「電話リレーサービス」をご存知ですか?聞こえない人や聞こえにくい人が通訳オペレーターを通して電話をかけられるサービスで、聞こえる人が聞こえない人に電話をかけることもできるようになりました。これまでは民間でサービスが行われていましたが、去年、公的な制度としてスタート。新たな公共インフラとして期待されています。利用手順や活用例など、「電話リレーサービス」を詳しく紹介します。
2021年7月、国の事業として「電話リレーサービス」が本格的に始まりました。このサービスは、聞こえない人と聞こえる人が通訳者を仲介して電話できるというものです。
電話リレーサービスの仕組み
電話リレーサービスが始まってから約10か月がたち、登録者は1万人近くまで増えています。
<利用例その1:お店の予約をする>
青森県に暮らす、ろう者の外崎真妙子さんもそのひとり。電話リレーサービスを日々の暮らしの中で役立てています。
外崎真妙子さん
友人たちとの会食に使うお店の予約では、外崎さんの手話を通訳オペレーターが読み取り、時間と人数を店員に音声で伝えます。
聞こえないことを事前に伝えたことで、予約を入れたお店では料理の内容を紙に書いて準備してくれて、より楽しい時間を過ごすことができました。
外崎さん:自分ができることの範囲が広がるので、行動範囲も広がります。
<利用例その2・緊急通報に備えて>
利用者の中には、命に関わる緊急時に備えて登録した人もいます。難聴の佐藤結香利さんは、以前イベントを訪れた際、一緒に来ていた友人が突然倒れてしまいました。
佐藤さん:もし(周りに救急車を呼ぶ)人がいなかったら、友だちは亡くなっていたかもしれません。自分は無力だなと思いました。
電話リレーサービスの緊急通報画面
電話リレーサービスには緊急通報できる機能もあると知り、すぐに登録しました。
佐藤さん:自分から電話できることで命を救えるようになったりすることはうれしいと思います。
<利用例その3 職場や仕事でも活用>
職場で電話リレーサービスを活用するケースも出てきています。埼玉県庁で働く清水克彦さんは、仕事で電話が使えないことで、もどかしさを長年感じてきました。
かつて県税事務所に勤めていたとき、清水さんだけが納税の催促をする連絡を手紙で行っていたのです。清水さんは、職場で電話リレーサービスが使えるようになったことで、仕事への向き合い方に変化が生まれたといいます。
清水克彦さん
清水さん:ほかの職員は電話をして、大変な思いをしながら「振り込んでください」とお願いしていましたが、自分はその大変さが分かりませんでした。大変という気持ちを共有したかったです。今までは(同僚に)「電話をお願い」と助けてもらってばかりでした。でも自分も電話ができるようになって、逆に助けることができる。誇りを持って仕事ができ、自信を持てると感じます。これが仕事なんだ、私の仕事だと感じられるのはうれしいことです。やりがいがあるのはとても大切なことだと思いました。
聞こえる人と聞こえない人との交流の場づくりをする「ろうちょ~会」のにむさんは、電話リレーサービス。の活用が仕事の場で広がっていくことを期待しています。
「ろうちょ~会」にむさん
にむさん:個人情報の問題があって無理だと思っていて、仕事で電話リレーサービスを使ってもいいことを知らなかったので驚きました。埼玉県庁で働く清水さんが「今までは人に電話をお願いしていた」と言っていましたが、今の私も同じ状況です。振り込みなどが遅れるときに、「少し遅れます、すみません」と電話で連絡したいけど人に頼みにくかった。でも、それが自分でできるのだったら、とてもうれしいですね。ぜひ、やりたいと思いました。
(※オペレーターには通話内容等について守秘義務があります)
ユニバーサルデザインを広める提案や監修を行なう企業に勤める薄葉ゆきえさんも、すでに電話リレーサービスに登録しています。
ユニバーサルマナー講師 薄葉ゆきえさん
薄葉さん:私は研修の講師の仕事をしていますので、企業や自治体、教育機関に1人で講演に行くことがあるのですが、例えば電車が止まってしまったりして遅刻しそうになったときに、自分で相手に連絡ができるようになりました。非常に助かっています。
聞こえない人たちが情報を得やすい環境づくりについて研究している、筑波技術大学准教授の井上正之さんは、電話リレーサービスを高く評価しています。
筑波技術大学准教授 井上正之さん
井上さん:聞こえる人が緊急通報を使う際、救急車を呼ぶときには、(かけた人がいる)地域の消防署につながります。しかし電話リレーサービスの場合は、オペレーターにまずつながります。例えば私がいる場所が東京で、オペレーターが大阪にいると、地域のずれが生じます。そのために緊急通報がスムーズに呼べないということが以前はありました。でも、2021年7月からは場所のずれという問題も技術的に解決して、正式に緊急通報ができるようになりました。とても評価できると思います。
電話リレーサービスの利用方法
(1)アプリを立ち上げ、電話をかけたい相手の番号を入力。
(2)「手話」か「文字」か、通訳方法を選択。
(3)「手話」を選ぶと、通訳オペレーターとつながります。
※実際のサービス利用時は画面の撮影は禁止されています。
(4)利用者に代わって、オペレーターが相手を呼び出します。オペレーターは、最初に「電話リレーサービス」であることを相手に伝え、その後は、通訳に徹します。
(5)「文字」を選ぶと、オペレーターを介して、チャットでやりとりができます。
電話リレーサービスを利用するには、専用の電話番号を取得するために事前の登録が必要です。詳しい登録方法や料金などは、日本財団電話リレーサービスのホームページで確認できます。
現在は手話通訳と文字通訳の2つの方法で電話ができる仕組みですが、さらに改良が検討されています。
井上さん:例えば難聴者で、自分で発声ができる、または中途失聴で、もともと聞こえていた人の場合は声で話すことができます。聞こえる人に対しては自分の声をきちんとそのまま伝える。そして相手が話したことだけ文字に書いて出してもらうという方法が考えられます。そうしたサービスについて、難聴者からも要望が多いと聞いています。
薄葉さん:感情が伝わりやすくなることもあるので、私も自分の声で話したいと思うことはよくあります。選択肢が増えると、とてもうれしいなと思います。
さらに、電話リレーサービスを使えば、聞こえる人から聞こえない人に電話をかけることもできます。
薄葉さん:病院から検査日程を急きょ確認しなければいけないとき、私が電話リレーサービスを使って病院に連絡して、そのあと、病院の検査担当者から私に、電話リレーサービスを使って折り返しの電話を受けて、スムーズに検査日の確認ができたことがありました。かけてもらうことも大事じゃないかなと思います。
電話リレーサービスが始まって約10か月がたちましたが、課題も出てきています。聞こえない人たちにとって「電話」という通信手段は、これまでほとんどなじみがありませんでした。
そのため、初めてサービスを利用する際に、困り事やストレスを抱えてしまう人も少なくないと、日本財団電話リレーサービス広報チームの上嶋太さんが指摘します。
上嶋さん:今まで電話を使ってこなかったわけですから、(初めて電話を使う)大変さがあったり、通じなかったりすることが起きていると思います。
実際、利用者の多くが、通訳オペレーターとのコミュニケーションに難しさを感じていました。
経験豊富なオペレーターでも、方言や地名、専門用語などを手話で読み取るのは容易なことではありません。固有名詞などを何度もオペレーターから聞き直されるうちに、使用するのを諦めてしまう人もいるといいます。一方で、読みづらい漢字は読み仮名を紙に書くなど、オペレーターへの伝え方を工夫している人もいます。
にむさんも、電話リレーサービスで困った経験がありました。
にむさん:銀行やクレジットカードなどの金融機関に電話したときに「本人でないといけない」と言われて、認められないことがありました。そのときは電話が難しいということで、代わりに郵送で何度かやりとりしました。
※多くの金融機関では、特に個人情報を含む手続きについては、本人と委任関係がない人を介しての電話対応を受け付けていません。
電話リレーサービスがより使いやすく浸透していくためには、聞こえる人も聞こえない人も、電話リレーサービスについて知ることがカギとなります。
詳しい使い方や、聞こえない人がつまずきやすい「電話マナー」についての講習会なども開催されています。講習会の情報は、日本財団電話リレーサービスのホームページに随時掲載されています。
井上さん:聞こえる人たちも、電話リレーサービスが国の事業として始まっているので、きちんと知っていただいて、丁寧に対応していただけるとうれしいと思います。
薄葉さん:いちばん大切なのは相互理解。聞こえる人には電話リレーサービスというものを知ってもらって、聞こえない人には電話というシステムを知ってもらう。どんどん使って慣れてもらうというのがいちばん早いんじゃないでしょうか。ということで、歩み寄りがいちばん大事じゃないかなと思っています。
『けむしの王様』
今回の画伯
愛知県立岡崎聾(ろう)学校
吉田大悟さん
吉田さんはアクションスター、ジャッキー・チェンの大ファン。新聞紙でヌンチャクを手作りするほどです。そんな吉田さんが描いたのは、毛虫の世界。毛虫の王様になった吉田さんが悪い毛虫と戦っている場面です。なぜ毛虫かというと…。
吉田さん:ぼくも強くなりたいと思って描きました。柴田先生のことが好きなので、先生が好きな毛虫を描きました。
柴田先生:ありがとう!(私の好きなものを)描いてくれたのはうれしいですね。
小学5年生のときから柴田先生に教わってきたという吉田さん。かっこいい先生にずっと憧れています。柴田先生と過ごす最後の1年。充実した日々を過ごしてね!
※手話キッチンレシピはこちらからご覧いただけます。手話キッチン 毎日のごはん スイーツ
※この記事はハートネットTV 2022年5月25日(水曜)放送「#ろうなん~ろうを生きる難聴を生きる~ 5月号」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。