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バリフリ・タウン(7) チーム上京!地域の力でウインドサーフィンに挑戦

記事公開日:2022年10月14日

認知症の人が暮らしやすいバリアフリーなまちづくりを紹介する、シリーズ「バリフリ・タウン」。今回は第5回の主人公、安達春雄さんの続報です。京都市上京区でまちづくりの活動に取り組む有志のグループ「チーム上京(かみぎょう)!」が、リハビリを続けている安達さんの初ウインドサーフィンを後押し。果たして安達さんは楽しむことができるのでしょうか? 真夏の挑戦に密着しました。

認知症当事者の夢を実現したい

認知症当事者の安達春雄さん(70)が、人生初のウインドサーフィンに挑戦することになりました。きっかけは、チーム上京!が「認知症とともに生きるまち大賞」を受賞した際に、表彰式で安達さんがウインドサーフィンをやりたいとつぶやいたことです。

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安達春雄さんとチーム上京!のみなさん

チーム上京!は2021年に結成され、安達さん夫妻を中心に、街の魅力を発信する記者や、認知症を支援する福祉関係者らが活動してきました。認知症当事者が地域の人をつなぐ要となり、さまざまな取り組みをしていることが評価を受けています。

そんな安達さんのひと言を冗談で終わらせないのがチーム上京!のみなさん。思いを実現するために仲間が集まり、知恵を出し合うことになりました。目標は、みんなで楽しむウインドサーフィンです。

画像(チーム上京!のみなさん)

しかし、安達さんは不安を抱えていました。安達さんは認知症のほかに進行性の難病を抱え、姿勢が不安定になり、歩行や動作に障害を伴っています。去年12月から、病院の依頼を受けた理学療法士が定期的に自宅を訪れ、安全に生活できるようリハビリを行っているのです。

画像(リハビリを行う安達さん)

半年前は一人で歩いていましたが、最近では人の手を借りることや、車いすを利用する機会も増えてきました。脚を思い通りに動かせない安達さんの様子を見て、妻の奈々子さんも心配しています。

「なんでもうひとつ病気がでちゃったんだろう。本人も夜はベッドで泣いているときがあります。情けなくなるみたいですね」(奈々子さん)

不安を払拭するために、スポーツトレーナーの鳥本光照さんが自宅にやってきました。水泳コーチの経験がある鳥本さんは、プールボランティアとして障害のある人たちをサポートしています。

番組で安達さんの気持ちを知り、ぜひ協力したいとボランティアでプロジェクトに参加したのです。

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スポーツトレーナー 鳥本光照さん

「みなさん、やりたいことが絶対あると思うんですけど、『なにかやりたい』の後に『でもやっぱり』と、否定してやらないことが多い。いろんなことを一緒にかなえることができれば、僕もトレーナーとして生きがいになります」(鳥本さん)

鳥本さんは、どうすれば安達さんのウインドサーフィンを実現できるのか模索しています。

「(帆)を引っ張って立って止まることが、すごく難しいです。(安達さんを)見ていると立って踏ん張るのがしんどそうですね。重心が高くなるほど不安定になるので、安定するように椅子などで固定できる形を考えています。メンバーと打ち合わせしながら、実現に向けていこうと思っています」(鳥本さん)

今回のプロジェクトでは、奈々子さんにも覚悟があります。

画像(安達さんと妻の奈々子さん)

「確かに万が一という心配はありますよね。でも、(万が一が)あるかないか分からないし、それがその人の運命かなと私は思ってる。この病気にならなかったら、こんなこともできてないし、みなさんともお会いできてない。私たちもみなさんが楽しんでくれているのでうれしい」(奈々子さん)

万全の準備でプロジェクトに挑む

この日、プロジェクトのメンバーは水着を買うために、ショッピングモールにやってきました。さっそく派手なデザインの水着を探しますが、これには理由があります。

1週間前に行われたリモート会議で、プール専門のボランティアとして活動する織田智子さんからアドバイスがあったのです。

画像(水着を手にとる安達さん)

「派手な色の水着を買ってください。着たら気分が上がりますし、目立つ色のほうが安全です。肌と肌が触れると、ちょっと痛いので、それをやわらげるためにも、(水着を)1枚挟んだほうが楽だったりもします」(織田さん)

各自がお目当ての水着を購入し、ウインドサーフィン実現に向けて一歩前進したメンバーたち。続いて向かったのは運動施設です。

水着選びのアドバイスをくれたプールボランティアのみなさんと合流し、水中での動きや、介助の方法を学びます。安全にプロジェクトが実現できるよう、鳥本さんの呼びかけに専門のスタッフが応えたのです。

まずは、水の中で歩く練習。最初は、おそるおそる歩いていた安達さんですが、次第にしっかりとした足取りになります。

画像(水の中で歩く練習をする安達さん)

さらに、ウインドサーフィンの際には必ず海の中に転落するため、パニックにならないよう、潜る練習や、体を浮かせる姿勢も学びました。

チーム上京!のメンバーも介助のやり方を特訓。指導を受けた橋本千恵さんは本番に向けて一安心です。

画像(奈々子さんと橋本千恵さん)

「ほんまにいけるかもと思えてきました。水に顔をつけられるのかなとか、初歩的なところで大丈夫かなと思ってた。こうやればいいんやとか、私らも教えてもらえたので安心しました」(橋本さん)

ところで、なぜ安達さんはウインドサーフィンを始めたいと思ったのでしょうか。

「やったことないけど、どこかで頭に残っていた。誰か分からないけど、ウインドサーフィンをやっている人が頭に浮かんでる。う~みよ~」(安達さん)

加山雄三さんの曲を歌い出す安達さん。どうやら目指しているのは、「海の男」なのでしょうか?

さまざまな地域の人たちも応援

チャレンジの舞台はどこがいいのか。メンバーが決めたのは、京都に隣接する滋賀県・琵琶湖の水泳場です。波が小さいため、バランスを崩して転落する危険性が低いと考えました。

安達さんの自宅から車で1時間の近場で、体力も温存できそうです。

心強いサポーターもいます。地元の介護施設のみなさんが、熱中症対策としてテントや飲み物のほか、もしものときの備えなど、バックアップを申し出てくれました。

協力を名乗り出た作業療法士の小室雅紀さんは、今回のプロジェクトに大きな期待を込めています。

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作業療法士 小室雅紀さん

「安達さんだけがうれしいわけでなく、私たちの夢でもある。夢を一緒に共有できるという意味で、みんなが楽しんで、目指せるものだと思っています」(小室さん)

この日は、安達さんが乗ることになるボードの安全性を確認します。

現地のマリンスポーツ店も全面協力し、ボード選びから乗り方まで、専門家と話し合いを重ねてきました。考えたのは、浮力の大きなボードの上に、背もたれのある椅子を取り付けるというもの。実際にみんなで試乗して、念には念を入れて安全性も確認します。

画像(ボードに試乗するメンバー)

職種や地域を越え、さまざまな人たちと夢の実現を目指すチーム上京!。メンバーの石﨑立矢さんは、今回のプロジェクトに大きな意義を感じています。

画像(チーム上京!メンバー 石﨑立矢さん)

「どこでも誰もが取り組みうること、というのを見せたい。認知症の人が静かに暮らしていればいいのかというと、そうじゃない。私たちもできるかもしれないと、(挑戦が)広がるきっかけになるといいかなと思っています」(石﨑さん)

挑戦はこれからも続く

ウインドサーフィンの本番当日。安達さんは歌を口ずさみながら、上機嫌で自宅を出発します。

画像(自宅を出発する安達さん)

「ごきげんだー。昨日、『僕、行かない』ってわめいていたの誰や(笑)」(奈々子さん)

そのころ現地では、地元のサポーターが安達さんたちを迎えるために、万全の準備をしています。参加者の中には障害のある人たちの姿も。

チーム上京!のSNSなどで今回のプロジェクトを知り、一緒に参加したいと希望があったのです。この日、集まったのはおよそ40人。京都や滋賀だけでなく、静岡など遠方から来た人もいます。

画像(応援に集まった人たち)

到着した安達さんは気合十分。さっそく水温に慣れるため、アウトドア用の車いすに乗って水に入ります。琵琶湖の水に入るのは44年ぶり。家族旅行で来たとき以来だそうです。

画像(水に入る安達さん)

スタッフ:安達さんどうですか、気分は?

安達さん:上々!

いよいよボードに挑戦です。安達さんの思いを実現するために仲間が集まり、知恵を出し合い、プロジェクト始動から4か月。

多くの人たちが見守るなか、安達さんと奈々子さんを乗せたボードがゆっくりと前進していきます。

画像(ボードに乗って進む安達さんと奈々子さん)

訪れた参加者たちはみんな笑顔で拍手喝采。駆けつけた主治医の辻輝之さんも、安達さんの姿を見て感激しています。

画像(脳神経内科医 辻輝之さん)

「見ていてグッとくるものがありますね。昔だったらあんまりなかったと思うんですけど、いろんなつながりができた。これをひとつの例として、また次の安達さんができる素地になったらいいなと思います」(辻さん)

集まった参加者たちも水に入り、一緒に楽しみました。

画像(ボードで楽しむ徳永眞紀さん)

「はじめてですよ。なのに、こんなに親切。みなさんの温かさ、すべてがうれしいです。感動」(参加した徳永眞紀さん)

安達さんの挑戦をきっかけに、人と人とがつながり、バリアフリーの輪が広がったのです。

ウインドサーフィンを終えた安達さんも、充実した表情を見せます。

画像(安達春雄さん)

安達さん:今日の感想はベリーグッド。まだ30年は生きないとあかんね。

奈々子さん:100歳までやりますか?

安達さん:はい。

奈々子さん:がんばりましょう!

プロジェクトを無事に終えて帰宅すると、安達さんはメンバーの労をねぎらい、早くも次の挑戦を決意しました。安達さんとチーム上京!の挑戦はまだまだ続きます!

バリフリ・タウン
(1)認知症の人が生き生きできる“場所”
(2)認知症の人との外出
(3)認知症の人でも楽しく働ける! 京都のSitteプロジェクト
(4)認知症の人が地域を元気にする!
(5)認知症当事者の声から始まるバリアフリーなまちづくり
(6)認知症の仲間とつくる、仕事と働く場所
(7)チーム上京!地域の力でウインドサーフィンに挑戦 ←今回の記事
(8)認知症当事者と家族が幸せに暮らす取り組み
(9)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 前編
(10)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編

※この記事はハートネットTV 2022年9月6日(火曜)放送「バリフリ・タウン(7)チーム上京!“真夏の挑戦”編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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