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虐待の“その後” アフターケアの取り組み

記事公開日:2018年06月29日

近年相次いで耳にする虐待に関連するニュース。虐待の相談対応件数は、平成28年には12万件あまりで過去最大になっています。こうしたなか、重要視されつつあるのが、虐待などによって親元を離れ、児童養護施設などで育った人たちの「アフターケア」です。家族というセーフティネットを得られずに育ち、社会に出た人たちに、どんな支援が求められているのでしょうか。

「アフターケア」が必要とされる背景

近年、子どもの虐待に関するニュースがたびたび報道されています。そうしたなか、6月16日にアフターケアに取り組む事業者の全国ネットワークが設立されました。7年前からアフターケア事業に取り組む、アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美さんは、全国ネットワークの設立に際し、次のように話します。

画像(アフターケア事業全国ネットワーク えんじゅ 設立記念シンポジウムでスピーチする高橋さん)

「どこにいても、何歳になっても、困難な状況になったときに、安心して『助けて』と言える社会を皆さんと作っていきたい。」(高橋さん)

そもそも「アフターケア」とはどういうことなのでしょうか。

虐待や親の病気など、さまざまな理由で親と離れた子どもたちの多くは、児童養護施設や里親などの「社会的養護」のもとで育ちます。しかし、児童福祉法により、原則として18歳になると施設などを出なければなりません。
※2022年10月追記:改正児童福祉法(2024年4月1日施行)によりこの年齢制限は撤廃されます。ただし、高橋さんによれば、「18歳以上の養護が多くの施設などですぐに実現できるのかについては、現状ではまだ多くの課題があるように感じる」とのことです。

しかし、施設を出たあとに進学や就職、部屋を借りる際に身元保証人がいないなど、「家族というセーフティネットがないこと」による問題で壁にぶつかることが少なくありません。そんな人たちを社会に出てから支えるのが「アフターケア」です。

画像(「アフターケアとは?」説明図)

社会的養護を受けて育った人たちは、実際にどういった問題に直面し、どのような思いを抱えているのでしょうか。番組に寄せられたメッセージです。

「子どもの頃、両親から褒めてもらったことが一度もなく時々殴られていました。大人になっても何をしても自分を無価値で無意味な存在だとしか思えません。」(MON・40代女性・大阪府)

「学校やめて施設を出されて帰れる場所がなくて、風俗をやるしかなかった。20歳になる前に死ぬ、いつ死んでもいいと思って生きてきた。私はいらない子。」(ゆんゆ・20代女性・栃木県)

「父が怖いので、ずっと男性が苦手。怒らせた?帰りたい?私といて楽しい?何をしたい?何が欲しい?…私いない方がいい?結婚した今も抜けません」(みさきさん・30代女性・東京都)

「現在、大学で心理学を専攻しています。親からの肉体的、精神的虐待のせいなのか、自分よりも年齢が上の人と接するのがとても怖くなってしまいます。」(おとのさ・19歳以下・男性・愛知県)

「施設を出ると、大人になる準備ができていなくても大人にならなければならない。安定した生活、進学は夢の世界。」(ユウジ・20代男性・東京都)

「言葉や暴力で傷つけてくる人。側で優しく支えてくれる人。両者は意外と少なく、その中間層が多いから、本気で信頼できる人を探すのが難しいのかも。」(まいちゃん・20代女性・長崎県)

家族という後ろ盾がないことにより、社会で直面するさまざまな問題。当事者のなかには、家族や社会の中で大切にされずに育ってきたことで自己肯定感が低く、自分に自信が持てない人が多いと言います。そうしたことから、アルコールやギャンブル、買い物への依存や不眠、過食や拒食、極度の不安や緊張などの症状が出ることも日常的にあると高橋さんは指摘します。

当事者が抱える問題 ハルカさんのケース

アフターケア事業に取り組む高橋さんが相談に乗っている当事者のひとり、大学4年生のハルカさん。

画像(ハルカさん)

15歳のとき、親元から保護されました。理由は、母からの心理的虐待。母はアルコール依存症で、日常的に父から暴力を振るわれていました。たびたび自殺をほのめかしては、ハルカさんの生活を拘束していたと言います。

「お母さんが、すごく自殺願望が強くて、一緒に死んでくれないかとか、死にたいんだけどっていうふうに言ったりとか。お父さんのことを、今から一緒に殺しに行かない? とか。辛いし、逃げたいし、助けてあげたいし。」(ハルカさん)

母の様子を心配し、保健所に相談に行ったハルカさん。そこで、「お母さんよりまずあなたが自立しなさい」と保護され、自立援助ホームで暮らすことになりました。ところが18歳のとき、大学入学を機にホームを出て1人暮らしを始めると、思わぬ壁にぶつかります。
人と関わるのが苦しくなってきたのです。

「愛されて育ってる人とは違うなと思うことがたくさんあって、みんなすごく自信があったり。自分はやっぱりどこか、みんなとは違うなというのがすごく大きく感じられて、疎外感があって。」(ハルカさん)

周りの人に比べて、自分はとるに足らない存在だという思いが強まっていくハルカさん。3年生になる頃には、授業もまともに受けられなくなりました。

「常に死ぬことしか考えられなくなって、どうやって死のうかなとか考えてたときに、あ、これはお母さんもまったく同じこと言ってたなということがあって、やばい、そろそろやばいかもしれないと思って。」(ハルカさん)

ハルカさんと同様に、「みんなとの違い」を感じ、生きづらさを感じているというメッセージも多く届いています。

「すごく気持ちが分かります。私も学生してますが、上手くいかず休学してました。死にたいって気持ちもあります。」(もえ・女性・20代・富山県)

「大学時代はサークルも楽しめないし、特に就活がきつかった。とりたててアピールできることがなかったし、人と関わるのが苦手だった。」(父がアルコール依存症・女性・30代・東京)

「施設を出てからいつも心の奥底では“誰も自分のことなど愛してないのではないか”等と寂しくなってしまう。とにかく寂しい。」(若丸・男性・20代)

怒ってもいい ありのままの自分で

そんなハルカさんの気持ちが変化したきっかけは、高橋さんとの出会いでした。

画像(花イメージ)

大学を休学したいと思いながらも、「それは逃げだ」と踏み切れずにいたハルカさん。高橋さんに話してみると、「いいじゃん!」と思いのほか明るく賛成してくれました。

「亜美さんは、気を抜くとこは抜けてる。もう時間だからごめんね、バイバイみたいな感じで行くとことか、そういうとこがすごい好きで、この人だったら分かってる気がすると思って。」(ハルカさん)

そして、しばらく休学することを決断しました。大好きな音楽をゆっくり聴くなど、自分のための時間を過ごしたハルカさん。ときどき高橋さんに話を聞いてもらいながら過ごすうちに、自分と他人を比べる気持ちが薄らいでいきました。

「たぶん休むことで、ちゃんと体が休まったんだと思います、心が。別にみんなからの視線も怖くないし、素直な気持ちで、自分をさらけ出して関わるとすごい楽。」(ハルカさん)

それまで、母を責めてはいけないと思い込んでいた気持ちにも、変化がありました。

「前までは『お母さんの方が辛かったし』という思いがあったんだけど、ダメだよ、ダメじゃんみたいな気持ちが湧いて、怒りに変わって。怒りに変わったら、本当の自分で人と接することができるようになってきて。もういいかなと思って、自分なりに生きていこうと思いましたね。」(ハルカさん)

高橋さんは、ハルカさんとのやり取りのなかで大切にしていたことがあります。

画像(アフターケア相談所「ゆずりは」所長の高橋亜美さん)

「何気ない会話の中でも、これだけは伝えたいというメッセージは伝えるようにしています。ハルカさんの場合は、『頑張るを手放してもいいんだよ』というメッセージです。『いいじゃん』という言葉の中には、そういう意味も入っています。」(高橋さん)

カギは「孤立させない」心のサポート

施設を出たあとも、進学や就職といった社会への入り口で壁にぶつかる当事者の人たち。彼らに対するアフターケアとして実際の支援を担うのは、アフターケア専門の事業所のほか、子どもたちが卒業した児童養護施設の職員や、自治体に相談窓口がある場合もあります。

画像(アフターケア「関係機関との連携」図)

食事や住まい、お金の使い方などの生活支援や、気兼ねなく話ができる居場所を提供すること、さらに例えば借金がある場合には弁護士など、必要に応じてさまざまな関係機関と連携して、問題の解決に当たっています。

アフターケアの中で大切なのは、問題や悩みを抱える当事者の人たちに、さらに自立するよう励ますのではなく、いかに孤立させないよう支援していくかだと高橋さんは訴えます。

「困っている彼らに自立するよう頑張れと言うのではなく、孤立させないようにいかに支援していくか考えることに力を入れていきたい。私はあなたと一緒に過ごせる時間が楽しいし、うれしいよと伝えていくことの積み重ねが大事だと思います。」(高橋さん)

「家族とはこうあるべき」「自立のためにがんばるべき」・・・
そうした考えによって孤立している当事者に、まず「自分でいいんだ」と思えるような心の支援が求められているのではないでしょうか。

※この記事はハートネットTV 2018年6月19日放送「HEART-NET TIMES 特集『虐待の“その後” 大人へのアフターケア』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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