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視覚障害のある高校生の挑戦!流行のファッション・声優になる夢

記事公開日:2022年09月05日

「同世代に流行しているファッションを楽しみたい」「あきらめかけた声優への夢にチャレンジしたい」。こんな希望を抱いている視覚障害のある2人の女子高校生。その思いを受けて、番組スタッフや周囲の大人たちがチャレンジをサポート!果たして2人の挑戦は?

人気のおしゃれを知りたい

横浜の盲学校に通う、高校1年生の東玲那(あずま・れいな)さんはある悩みを抱えています。

【お悩み】
高校生に流行しているおしゃれを知って、楽しみたい

両目とも見える範囲が狭く、視野の周りがぼやけて見えるという東さん。そんな東さんが希望する高校卒業後の進路は、ピアノの勉強をするためにスペインに留学すること。国際的に活躍する音楽家を輩出したコンクールで優勝した経験もあり、明確な夢もあります。しかし、今のまま社会に出るのには不安があると言います。

「私は盲学校にずっと通っていますが、生徒数がとても少ないので狭い世界なんです。ほかの学校との交流も頻繁にあるわけではないので、同じ年代の友達と話してみたいなと思っています」(東さん)

あるとき、駅で耳にした女子高生の会話。同世代なのに内容を理解できず、ギャップを感じたと言います。

「私は結構、おしゃれすることに興味はあるんですけど、最近はやっているファッションとかがぜんぜんわからないんです。でも、普通の女の子たちはファッションの話をしていることが多いのかなって思います」(東さん)

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東玲那さん

流行のファッションにチャレンジ!

今どきのファッションに触れて、同年代との会話も楽しんでみたい!そんな東さんを応援するため、番組スタッフは東さんと一緒に若者でにぎわう渋谷・原宿でショッピングすることに。

まずは高校生に話を聞いて、ファッションのトレンドをリサーチします。

東:今どきの高校生のはやりのファッションって何ですか?

女子高生1:はやり?メンズライクかな。

東:メンズライク?

女子高生1:男の子っぽい服装。

東:へぇ~。

女子高生2:Tシャツのすそが短いのじゃない?

女子高生3:透けてるレースとか、露出が多めなファッション。おなかを出したりするのがはやっているんじゃないかなって思います。

女子高生4:(東さんは)スタイルがいいから、足を出してもすごく似合うと思います。

東:ありがとうございます。

リサーチした情報をもとに、高校生に人気のファッションビルに向かいます。

店員:触ってみるとわかりますよ。ちょっとだけ丈が短いの。

東:あっ、前が短い。

店員:そう、これもかわいいですよ。

店員さんがすすめてくれたのは、丈の短いTシャツ。街の高校生も話題にしていたアイテムです。

画像(服を触って確かめる東さん)

スタイルアップ効果も期待できて、バリエーションも豊富。柄や色を変えるだけで気分も上がりそうです。

東:自分にどんな服が似合うのかよくわかってなくて。よく母に選んでもらっていますが、自分で決めて、好きな服を着られるようになりたいから・・・。

店員:ガーリーなアイテムはすごく似合いそう。花柄のブラウスとか。

東:あまり柄物とかは選んでこなかったんですけど、柄物が似合うんですね。

店員:うん、似合う、似合う。

画像(花柄のブラウスを試着する東さん)

店員さんおすすめのアイテムに次々と挑戦する東さん。さらにいろんなジャンルを試します。

店員:今見てくださっているブランドは、リボンやフリルがたっぷりのお洋服が多いんですよ。

東:私、ピアノを弾くんですけど。

店員:あっ!そうなんですか。

東:ちょっとした演奏ならこういう服もいいのかなって。

こちらのお店で試したのは、特別な日にも、普段使いもできる一着。

画像(フリルのあるワンピースを試着する東さん)

ファッションの奥深さとおもしろさが少しだけ理解できるようになった東さん。さらに足を伸ばして、原宿へ。どんどん積極的になり、自ら試着をするようになりました。

店員:(試着した東さんを見て)あっ!かわいい。

東:色が気に入っています。あんまり、こういうデザインは着たことも見たこともなかったので。

画像(ピンクのワンピースを試着する東さん)

この日、4時間半の買い物で7店舗をまわり、15着の服を見た東さん。そのなかから選んだのがこちらのピンクのワンピースです。袖が透けている今っぽさがお気に入り。今どきのファッションを楽しむなかで、自分の中にある変化が生まれたと言います。

画像(自分で選んだワンピースを着て、記念撮影する東さん)

「自分で(服を)選ぶという選択肢が広がって、世界が広がったと思います」(東さん)

見えづらいけれど、声優になりたい

埼玉県立特別支援学校 塙保己一学園にも、ある悩みを抱えた高校生がいました。

高校3年生の河野玲那(れな)さんは、両目が見えづらく、遠くの文字を読むには単眼鏡が欠かせません。そんな河野さんのお悩みは、将来の夢について。

「将来、職業として“声優”になりたいなと思っていたんです」(河野さん)

【お悩み】
声優になりたいけれど、見えないとできない

子どものころから、アニメの声優に憧れていた河野さん。しかし、現実的に将来を考えたとき、自分には「できない」という思いが芽生えてきたと言います。

「画面を見ながら台本を読んで、アニメの口元と合わせながら声を入れるのって、とても難しくて・・・。とくに私は台本を近くで読んで、ふっと上を向いて画面を見るというのができなくて。私には仕事としては難しいなと思ってあきらめてしまいました」(河野さん)

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河野玲那さん

河野さんが夢に躊躇してしまう理由を詳しく聞くため、番組スタッフが自宅を訪ねました。

スタッフ:声優の養成所、専門学校、オーディション、どれかにチャレンジしてみてもいいんじゃない?

河野:そうですね。うーん、“障害”って言葉を聞くだけで嫌がられることもあるので・・・。

なかなか最初の一歩を踏み出せない河野さん。河野さんの母、千華さんはこう話します。

「子どもが声優になりたいって一生懸命言っていたので、(ネットで)何回か相談をしたのですが、やっぱり『声優の世界は視覚障害者だと難しいかも』という話を返信でもらって、親としても・・・」(千華さん)

河野さんがやりたいことを応援したい。でも簡単にはいかない現実に、家族も複雑な思いを抱えていました。すると不意に河野さんがあることを口にします。

「北村直也さんという全盲の声優さんが1人いるんです。2年間のレッスンで表現力を磨いて今に至るそうです」(河野さん)

目の見えない声優がいるのなら、河野さんにもチャンスがありそうです。母親も背中を押します。

「最後は本人の熱意かなと思います。障害があっても負けずに生きていってほしいので、そのためには本人が動いて周りを納得させていく強さがいちばん必要だと思います」(千華さん)

プロの現場でアフレコにチャレンジ!

河野さんは、北村さんがどうやって声優になったのか、調べ始めました。そして声優の北村さんと、指導したプロダクションに、自ら連絡をとったのです。

プロダクションの担当者:じゃあ一度、お会いして、いろいろとお話を聞ければと思いますが・・・。

河野:はい。

画像(プロダクションと電話で話しをする河野さん)

プロダクション訪問の当日。出迎えてくれたのは、声優や俳優に向けたレッスンやキャスティングなどを行っている、プロデューサーの滝本壽(ひさし)さんです。滝本さんから早速、質問がありました。

滝本:声優体験をしたいと思ったのはどうして?

河野:最初は中学生のときに(声優になりたいという)思いを持ったんですけど、視覚障害者という見えにくさのためにあきらめてしまって。でも今回、あきらめてはいけないと思い、それがきっかけです。

滝本:じゃあどうやって声優体験をしてもらうかを、録音ブースに移動して確認したいと思います。

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プロダクションのプロデューサー 滝本壽さん

録音ブースに移動した河野さんと滝本さん。そこには1人の男性の姿がありました。

滝本:誰だかわかる?

河野:こんにちは。あっ、えっ・・・?

北村:どうも、声優をやっています。北村です。

河野:あっ!よろしくお願いします。初めてお会いしました。

かつて、滝本さんのもとで表現力を磨いて声優になった、全盲の北村直也さんです。

画像(全盲の声優 北村直也さん)

北村さんは台本データを点字にする機械を使って、原稿を読む方法で仕事をしています。

画像(北村さんが使用している、台本データを点字にする機械)

「アフレコをやってみて『やっぱり視力で難しいな』みたいなこともあるかもしれないですけど、そうならないようにっていうのは難しいのかな・・・。とりあえず楽しんで帰ってくれればいいかなと思っています」(北村さん)

河野さんは点字が読めないため、北村さんの収録方法は応用できません。どうやってアフレコをすればいいのでしょうか。

滝本さんから提案されたのは、実際のアニメーション映像を使ってアフレコの体験をすること。謎のプレデターに襲われた青年を助ける、白少女という役を任されました。

映像にはタイムコードと呼ばれる時間が表示されています。声優の多くはこの時間を見てタイミングをはかり、セリフを読みます。ですが、河野さんにはこれが見えません。

このままではセリフを読むタイミングがつかめない。大きな壁です。困っている河野さんに滝本さんが助け舟を出します。

河野:はぁ~どうやったら・・・。

滝本:台本を拡大して、どうタイミングを合わせるか。その合わせ方は本に書き込んでいいから、こういうやり方がいいとかそういうものはない。自分なりの(やり方を)開発していく。

河野:はい!

滝本:あなたが頑張って変わっていけば周りが変わる。

河野:自分で考えてみます。

画像(河野さん)

アフレコ体験まで2週間。打ち合わせ以来、休日も返上して練習に励んでいる河野さん。タイムコードが見えないぶん、セリフのタイミングを映像で確認し、自分なりの方法を探し出そうとしていました。

「今、(映像では)手の甲に指クルンってしたと思うんですけど、(自分で台本に)『指クルンってしたあとに話す』って書いて、映像のタイミングをはかって練習しています」(河野さん)

画像(アフレコの練習をする河野さん)

河野さんがタイムコードの代わりに見いだしたのは、シーンの特徴を捉えること。丁寧にイラストに描き起こしていきます。この方法で、果たしてうまくいくのでしょうか?

いよいよその日がやってきました。

滝本さんが開くレッスンの中でアフレコ体験をすることに。参加者は全員、プロの声優。シーンごとに収録を行います。

画像(アフレコの様子)

次は河野さんの出番です。同じシーンには、北村さんも参加します。

一度は無理だとあきらめた夢。でも今は、目の前のチャンスに全力で挑みます。

頭に叩き込んだ映像の切り替わりをとらえ、セリフを吹き込む河野さん。
約2分間のシーン、1度もタイミングを間違えずに、読み終えることができました。

・・・と、会場から拍手が沸き起こりました。

画像(河野さんのアフレコの様子)

滝本:すばらしい。

声優:秒数(タイミング)ほぼ一緒だったよ。

滝本:大丈夫だよ。

河野:ありがとうございました!

緊張して臨んだ初めてのアフレコ体験。練習の甲斐あって、プロの声優からも良い反応をもらうことができました。北村さんも河野さんにエールを送ります。

北村:おつかれさまです。

河野:道を切り開いてくださって、どうもありがとうございます。

北村:いえいえ。同じ視覚障害でも、いろいろな視力があるので、そういう意味でも、僕だったら気づかなかったところ、解決できなかったところを河野さんが解決してくれることを信じています。2人とも世界が広がりそうだなと思っています。

画像(河野さんと北村さん)

一度あきらめた夢に挑戦した河野さん。今回のアフレコ体験で感じたことを、スッキリとした表情で教えてくれました。

「工夫をしたら、晴眼者と同じようにできることもあることが今回改めてわかりました。無理だと思っていても、少しでも、一歩だけでも動いてみるって、大切なんだなと思いました」(河野さん)

画像(河野さん)

自ら行動し、世界を少しずつ広げていく高校生たち。誰もが無限の可能性を秘めていると気づかせてくれます。

視覚障害のある高校生の悩み
(1)流行のファッション・声優の夢に挑戦したい! ←今回の記事
(2)生活の悩みや困りごとに大人がアドバイス

※この記事はハートネットTV 2022年7月6日放送「大人のみなさん、答えてください!視覚障害のある高校生のお悩み~チャレンジ編~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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