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バリフリ・タウン(8) 認知症当事者と家族が幸せに暮らす取り組み

記事公開日:2022年10月14日

認知症の人が暮らしやすいバリアフリーなまちづくりを紹介する、シリーズ「バリフリ・タウン」。今回は、「認知症とともに生きるまち大賞」を受賞した2つの町の取り組みです。岩手県八幡平市の「里・つむぎ八幡平」では、「半農半介護」と呼ばれるしくみで施設利用者が生き生きと暮らしています。栃木県宇都宮市では、自主性を尊重するクラブ活動「はっちゃけ道場宿」で、当事者だけでなく家族も幸せに過ごしています。2つの町を通して、認知症になっても“やりたいこと”をしながら楽しく暮らせるコツを紹介します。

利用者のやりたいことを中心に運営する

岩手県八幡平(はちまんたい)市にある「里・つむぎ八幡平」は、当事者の“やりたいこと”をかなえてくれる場所です。

同じ敷地内にグループホームなど4つの福祉施設があり、施設の利用者はそれぞれ10人ほどで、認知症の高齢者や障害のある人たちが一緒に過ごしています。

この施設では、利用者はただのお客さんではありません。希望があれば、食器の片づけや料理の手伝いなど、利用者が自宅で担っていたことをやってもらいます。自分の家にいるような暮らしの場として過ごしてほしいと考えているからです。

画像(片づけの手伝いをする利用者)

施設の代表の髙橋和人さんは、施設側の都合ではなく、利用者のやりたいことを中心にスタッフが支えるよう心がけています。

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髙橋和人さん

「自分たち(スタッフ)が動いて、物事を進めていったほうが実は楽なんですよ。その楽なところをグッと我慢する。何ができるのかは個人個人で違いますから、利用者ができることをそっとヘルプする。支えるような感じのケアができないかなと、いつも思うんです」(髙橋さん)

7年前、髙橋さんは農業をするために一般社団法人を新たに立ち上げました。施設の利用者のほとんどが農業に携わってきた人たちで、長年やってきた畑仕事を続けたいという利用者の思いに応えるために本格的な農業を始めたのです。

畑で収穫した野菜は販売して活動の運営費にしたり、利用者みんなと分け合ったりしています。

画像(畑仕事をする利用者たち)

「福祉事業所は閉じられた形でのケアが多い。そうではなく、昔の自分がやってきた生活を感じられるような活動を意図しています」(髙橋さん)

農業を始めるにあたり、専門のスタッフも新たに雇用しました。そのため、利用者は本格的な畑仕事を思う存分手伝うことができるのです。活動に農業を取り入れる施設はこれまでもありましたが、「里・つむぎ八幡平」の取り組みは画期的だと、認知症バリアフリーの専門家、永田久美子さんは言います。

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認知症介護研究・研修東京センター研究部長 永田久美子さん

「畑を作って一緒にやるのは、20年くらい前から介護の施設で始まっていましたが、介護職員だけで頑張ろうとすると、必ずいろいろな限界がでてきます。介護・福祉の領域だけで考えずに、農作業の専門家に入ってもらって体制を作っていくことは、(利用者)本人がやりたいことをかなえるためにバリアを突破している感じがして、とても大事だと思います」(永田さん)

「半農半介護」にかけられた思い

髙橋さんが立ち上げた「半農半介護(はんのうはんかいご)」のしくみ。そこには、特別な思いが込められています。

農家の長男としてこの町で生まれ育った髙橋さんは、中学卒業後は地元を離れ盛岡の高校に進学。26歳のときにインテリアの販売会社を立ち上げました。

その後、さまざまなことがあり知人が始めた大規模な介護施設で働くことになりましたが、次第に違和感を覚えるようになったといいます。

「利用者となるべく距離が近い、利用者本位のケアということでやっていたんですが、(実際には)今まで利用者さんが生活していた環境とはまったく別の、近代的で立派な建物のなかでケアをすることに違和感を感じたんです」(髙橋さん)

そんな矢先、八幡平で暮らす母親が認知症と診断されます。髙橋さんは母親を既存の施設に入所させることに、ためらいがありました。

画像(髙橋さんと母・絹子さん)

「母親もここ(八幡平)から出たことがない人ですから。いくら立派とはいえ、ここしか知らない人間が街中のそういう施設に行ってもなじめないですよね」(髙橋さん)

2011年、一念発起した髙橋さんは実家を改築。母親のほかにも、地域の高齢者を迎え入れる介護施設を立ち上げたのです。

画像(実家を改築した介護施設)

「利用者さんがやりたいこと、望むことを優先しました。まだ体に備わっている機能を最大限に使って、少しでも体の機能が衰えるのを防ぎたい。予防効果は肉体だけじゃなく、精神的にもきっとあると思っているので、できるだけそういう時間を増やしたい、と」(髙橋さん)

「半農半介護」のしくみを満喫しているのが、この町に暮らして69年の中軽米和正(なかかるまい・かずまさ)さんです。

毎朝、施設内を掃除機できれいにするのが日課で、部屋の住み心地は最高だといいます。部屋に案内してもらうと、壁には「お金ほしいです」と書かれた七夕の短冊が掲げられていました。

画像(中軽米さんが書いた短冊)

中軽米さんの楽しみは、仲間たちと施設周辺を散歩すること。岩手山を臨む田園風景が子どものころからのお気に入りで、岩手に生まれて良かったといいます。

この日、中軽米さんたちが向かったのは、近所にある施設の畑。キュウリやレタスなど、みんなで食べ頃の野菜を収穫します。施設で暮らしはじめて3年になる中軽米さんは、慣れ親しんだ環境で充実した毎日を送っているようです。

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収穫した野菜を手にする中軽米さん

「最高だ。ばっちし、ばっちし。あと50年は暮らしたいな」(中軽米さん)

中軽米さんの生き生きとした姿は、バリアフリーの成果だと永田さんは考えています。

「何が本人にとってより健やかに、より持っている力を出して、自分らしく生きられることにつながるのか。(半農半介護のしくみは)物理的な面だけでなく、過ごし方をもう1回、見直そうという大事な提案をしています。何よりも、自然の中でのいいひととき、いい関係性。(そうした環境)だから『お金をもうけたい』と、七夕の短冊に本音を言える。きれい事を書くんじゃなくて、本音をポロっと言える場を作っていることが、バリアがない大事な関係だなと思いました」(永田さん)

やりたいことが気兼ねなくできる場所

続いてのバリフリ・タウンは、栃木県宇都宮市です。中心部から東に10キロほどに位置する道場宿町(どうじょうじゅくまち)には、認知症の人たちが活動するクラブがあります。

グループの名前は「はっちゃけ道場宿」で、名付けたのは参加者の井上茂子さんです。「思いっきり楽しむ」という意味が込められています。

画像(はっちゃけ道場宿)

「はっちゃけ道場宿」の活動には、大切な決まりごとがあります。それは、当事者本人が「やりたいこと」を決めて、みんなで一緒に楽しむことです。

参加費は1人100円で、毎週土曜日の午前11時から午後3時まで、家族と離れて地域のボランティアと一緒に過ごします。

今回は、「料理が作りたい」と提案した井上さん。認知症と診断されてから台所に立つ機会がなくなったので、久しぶりに包丁を握ってギョーザづくりに挑戦です。

しかし、ニラを切っても長さがバラバラだったり、餃子の皮にうまく包めなかったり、思うようにいきません。それでもみんな、笑いが絶えません。

画像(ギョーザを作るみなさん)

「はっちゃけ道場宿」では、当事者が作業をする際に約束事があります。それは、「うまくいかなくても気にしない」です。成功も失敗も、みんなで笑い合います。ここは当事者にとって、自分のやりたいことが気兼ねなくできる場所なのです。

「楽しい。ここで癒やされるんですよ。この場があるところが本当に嬉しいです」(井上さん)

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井上茂子さん

「はっちゃけ道場宿」が生まれるきっかけとなったのは、認知症の人と家族の会・世話人代表を務める金澤林子さんが、井上さんと出会ったことです。

今から4年前、金澤さんが運営する認知症カフェで井上さんが手伝いを始めました。

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井上茂子さん(左)と金澤林子さん

同じ境遇の仲間と過ごすうちに、心を開いていった井上さん。そんなとき、金澤さんにある思いを打ち明けたのです。

「ご本人たちから『自分たちでも(料理を)作ってみたいね』って話がでてきたんです。認知症と診断されると、家族も『これは大変なことだ、何もやらせられない』となりますが、本人にとっては寂しいこと。『自分はまだできる』という思いが強くて、『やりたいことってある?』と聞いたら、みんな(希望を)挙げてきたんです」(金澤さん)

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金澤林子さん

そこで、2019年に「はっちゃけ道場宿」をオープン。みんなで楽しくバーベキューをしたり、県内を小旅行したり、ときにはゴミ拾いのボランティアをするなど、それぞれがやりたいことを実現させてきました。

当事者が生き生きと過ごすこの活動は、家族にとっても大切な場所となっています。

「ご家族の声を聞くと、『私は本当にいい介護をしたいんだけど、それができないんです』と話します。実際には、誰かの助けがないとできないわけですよね。ですから本人にとっても、介護する家族にとっても、“その人なり”を大切にする場所でありたいと思います」(金澤さん)

参加者の家族からも感謝の声が聞こえてきます。

「本人も意欲的に『来たい』と言っているので、ちょっと家が遠いんですけど連れてきています。同居しているので、(私が)ちょっと離れて、ほっとする時間を正直ほしいというのは正直あります。本人が楽しそうにしていると聞けるだけでも、私としても気持ちが楽になるかなとは思います」(参加者の家族)

「(妻は)楽しそうで、『嫌だ』と言ったことがない。だから、いつも来るのが楽しみ。(妻が)楽しそうな顔をしていると嬉しい。俺もそのほうが楽だし、うちに帰って少し休んだり、好きなことできますからね」(参加者の夫)

“やりたいこと”が生きる力になる

この日、いつものように「はっちゃけ道場宿」が始まりましたが、様子が少し異なります。スタッフが参加者に“やりたいこと”を尋ねても、誰からも希望がでてこないのです。

こんなときは、支援者が活動内容を勝手に決めず、みんなの気持ちがほぐれるまで時間を空けるのが、「はっちゃけ道場宿」のルール。先にみんなでお昼ご飯を食べることにしました。

画像(はっちゃけ道場宿の参加者たち)

「まず様子を眺めることが必要だと思うんです。静かに見守る姿勢が、周りの人たちには必要なのかなって。私たちがなんでもやってしまわずに、反対になんでもやってもらうっていうのを肝に銘じているんです」(金澤さん)

当事者の自主性を大切にしているので、たとえば袋が空けられず手間取っていても、アドバイスをするだけで手伝いません。自分で最後までやり遂げることで、本人の達成感が得られるのです。

画像(袋を空ける井上茂子さん)

昼食が終わり、スタッフがあらためて参加者たちにやりたいことを聞くと、お昼過ぎに遅れてやってきた福本知恵子さんが、みんなで歌うことを提案。今日の“やりたいこと”は歌を歌うことに決定しました。

画像(歌を歌う参加者たち)

やりたいことを自由にできる喜びは、みんなの元気の源になっています。

「自信がなくなったんですよ、(認知症だと)言われたときは。『もう私はダメだ』みたいな。こんな病気になっちゃって。でも少しずつ元気になってきて、『ここで暴れればいいか』みたいな感じ(笑)」(井上さん)

当事者の自主性を尊重する運営方針を永田さんも評価します。

「“いい介護をする”という思い込みのバリアを取り払って、いい介護の前に、本人が望むいい暮らし、いい時間の過ごし方こそ大事にし合える。そういう在り方をお互いに考えようという、大事なバリアフリーの場面だと思いました」(永田さん)

慣れ親しんだ畑仕事を楽しむ、岩手県八幡平の「半農半介護」。“やりたいこと”をみんなで楽しむ、栃木県宇都宮の「はっちゃけ道場宿」。

どちらの「バリフリ・タウン」にも教えられることが多いと永田さんは語ります。

画像(永田久美子さん)

「『この人はもう無理だ』という壁やバリアを作らずに、どんな人でも、どんな状態でも、大変なときこそむしろ『やりたいことってなんだろう?』ということを大事にしていければいいですよね。“やりたいこと”こそすごい力になるぞ、生きる源だぞということを、みなさんが教えてくださったと思います」(永田さん)

ハートネットTVは、これからも全国の「バリフリ・タウン」を発信していきます!

バリフリ・タウン
(1)認知症の人が生き生きできる“場所”
(2)認知症の人との外出
(3)認知症の人でも楽しく働ける! 京都のSitteプロジェクト
(4)認知症の人が地域を元気にする!
(5)認知症当事者の声から始まるバリアフリーなまちづくり
(6)認知症の仲間とつくる、仕事と働く場所
(7)チーム上京!地域の力でウインドサーフィンに挑戦
(8)認知症当事者と家族が幸せに暮らす取り組み ←今回の記事
(9)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 前編
(10)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編

※この記事はハートネットTV 2022年9月13日(火曜)放送「バリフリ・タウン(8)“やりたいこと”をいつまでも」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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