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“毒親”の過干渉から離れてわかったこと 漫画家・田房永子さんの対処法

記事公開日:2022年10月31日

過干渉や暴言・暴力などで子どもを思い通りに支配しようとする親、「毒親」。その言葉が日本で広く知られるようになって約10年になります。今回は、実際に苦しんだ日々を過ごした当事者である漫画家の田房永子さんにお話をうかがいます。親との絶縁、芽生えた罪悪感、そして自身も子どもに過干渉になったことがあるという半生を振り返りました。さまざま葛藤を経てわかってきた、支配的になる親の特徴や気持ちとは?

「毒親」という言葉が誕生した背景

10年ほど前から日本で広く知られるようになった「毒親」。この言葉が登場したことで、親との関係に苦しんでいた子どもにとって、「生きづらいのは自分が悪いのではなく、親のせいだと気づけて楽になった」という声が広がりました。

親と子の問題に詳しい、公認心理師の信田さよ子さんが、この10年の状況について語ります。

画像(公認心理師 信田さよ子さん)

「2008年に『母が重くてたまらない』(信田さよ子/著)など、何冊も本が出ました。その後、当事者の本が出て、それから『毒親』という言葉がSNSを中心に広がりました。そのときは、『親から離れることはいいことだ』と言われました。でも、その後、親も本人も年を重ねると、親子関係が果たして言葉がではじめた頃のような状態でいいのかという問題があって、最近は少し状況が変わっています」(信田さん)

2012年に当事者の本を出した一人が、漫画家の田房永子さんです。田房さんは漫画『母がしんどい』の作者で、母親の過干渉に苦しんだ実体験をもとにして、親から逃れて自分の人生を取り戻すまでを描いています。

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『母がしんどい』田房永子著 発行:KADOKAWA

親が習い事を次々と決めては勝手にやめさせたり、中学受験を相談せずに決めたり、娘をコントロールしようとする内容で、「毒親」という言葉が広く知られるきっかけになったのがこの漫画です。

過干渉や暴言・暴力などで子どもを支配する「毒になる親」という意味で使われました。

母親の過干渉は、田房さんが成人してからも続きます。田房さんの彼氏と3人での旅行を勝手に計画し、それを断ると「今さら行かないって何なのよ!」と、逆ギレ。

逃げると、職場にまで電話をかけてくる始末で、一時は十二指腸潰瘍になるほど追い詰められました。

画像(漫画「母がしんどい」より ~田房さんの彼氏と3人での旅行を勝手に計画~)

母親によって“人生を殺される”と感じた田房さんは、結婚を機に29歳で親と連絡を断ちます。もう二度と会わない覚悟でした。

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田房永子さん

「『親を恨むなんていけない』と思うことをやめました。とにかく解放されるというか、恨むだけ恨もうと。30年間の恨みは、晴らすのに30年かかるだろうと、1回覚悟を決めて受け入れた時期があって、そこからすごく楽になりました」(田房さん)

「毒親」と離れて生まれた罪悪感

しかし、親と離れた安心感と同時に出てきたのが、「年老いていく親を放っておいていいのか?」という罪悪感でした。

「ほんとにこんなことしていいと思ってるのかみたいな、罪悪感が出てきちゃって・・・。でも、自分が嫌だと思っている人に会うなんていいのだろうかとも思ったり。そんなことしたら、また自分の生活がおかしくなるって」(田房さん)

葛藤する様子は漫画にも描かれています。

「なんだかんだ言って学校行かせてもらえたし」
「そんなに悪いんだろうか、うちの親は」
「犯罪者でもないのに 娘からこんな風に思われて」
「生まれてくる孫にも会えないなんて」

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『しんどい母から逃げる!!』田房永子著  発行 小学館

実は親と離れて4年後に田房さんは出産しましたが、そのことを知らせていませんでした。

「孫を会わせないって、親にペナルティを与えているみたいになっている。(親は)罰をもらわなきゃいけない人たちなのか、みたいな」(田房さん)

親に会うべきか、会わざるべきか、悩んだ田房さんは周囲に相談。すると、自分の気持ちに従うべきだと助言があり、会うことに気持ちが傾いていきます。

こうして田房さんは、6年ぶりに実家へ帰ることにしました。

ところが、田房さんの覚悟を知る由もない母親は、娘が帰ると知るや、勝手に自分の友だちを家に招いていたのです。

「お母さんのペースでお友だちとその場の話が進んでしまって、そうなると、母はデリカシーがなくなって楽しくなるから、バンバン失礼なことを言ってきた。私にものすごい罪悪感があったとか、苦しみとかがあったことは何もわかってないんだ、これは無理だと思いました」(田房さん)

親を恨みきったことで見えたこと

再び、母親に会うのをやめた田房さん。ところが、3年後に第2子を妊娠すると、気持ちが揺らぎます。生まれてくる子どもを親に会わせるべきか、会わせなくてもいいのか。考えた末、会うことにしましたが、今度は親に、会うための条件を事前に提示することにしたのです。

他の方がいるのは、とてもつらいです。もし呼ばないでくださったら、また遊びに行きたいです。
(メールの文面)

こちらの条件に従ってもらえるならまた会いたい。それは、自分を守るために必要なことでした。

「会う、会わないに、もう1個の選択肢が増えた。嫌なことをちゃんと親に伝えるという選択肢。それは、自分の心を守るため。両親との関係を大切にすることよりも先に、私の精神を守ることでした」(田房さん)

そして、第2子を連れての里帰り。母親は約束を守り、友人を呼んでいませんでした。とはいえ、いつもの調子で突然、子どもの小学校をすすめてきます。このときも田房さんは冷静に、自分の考えを伝えるように努めました。

田房さん:気持ちはありがたいけれど、その件でのアドバイスはいりません。

母親:そうだよね。エイコちゃんには、エイコちゃんの考えがあるものね。わかった。もうこの話はおしまいにする。

母親からの返答は、田房さんにとって意外なものでした。

「私の言い方が功を奏したというか、お母さんのやってきた行動の部分だけを切り取って、『私はあなたのその行動は必要ないです』という言い方をすると伝わった。母からそういう返答をもらえたのは、私にとって報われるというか、うれしかったです」(田房さん)

断絶から10年、親を恨みきったことで、いま田房さんは適度な距離感を保てているといいます。

画像(田房永子さん)

「もう恨みきってるなと思ったんですよね。恨むのに飽きたくらい、ちゃんと恨めた。今度は、だんだんこっちが強くなっていくんだなって、そのときすごく思ったんですよね」(田房さん)

どのようにして身を守りながら親と近づくか?

親との断絶を経て、いまは適度な距離感を保てるようになった田房さん。その過程には、ちょっとした工夫があったと信田さんは指摘します。
自分自身を示す「アイ」(英語の「私」を指す「I」)を主語にした言い方、「アイ・メッセージ」の重要性です。

画像(公認心理師 信田さよ子さん)

「アイ(I)・メッセージという言葉があります。田房さんの言い方の中に、『すごくそれはありがたいんだけど、私はそれにはちょっと納得できません』と、『私』を主語に使ったアイ・メッセージがありました。それと、お母さんの行動が嫌なんだと、お母さんという人が嫌なんじゃないと、行動と人格を分ける言い方もされている。これは私たち専門家も使っている考え方なんです」(信田さん)

アイ・メッセージは、悪化した親子の関係を修復するポイントになると信田さんは考えます。

「誰でも『お前が駄目なんだ』と人格を否定されたら、その人の言うことを聞きたくないじゃないですか。でも、『あなたのそういう行動がちょっと嫌なので、やめてください』と言われたら、『やめようかな』と思いますよね。
でも、家族間は、絶えず人格否定の言葉が飛びかいがちになるんですよ。だから『その行動はちょっとやめてほしい』という、具体的な言い方をしていくと、家族が保たれる。アイ・メッセージは家族問題解決の第一歩、相手との距離を取って、『境界』を作ることにつながるんです」(信田さん)

第2子を連れて母親と会う際に条件を出した、メールの文面にも注目です。田房さんは母親に対して敬語を使っていました。

「敬語を使うことも、距離を作るもうひとつのポイントになります。『お茶をいれてください』『ありがとう』みたいな。『家族なら敬語じゃなくてもいいんじゃないの?』と思うかもしれませんが、言葉づかいから始めていくのは大事です」(信田さん)

親が過干渉になってしまうシステム

番組には、自分自身が親になると、いつの間にか子どもに対して支配的になっていたという不安の声が寄せられました。

自分自身が「毒親」になっていないか気にしたことがある。ついつい「こうした方がいいんじゃない?こっちの方がいいんじゃない?」と口を出してしまう。
(徳島県・40代)

自分の母親のようには絶対なりたくないと強く思っているが、私も怒りや物を殴りたい気持ちが湧いてくることがあり、対処法が知りたい。
(愛知県・20代)

田房さんも、子どもが生まれたときに意識したことがありました。

「お母さんみたいなお母さんにはならないぞという感じ。絶対ああいうふうにならないみたいに、すごく気合が入っていた」(田房さん)

そんななか、田房さんは出産後、世の中には「常識・社会通念」と「自分の感情」という真逆に近いの2つの面があることに気づきました。

親は、子どもという、まだ何も知らない「衝動」のかたまりのような存在を、決まり事だらけの社会で生きていけるようにしなくてはなりません。「自分の感情」だけに従うことは出来ず、「常識・社会通念」を子どもに伝えなくてはなりません。

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『なぜ親はうるさいのか』田房永子著  発行 筑摩書房

「私のなかでは、やらなければいけないこととか、社会通念とか常識とかが『A面』、自分の感情とか湧き上がる欲求を『B面』と考えるようになりました」(田房さん)

生まれたときは、誰でも「B面」しか持っていない。友だちが使っているおもちゃで遊びたいと思ったら、いきなり取ってしまうのが「B面」。人の物を取ってはいけないという、社会の「A面」を教えるのが親の役目。

子どもが大きくなるにつれて田房さんは、自身が「うるさい親」になってきたことに気づきます。

そして、自分がどんなときに子どもを支配しがちになるのか、わかるようになってきました。それは、不安や緊張で、親である自分自身の「B面」が爆発しそうなときです。

画像(自分自身の「B面」)

「親って、こういうシステムでうるさくなるんだなと、自分で実感するようになりました。自分のコンディションもあって、おなかがすいてたり、トイレに行きたかったり、眠かったりすると、声がどんどん大きくなっちゃう」(田房さん)

もしかすると母親も、自分の「B面」にフタをしていたのではないか。そして、「A面」という社会のルールや、世間に押しつぶされていたのではないかと考えるようになります。

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『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』田房永子著 発行 河出書房新社

「母自身も、自分の気持ちにフタをしてたのかなって今は思います。自分の気持ちを封じるのが当たり前になっちゃうと、子どもにも封じさせちゃうと思う。そういう連鎖じゃなくて、伝える、伝えあうというのを作れたらいいなと思いますね。理想ですけど」(田房さん)

父親や夫がとるべきスタンスとは?

自身が子どもを持ったことで、母親がなぜ支配的になったのかわかってきたという田房さん。タレントの青木さやかさんも自身の子育ての経験から、田房さんの言う「B面」について納得します。

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青木さやかさん

「社会の中でどう見られるかとか、学校でどう見られるかとか、子どもの親としてしっかりしなきゃってところがすごく強くなっていると思いましたね。自分もできてないのに、しっかりやらなきゃと。確かに『B面』が大きくなってくると、娘に対して何でもないことで叱ったりすることが、私もありました」(青木さん)

子どもにどこまで言えばいいのか、悩む親も多くいます。しかし、子どもとの衝突を恐れてはいけないと、信田さんは語ります。

「衝突したり、きつく叱ったりするのはいけないんじゃないか。だから、何も言わないとか、叱らない親もいるんですよね。私は、衝突はいけないとは思わないんです。衝突したり、叱ったりすると、その後のフォローが大事。『ごめんね、さっきあんなこと言っちゃって』と、その後で話し合えるかどうか。そういうことを言えたら、叱るとか、衝突が悪影響を与えるとは言えないと思います。衝突したあとで、親がまず『ちょっと言い過ぎたわね』と言い、『あのとき、どんな気持ちだった?』と聞けば、子どもは話してくれますから、衝突を恐れないことですね。その都度、話し合っていけば、大きな爆発には至らないと思います」(信田さん)

母親と子どもが衝突をしているとき、父親はどうすればいいのかという声も届きました。

小学生の娘・息子を持つ父です。妻が子どもたちに厳しく、過干渉気味で気になっています。夫婦でも意見の食い違いがあって悩んでいるんですが、どうやって自分は折り合いをつけていけばいいのか、どう関わっていけばいいのかわかりません。
(三重県・40代)

「子どもがかわいそうになって、夫が子どもの味方をすると、夫婦関係が最悪になります。原則は、夫婦はいつも仲良し。だから仲裁するにしても、最後は、『自分は母親(妻)の味方だよ』というところは維持しないといけません。夫の役割は母親(妻)のケアをすることですから。最終的には『君、大変だったね』と、妻のケアをする側に回らないと、夫婦関係がどんどん悪くなっていきます。『この場をなんとかしないといけないと思ってるんだけど』みたいなことでもいいので、ぜひ介入してもらいたいです」(信田さん)

ここで、スタジオの出演者たちから質問が相次ぎます。

画像(信田さよ子さんと鈴木奈穂子アナウンサー)

鈴木アナウンサー:関わらないのは駄目ですか?

信田:それは無責任ですね。

博多華丸:駆け込み寺的なスタイルをとるのは?

画像(信田さよ子さんと博多華丸さん)

信田:いいと思います。「何かあったらパパに」っていいじゃないですか。

博多大吉:それを多分、今まで言わなかったんですね。家族だから、親子だから、悩みがあったら最終的には来てくれるだろうみたいな。

画像(信田さよ子さんと博多大吉さん)

信田:もうそういう保険は利きませんよね。

博多華丸:言っておいた方がいいですね、夫もね。

※この記事はあさイチ 2022年9月28日(水曜)放送「“毒親”と離れてわかったこと 当事者たちのその後」をもとに作成しました。情報は放送時点でのものです。

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