここにきて、どうやら人がいるらしいと気づいて・・・(笑)。でもそれと同時に、『ちょっと自分は違うんだな』と気づき始めたんです。それが自己肯定感を下げることにもつながっているようで、少し気になっています」(近野さん)

画像((左から)上間さん、石黒さん、近野さん、安部みちこアナウンサー、本田さん)

本田さんは、このようなケースは珍しくなく、だからこそ“好き”があることが大切だと話します。

「実は周りが見えてきた途端に、一気に自信がなくなるという方はとても多いんですね。小学校高学年から中学に上がるぐらいがよくあるパターンです。あんなにすごく好きなものがあって、力もあるのに、それでも自己肯定感が下がっているでしょう。“好き”がなかったら、もっと下がっていたと思うんですよ。あまり励ましたりしすぎずに、そこはもう自分で解決することなので、いかに毎日を平和で楽しく過ごすかを考えていただくことじゃないでしょうか」(本田さん)

一方で石黒さんは、豪輝くんの別の特性が気になっていると打ち明けます。

「うちは近野さんと真逆で、周りが見えてないというか、気にしないというか・・・。なので、できないところを親がケアしたり、周りがケアしています。いつまでも親はケアできないので、この先、中学生、高校生になったときに、どうしたらいいのかなと思っています」(石黒さん)

石黒さんのお悩みに、本田さんはこう答えます。

「今そうでも、必ずね、近野さんがおっしゃってたようなことに出合う日が来るんですよ。そのときに思春期に入るので、親の出番があんまりなくなるんです。だからこそ親以外に頼れる大人を見つけておく必要があります。今はちょうど、いい環境におられるので学校の先生とかが相談相手になれるといいと思います。しばらくはお母さんが出すぎるよりは、お母さんに代わる支援者の大人を見つけられるといいですね」(本田さん)

友輝くんの母・上間さんにもお悩みがあります。

「うちの場合はやりたいことが常にあるので、どうしてもキャパオーバーになりやすいところがあります。ペース配分とかが気になるところです」(上間さん)

「やりたいことから優先したいですもんね。やりたいことをやって、睡眠をとって、身の回りのこともやって、残った時間で気が進まないやるべきことをやるぐらいのつもりでないと、もたないんですよね。だから、どうしてもやるべきことが残っちゃってやばいぞと思ったら、休みを取ったって構わないと思います」(本田さん)

ここまで、“好き”を大切にする子育てについて見てきました。しかし、子どもによっては、“好き”がそれほどはっきりしていない、あまりないという親子もいるかもしれません。そのような場合はどうすればいいのでしょうか。

「何かをやらなきゃいけない、というわけではありません。自由な時間を与えてみて、そこで本人が何をやろうとするか見ていただきたいし、あまり口を出さずに見守っていただきたいんです。何かやりたいときに『こうさせよう』じゃなくて、『試してみよう』ぐらいな感じでね。
今日お話しいただいたみなさんの素晴らしいところは、その『試してみよう』という感覚を持って子育てされてきたことです。
(私たちは)いつもは診察室などで、こういうことをしたらどうですかと言ってるわけですが、実際にやってるのはお母さんたち、親御さんたちですよね。親御さんたちがいろんなことを考えながら試行錯誤して、こんなふうにやってきたんだということを、長い時間、聞く経験は僕らも少ないんです。
そういう意味で、自分たちの経験に根付いた体験をしっかり聞かせていただいて、今回は本当に勉強になりました」(本田さん)

試行錯誤しながら、“好き”を大切に子育てすること。大事なのは、大人がどう見守るのか、なのかもしれません。

※この記事はハートネットTV 2022年10月11日放送「〝好き〟を大切に~発達障害の子育て~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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