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塀の外のわが子を思って 絵本を読みあう女性受刑者たち

記事公開日:2022年09月12日

女性受刑者たちが絵本を読み、録音した声をわが子に届けるプログラムが山口県にある刑務所で行われています。子どもとの関係を見つめ直すことが出所後の更生にもつながると、12年前に始まりました。「残してきた子どものために何かしたい」という思いで参加する受刑者たち。1冊の絵本を2か月かけて練習するうちに、次第に自分自身の内面と深く向き合うようになっていきます。絵本を読むことを通して、罪を犯した自らと向き合った女性たちを見つめました。

塀の外の子どもを思って 絵本を読みあうプログラム

山口県の美祢(みね)社会復帰促進センターは、全国に4つある官民協働の刑務所のひとつです。収容されているのは男女およそ500人。主に初犯で犯罪傾向が進んでいない人たちです。

画像(刑務所内の様子)

この刑務所では12年前に、絵本を読む声を録音してわが子に届けるプログラムを始めました。子どもとの関係を見つめ直すことが出所後の更生にもつながると考え、年に一度行われています。

「残してきた子どものためにできることをしたい」「出所後、子どもとの関係を修復したい」など、希望する受刑者が対象です。

今年参加するのは6人の女性受刑者たちで、覚せい剤所持などの罪で服役しています。およそ70冊の絵本の中から自由に1冊を選び、2か月にわたって練習を重ねるうちに、次第に自分自身の内面と深く向き合うようになっていくといいます。

絵本で知る“自分に足りなかったこと”

ゆりさん(30代・仮名)は、覚せい剤所持などの罪で服役しています。2年以上離れて暮らす3人の子どもたちに、自分の声を届けたいと参加しました。

ゆりさんが選んだ絵本は『わたしがあかちゃんだったとき』。

3才の女の子とお母さんのやりとりが描かれています。自分が赤ちゃんだったときに何をして、どんな様子だったかくり返し尋ねる女の子に、お母さんが一つ一つ丁寧に答えていく物語です。

「あたし あかちゃんのとき なにたべてたの?」
「はじめは ママのおっぱいだけ」
「おリンゴは?」
「いいえ。だって はが1ぽんも はえてなかったんですもの」

「この ちっちゃなかごにねてるの あたし?」
「そうよ。みんなが あなたにあいにきてね。
プレゼントも たくさん いただいたのよ」
『わたしがあかちゃんだったとき』キャスリーン・アンホールト作 角野栄子訳

画像(ゆりさんが手に取った絵本)

(ゆりさん)
「見た瞬間、『これ!』と思うくらい、私が子どもに対してしてあげたかったこととか、自分の中の理想がその本にいっぱい詰まってる感じです。この絵本は、一つひとつ自分の子どもの思い出とかぶるところがあって、だからこれを選んだってのもあるんです。

ゆりさんは、この絵本に自分が経験できなかった理想の家族を重ねていました。
ゆりさん自身は、早くに母親を亡くし、親戚家族に育てられたといいます。

(ゆりさん)
「めちゃくちゃ我慢していたと思う。家も親戚の家だったんで、友達を呼んだりとかもできへんかった。お誕生日とかほしいものとか、ケーキもやってもらった記憶ない。言ったらあかんねんやろうなという感じで」

自分の居場所がないと感じていたゆりさんは、中学のとき、遊び友達に誘われるまま、興味本位で薬物に手を出しました。
しかし、18歳で長女を妊娠してからは、自分の理想の家庭を築こうと、薬物を絶っていたといいます。その後、2人の子どもを出産し、良い母親になろうと懸命に子育てをしてきました。

画像(子どもの誕生日)

(ゆりさん)
「自分になかったものをやろうとして、誕生日、イベント、ご飯とかにすごくこだわりました。部屋は風船だらけにして、友達を呼んで、ケーキも手作りしたし、写真も撮りまくったりとか。人が普通にしている生活を自分が同じようにするのは、すごく背伸びしてやってたんです。自分で言うのもなんですけど、めっちゃ頑張ってた」

しかし、3人の子育てに追われる中で、夫と離婚。生活がすさんでいくなかで、再び覚せい剤にのめり込むようになっていきました。

(ゆりさん)
「子どもに(薬物を)見せたくないというのもあったし、『部屋から出て行って、向こうで遊んどいて』って子どもを遠ざけることが多くなった。親子の会話とか、子どもが母親に甘えてきたのに、それを返してあげるようなことができてなかった」

絵本を初めて声に出して読んだ日、ゆりさんは、感情を込めるシーンで苦戦します。
村中さんから「子育てを思い出すこと」がヒントになるとアドバイスされますが、ゆりさんは自分がこれまで子どもの問いかけに答えてこなかったことに気がつきました。

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村中さんのアドバイスを受けるゆりさん

(ゆりさん)
「(子どもが)『何で?何で?』って聞く時期もあったけど、私がしてた受け答えは『うん、そうそうそう』とか、そんなんでした。子どもが聞いてきたことに対して、ちゃんと『こうやって、ああやって』というやりとりをしてあげたことがないです。だから難しいのかもしれない」

親子関係を見つめ直して更生につなげる

プログラムの講師は、ノートルダム清心女子大学教授で児童文学作家の村中李衣さんです。
児童養護施設などで絵本を読みあう取り組みをしてきた経験を元に、民間企業と共同でプログラムを開発しました。

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ノートルダム清心女子大学教授・児童文学作家 村中李衣さん

(村中さん)
「このプログラムの中で、引っかかりを感じるんよ。(絵本を)読んでいくうちに『ちょっと待って。ここ、私読めない』と思ったり、『なんでこの主人公こんなこと言ってるん?』と思ってる自分に気付づく。そうすると、『ここって、私がこんなふうに思って声を出したから、引っかかったんだな』と思って、『じゃあ、こうじゃない声って私にある?』みたいなこと思い始める」

こうした絵本を読むという更生プログラムは、国内の刑務所ではほかに例を見ません。

長い間、日本の刑務所では懲罰を与えることが主流でしたが、近年、更生や社会復帰に重点が置かれるようになりました。プログラムの立ち上げに携わった元センター長の中島学さんは、受刑者が社会に戻った後、再び罪を犯さないために何が必要か検討する中で、絵本を通して親子関係を見つめ直す、この更生プログラムに注目しました。

画像

元センター長 中島学さん

(中島さん)
「お子さんと絵本という媒介を通して対話を重ねることによって、自分自身のこれまでを具体的に振り返る。他者の声を聞くことによって刺激を受けて、自分の中にあったさまざまな思いがわき上がってきて整理される。再犯や非行をしないために、非常に重要な要素になってくると考えています」

“自分を励ます声”を探して

覚せい剤所持などの罪で服役しているランさん(30代・仮名)は、小学6年生の子どもに声を届けたいとプログラムに参加しています。ランさんが選んだ絵本は『やさしいライオン』。

みなし子のライオンと、お母さん代わりとなった犬の物語です。本当の親子ではない母と子が愛情でつながる姿に惹かれたといいます。

ランさん自身は、母親との関係に苦しんできました。

画像(ランさん)

(ランさん)
「とにかく母が怖かったですね。自分の意見を言うたびにすべて拒否される。私が何を言っても『あかん』って。もう、意見を言うことも嫌になってきて。誘拐されたいとずっと思ってました。とにかくここから連れ出してほしい。母親から逃げる生活。気持ちを出す相手もいなかったし、出していいのかも分からなかった」

ランさんは絵本の中で、ライオンのブルブルが、親代わりの犬のお母さんのところへ、檻を破って走っていく場面の読み方に難しさを感じていました。

はしれ!
ブルブル
きんいろの
かぜの ように
はしれ!
ブルブル
ひかる
やの ように
はしれ!
ブルブル
たてがみを
なびかせて
はしれ!
はしれ!
『やさしいライオン』やなせたかし 作・絵

ランさんは、誰がブルブルにむかって「はしれ!」と言っているのかわかりませんでした。しかし、講師の村中さんとのやりとりの中で、次第に、「自分に言い聞かせている」ということに気づきます。

(ランさん)
「自分に言い聞かせながら読むって、ふだんしないことじゃないですか。その感情ってちょっと難しい」

支えあうメンバーたち

絵本に向き合うのは、一人ではありません。このプログラムに参加する6人のメンバーたちは、互いにそれぞれの声を聞き、「読みあう」関係を大切にしています。

覚醒剤所持などの罪で服役するモモさん(20代・仮名)は、6歳の子どもがいます。
モモさん自身は、幼い頃、父親のDVを目の当たりにして育ちました。「わが子には優しい人になって欲しい」。そんな思いで選んだ絵本は、『かみさまのおくりもの』。

あかちゃんが うまれるとき かみさまは
ひとりひとりの あかちゃんに おくりものを くださいます
かみさまからの おくりものは てんしが はこんでくるのです
(中略)
てんしが はこんできた おくりものは やさしいでした
あかちゃんは こころの やさしい こどもに なりました
『かみさまからのおくりもの』ひぐちみちこ

どう読めば、子どもへの思いが伝わるのか、モモさんは自室で悩みながら練習を重ねていました。

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自室で練習するモモさん

(モモさん)
「家にいるときは、お酒を飲んで酔っ払ってるか、薬でラリってるかのどっちかで、ろくな母親じゃなかったんですよ。だからここでできることはしてあげたいなと思って・・・。絵本をなめてました、こんなに難しんやと思って。自分の声やけん、合っとるのかが分からなくて、大丈夫かな?」

そんなモモさんを支えたのが、メンバーからの励ましのメッセージです。

画像(メンバーからのメッセージ)

モモさんが子供さんに伝えたい事が聞いていて何となく分かるような気がしました。
モモさんの伝えたい想いが、子供さんに伝わることを、私も願ってます。すごく良かったです。
(メンバーからのメッセージ)

「うれしかった。そう言われたら、もっと頑張ろうって思う。思いやりみたいな気持ちとかも教えてもらえた。温かい気持ちにさせてもらえた」(モモさん)

それぞれの思いを込めて絵本を読む

それぞれの思いで絵本と向き合ってきた6人の女性たち。プログラム最終日に、わが子に送るための声を録音します。

まずは、自分の気持ちを押し殺して生きてきたランさん。「自分を励ます声」をどう読めばいいか悩みながら練習してきました。ランさんなりの思いを込めて読み切りました。

画像(読み終えた後インタビューに答えるランさん)

(ランさん)
「(絵本の音読を)最初は軽く考えてた部分もあったんですけど、こんな感じで感動するもんやと。自分に響くものだと思ってなかった。小さいことに感動するタイプなんやって、最近めっちゃ思いますね。(今までは)そんなことに目を向けずにいたから、自分の思いにもたくさん気付けた」

最後は、絵本の中の母と子に自分の理想を重ねるゆりさん。緊張のあまり途中で読み間違えてしまいましたが、思いは伝わってきたとメンバーも声をかけました。

画像(ゆりさんの音読をほめる村中さん)

(ゆりさん)
「絵本を読みながら思ったのは、子どもは分かって、答えを聞いてきてるんかなって。『ママ、私のこと好き?』って聞いてくるのは、『好きやで』と答えてくれるのが分かってて聞いてくるんやろなと思った。でも、私はその答えを子どもに返せてなかった。私が一番できていなかったことで、子どもが求めていたことやった。私はイベントごとばっかりにこだわって、母親としての中身は全然空っぽやったなって、今になって。ここまでちゃんと自分の中で振り返ることを、避けてたというか、考えへんようにしてた。でも、ちゃんと考えなあかんというのはすごい思って。だから変わらなあかんって」

全員が録音を終えると、女性たちは自分の手でCDに題名を書き込みます。刑務所ではスケジュールが厳しく管理されており、時間内に作業を終えないといけません。時間切れになりそうだったゆりさんに、村中さんが寄り添い、手伝いながら言葉をかけます。

画像(ゆりさんに声をかける村中さん)

(村中さん)
「ぎりぎりになっても諦めたらいけんよ、絶対。(ゆりさんは)いろんなことできたんやけん。自分のこと、人と比べたらダメよ。あの人が上手いとか、あの人が私より幸せとか思わんでいいから。私はゆりさんを信じとるからね。もう話すことないけど、応援しとるけんね」

女性たちの中には刑務所にいることを子どもに伝えていない人もいます。子どもが実際にCDを聞くかどうかは家庭の判断に委ねられています。

この12年でプログラムに参加し出所した人は73人。2022年7月末現在、57人が再び罪を犯さず社会復帰しています。

なお、プログラムの詳細やこれまで受講した女性たちのエピソードは、講師の村中李衣さんと元センター長の中島学さんの著書に詳しく紹介されています。

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『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあい』編著・村中李衣 著・中島学

※この記事はハートネットTV 2022年9月12日放送「塀の外のわが子を思って ~絵本を読み合う女性受刑者たち~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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