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あがるアート(12) アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦

記事公開日:2022年10月07日

全国の福祉事業所が抱える大きな悩み。それは「創作活動で生み出されたアート作品をどうやって販売に繋げるのか?」。そんな悩みに答えてくれる福祉事業所が奈良にあります。「福祉発の“ものづくりの良さ”を一緒に社会へ伝えていきたい!」と、販路に悩む施設とタッグを組んで、グッズの効果的な販売戦略を実施。創作活動を仕事につなげるノウハウを紹介します。

創作活動から生まれた作品を世に広めたい

奈良県香芝市にある Good Job!センター香芝は、1階にカフェと工房がある福祉施設で、主にものづくりとアートグッズの販売促進を行っています。

扱うのはここで作られたものだけではありません。全国の施設から作品の販売を請け負っており、その数はおよそ2000点にもなります。

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Good Job!センター香芝のものづくり工房

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Good Job!センター香芝のグッズ販売所

徳島県鳴門市の福祉事業所「かのん」も、 Good Job!センター香芝に販売の相談を持ちかけています。
藍の風合いをいかした染め物や刺繍小物などを制作しておりなかでもいち押しなのが、徳島の伝統工芸、大谷焼で作られたポットです。

画像(大谷焼のポット)

手掛けたのは利用者の小倉崇生さん。高校生の時に陶芸を学んだ小倉さんは、大好きな動物をモチーフにして制作に励み、1日に3~4個は作り上げてきました。

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小倉崇生さん

しかし、なかなか売ることができず、在庫が溜まるばかりだと、スタッフの髙橋早苗さんは悩んでいます。

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髙橋早苗さん

「動物の形にして、穴を開けて多肉(植物)を育てられるように作ったり、動物たちを置物として作っているんですけど、(販売の)専門ではないので売りかたも分からない。商品として本当に売っても大丈夫なものなのか、こういった形でいいのかとか、不安になっていくことがたくさんありました」(髙橋さん)

かのんから相談を受けたGood Job!センター香芝では、ボランティアの得田健一さんがポットに多肉植物をレイアウトして、ショップの一角に売り場を作りました。

画像(ポットの売り場)

「器だけだとイメージできないので、実際に植えてどんな感じになるか。ミニ盆栽を普段やっているので、どないしたらいいかイメージしながら、見栄えのいい感じに」(得田さん)

販売戦略のポイントは、具体的な使用例を見せてPRする点です。

販売戦略①
使用例を見せてPR

さらに、センターのホームページに特集コーナーを開設しました。担当したのはメンバーの藤岡夕子さん。かのんの雰囲気に合わせて写真を撮ったといいます。

画像(ホームページの画像)

「『かのん』さんの場合は牧歌的というか、やわらかい感じを受けました。横を向いて一列に並んでいる雰囲気が『かのん』さんのポットに近いだろうと」(藤岡さん)

考え出したキャッチコピーは「徳島で生まれた動物たち」です。

「手びねりで、大谷焼で作られたということなので。手作業で生み出したというのが、いちばん『かのん』さんに近いかなと思って、こういうタイトルにしました」(藤田さん)

販売戦略②
世界観・イメージを打ち出す

ディスプレイの工夫と通販サイトの立ち上げで、わずか3か月で仕入れた30点が完売しました。

「すごくうれしい結果ですね。徳島では皆さんが大谷焼を知っているので、用途がはっきりしない物はなかなか手に取ってもらいにくい。それがしっかり反応があったので良かった。(制作した小倉さんは)割とクールなので『ごっつい、ぎゃーうれしい!』という感じではないけれども、『よかったです』という感じで、次の制作の意欲につながればいいなと思っています」(髙橋さん)

グッズ売上の3割~4割がGood Job!センター香芝の手数料となりますが、取り扱いを希望する施設は後を絶ちません。販路が限られている施設にとっては作品PRの絶好の場になっており、センター長の森下静香さんは、ここを足がかりに各事業所が顧客とつながり、新しい販路を独自に生み出してもらえればと考えています。

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センター長 森下静香さん

「福祉発のものづくりの良さがあるなら、できるだけ多くの人たちと共有して、一緒に(社会に)伝えていけるほうがきっと効果は高いだろうなと考えています。モビールは、愛知県のデザイナーの方が作っているんですけど、障害のある方が(紙の)張り合わせをされているということで、プレゼントなどで使われることも多いです。鹿児島のしょうぶ学園さんのバッグは、すごくかわいらしい」(森下さん)

画像(モビール)
画像(バッグ)

埋もれた逸品を発掘する

Good Job!センター香芝では、世に知られていない作品の発掘も積極的に行っています。この日、スタッフが新しい商品の買い付けに訪れたのは、10年以上付き合いのある大阪の福祉施設「西淡路希望の家」です。

画像(西淡路希望の家)

さっそくスタッフから新作のいち押しグッズを見せてもらいます。ホームセンターなどで売っているレジャーシートで作ったエコバッグで、その場で大と小、2個ずつ仕入れました。

画像(エコバッグ)

続けて案内された屋上のアトリエでは、主に衣類や小物を作っています。その中で、Good Job!センター香芝の京谷真理子さんが気になったのが、刺繍のベストです。

画像(刺繍のベストを着る京谷真理子さん)

「すごくいいです。似合いそうな人に着てもらって、SNSであげたいなって思います」(京谷さん)

奈良に戻ったメンバーは、さっそくPR作戦を開始します。グッズの撮影を担当するのはメンバーのIさん。この施設に来る前は、図鑑の動物写真などを手掛けていたプロのカメラマンです。

マチのあるバッグは幅を見せたり、便箋やボールペンを入れてサイズ感を伝えたりと、工夫を凝らします。

画像(撮影の様子)

「その商品が一体何を売りにしているのか、何を見せたいのかを把握してから、商品の魅力を最大限に引き出せるように注意して撮影しています」(Iさん)

撮影した写真はウェブストアにアップします。さらに、お客を呼び込むために欠かせないのがSNSの活用。現場で買い付けしたメンバーの京谷さんがキャプションを書きます。フォロワーはおよそ2000人ですが、口コミでの広がりは大いに期待できるといいます。

店内では、特設コーナーづくりが始まりました。ここでも、見せ方にちょっとしたコツがあります。

ディスプレイのポイント①
高低差をつけて立体感を出す

カバンは高い位置に引っかけるとディスプレイに立体感がでます。

画像(ディスプレイの様子)

ディスプレイのポイント②
小物は見下ろせる位置に

オススメ商品や新商品はバランス良く、目に入りやすい場所に。小物はお客さんの目が留まりやすい低い位置に並べます。さらに、グッズの一つひとつに、手書きのポップを添えます。

画像(ディスプレイの様子)

Good Job!センター香芝ではこうした特設展示を期間限定でたびたび行い、企画営業ディレクターの安部剛さんは手応えを感じています。

「いい感じに並べられていると思います。特集を組んだときは、商品が売れやすくなる。(たくさんの人に)見てもらえている感触はあります」(安部さん)

画像(左上から時計回りに ポストカード、陶人形、張り子の猫、モビール)

老舗メーカーを救ったコラボ企画

Good Job!センター香芝がオープンしたのは、今から6年前です。運営するのは奈良の福祉施設「たんぽぽの家」。メンバーたちは40年以上芸術活動を続けており、アート作品を仕事につなげるために設立されたのです。

画像(設立時のGood Job!センター香芝)

まず、相談したのが、地元で300年続く老舗の生活雑貨メーカーでした。メンバーの制作力を活かして、一緒にできることはないかと提案。すると、思いがけずよい返事がかえってきました。

実はこのメーカーでは、「100年後に残る郷土玩具」を作ろうという計画が進行中でした。注目したのは、奈良に江戸時代から伝わる張り子の鹿。これを現代風にアレンジしてみようというのです。

張り子とは、型に紙を何枚も貼り重ねて絵付けをした民芸品です。しかし、近年は張り子職人が減少し、作り手が見つかりませんでした。

そんなときに持ち掛けられたのが、Good Job!センター香芝とのコラボです。企画担当の吉岡聖貴さんが、提案を受けた当時を振り返ります。

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吉岡聖貴さん

「Good Job!センター香芝さんの体制を聞くと、いろんな得意分野を持った職人たち、メンバーたちがいて、自分たちが作ったものを全国に流通させていきたいという話があった。そこで意見が合致して、具体的な取り組みを始めたという経緯だったかと思います」(吉岡さん)

こうして始まったコラボ企画でオリジナルの鹿を制作し、今では年に300個以上納品しています。
大元となる鹿の形をつくったのは、メンバーの中村真由美さん。張り子づくりが大の得意です。

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張り子の原型を作る中村真由美さん

同じ張り子を年に300個以上作るための量産方法は、企画製造ディレクターの藤井克英さんが考えました。

まずは、中村さんが作った鹿を元に、3Dプリンタで型を作成。樹脂でできた型に紙を貼って張り子を作っていきます。

画像(3Dプリンタで作った張り子の型)

張り合わせる紙は全部で11層あり、白い無地の和紙と新聞の2種類を使いますが、工程を一覧できるシートを作り、いま何層目まで張り合わせているのかが一目でわかるようにしました。

画像(張り合わせの工程表)

さらに、絵付けにも工夫があります。鹿に施された丸い斑点やだ円形のデザインは、スタンプを作ったことで、誰が絵付けをしても仕上がりにバラツキが出ないようにしました。

画像(絵付け用のスタンプ)

さまざまな工夫によって、手作りの味わいを残しつつ、みんなでシェアできる仕事が生まれたのです。

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企画製造ディレクターの藤井克英さん

「紙を貼るのが得意なメンバーがいたり、絵付けを得意とするメンバーがいたり、福祉施設では、得意なことを活かして商品を作る分業の工程が作りやすいです。ひとつモデルができあがると、それが商品を量産するベースとなります。今までものづくりに関わっていなかった人が関わりやすい仕組みや、環境も作っています」(藤井さん)

こうして誕生した令和の張り子の鹿。お客さんからも評判です。

画像(完成した鹿の張り子)

「めっちゃかわいい。しっぽがいいですね。ぽっと乗っているのがステキ」(女性客)

「それぞれに個性がある感じ。タイヤのところもそれぞれ違うんですね」(女性と男性の二人組)

培ってきたノウハウはすべて公開

張り子づくりは、鹿だけにとどまりません。東京・渋谷の福祉施設「のぞみ作業所」でメンバーが作っているのは、ハチ公をモデルにしたオリジナルの張り子「招きハチ公」です。渋谷を象徴するお土産にしたいと制作しています。

画像(招きハチ公)

実は、Good Job!センター香芝では張り子づくりのノウハウを公開し、アートを仕事にする仕組みを全国で共有しているのです。のぞみ作業所のスタッフ郷原真奈実さんは、公開されたノウハウを大いに活用しています。

画像(郷原真奈実さん)

「こういうプログラムがあること自体が驚きです。まず地固めというか、作っているものを安定供給できるようにすることを考えています」(郷原さん)

ノウハウを共有するのに役立っているのが、Good Job!センター香芝が作ったポスターです。工程ごとにQRコードがつけられ、制作の順番や、気を付けるべきポイントを動画で分かりやすく伝えています。

画像(QRコードがついたポスター)

ポスターのほかにも、使っている道具や3Dプリンタの操作手順も表にして共有。

画像(3Dプリンタの操作手順)

制作過程での悩みにオンラインで答えるアフターケアも行っています。

画像(オンラインでのアフターケア)

「同じ環境があると、のぞみ(作業所)さんで起きたトラブルを奈良の僕たちで検証したり、遠隔でのコラボレーションが可能になります」(藤井さん)

今年7月、渋谷で開催されたグッズの販売会でも、張り子の招きハチ公は大人気でした。

画像(グッズの販売会)

「顔がすごく癒やされる。『招きハチ公』っていうメッセージもすごくステキ。(自宅に)犬がいるので、犬を見守ってもらおうと思って買いました」(購入した女性)

Good Job!センター香芝の挑戦はまだまだ続く

全国の福祉施設の力となっているGood Job!センター香芝の活動の幅はどんどん広がっています。この日は、子どもを支援する団体とのコラボで、張り子づくりのワークショップを出展しました。

画像(張り子づくりのワークショップ)

イベント企画会社の立川智一さんがコラボする意義を語ります。

画像(立川智一さん)

「Good Job!センターさんのアート作品や、手作りの物の良さを体感していただける機会になれば。シンプルに心に響く、心に届く作品だと思っています」(立川さん)

センター長の森下さんは、さらに先を見据えています。

画像(森下静香さん)

「地域のニーズにどれだけ応えられるか。ニーズをつないでいくことで初めて成立する仕事がたくさんある。それはやってみないと分からないことが多いんです。そういうことをもう少し試していけたらいいかなと思っています」(森下さん)

アートを仕事につなげていくGood Job!センター香芝の挑戦は続きます。

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう!
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦 →今回の記事
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”
(15)安藤桃子が訪ねる あがるアートの旅~ホスピタルアート~

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※この記事はハートネットTV 2022年8月30日放送「あがるアート(10)『おまかせ!アートグッズの販売作戦』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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