千原ジュニアさんと個性豊かな障害当事者たちがバリアフリーなキャンプに挑戦する「BBキャンプ」。今回は難聴で弱視の奈良里紗さんが、キャンプの達人・たけだバーベキューさんに教わりながらいすやテントの設営にチャレンジします。電動車いすで生活する愼允翼(しん・ゆに)さんは、念願の人生初キャンプ。キャンプ経験や障害の有無など、違いを飛び越えて体験を分かち合う4人にとって、意外な発見の連続でした。
自然の中に身を置き、季節の移ろいや、ゆったりと流れる時間を五感で味わうキャンプは、コロナ禍のレジャーとして人気が高まっています。そこで今回は、「ベストバリアフリーキャンプ(BBキャンプ)」と題して、芸人と障害のある人が一緒にキャンプの定番アクティビティに挑戦。それぞれの世界をちょっぴり広げることを目指します。
参加する芸人は、数年前からキャンプにはまっている千原ジュニアさんと、キャンプインストラクターや狩猟免許を持っているアウトドアの達人、たけだバーベキューさん(通称バーベ)です。
千原ジュニアさんとたけだバーベキューさん
ジュニア:バーベは障害のある方と接することは?
バーベ:ないです。(障害のある人にとって)キャンプはハードルが高いイメージがある。ちょっとドキドキしてます。
一緒にキャンプを楽しむのは、弱視で難聴の奈良里紗さん。視覚障害者教育の研究者です。
奈良里紗さん
奈良さんは17歳で弱視の診断を受け、現在の視力は0.01。メガネをかけても矯正できません。「中心暗点」という症状もあり、色のコントラストがはっきりついていないと、人の表情や物の形を認識するのが難しいと言います。
奈良:キャンプはすごくしたいんですけど、あまり見えてないし、周りも『危ない』って思う。本当は花形の『肉を焼く』とかもやりたいんですけど、どちらかというと戦力外通告を受けるみたいな(笑)。
もう1人の参加者は、東京大学の大学院生、愼允翼(しん・ゆに)さん。全身の筋力の低下や筋肉の萎縮が生じる難病のため、電動車いすで生活しています。
愼允翼さん
4年前に親元を離れ、ヘルパーのサポートを受けながら一人暮らしをしている愼さん。食事や排泄、細かい姿勢の調整など、24時間、介助を受けて生活しています。そんななか、今回は入念な打ち合わせと準備を重ね、ヘルパーの高田将司さんと友だちの上条百里奈さんをつれて、人生初キャンプに参加です。
愼:めっちゃ楽しみ。自分でキャンプに行こうと思ったら、車をどう確保するかとか、ヘルパーさんはもちろん、友だちに声かけて予定を全部合わせないといけない。キャンプ場で何かあったときのことも考えて、近くに病院があるのかとか、いろいろなことを考えなきゃいけない。
目指すのは、障害の有無やキャンプ経験にかかわらず、誰もが楽しめるキャンプです。
BBキャンプでは、みんなで考えて工夫しながら次のミッションに挑戦します。
①テーブル・いすの組み立て
②テント張り
③食材の買い出し
④火おこし
⑤キャンプ飯
最初のミッションはテーブルといすの組み立てです。出会って間もない4人が初めての共同作業。最初はなかなか上手くいきません。
奈良:さっぱり分からない。どうしよう。
ジュニア:こっちがここですね。
奈良:反対ですか。
ジュニア:これがこっちですね。
奈良:あー、ハマらない。
ジュニア:あれ?
バーベ:裏表が逆かもしれないですね。
BBキャンプで大切なこと
<形や角度などを具体的に説明する>
奈良さんには、手がかりとなる、形や角度などの具体的な情報が大切。少し時間はかかりましたが、なんとか六角形のテーブルができました。
続いては、アウトドア用の折り畳みいす。まずは骨組みから。
バーベ:(棒が)穴に吸い込まれていく感じ、分かります?
奈良:吸い込まれた!これ白杖です!私の白杖も、こうやってできてます。
奈良さんはキャンプ道具と白杖の意外な共通点を発見。一方、バーベさんは伝え方のコツを少し掴んだようです。
バーベ:布に上下があるんですよ。
奈良:こっちが下かな?
バーベ:それが背もたれになるので、そのままいすに。いすに長い棒があって(布に)穴があるので被せます。
バーベさんの説明でスムーズにいすを組み立てることができました。
ここから4人は二手に分かれ、奈良さんとバーベさんはテント張りと火おこしを担当します。晩ご飯の材料を調達するのはジュニアさんと、食材選びにはこだわりがある愼さん。2人はさっそく福祉タクシーで買い出しへ行き、新鮮な夏野菜を求めます。
ジュニア:なに買ったらええんやろ。とうもろこしええやん。これ買おうか。コレええやん。
愼:とうもろこし、どれ買いました?
ジュニア:コレ。
愼:色がいろいろありそうで。
ジュニア:間違いないやろ。
愼:大根はちょっと無理かな。大根は違うね。
ジュニア:大根はいらんよな。
愼:焼き芋やる?
ジュニア:ええよ、やっても。
愼:焼き芋ってどうなんですかね?
ジュニア:焼き芋どうやろう? 今回の道具じゃ難しいかもな。
コロナ禍であまり外出できなかった愼さんは、久しぶりの買い物にちょっと興奮気味です。じっくり吟味したい愼さんと、スピーディに食材を選んでいくジュニアさん。2人の性格が対照的に表れた買い物でした。
一方、キャンプ場に残った奈良さんとバーベさんに課せられたミッションは、テント張りです。奈良さんはキャンプの経験があるものの、見えにくくなってからは、思うように満喫できずにいました。テント張りは、今回チャレンジしたかったことのひとつです。
BBキャンプで大切なこと
<手順や状況を分かりやすく伝える>
バーベ:2本のポールが組み合わさっているんですけど、シルバーと赤になってるの分かります?
奈良:色の違い、なんとなく分かります。
バーベ:シートを広げますね。四つ角があるんですけど、端っこの付け根の金属っぽい、色がシルバー。
反対の僕が持ってるこっち側は赤なんです。
奈良:色が違うのは分かります。
バーベ:それと同じ色をしたのがこのポールなんですね。
同じ色のパーツを組み合わせると、簡単に設営できるというこのテント。でも、色の違いを見分けにくい奈良さんにとっては、ほとんど手がかりがありません。このミッションも、声かけがポイントです。
バーベ:棒の先端を挿すんです。僕が持ってるのは赤なんです。赤を赤のホールに入れる。テントの端っこを探していただいて…。
奈良:ありました。ここですね。
バーベ:ポールがめっちゃしなやかなので、グニョンって曲がるんです。
奈良:グニョンって曲がる!
バーベ:グニョンって曲げながら、先端を挿してほしいんです。
奈良:なるほど。ちょっとドキドキ。こっちでいいですか?
バーベ:はい、いま握ってるのが赤のポールなので。
奈良:いきます!おお、すごい。めっちゃ曲がる。で、この端っこに・・・挿せました!
BBキャンプで大切なこと
<当事者目線のアイデアを共有する>
バーベさんの声かけと奈良さんの理解力。2人の力で、スムーズにテントを組み立てることができました。
ここで、テントを立てた奈良さんから、見えないからこそ気づいた、あるアイデアがわきます。
奈良:ポールにシールが貼ってあったり、フックにも近くにシールが貼ってあれば、大体このあたりだなって分かる。そういうガイドがあると触って分かるし、次からたぶんひとりでできる。
バーベ:なるほど。いすとテントは(その方法で)張れますから、イケそうな気がします。
テントの最終仕上げは雨カバーを被せて、ペグという金具をハンマーで叩いてテントを固定します。
バーベ:釘を打ったりってできるもんですか?
奈良:やってみてもいいですか?
バーベ:ハンマーがあるんです。手を打たないように。
奈良:イケるかな・・・大丈夫そうですね。こういうのも「危ない」ってなかなかやらせてもらえない。
バーベ:危ないって思ってました。
奈良:危ないかもしれないけどやりたい。
BBキャンプで大切なこと
<お互いの知恵を分かち合う>
ペグを打ち込めた奈良さん。でも、ちょっと危ない障害物になることもあります。
バーベ:いま、ペグを打ったじゃないですか。これ、めっちゃコケるんですよ。僕もいまだにつまずいたりします。(奈良さんの)左足の前に1本あるんですけど、気をつけてください。
奈良:視覚障害の人ってすり足で歩くんです。特にこういうところだと、木の根っことかいろいろあるじゃないですか。だから足をあげちゃうと、着いた先に何があるか分からなくて、段差で(足首を)くじいたりする。たぶん、ペグは意外と平気かもしれないですね。
バーベ:そうか、すり足で歩くことによって、ペグって回避できるんや。ふだんから障害物の対策ができてるってことなんですね。僕も発見でした。
買い出し班の2人がキャンプ場に戻ってきて、一仕事を終えた4人。ここで、ちょっと一息つくことにして、ジュニアさんがコーヒー豆を挽き始めます。アウトドアでの挽きたてコーヒーは、ジュニアさんがみんなとシェアしたかったキャンプの醍醐味です。
ジュニア:コーヒーをみなさんでいただきましょうよ。
奈良:(豆を)挽くところからなんですね。
バーベ:キャンプに行く人はこういう作業が好きなので、朝とかにやっている人が多いですよ。
愼:もういい匂いがしますね。
ジュニア:愼くん、コーヒーはどうやって飲むの?
愼:助っ人が必要。熱いとフーフーしたら飲めるけど。どうですか?熱い?
バーベ:熱々ではないです。
愼:じゃあ大丈夫です。皆さんで乾杯しましょう。
ジュニア:コーヒーで乾杯!
バーベ:おいしい!
ジュニア:めちゃくちゃうまい。
愼:香りがすごい。俺、もうインスタントを飲めないや。
奈良:しみてくる感じがありますね。
キャンプの準備が整ったところで、テント組は息の合ったところを見せます。
奈良:最初から最後まで自分でできるかなってすごく不安だったんですけど、ほとんど自分でできたと思います。テントの中で寝転がったとき、すごく気持ちよかった。
バーベ:いろいろ手伝うんかなって思ったんですけど、口しか出してないです。「ここにこれです」って言ったら、手探りでパチっとはめていただいて。
一方、買い出しを担当した2人は・・・。
愼:実は、野菜をちゃんと見たのは結構久しぶりで楽しかった。品数が多すぎてアレもコレも気になって。でも、ジュニアさんが「行くよ、行くよ」って感じでどんどん行っちゃって…。
ジュニア:いやいや、「大丈夫? 大丈夫?」って気を遣うような間柄でもないし。俺は俺のペースで、愼くんは愼くんのペースでな(笑)。
ここで、テントで横になってみたいという愼さんの希望を叶えることになりました。奈良さんが張ったテントに、ヘルパーに抱えられて愼さんが横になります。
BBキャンプで大切なこと
<体験を一緒にシェアする>
ジュニア:初めてのテント、いかがですか?
愼:風通しもよくて、すごく気持ちいい。ジュニアさん、一緒に寝ます?
ジュニア:いいね!
バーベ:すごい2ショットや。
ジュニア:これいいわ。たしかに、中の方が涼しい。あ、こんなに緑が生い茂ってたんや。
愼:僕、いつもこの風景を見てますよ。
ジュニア:そうか、愼くんいつもこの風景なんや。
愼:横になっているので、ずっと。
ジュニア:ホンマやな。ずっとこの状態や。
意外な発見が続くBBキャンプ。(2)ではたき火とキャンプ飯に挑戦します。
千原ジュニアさんと行くバリアフリーなBBキャンプ
(1)テント張り編 ←今回の記事
(2)たき火・キャンプ飯編
※この記事はハートネットTV 2022年8月15日放送「千原ジュニアのBBキャンプ(前編)」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。