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手で“見る”旅へ 点図で巡る視覚障害のある人の京都観光

記事公開日:2022年11月11日

全盲の長尾博さんは、京都周辺で「手で見る旅」のガイドを行っています。視覚障害のある人は、旅の楽しみが食と買い物が中心で、景色を楽しむことは諦めていると感じていた長尾さん。そこで、見えなくても楽しい旅があることを見えない仲間に知ってほしいと、「点図」を使った観光ガイドをしています。今回は、長尾さんが全盲の方を観光案内する様子を紹介し、主体的な旅の楽しみ方について伺いました。さらに長尾さん流の京都検定の勉強法も紹介します。

視覚に障害があっても楽しめる「手で見る旅」

京都周辺で「手で見る旅」のガイドを行っている全盲の長尾博さんは、2021年12月に実施された、難関の「京都・観光文化検定試験(京都検定)」の1級に合格しました。合格率わずか11.4%の狭き門で、初の全盲の1級合格者です。

旅行好きの長尾さんは、「ムツボシくんの点字の部屋」と題した自身のホームページで、旅行に関するさまざまな情報を発信しています。ちょっとした工夫があれば、視覚に障害のある人でも観光の楽しみが広がるといいます。

「視覚障害者が旅をするときに、ガイドに連れていってもらう受け身の旅ではなくて、自ら動ける、見えないけども主体的に動いている感じを味わえる旅を目指しています」(長尾さん)

滋賀県出身で京都市に住む長尾さんは、長く滋賀県立盲学校の教壇に立ったのち、宮城教育大学で盲学校の教員の養成を担当しました。そして4年前、学生時代を過ごした京都に移り、現在は滋賀県内の大学で非常勤講師を勤めています。

長尾さんは生まれつき右目が見えず、左目は強度の弱視でした。小学校5年生のときに病気になり、それ以降はほぼ見えなくなります。旅行に連れていってもらっても、楽しみは食事や温泉、買い物などに限られ、景色を楽しむことは諦めていました。

そんな長尾さんが「手で見る旅」を考えたのは、宮城教育大学で研究者をしていたときです。

見えない人の旅を研究テーマとし、どのような教材で、どのような情報があれば、見えなくても積極的になれるのか考えました。そこで思いついたのが、「点図」の活用です。

画像(点図)

「点字が読めない視覚障害の方も多いと思います。線が浮き上がっている地図であれば、線をたどることは、ほぼどなたでもできる。だから、点字の地図、『点図』です。点字が読めなくても、かなり楽に触れます。
例えば道をたどって、『今ここを歩いてるんだ』という実感が得られます。交差点に来たときに十字路なのか、三差路なのか、地図を触りながら確認できるので、主体的に歩いている気分になれます」(長尾さん)

これまで100か所以上を旅行している長尾さん。しかし、意外にも自身が出かけるときは点図を用いてないといいます。

「点字で地図を作るのは、結構大変な作業です。図を書くソフトは、マウスを使って線を書いたりするので、見えるボランティアの方にお手伝いいただかないとできない。地図を準備するのは難しいというか、時間がかかります。
だから僕が行くときは、ガイドさんや現地の観光ボランティアとお話しながら、『こういうふうに地図にしたら楽しめるだろうな』と想像しながら歩いています。ホームページで40か所ほど紹介していますが、まだまだですね」(長尾さん)

旅のイメージをふくらませる「点図」

9月の連休、長尾さんがガイドをする街歩きが実施されました。

待ち合わせ場所の地下鉄・二条駅に現れたのは、全盲の西村秀樹さん。ガイドと一緒に滋賀県守山市からやってきました。長尾さんとは旧知の間柄ですが、一緒に観光するのは初めてです。

顔を合わせるとすぐには歩き出さず、喫茶店で街歩きの進め方について、点図を使って打ち合わせが始まりました。

長尾:今日は、北野天満宮周辺をご案内します。イメージを頭に描いて歩いたほうがいいと思いますので、教材を作ってきました。線と点字で地図っぽいやつです。右下が「北野天満宮周辺図」となっています。右の縁を上から下に点字の縦の線ぐらいに沿っていくと、ポコっと膨れた点が一つありませんか?

西村:あります、あります。

長尾:ここがスタート地点です。その横に「今」と書いてます。

西村:書いてます。

長尾:これが、「今出川通の交差点」という意味です。今出川通は横の道です。スタート地点の上下にも線がありますよね。これが千本通で、今、交差点を渡った道です。出発点から左にゆっくりと指を滑らせていって、ちょっと左下に下がっていきます。次の点がありますか?

西村:あります、あります、ありました。

長尾:ここが北野天満宮、目的地です。建物は国宝です。

西村:あー!わかりました。

西村さんは27歳のときに病気で目が見えなくなりました。京都市内で働いていた経験があるので、点図を指でなぞることで過去の記憶が呼び戻されます。

長尾さんの主体的に旅を楽しむという狙いは西村さんにもしっかりと伝わり、期待が高まってきました。

画像

点図を確認する長尾さん(左)と西村さん(右)

「こういう地図は見た記憶がほとんどない。今日、触ってみて、道も真っすぐじゃないし、こんなふうに分かれているんだと、はじめて知りました。知らないことを教えてもらえそうで、ドキドキわくわくしています」(西村さん)

新たな発見が旅への意欲を高める

予習を終えると、長尾さんと西村さん、それぞれのガイド、合わせて4人で北野天満宮を目指して出発します。

すぐに一行は、由緒あるお寺に着きました。その昔、豊臣秀吉が立ち寄って、お茶を飲んだことで知られる浄土院です。

ガイド:浄土院です。

長尾:浄土院には碑があるはずですよね。なにか書いてある字がありますか?

ガイド:あります。

長尾:(石に)彫られていますか?

ガイド:彫ってます。

西村:じゃあ、触っていいわけですね。

長尾:はい。お茶の「茶」の漢字とか、ちょっと触ってみてください。

西村:ああ、わかりました。

長尾:石碑とかは字が彫ってるからね。漢字やひらがなのイメージのある人は、読み取れると、また面白いかもね。

画像(石碑の文字を確認する西村さん)

石碑には「湯たく山茶くれん寺」と刻まれていますが、これは浄土院の別名です。豊臣秀吉が立ち寄った際に「ここは(お茶を所望しても)、白湯ばかりがたくさん出されて、茶をくれない寺だ」とつぶやいたことが名前の由来で、そのエピソードを長尾さんが披露してイメージをふくらませます。

石碑を触って楽しんだ西村さんは点図を手に、歩き方も軽快になり、北野天満宮に到着しました。北野天満宮は学問の神様、菅原道真が祭られている由緒ある神社で、鳥居をくぐると触りどころが満載です。

長尾:ここでわりと有名なのは、珍しい鳥居なんです。

西村:形ですか?

長尾:そうです、足の部分の形です。犬が舌をだらんと垂らしているような台座が珍しい。ちょっと、触ってみる?

西村:ほんまや。

長尾:ハスの花びらが並んでる感じ。見える人はイメージできるんかもしれんけど、われわれはハスの花と言われても、あんまりしっかり見た覚えがないんで、難しいけど。

西村:でも、ほんまに、こんなとこ触ったことないです。手の感覚で印象に残りますね。

まさに、「手で見る旅」の真骨頂です。長尾さんだからこそ伝えられる楽しさがありました。

「参道の左右には撫牛という牛が数多くいたり、『ここに井戸があります』という立札があったり、見えている人は気づきながら参道を歩いてるけど、見えないとなにもないことになります。お参りだけして帰ってくる。地図があるとないとでは、雲泥の差やと思いますね」(長尾さん)

そして、この日のメインイベント、北野天満宮に残る御土居(おどい)の見学です。御土居とは、かつて豊臣秀吉が京の都を守るために周囲に築いた土塁のことです。

その一部が天満宮の敷地にも残っており、国の史跡になっています。ふだんは入れないところですが、北野天満宮の権禰宜(ごんねぎ)、堀川雄矢さんに特別に案内してもらいました。

画像(堀川雄矢さん)

堀川:今、お立ちいただいている場所が御土居の上の部分でございます。

西村:(白杖で足元をつつき、その音を聞いて)下が空洞のような感じになってますよね。

堀川:もともと御土居の土を盛っているところに、歩きやすいように上に砂を固めています。

西村:なんか浮いてるなあって。下は空洞やなと思うて。

長尾:西村さん、鋭いね。

堀川:あくまで仮にとめているだけですので、地面を割って開けると当時の御土居の土が残っているわけでございます。顔にかかるぐらいのところに紅葉がございます。

長尾:このもみじはいつ植えられたんですか?

堀川:もみじも当時から植わっているものが多くて、南のほうには樹齢400年を超える「三又(みつまた)のもみじ」というものもあります。おそらく太閤秀吉も見られたのではないかと伝わっております。

西村:太閤秀吉が見たもみじを僕らが今、見てるっていうのは・・・。

長尾:面白いね。

画像(御土居で説明を受ける一行)

およそ3時間で、長尾さん主催の「北野天満宮、手で見る旅」は終了しました。参加した西村さんはすでに次の旅への意欲がわいています。

「今までは、連れていってもらっている感じの旅が多かった。今日は『次はここに行きたいな』と自分で率先して行ける感じがして新鮮でした。先祖のお墓参りに行ったときとかに、改めて手で触ってみて、文字を読んでみるとか、もう一度自分の周りで触れるものを確かめてみたいなと思いました」(西村さん)

「手で見る旅」の醍醐味と課題

長尾さんが目指しているのは、視覚に障害のある人が主体的に歩ける旅です。自らも「手で見る旅」を楽しんでいる長尾さんが、視覚に障害のある人たちにも同じ楽しみを味わってもらいたいと考えています。

「全盲の人が自ら決めていく行動を増やしていきたい。『こっちに来て』じゃなくて、『このへんに何かあるはず』『ここを曲がりましょうか』と自分で決めて動ける旅は楽しさが倍増するかなと。私自身、とても楽しく旅ができているので、皆さんにもぜひその気分を感じていただければと思います」(長尾さん)

「手で見る旅」を満喫するために助けになるのが点図です。しかし、自分で簡単に作れるものではありません。

「全国の点字図書館や日本ライトハウスなど、視覚障害者の(ための)諸機関が点字を打てる点訳のボランティアの養成をしてくださっているので助かります。できれば、図を書けるボランティアの養成もやっていただければ。そのへんをクリアしないと、旅に持っていく点図が手に入らないですね。
それから、3Dプリンタが出回っている時代ですので、(そうしたものを使って)お寺の全体像など、アウトラインの形だけでも触れられるものがあると、かなり見えた気分になります。イメージの基になる情報がないと、われわれの旅はなかなか主体的にならない。まだまだ私も資料不足ですが、できるだけ増やしていけたらと思います」(長尾さん)

京都検定の受験方法と勉強法

長尾さんは2021年12月の2度目の挑戦で、京都検定1級に合格しました。京都検定は現時点では点字受験に対応していません。弱視の人であれば拡大文字による受験の可能性はありますが、墨字文字※が使えない場合は音声読み上げの受験となり、長尾さんはこの方法で受験しました。

(※点字ではない文字)

【京都検定・音声読み上げでの受験方法】
(1)読み上げ者を受験する本人が準備し、その人とともに受験会場に行く必要がある。

(2)2級・3級での解答方法は、受験者が解答を口頭で伝え、読み上げ者がマークをつける。

(3)1級の解答方法は、音声読み上げソフトを入れたパソコンを持参。パソコンに本人が解答を打ち込み、USBメモリーに保存して提出。
※持参するパソコンに参考書やノートなどのドキュメント類が入っていないか担当者が調べる。

(4)どの級も試験時間が約1.5倍に延長され、別室で受験を行う。

(5)事前に主催者側に通常試験では受験できない旨を伝え、相談を重ねる必要がある。

長尾さんが京都検定に合格した勉強方法を教えてくださいました。受験対策は、受験者の能力や事情によりさまざまな学習スタイルがありますが、参考にしてみてください。

【長尾さんの勉強方法】
・『新版 京都・観光文化検定試験 公式テキストブック』を学習すること。サピエに音声デイジーがあります。

・点字の過去問題集が何冊かあるので、これをしっかりやること。解説も丁寧なのでとても役立ちます。一部はサピエに点字データがあります。墨字版が使えるなら、通販の書店などで過去問が入手可能です。

・京都検定公式サイトに過去問題集が掲載されています。解説があると理解が深まります。

・多くの人が受験勉強のためのブログを公開しています。自分のノートを公開している方もおり、役立ちます。

・勉強では、自分用のノートを作り上げていくことがおすすめです。過去問題を解くうちに、どのようにノートをまとめたらよいか気づくと思います。自分のノートを充実させることが合格への近道です。

・ノートはパソコンのテキストファイルで作ることをおすすめします。大切なことは検索機能が使えること。どこに書いたかを忘れても、検索できるファイルにしておくとよいでしょう。

※この記事は、2022年10月16日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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