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福祉の知識をイチから! 社交不安症(2) 学校生活の不安・恐怖と克服法

記事公開日:2022年09月28日

福祉の知識がイチから学べる「フクチッチ」。人と関わるときに強い不安を感じる精神疾患、社交不安症。4人の当事者に集まっていただき、座談会を開催しました。学校生活で感じた不安や恐怖、気になる恋愛事情、克服方法などをお笑い芸人のTIM・レッド吉田さんとともに語りあいます。また、会食恐怖の人のための支援活動も紹介します。

座談会① 学校生活で感じた不安や恐怖

視線恐怖や会食恐怖、赤面恐怖など、さまざまな種類がある社交不安症。

そこで今回は、それぞれ異なる社交不安症がある4人の若者に集まっていただき、座談会を開催。それぞれが抱える悩みや克服法について、話し合ってもらいました。

画像(座談会に参加した4名)

ななさん(24)会食恐怖
大森慎也さん(27)視線恐怖・会食恐怖
坂戸達也さん(23)視線恐怖・赤面恐怖
うっちゃんさん(21)スピーチ恐怖

座談会の司会を務めるのはお笑い芸人のTIM・レッド吉田さん。実は「レッド」という名前には、社交不安症にまつわる由来がありました。

「僕は赤面症で、それを前面に出してポジティブにとらえようと『レッド』ってつけたんですけど、たまに赤面が襲ってきますね。どうすることもできないんですよ」(レッド吉田さん)

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TIM レッド吉田さん

4人に共通するのは、学校生活で不安や恐怖を感じ始めたことです。

大森:高校生のとき、都会のほうに電車で通っていたので人混みがすごくて、そのあたりから人が気になるなと思い始めました。それともうひとつ環境が変わったのが、野球部に入ったことで、『体重を増やせ』『体をデカくしろ』という指導があって、おなかの調子が悪くなり、精神的なことも含めて何もかもがうまくいかなくなって・・・。そこで会食恐怖症や視線恐怖症が全部バーッとでてきました。

画像(大森さんが受けた完食指導エピソード(イラストイメージ))

うっちゃん:私は中学3年生のときに国語の本読みの授業があって、前の子の声が震えていたんです。私は本読みはもともと好きで、大人数の前で話すのも結構好きだったんですけど、(それを聞いて)すごく緊張してきちゃって、自分の番になったら声が震えて、しゃべれなくなっちゃって・・・。今でも憶えてます。

画像(うっちゃんさんの本読みエピソード(イラストイメージ))

実はレッド吉田さんの赤面恐怖も、学校生活がきっかけでした。

レッド吉田:小学校時代、生徒会長に立候補したんですよ。(演説で)僕の前の男の子がめちゃくちゃうまくしゃべって、笑いもとって、大拍手だったんです。そこで(自分の順番になって)何かしゃべらなきゃと思ったけど、さっきの余韻もあるし、『あれ以上のことを言わなきゃ』となった瞬間に言葉が出てこない、そこで真っ赤になって、何も答えられずに下がった。そこから人前が怖くなったということが小学校・中学校にありましたねえ・・・。

画像(レッド吉田さんの生徒会選挙エピソード(イラストイメージ))

坂戸:僕も同じように赤面症が最初でした。最初、赤面症はそんなに意識していなくて、普通だと思っていたんですけど、高校生のときに先生に当てられるようになったときに赤面症が妙に気になり始めて、そうすると視線も気になるようになって・・・。

なな:(学校のとき、会食恐怖症は)大丈夫じゃなかったです。おなかがすいていたら食べられるだろうみたいな感じで言われるんですけど、そういう問題じゃない。

レッド吉田:そういう問題じゃないんだよね。この症状って見た目だと分からないね。それで軽く見られるよね。

大森:しかも思春期でカッコつけたい時期。遊びたいし、恋愛もしたいから、なおさら「なんで俺だけこんなんなんだろう」と思う。

レッド吉田:我々が克服しなきゃいけないのか、周りがもっと変わってほしいのか、これは難しい問題ですよね。

坂戸:みんなできるのが当たり前なのが基準だから、とくにすごいとは思わないかもしれないですけど、僕は視線恐怖症の人が何かできたときにすごくほめてもらいたいです。「頑張ったね」って。

なな:私は会食恐怖症の認知度が上がってくれたら、「私、会食恐怖症なので」と言ったときに、「じゃ、食べなくていいよ」みたいな感じでスムーズに生きていけるかなって思います。

レッド吉田:初心者マークじゃないけど、「会食恐怖症なんです」みたいな何かがあればいいよね。それが当たり前みたいになって、この人そうなんだと。

なな:ご飯以外でコミュニケーションできるツールができていけばいいなと思っています。すべて飲み会から始まるみたいな雰囲気が、ちょっとしんどいというか・・・。

画像(座談会の様子)

座談会で話題になった学校生活。自身も若い頃から視線恐怖や赤面恐怖などの社交不安症に悩んできた公認心理師の川島達史さんによると、社交不安症は学校生活真っ只中の思春期に発症しやすいといいます。周囲はどのようなことに気をつけたらいいのか聞きました。

「簡単に言うと、ピークが思春期で、小学校高学年から中3ぐらいまでがいちばん発症しやすい。思春期の頃はまだ自分の心が育っていない状態なので、パニックになったときにどうコントロールすればいいのか、練習ができていないので悪化しやすいんです。
社交不安症という病気があって、思春期に発症しやすいということを、ほとんどの人は知りません。まず、社会全体でこのことを知っておくのが大前提です。その上で、緊張している人を見たら、からかわず、ゆったり構えてあげてほしいですね。クラスなどでやわらかく受け止める雰囲気作りをしてあげるといいと思います」(川島さん)

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公認心理師 川島達史さん

座談会② 気になる恋愛事情

座談会のテーマは恋愛に移ります。

大森:症状がひどかったときは、恋愛するまでもいってないというか、あきらめてた感じですね。

レッド吉田:異性に対しての興味よりも、自分のことで精一杯というか・・・。

大森:そうですね。好きになったら告白することに抵抗はないですけど、そこまで距離を詰めるまでに食事ってはずせないので・・・。そこを理解してくれる人じゃないと告白までいけないですね。好きであればあるほど、自分の弱みを見せたくないので。

なな:付き合うまでって、ご飯で仲良くなるじゃないですか。でも私は会食が本当にできないので、しゃべることは好きなんですけど、「ご飯に行こう」って言われた瞬間、「ムリ」ってなるんですよね。

うっちゃん:もし誰かと付き合うとなると、好きな人と2人だけで会うこともあるし、ほかに誰かが来るときもあるじゃないですか。付き合った先の大人数を考えると付き合えない。

なな:すごく分かります。仮に結婚とかして親戚でご飯とか、ママ友とご飯とか言われたらどうしようみたいな。いろいろ考え始めると、会食の場って逃げられないなと思っちゃう。

画像(座談会の様子)

それぞれが実践している「不安を乗り切るための工夫」も語りあいました。

大森:僕は自分の悩みを紙に書き出したりするのが好きで、そうすると客観的に見れるかなって。一歩引いてみると、それぐらいの悩みでそんなに悩んでみたいに思える。

レッド吉田:それはありじゃないかと思うよね。客観的に見ることで(悩みが)軽くなるもんね。

うっちゃんさんが実践しているのは、同じような仲間を見つけることだと言います。

うっちゃん:最近思うのは、大学の(授業での)発表とかで明らかに緊張しているのが分かる子とは話せるかもと思って。

レッド吉田:なるほどね、仲間だと(分かる)。「大丈夫?」って言いながら、「緊張したよね。私もそうなの」みたいな感じでね。お互い一緒だからね。

うっちゃん:はい。その子には、ちょっと話せます。

なな:症状の改善を頑張るよりも、自分の考えを変えて自分を受け入れたほうが心も楽になるし、症状も、気持ち(の持ち方)で楽になっていく。だから最近はいきなりご飯を食べられるようになろうと思わずに、会食恐怖症でもいいんだって思って自分に言い聞かせるとか、自分を受け入れていくのがいいかなって思い始めました。

レッド吉田:みんなでこういうことを話すことでも少しスッキリするよね。この積み重ねで、もしかしたら徐々に改善していくかもしれないし。

食べられない人と“食”をつなぐために

日常生活にも支障をきたす社交不安症。支援の動きも広がっています。

5年前、会食恐怖当事者の支援団体を立ち上げたのは山口健太さん。人前で食事ができない会食恐怖の人たちを支援し、年間およそ1,000件もの相談を受けています。

画像(山口健太さん)

実は、山口さん自身も会食恐怖の経験者です。

「自分がいちばんつらかったのは、食べられないことを理解されず、孤独を感じていたときだったんですよね。もし、そういう人がほかにもいるならば、その人の力になることをしたい」(山口さん)

この日の相談者は、来年から小学校の教師になる大学生の女性。会食恐怖の症状を生徒にどう説明すればいいか悩んでいました。

「会食恐怖の症状が改善されてない状況で、このまま教師になっても給食が食べられないだろうなと。『おなかがすいてないんだ』とごまかしても、毎日のことなのでどう説明すればいいんでしょう?」(相談者の女性)

「(教師になりたてで)慣れない環境のときに緊張すると食欲がわかないから食べられないんだよ、と。でも、みんなと給食の時間を過ごしていくので、だんだん食べられるようになると思うから心配しなくて大丈夫とか、ありがとうとか、そういった伝え方でいいのかなと思います」(山口さん)

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相談を受ける山口さん

山口さんが会食できなくなったのは高校時代。野球部で完食指導を受けていたときでした。克服のきっかけは、大学生のとき。ある考えに気づいたことで、症状が改善しはじめたと言います。

「食べられなかったときは、たくさん食べるほうがいいとか、残すと失礼だから絶対食べなきゃいけないとか、周りが基準で、自分が頑張って合わせていました。でも、自分の価値観や軸みたいのものを持つことが大事だと思って、自分が思っていることを大切にしようと考えはじめると、自分に対してプレッシャーをかけなくなっていって、食べられることにつながっていったのかなと思います」(山口さん)

山口さんたちの調査によると、会食恐怖のきっかけで最も多いのは、完食指導や強要。とくに給食での経験が目立つといいます。

当事者642人に聞いた会食恐怖のきっかけ

日本会食恐怖症克服支援協会 2019年アンケートより

そこで、栄養士や保育士などと一緒に、給食指導に関わる人たちに向けた取り組みを始めました。「給食を食べない子」にどう対応すればいいのか、実例と対処法などを毎月無料で配信しています。このほか、給食の献立を作る栄養士などに向けた研修も行っています。

さらに、山口さんは大阪市で月に一度、当事者同士で悩みを語りあうイベントを開いています。その名も「食べなくてもいいカフェ」。

画像(食べなくていいカフェ)

スタッフも全員、会食恐怖症の経験者です。アドバイスしたり、共通の話題で盛り上がったり、当事者がリラックスできる空間を作り出しています。

「同じ症状の人と話すことで、悩んでいる人は自分だけじゃないとか、症状がでたときに、こういうふうに考えればいいとか、カフェに来ることによって、自分も生きやすくなりました。自分らしさをだせる場所だと思います」(当事者 3回目の参加)

山口さんに今後の活動の目標を伺いました。

「食事は体の栄養を補給する役割もあると思うんですけど、心のエネルギーの補給になる時間になってほしいですね。活動の中でつながった人と一緒に、その後の人生を楽しくしていくことも含めた支援活動かなと思っています」(山口さん)

画像(山口さん)

「理解してくれる人がいることは、安心につながる」と話す山口さん。会食恐怖の悩みを解決する糸口は、人とのつながりだと教えてくれました。

福祉の知識をイチから学ぶ“フクチッチ”
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社交不安症(1) 視線恐怖と会食恐怖
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※この記事はハートネットTV 2022年8月1日放送「フクチッチ「社交不安症」(後編)」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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