ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

医療的ケア児に求められる支援 学齢期からの悩み

記事公開日:2018年07月04日

たんの吸引や胃ろうなど、日常的に医療的ケアが必要な子どもは、成長とともにさまざまな困難にぶつかります。医療的ケア児が学齢期になって学校に通う際の壁と、卒業後の暮らしの場への不安について、最新の取り組みも紹介しながら、5組の親子とともに考えます。

学校に通いたいけど通えない現実

医療的ケア児が学校に通う際の壁とはどのようなものなのでしょうか?

山田萌々華さん(10歳)は先天性の難病のため医療的ケアが必要です。両親が共働きのため、日中はヘルパーと過ごしています。学校に通うかわりに、特別支援学校の教員による訪問教育を受けています。

画像(訪問教育で学習する萌々華さん)

萌々華さんは、医師から「小学校への通学も可能」と言われています。医療的ケア児は、学校に看護師など医療的ケアに対応できる人がいれば、親が付き添わなくても学校に通える可能性があります。しかし萌々華さんの場合、教育委員会が、人工呼吸器をつけているため親の付き添いが必要だと判断。両親が仕事のため学校に付き添えない萌々華さんは、訪問教育しか選択肢がありませんでした。母親は、萌々華さんが学校に通えていない現状に不安を抱えています。

「本当は小学生なりの生活をさせてあげたい。朝学校に行き、お友だちと授業を受けるみたいな。全然みんなと同じようにやっていけるのになって思うだけに、今の状況がちょっともどかしいというか。」(山田さん)

萌々華さんも学校に行きたいという気持ちは一緒。学校でやりたいことがあると言います。

「早く学校に行って勉強したり、お友だちと遊んだりしたいです。お友だちをいっぱい作ったり、理科とかの勉強を頑張ったりしたいです。理科が好きなので虫を飼ったり、花を育てたりとかやってみたい。」(萌々華さん)

画像(スタジオで質問に答える萌々華さん)

訪問教育の授業は週に3日、2時間ずつ。学校に通うよりも授業時間が少ないため、勉強が遅れて前の学年の学習内容も終えていません。

「本来であれば1年間に900時間以上勉強の時間があるのに、この子はトータルしても1教科分くらいの時間数しかないので、そのなかで全部できるわけもなく。訪問の回数を増やせるかってなると、学校のほうで週に3回以上は行けませんと言われて。訪問だから、個別指導だからとは言われるんですけれども、全然、追いついてないのが現状です。」(山田さん)

日常で萌々華さんが接する人は、ヘルパーや訪問看護師、特別支援学校の教員などの大人。そのため子どもとのコミュニケーションが苦手だといいます。できれば、子どもたちのなかに入れて普通に生活させたいというのが母親の願いです。

親と離れて自立を育む学校生活を

一方、親が付き添う形で学校に通っている子どももいます。綾さんは共働きですが、子どもを学校に通わせるために、夫婦で仕事を融通しあい、子どもに付き添って学校に行っています。
父親は週に4日学校に付き添い、教室の隅でパソコンを広げて仕事をします。自営業のため、自分で仕事をやりくりして対応しています。残りの1日は奥さんが付き添っています。子どもと一緒に学校にいると新たな発見もあるといいます。

画像(綾 崇さんと息子の優太さん8歳)

「正直悪いことばかりではないんですよ。息子とか、お友だちとかも毎日のように顔が見られて。この子、どんどん大きくなっていくなとか、昨日できなかったことが今日できてるなとか。そういうのを生で見るという喜びはあります。」(綾さん)

しかし、子どもの将来のことを考えると、これでいいのかと自問することもあります。

「一番懸念しているのは、本来、子どもにとって学校というのは家庭から離れた場所であるはずなのに、どうやらこの子にとっては家庭とそんなに変わらないところのように受け取っている節があります。授業のまっ最中でも、『お父さん、お父さん、だっこ』とか、突然言い出すわけですよ。もう、小学3年生なんですけど。だから、学校での教育の場所としてそういうスタイルが果たして良いのかと言われると、多くの方が『それはおかしいんじゃないの』となるんじゃないでしょうかね。」(綾さん)

訪問看護師の梶原厚子さんも、子どもが大人になったときのことを考えたら親と離れて学校に行くことが大事で、そのための仕組みを整えるべきだと訴えます。

画像(訪問看護師の梶原厚子さん)

「いろんな人に、自分がいろんなことを、手を変え品を変え伝えられるっていうところを、小学校の低学年のうちに覚えておかないといけないと思うので。将来子どもたちが自立して、例えば仕事を持ってというときに、ずっと親御さんがついていかないといけなくなってしまう。最初のスタートのところが大きく違っていると。大人になったときのことを考えると、心配だなって思う親御さんの気持ちはすごくそう思うので、何とか別れて、子どもさんだけで学校に行くっていう仕組みを整えないといけないんじゃないのかなって思います。」(梶原さん)

学校問題に改善の兆し

医療的ケアが必要な子どもを通学させるには親の付き添いが必要な現状。こうした状況は、少しずつ改善し始めています。

川崎市に住む小関リナさんは、気管切開をしていてたんの吸引が必要です。これまで母親が毎日付き添い、学校に通ってきました。しかし、今月から親の付き添いが必要なくなりました。国が2年前に看護師の費用の一部を補助する制度を開始し、学校が医療的ケアをする看護師を配置したからです。

画像(学校で友だちと遊ぶ小関リナさん)

一方、医療的ケアのなかでも人工呼吸器をつけた子どもは状況が変わりません。多くの自治体が呼吸器のケアはリスクが高いと考えているため、たとえ看護師がいても親の付き添いが求められています。その理由について、梶原さんは次のように説明します。

「人工呼吸器のつけ外しは別に禁じられているわけではなくて、看護師は十分できる資格なわけなんですよね。ただ、それが教育委員会とか、教育現場の人たちのなかで一定のルールを決めていて、人工呼吸器のことはだめって言われると、看護師さんは学校のスタッフになるから、看護職を持っていてもできないってことになってしまうので。でも、そこはたぶん仕組みとして、看護師はやりましょうという流れになっていると思うんですよね。」(梶原さん)

国の取り組みも始まっています。文部科学省は医療的ケア児の学校問題について検討会議を行いました。その中間報告で、医療的ケア児への付き添いは真に必要と考えられる場合に限るよう努めるべきと記されています。

実際に、人工呼吸器でも親の付き添いなく学校に通う子どもがいます。大阪府箕面市で暮らす巽康裕さんです。箕面市は障害を持つ子どもの教育に熱心な地域で、地元の医療とも連携して13年前から学校に看護師を配置。人工呼吸器でも付き添いなしで受け入れることを教育委員会が決断しました。

画像(巽康裕さんと同級生)

医療的ケア児が付き添いなしで通学できる方向に国は動き始めています。しかし、その取り組みが実際に学校現場まで反映されていないと感じる声が次々と家族から上がりました。

「国は結構進んでると思います。でも、それが実際に東京都なり、学校に下りてくるのかなっていう・・・」(山田さん)

「いろいろ今、変わってきていても、うちの市町村ではそれをしようという気持ちが私には伝わってこないというか、話が下りてこないから、私はどう身を振っていっていいのかが分からないですね。」(佐野さん)

子どもの成長は待ってくれません。1日でも早く、子どもが付き添いなしで学校に通えるようになってほしいと家族は希望しています。

卒業後の医療的ケア児 どこで暮らすのか

親と子どもの年齢が共に上がっていくなかで、学校を卒業したあとの悩みもつきません。

森田さんは息子さんが現在14歳、中学校3年生です。学校を卒業したあとの暮らしを考えると、母親は不安を隠せません。

画像(森田美佳さんと、息子の佳希さん14歳)

「私たちも高齢化しているので、どこまで面倒を見られるか。面倒見られる間は家から通ってほしい。けれども、自分が亡くなってしまったあとはどうなってしまうのかなっていうのは、あとは入所施設しかないのかなっていう不安は抱えます。そこで果たして彼が本当に楽しめるのか、作業とかできるのか。施設だとベッドの上に寝かせてるだけっていうのもゼロではないのかな。それは果たして彼にとってどうなんだろうっていう不安を抱えながら、でも、今はそれしか選択肢がないと思っています。」(森田さん)

医療的ケアの必要な人たちが、地域の中で、自分たちのペースで暮らしていくにはどうしたらいいのか。埼玉県東松山市に、そうした人たちのために作られたグループホームがあります。現在、医療的ケアが必要な4人がそこで生活。誰もが安心して暮らせるよう、充実した体制を整えています。

まず、通常グループホームにはいない看護師を配置。介護職員も、医療的ケアができるように研修を受けました。外からも訪問看護師に来てもらうことにしています。近所のかかりつけ医とも密接に連携して、緊急事態に対応できるよう一人一人のマニュアルを作りました。例えば熱を出したときには、座薬の量や入れる時間まで細かく指示しています。大切なのは連携だと、グループホームで働く看護師は説明します。

画像(「グループホームみらい」にてケアを受ける様子)

「皆さん『何かあったら』って必ずおっしゃる。でも、何かって、想定できることがいくつかあるわけですよね。ご家族からよく話を聞いて、どういうことがあるのか、どのように対応してきたのか。それを医療にも必ず確認をする。そして、介護職にも確認をする。これで実際に対応できるだろうかと。そうやって一緒に作り上げていくことが大事だなっていうふうに思います。」(グループホームみらい 看護師 吉田隆俊さん)

グループホームには医療保険で訪問看護が入れます。さらに、訪問看護ステーションは24時間対応なため、何かあったときに対応が可能です。訪問看護師を上手に利用することによって、可能性を広げてほしいと梶原さんは提案します。

5組の家族が抱くそれぞれの思いと希望

医療的ケア児が直面するさまざまな課題。今後どのように暮らしていきたいか、当事者である5組の家族に、それぞれの思いを聞きました。

画像(秋元沙智子さんと健汰くん4歳)

「これから就学とか就労とかを迎えるにあたって、とても勉強にもなりましたが、考える課題がまだまだいっぱいあるなって、ちょっとズドーンって気持ちにもなりました。でも、制度とか施設とかが少しずつでも整いつつあるっていうことなので、今後の日本に期待したいと思います。」(秋元さん)

「一日一日表情が変わっていくんだなと。だから、もしかしたらこの子が10年後っていうのは、全然私が想像しないような状況になってるかもしれないわけで。やはり今やらなきゃいけないことを淡々とやらなきゃいけないし、日々の、今この子の生活を何とか充実したものになればいいなというふうに、改めて思いましたね。」(綾さん)

画像(佐野綾乃さんと涼将くん5歳)

「1歳で退院して5歳なので4年間たったんですけど、外に出ようっていう気持ちになかなかなれませんでした。でも、皆さん諸先輩方の話を聞いて、そんなことも言ってられないなっていうような気持ちにすごくなりました。」(佐野さん)

「声を上げなければ変わっていかないので、どんどん声を上げていかなければいけないのかな、私たちは。と、思っています。どんなに言っても、かなえてもらえること、もらえないことがありますので、とりあえず言いたいことは言いましょう(笑)。誰かが拾って変わっていくかもしれない。それに希望を持って訴えていきたいと思います。」(森田さん)

「医療的ケアといっても、私たちにとっては本当に日常の生活の一部なので、ここにいても、みんな普通にこうやって吸引したりとか、うちもここに来てから注入したりとか。それって、全然私たちにとっては普通の、朝起きてから寝るまでの普通のことなので、あんまり、医療的ケア児じゃなく、みんな一緒っていうふうになってくれるように希望したいですね。」(山田さん)

10歳の萌々華さんは将来の夢を語ってくれました。

「NICUのお医者さんになりたいです。病気の赤ちゃんを助けたいです。」(萌々華さん)

どんな状況にある子どもでも安心して学び、暮らしていける環境が早く整ってほしいと願います。

※この記事はハートネットTV 2018年6月27日放送「“医療的ケア児”成長とともに 第2回『学齢期からの悩み』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事