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医療的ケア児に求められる支援 未就学期の悩み

記事公開日:2018年07月03日

病気や障害で、たんの吸引や胃ろうなどの医療的ケアが日常的に必要な“医療的ケア児”。今こうした子どもたちが増えています。最新の調査では1万8,000人と、10年間で倍増しました。2年前、国は児童福祉法を改正して、自治体が適切な支援に努めるよう明記しています。しかし、その支援はまだ十分ではありません。NICUを退院したあとに家族が直面する過酷なケアの実態、幼稚園など未就学期の居場所の問題について考えます。

医療的ケア 家族の負担

医療的ケアが必要な子どもは、未就学期、学齢期、卒業後と、成長するごとにさまざまな課題にぶつかります。

未就学期の子どもがいる佐野さんの家庭。重い障害がある涼将君は5歳、3人きょうだいの末っ子です。日中、自宅でのケアを担うのは母親の綾乃さん、深夜までのケアは父親が対応します。その後、綾乃さんは涼将君のそばで一晩中過ごしますが、熟睡してしまうのが怖いため布団は敷きません。

画像(涼将くんのそばで見守る綾乃さん)

たんの吸引は、多いときには10分おきに必要です。呼吸を管理するための人工呼吸器は異常があるとアラームが鳴り、すぐに対応しなければ命の危険につながります。一時も目を離すことができません。

「吸引の回数が多くて、そのまま朝になる日もあります。眠たくてうとうと寝てしまったら、その間にもしかしたら息絶えてしまうかもしれないし。本当に怖いです。」(綾乃さん)

さらに佐野さんの家庭では、きょうだいのケアも必要です。きょうだい2人のことを考えると、涼将君のことだけにかかりきりになることはできません。しかし、涼将君への医療的ケアに集中するあまり、2人のことが疎かになることがあると言います。

「ときどきお兄ちゃんとお姉ちゃんが爆発する。いつも我慢してる分、突然、爆発するときがあります。大変なのは分かってるから、ふだん我慢しているけど、もっと自分たちのことも見てほしいみたいなことを言われると、返す言葉がないというか。どう言ってあげたらいいんだろうって。私はギリギリなので、これ以上何ができるかというのがなかなか見つからないですね。」(綾乃さん)

画像(佐野綾乃さんと息子の涼将くん)

医療的ケアは体力勝負だと話す綾乃さん。そして、年を重ねるごとに感じる体力の衰えに対する不安。しかし、国の支援はまだ十分ではありません。

増え続ける医療的ケア児 不足する訪問看護師

吸引の対応に日々追われているという状況は、森田さんの家庭も全く同じです。

「本当に佐野さんと同じような感じで、何に困ってるのか、それを考える暇がない。本当に目の前の吸引、注入の対応に追われ、何に困ってるのって聞かれて答えられない。そこまで考えてる余裕がないという状況ですね。」(森田さん)

画像(森田美佳さんと息子の佳希さん)

そんな家族の負担を減らす方法のひとつに「訪問看護師」の利用があります。看護師が自宅を訪問して、親に代わって医療的ケアを行うというもので、その間に親は休息したり、家事をしたりできます。

しかし、実際には課題もあるようです。人工呼吸器が必要な8歳の優太くんを育てる綾さんは、訪問看護師を利用していない理由を次のように説明します。

画像(綾 崇さんと息子の優太さん)

「できれば夕方の6時以降とか、子どもの学校が終わってからも忙しいので来ていただけるとありがたいんですが、なかなか難しいと。そういうこともありまして、うちは使わずに夫婦だけでケアをしてるという感じです。」(綾さん)

佐野さんも訪問看護師を頼みにくい現状を語ります。

「体調管理とかいろいろある中で、頼れるのは訪問看護師さんだけだったりするんですけど。小児専門の訪問看護ステーションはお忙しいので週1回の枠しかありません。」(佐野さん)

訪問看護師の梶原厚子さんは、訪問看護師の数は、平成13年から27年までの間に約9.5倍に増えていると言います。しかし、医療的ケア児の数も増えているため、実際には、訪問看護師の数が追い付いていないというのです。

画像(訪問看護師の梶原厚子さん)

「訪問看護師の数はまだまだ足りていなくて、近所にあったとしても、子どもさんのところに来てくれるステーションは少ないし、量と質の両方がまだまだ不足してるのかなと思います。せめて訪問看護師が行く90分の間だけでも、お母さんがちょっと昼寝をするだとか、例えば歯医者さんに行けるだとか、そういうことがないと。」(梶原さん)

自分が倒れたら次がないという思いで圧迫されていく母親。訪問看護師が母親たちと一緒に子どもの支援ができる体制になれることを、梶原さんは強く願っています。

レスパイト支援で家族の負担を減らす

家族の負担を減らすもうひとつの仕組みが「レスパイト支援」。病院のベッドの一部や障害のある子どもの施設で一時的に子どもを預かり、宿泊してもらうというサービスです。しかし、家族にとって気になる点があります。レスパイト支援を利用したことがある山田さんの感想です。

画像(レスパイト支援 イメージ)

「ベッドの上に寝かしたきりになってしまって。基本は日中保育士さんがいるわけでもないので、寝かせきりだと、その中でこの子が耐えられないだろうなっていう思いがあって、普通のレスパイト施設には預けにくいです。」(山田さん)

佐野さんは、不安を持ちながらもレスパイト支援を利用しています。

「月に1回、1週間ぐらいで使わせてもらっていますけど、ベッドにずっといたり、パジャマに着替えないで同じ服でずっといたりするのは、この子にとってどうなんだろうって思います。喜んで行ってらっしゃい、お泊まりだねっていうふうには、なかなか言えないですね。それでも、主人が夜間の睡眠が取れなくて厳しいときもあるので、レスパイトがないと生活ができないっていうのと、お兄ちゃん、お姉ちゃんもいるので、涼君には悪いけど、レスパイトはすごく大事だと言って預けています。」(佐野さん)

どうしても寝かせたきりになることが多いレスパイト支援。そんな問題を解消しようという施設もあります。2年前に都内にできた、子どもを一時的に預かる専用の施設「もみじの家」(東京都・世田谷区)。この施設の特徴は、日中保育士などが子どもたちと関わりながら、さまざまな活動を行うことです。1日に10人ほどの医療的ケア児が宿泊し、看護師が24時間態勢で見守り、子どもを安心して預けられる体制が整えられています。

画像(東京・世田谷区にある「もみじの家」)

全国医療的ケア児者支援協議会で代表を務める戸枝陽基さんは、もみじの家のような施設が増えていくことを期待しています。

「この4月に厚生労働省が、旧来あるレスパイト施設に看護師さんを置く場合にさらなる加算をつけるということで、体制を強くしました。その効果が出ればもう少し受け入れが増えるかなと思います。さらに、居宅訪問型の児童発達支援事業も始まりました。これは、保育士や介護職が家庭に訪問して長時間滞在するという制度です。普通の子どもでも、小学校に上がる前に家族以外のところへ長い期間、預けられるのは緊張とストレスが強いられるでしょう。在宅で支援ができれば親の休息と同時に、何よりも子どもたちにとっても安心できます。」(戸枝さん)

この4月に始まったばかりですが、全国に支援が広がっていくことが望まれます。

幼稚園や保育園に通えないという現実

医療的ケア児がNICUでの治療を終えて退院したあと、3歳くらいになるとまた新たな課題にぶつかります。幼稚園や保育園に通えないという悩みです。

幼稚園には看護師が配置されず、保育所には看護師がいるところもありますが、医療的ケアができる体制は整っていません。障害のある子どもが通う通所施設でも、医療的ケアに対応できるところは限られているのが現状です。

画像(幼稚園や保育所での医療的ケアへの対応 図)

佐野さんは、涼将君が毎日通える社会的な居場所が欲しいと願います。

「できたら毎日通う場所がこの子には欲しくて。お兄ちゃん、お姉ちゃんみたいに、自宅ともう1か所、外側の社会的な居場所みたいなところがすごく欲しいなって思います。今は、市の療育センターへ週に2回行ってるだけなので、難しいですね。」(佐野さん)

たんの吸引が必要な5歳の子どもを持つ秋元さんも、保育所や幼稚園に通わせたくても、現実は難しいと感じています。

「看護師さんをつけてください、プラスで人をつけてくださいっていうことになると、さらに入るのにハードルが上がってしまいます。では、私が付き添ったらどうですかと聞くと、お母さんが1人だけ来てると、ほかの子にどう影響するか分からないと断られるという状況です。結局、家の中とか、私と公園で一緒に過ごす時間が増えてしまいます。でも、もうすぐ5歳になるので、お友だちを作らせてあげたいとか、社会的経験を積ませてあげたいっていう思いはすごいあるので、どこかしらに受け入れていただきたいんですけど、なかなか現実は難しいです。」(秋元さん)

娘の萌々華さんを幼稚園に通わせていた山田さんも、入園までのハードルが高かったと振り返ります。

「骨がちょっと弱い病気なので、施設側としても受け入れて何かあったときの対応はできないということで、どこもかしこも全部断られました。結局3歳までは一歩もうちから出ることができなかったですね。ただ、4歳のときに療育センターに再度チャレンジして、同意書まで書かされて、やっと最初は月2回とか行けるようになりました。公立の幼稚園にも先生が(対応する人を)つけてくれるとは言われましたが、結局のところは親同伴という形で受け入れてもらえて、通えるようになりました。」(山田さん)

萌々華さんは、幼稚園に通っていたときのことを嬉しそうに話します。

「楽しかったです。お友だちと遊んで楽しかったです。いっぱいお話しました。」(萌々華さん)

画像(萌々華さん)

子どもなのに大人としか生活体験できないのは、子どもが育っていく権利が守られていないと梶原さんは主張します。

「大人は予測することしかやらないので、子どもたちなりに安全な感じになります。しかし、子ども同士で思いもよらないことをやられて、やり返すことによって社会性が身についていきます。そのような中で成長・発達していくことがすごく大事です。」(梶原さん)

必要なのは、友だちと関わる場所。子どもの支援の軸にもなるので早急な対策が望まれます。

成長に必要なのは子ども同士の関わり

医療的ケア児を積極的に受け入れる通所施設があります。戸枝さんの社会福祉法人が5年前に設立しました。6歳までの医療的ケア児を預かり、看護師などが常駐するので親の付き添いは必要ありません。保育所と同じように朝の会や公園遊びなどの活動をし、子どもたち同士が関わりあう、成長に欠かせない居場所となっています。

画像(東京・世田谷区にある障害児通所施設「ほわわ」)

「子どもってアイコンタクトですぐ友だちになれるという、大人には分からないコミュニケーションがあると思うんですよね。そういう意味では、僕たちがどんな専門的な療育とかリハビリテーションをするよりも、子ども同士の関係性というのが子どもを育てますから。こういう医療的ケアの子どもであっても、集団の場所を必ず確保されるというのは、母子分離と併せて当たり前のことになってほしいと思っています。」(戸枝さん)

子どもの居場所を増やすための制度も少しずつ改善しています。去年から保育所に医療的ケアに対応する看護師などを配置する、モデル事業が始まりました。こうした変化について、戸枝さんも今後の展開を期待します。

画像(戸枝陽基さん・全国医療的ケア児者支援協議会代表)

「今までは制度すらなかったので、保育園に行くといったときに、対象じゃありませんってすぐ言われていました。うっかりすると、なんてわがままを言う親なんだってはねつけられることが当たり前のように行われています。制度として看護師さんを保育園に置くと決めたわけですから、少なくとも国は医療的ケアの子どもたちも普通の保育園で、普通の子どもたちと一緒に過ごすべきだと考えているわけです。そういう意味で、保育園に医療的ケアの子どもが行くことが進むと思いますし、通所系の障害児施設も全国的に広がるだろうとすごく期待されます。」(戸枝さん)

子どもの成長は待ってくれません。就学前という大切な時期を有益に過ごすためにも、なるべく早く支援が広がってほしいというのが親の願いです。

※この記事はハートネットTV 2018年6月26日放送「“医療的ケア児”成長とともに 第1回『未就学期の悩み』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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