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性的マイノリティー中高年の悩み (前編)人間関係と体のこと【VR当事者会】

記事公開日:2022年10月28日

LGBTQという言葉とともに、徐々に社会に認知が広がってきている性的マイノリティー。近年は同性パートナーシップ制度などが注目されていますが、一方で中高年の性的マイノリティーが抱える悩みについてはあまり知られていません。そこで今回は、立場の異なる3人の方々と「ハートネットTV」キャスターの中野淳アナウンサーがVR(バーチャルリアリティ=仮想現実)空間で座談会を開催。さまざまな悩みごとを語り合いました。

【参加者】
あきさん(仮名・50代前半)トランスジェンダー女性 今年、性別適合手術を受けた
けいさん(仮名・60代前半)ゲイ 7年前に20年以上連れ添ったパートナーを亡くす
ゆうさん(仮名・40代後半)レズビアン 仕事のかたわら、女性限定イベントでDJをこなす
中野淳 NHKアナウンサー ヘテロセクシュアル 30代男性

自己紹介 それぞれの人生経験

ハートネットTVでは、これまでも性的マイノリティーの方々の抱える課題を考えてきました。しかし、中高年の性的マイノリティーの悩みをテーマにするのは、今回が初めてです。年を重さねたからこそ生まれる思いや葛藤とは、どのようなものか。聞きました。

中野:今回、みなさんには特定のセクシュアリティを代表してではなく、ご自身のことを話していただければと思います。
私はNHKに入って最初に勤務した沖縄県、次の香川県でもLGBTQ当事者の方に取材をしたり、地域で活動する人たちと交流をしたりしてきました。

あき:あきと申します。よろしくお願いします。私のセクシュアリティはトランスジェンダーで、生まれたときは男性で、今は女性として生活しています。50代前半です。会社員で、仕事の関係で、家にはパソコンが8台ぐらいあったり、マイクもたくさんあります(笑)。趣味では、アマチュアオーケストラで演奏したり、ファッションショーのウォーキングに参加したりしています。

画像(あきさんのアバター)

けい:けいと申します。60代のゲイです。現在は東京に住んでいて、大阪に行ったり来たりしています。仕事は老人ホームのワーカーで、10年が過ぎました。7年前に二十数年暮らしたパートナーと死別し、この先、1人でどうやって老いていこうか、あるいはどうやって自分の人生を閉じていこうかと考えながら、暗中模索している最中です。まだまだ立ち直ったとは言えない状態ですが、なんとか前を向いて、生きていけたらなあと思っているところです。趣味は、新宿二丁目で飲んだくれたり(笑)、カラオケですね。料理もそこそこやったりします。

画像(けいさんのアバター)

ゆう:ゆうです。40代後半でレズビアンです。基本的には東京が拠点ですが、月1回程度、福岡で仕事をしています。
趣味では、30歳ぐらいのときからずっと、ウーマンオンリーのクラブイベントの主催をやっています。ちょっとしたお小遣いになるのと、モテたいという動機でDJをやっていますが、私の体験では、あまりモテないことが実証されております(笑)。いい音楽を聞きながらお酒を飲むのが好きです。

画像(ゆうさんのアバター)

年齢を重ねて感じ始めた「つながり」大切さ

中野:みなさんは最初に「性的マイノリティーの中高年のお悩みを取りあげたい」と聞いたとき、どう感じましたか?

画像(VR空間の様子)

ゆう:そこにフォーカスが当てられるのは率直にいいな、と思いました。私自身、3年ほど前に子宮と卵巣の病気になりました。今は手術も治療も終わり、薬を飲んで症状を抑えているので大丈夫ですが、この数年ずっと、体のことや健康のことが一気に押し寄せてきたようなところがあります。同年代のレズビアン仲間にも、乳がんや子宮がんなどがでてくるわけですね。“年代あるある”だろうと思うんですけど、性的マイノリティーの人と老後や健康をテーマに話したことはなかったので、今日はどんな話が聞けるのかなと思っています。

けい:私も3年ぐらい前に久しぶりの入院をしました。当時、パートナーはもう亡くなっていましたので、1人で入院となって、どうしたものかと・・・。ペットは友人に預けることができて、入院自体は10日ぐらいで済みましたが、いざそういう事態になると、(将来)独居老人だと本当に大変だなあと感じましたね。今回は、いざというときに力になってくれる人間関係や制度について考える機会にしたいと思います。

あき:自分が日頃から、漠然と抱えていたものをテーマとして取りあげてもらえてよかったなと思います。最近、私がLGBTの方の心配事としてよく聞くのは、LGBTの老後や防災についてです。とくに老後は、本当にどうしようかと思っていたので、今回お話させていただけるのはすごくうれしかったですね。私自身、今はパートナーはおらず、このまま年を取ったときに、孤独死するかもしれないし、そもそも生活していけるのか、ということも不安です。
そのような不安もあって、最近、孤独死をしないために、そういうことに悩んでいる人たちが一緒に住めるようなアパートがあればうれしいなあと日頃、考えています。そのことによって、そこに住んでいる人たちと交流することによって、ある日、自分が部屋で倒れて出てこなくても、「あれ、あの人は?」って気にしてくれる人がいると思うので・・・。

画像(VR空間の様子)

中野:ゆうさんは今のあきさんのお話を聞いていかがですか?

ゆう:「レズビアン」という言葉は長いので、私は「L(エル)」という呼び方をしているんですけど、エルの仲間たちで、「おばあちゃんになったらみんなで一緒に住もうね」みたいな笑い話をしていたんですよね。誰も私たちのことを守ってくれないから、自分たちで何とかするしかないよね、と。じゃあ、おばあちゃんだけの老人ホームがあると、いいんじゃないという話になって・・・。誰か助けてくれる人とつながれているっていうのは、きっと大事なんだろうなと思いますね。
3年前に手術と入院をしたときは、2人の姉たちがサポートしてくれました。今はそんな人がいるんですけど、姉たちだって年老いていくし、本当に私が自分で1人になったときは、孤独に直面することがきっとやってくるよなぁとひしひしと感じています。

けい:結局、いかに人の輪を作るかだと思い知りますよね。何かあったときは特にね。

あき:そういう人の輪を作りたいんだけど作れない。性的マイノリティーはどうしても一般の人たちの中には、入っていきにくい側面もありますよね。

ゆう:「どうして独身なんですか?」みたいに何気なく聞かれたりすると面倒くさいですよね。「ここでカミングアウトしなきゃいけないんだっけ?」って老後になっても悩むのは、なしにしたい。だから、そうしたことをわざわざ言わなくてもわかってくれる仲間と支え合いたいという気持ちになるんでしょうね。

けい:私は、友人のほとんどがヘテロセクシュアルの人なんですけど、みんな私のことをゲイだと知っていて、そのうえでお付き合いしてくれています。ただ、(その人たちが、距離的に)近くにいないというのがネックで、助け合いという意味ではスピード感に欠けるところがあるので不安ですね。“近くの他人”っていうのがいないんです。
だから、たとえば各自治体の独居老人に対する制度とかを、本格的に調べなきゃなと感じてはいます。友だちの中には、「もうちょっと年齢を重ねたら、一緒にルームシェアでもしようよ」みたいなことを言ってくれる人もいるんですけど、一緒に住むとなると大変なんだろうなあと考えると、やっぱり1人で何とかせにゃならんのかなという思いもあります。
友人の近くに引っ越す方法もあるんでしょうけど、私の場合は亡くなった相棒と最後まで一緒に暮らした部屋なので、ここを離れるとなると一大決心が必要です。でも、いつまでも住んでいられないしなあとも思いますし・・・。

あき:難しいですね・・・。一緒にいる人がいるといいという話ですが、私はずっと誰かといるのはつらいなあと感じます。基本は1人がいいんだけど、しんどいときに、お互いにちょっと話すことで気分が楽になるみたいな関係がいいと思っているんです。私はいろんなセクシャルマイノリティーの方と話すんですけど、これまでの人生で色々苦労してきた人が多くて、人とコミュニケーションをとるのが難しい人がいっぱいいるんですね。みんなパートナーが欲しいということでもないでしょうから、ゆうさんがおっしゃったように、パートナーというよりも、適度な関係を保てる人がいるといいですね。

ゆう:スープの冷めない距離みたいな。

あき:それ、それ!日頃はお互いに自由に生活しているんだけど、ときどきは集まって、ご飯を食べたりして、心を許せる人ができたらいいなあってすごく思いますね。

ジェンダー・アイデンティティと体の不安と

あき:先ほど、入院の話がでましたが、私も膝の靭帯の手術で入院しました。そのとき「トランスジェンダーであることを病院に伝えないといけない。どうしよう」ってすごく迷った経験があります。どちらにせよ手術の際に体の性別はあらわになるわけですが、男女どちらの部屋に割り当てられるかという問題があるので、事前に言っておかないといけない。そこで入院が決まったときに、「入院になったんですが、可能な範囲での配慮をお願いしたいです」と病院に伝えました。結局、入院したときには個室を割り当てられてラッキーでしたけど、入院途中で個室を希望する人が増えたので、そのときは男性用の大部屋に移ることになりました。大部屋のときはずっと、ベッドのカーテンを閉じたきりでした。

中野:セクシュアリティを開示せざるを得ない場面に直面したんですね。

画像(VR空間の様子)

けい:セクシュアリティの開示については、私も親族、血族、肉親には言っていなかったんです。でもパートナーの死によって、1人になって、自分の身に何かが起きると、親族がくることになるわけですよね。なので、パートナーが亡くなってしばらくしてから、必要に駆られて、カミングアウトはしました。

あき:私は2年前に父を亡くしたんです。親戚でも日頃から連絡を取っている人と取っていない人がいて、久しぶりに会う人には自分のセクシュアリティはオープンにしていませんでした。「じゃあ、もうこの(葬儀)タイミングで」と思って、わざと女性ものの喪服を着ました。ビックリはされましたけど、亡くなった父が、カミングアウトの機会をくれたのかなと。その後の関係がこれまでと変わらないかはわかりませんが、遠い親戚はそういう機会でもなければ、なかなか面と向かって話す機会もないので。

けい:カミングアウトしてよかったのかどうかは各個人によりますね。

画像(VR空間の様子)

中野:あきさんは、健康面で悩んでいることや、不安なことってありますか?

あき:はい、高齢ということと関わってくるんですが、私は20年ぐらい(女性)ホルモン注射をしているんです。50代になってきて、いつまでホルモン注射を続けるのかが難しいなあと思っています。
現在、手術をして睾丸はないので、男性ホルモンはほとんど当然でませんし、ホルモン注射をしないと更年期障害みたいな症状になっていくんですね。私がホルモン注射を打ってもらっている病院の先生は、性同一性障害に詳しい方ではないのですが、「あなたはいつまでホルモン注射をするの?」ってちょこちょこ聞いてくるんですよね。私が「年齢が進むにしたがって徐々に減らしていって、そのうち閉経と同じようにホルモンもやめることになるのかなとか思っています」と話すと、「あなたの年齢なら、もう閉経している方がいっぱいいるよ」って言われて・・・。
だけど、最近手術したばっかりなので、どういう減らし方がベストなのか。いつ(注射を)止めるのがベストなのか、自分の体ではわからない。(一般的な女性のように)ホルモンが勝手に減ってくれればいいんですけど、そういうことはないので、自分で閉経時期を決めないといけない。せっかく女性らしい体を作ってくれているホルモンを自分の意思で止めるのは勇気がいるので、困っています。

中野:ご自身のアイデンティティや外見にも関わってくるわけですよね。いつまで続けるといいとか、そういう情報や研究結果はないのでしょうか?

あき:一般的には、閉経の年齢になったら徐々に減らして終わりっていう話がいっぱいあるんです。でも、そこから先は個々人の状態に合わせるしかないらしくて、自分で判断するしかないかなと思っています。

ゆう:ホルモン注射をいつ止めるのか悩むっていうケースは初めて聞きました。

あき:医療としてホルモン注射を打ってもらえるようになるまでには、いろんな診断を受けないといけなくて、ようやく苦労して打てるようになったものを、やめるっていうのが難しいですね。

ゆう:難しいよね。

けい:たとえば、ホルモン注射をやめたとして。元の男性の体に戻ってしまうことはありえるわけですか?

あき:それはあまりないです。男性から女性の場合と、女性から男性の場合が違うんですよ。男性から女性の場合、女性ホルモンを打ち続けても、たとえば体毛が薄くなるかというと、そういうことはないですし、喉仏がへこむこともないんです。だけど、胸は出てくる。女性から男性の場合は、逆に喉仏は出てくるっていう変化があるんだけど、胸は縮まないっていうように、変化が一方向で、一度変わったものは戻らない感じですね。

けい:なるほど。

中野:まだ先ですが、あきさんはご自身の体がどうなっていくかという不安の中で、人生の最後はどういう姿でいたいと思いますか?

あき:完全に女性として扱われて埋葬されたいと思っています。ただ、この前、父が亡くなったときに、お坊さんに戒名について聞いたんです。戒名は、男性と女性で「○○居士」とか「○○大姉」とか、男性と女性で違うじゃないですか。私が死んだときに、男性の戒名をつけられたら、死んでも死にきれない。そういうこともあって、実は死ぬまで、もしくは死んでからも「う~ん」って納得できずに旅立ってしまうのかなと考えてしまいます。

後編では、パートナー探しや老後の暮らしについて伺います。

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