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カオスな実家暮らし にしおかすみこさんの介護

記事公開日:2022年07月29日

女王様キャラで一世を風靡したお笑い芸人のにしおかすみこさん。家族4人の暮らしぶりを綴った連載エッセイが話題になっています。タイトルは「ポンコツ一家」。「認知症の母」「ダウン症の姉」、そして「酔っ払いの父」とのリアルな日常が、ユーモアあふれる文章で赤裸々に綴られています。 “手がかかる”という家族との暮らしへの揺れ動く思い。息抜きも工夫しながら、日々の介護を続けています。聞き手は、10代のときに摂食障害の経験があるプロフィギュアスケーターの鈴木明子さんです。

実家で目の当たりにした現実

介護をめぐる過酷な現実を、毒を含んだ文章で笑い飛ばすにしおかすみこさん。

夜中に限って揉めたりする。
姉が何時になっても寝ない。

「明日、朝起きれないでしょ!」と母が怒り出す。繰り返しが止まらない。父が「怒ったって余計に寝ないだろ!」と母を怒鳴りつける。酔っぱらっているので止まらない。
姉は横で歌を歌い出す。カオスだ。

FRaU web連載「ポンコツ一家」(講談社)より

鈴木:にしおかさんのエッセイは話題になっているので、私も見たことがあります。

にしおか:本当に?ありがとうございます。嬉しい!母が81歳で認知症、姉が48歳でダウン症、父が82歳で酔っ払い。ついでに私は47歳の一発屋女芸人なので、みんなで「ポンコツ」っていう・・・。

鈴木:すごく楽しみにしていました。ぜひ、ありのままのお話が聞きたいです。

画像

にしおかすみこさん、鈴木明子さん

にしおか:なんとなく「うち(家族の関係が)、ポンコツじゃない?」と思って、エッセイのタイトルにしました。愛をこめているのですが、連載にあたっては、やっぱり認知症の方とか、介護されている方とか、障害を抱えて悩んでいらっしゃる方が、自分のことをポンコツだと思って傷つけるようなことは避けたかったので、ギリギリまで悩みました。でも、包み隠さず話したい。キレイな言葉を使って綺麗事になっちゃうのも嫌だったし、現在、家族は生きているので、過剰に、大げさに書くことも、ネタにするのも嫌だったんですよ。その妥協点として(家族の関係を)「ポンコツ」(と表現することが)がいちばんしっくりきました。

画像(にしおかすみこさんの家族構成のイラスト)

にしおかさんが家族と暮らし始めたきっかけは2年ほど前。コロナ禍で仕事がなくなり、久々に「ご飯でも食べさせてもらおう」と、実家を訪ねたときのことでした。そこには、目を疑うような光景が広がっていました。

割り箸が突っ込まれたままのカップ麺、缶詰、お惣菜プラスチック容器、腐ったミカン、バナナの皮等々、残骸が溢れている。
ちょっとしたゴミ屋敷だ。

FRaU web連載「ポンコツ一家」(講談社)より

画像(実家に帰ったときのイラスト)

さらに、衝撃を受けたのが、しっかり者だった母親の姿でした。

そんな中に埋もれるように母が、いた。小さな座椅子にポツンと座っていた。
「何?どうしたの?散らかってるし、生ゴミ臭いよ」

「余計なことするんじゃないよ!偉そうに!」
「あー!もう嫌だ!頭かち割って死んでやるー!」

本当に母が発したのか?こんな理不尽な怒り方を母はしない・・・なぜだ。

FRaU web連載「ポンコツ一家」(講談社)より

そんな異常事態に、酔っ払いの父親は何をするでもなく、のほほんとした様子。ダウン症の姉の今後の生活も気にかかりました。にしおかさんが、二十数年ぶりの実家暮らしを決断した瞬間でした。

画像(にしおかすみこさんと家族のイラスト)

鈴木:(家の様子が)まったく以前と違うってことですよね?

にしおか:そうなんです。

画像(にしおかすみこさん)

鈴木:見たとき、衝撃じゃないですか?

にしおか:衝撃なんですよ。生ゴミ臭いし、お風呂に入っていないにおいがするし。あと、冷房がついて、窓が開いて、ホットカーペットがあって、扇風機が回っているんですよ。だから空気の対流がもうカオスみたい。どうしたいの?っていう状態だったんですよね。

にしおかさんはまず、母の言動の変容ぶりに戸惑ったと話します。

にしおか:実家に帰った当時、母がしょっちゅう「頭かち割って死んでやる」と言うんです。でも母はそれまで「死んでやる」っていう言葉を使ったことがないんですよね。そのうえ「かち割る」って・・・。
しかも、「行くよ」ってお姉ちゃんを一緒に連れて行くんですよ。いま考えると、「おいていけない」というのがあるんですよね。それで、姉と一緒に2階に上がっていくんです。私が、本当に死んでいたらどうしようと思って見にいくと、寝てるんですよ。「寝てんのかい!」ってなるんですけど、何十分かするとまた下りてきて、(同じやりとりの)2回目が始まるんです。「忘れちゃうから、すっぽり抜けて、もう1回始まるんだ」ということが、最初は理解できなかったんです。

鈴木:受け止めるのは時間がかかるんじゃないですか?

にしおか:今もそんなに受け止めてないんですよ。日々、症状が進んでいくので、「こういうことにはこう対処しよう」と思っても、また違った次が来るんですよね。いちいちショックになっていたら、もうやっていけない。何かが解決したということではないですね。

母の対応に四苦八苦

にしおかさんが最もエネルギーを費やしているのが、一筋縄ではいかない母親との関係です。

一日も早く、認知症かどうかの診断が必要だと考えたにしおかさん。しかし母親を病院へ連れて行くのも一苦労です。

「あー! 行ってやらあ!どこにでも連れて行って煮るなり焼くなり好きにしたらいいさあ!出るとこ出て腹かっさばいて散ってやらあ!」

どこぞの侍だ。

行くと言ったのは初めてだ。チャンスだ!即、病院に予約を入れタクシーを呼び、やけくその母を後部座席に押し込んだ。

診察が始まる。
(医師)「こちらは初めてですかね。体調はどうですか?」
(母親)「どっこも問題ないんですけどねホホホ、護衛がね、あ、娘なんですけど、私のことをボケたボケたって言うもんですからねホホホ、じゃあ1回見てもらえば安心でしょって言ったんですぅホホホホホ」

のけ反りそうになった。
全く言ってもいないことを……
堂々とさも真実のように。

見栄か。張れるだけましなのか。

FRaU web連載「ポンコツ一家」(講談社)より

診断の結果は、軽度の認知症。しかし本人はその現実がなかなか受け入れられません。

画像(にしおかすみこさんと母と姉のイラスト)

にしおか:最初は喧嘩ばかりしていましたね。私も知識がないので、なんで母がそうなるのかが分からないから、向かっていっちゃいました。

鈴木:もともとはどんなお母様だったんですか?

画像(鈴木明子さん)

にしおか:一家の大黒柱ですね。父がフラフラしていても、私が好きに芸人をできるのは、母が家をちゃんと守ってくれていたのもあります。お姉ちゃんはダウン症なんですけど、私が面倒を見た記憶はないんですよ。母が育てながら、看護師さんとして働いて、とにかくいちばん頑張ったのが母なんですよね。だから “頑張ってきた人”っていうイメージがすごくあります。

にしおかさんは、母親のこれまでの頑張りに感謝しつつも、言動を理解しきれない現状にもどかしさを感じていると話します。

にしおか:今、何を考えているのかな、とか。私も最初は何も知識がなかったんですけど、本を読んだりネットを見たり、お医者さんや知人に聞いて勉強すると、意味の分からないことを言っていても、過去の何かがきっかけになって、その言葉が出たりするらしいんです。でも、私は長いあいだ一緒に住んでなかったから、(実家で私が知っている出来事には)空白があるんですよね。だからどうして母がそういうことを言うのか、今はわからないんです。

鈴木:お仕事と介護の両立はどうされているんですか?

にしおか:私はもういっぱいいっぱいなんですけど、(まだ)介護の域ではないと思っているんです。介護をやっている先輩方はもっと大変だと思いますし、私は独身でずっと一人暮らしだったので、主婦の方がやっていることとか、子育てをしたことがないんですね。実家に帰った今は、主婦の方々の大変さもわかるけれど、介護というには、自分の中ではちょっとおこがましいという気になっていますね。でも大変です。

画像(にしおかすみこさん)

にしおかさんは仕事の合間をぬって、家事をこなしているといいます。

にしおか:うちは家が古くてガスなので、父も母も空焚きをして、ボヤまではいかないけれど、ちょっと危ないことがあったので、料理をさせたくないんです。だから、料理を作り置きします。たとえば、仕事で夜10時ぐらいに帰ると、そこから洗い物が始まります。うちの家族は、大きな器に入れてみんなで取り分けることができません。だから、一人一食分の器が必要で、3人分だから朝昼晩で9個。私が1泊2日で仕事だったら18じゃないですか。その数の作り置きを2時間ぐらいでやるんですよね。すると12時ぐらいになって、そこからお風呂に入ったり、明日の支度をしたりして1時過ぎ。朝が早いと5時ぐらいに起きて、掃除をしていると、母はもう起きていて、私のうしろにひっつきながら父の悪口が始まるんです。一緒に掃除を手伝ってくれるわけでもなく、ずっと父の悪口を言っているから「うるさいなあ」と思いながら掃除して、出かけるみたいな。

家族4人分の家事を一手に引き受けているにしおかさん。現在、公的な福祉サービスは利用していません。

にしおか:本当、みなさんはどうしてるんだろうって。最初、「地域包括センター」(※)を知らなかったんですが、知人に教えてもらって、電話して、担当の方に来ていただきました。その方がすごく優しくて、「たぶん、認知症の母を見にきたと言うと怒るだろうから、80歳以上の高齢の方を見守るサービスがあって、元気ですか?って見に来る人がいるよと説明するのはどうか」と言ってくれました。うちはお姉ちゃんがダウン症なので「3人を見にくるよという言い方をしてみてはどうですか?」って。ただ、母にそのまま伝えても勘づくんですよ。「ボケた、ボケたっていいやがって」って怒っちゃう。でも担当者の方が来たとき、入り口ですごい笑顔で「いらっしゃいませ」って言うんです。それを見たとき、急に態度が変わったから、ホラーかと思いました(笑)。ええ!?って。

(※)地域包括支援センター
各市町村に設置されている高齢者の暮らしをサポートする相談窓口。専門スタッフが介護サービスや日常生活支援などの相談に応じる。

画像(にしおかすみこさん、鈴木明子さん)

鈴木:うーん。

にしおか:担当者の方にもすごくよくしゃべるし、「自分はボケていない」をすごくアピールするんです。でも、それも“あるある”らしくて、頑張るんですって。でも、担当者さんがいるときは大丈夫だけど、帰ると「頭かち割って死んでやる」が始まったので、ちょっと難しいなあと思って・・・。私が疲れちゃって、(認知症の介護)認定を取るところまでいってないんですよ。結果、何にもできずに終わっている状態です。一歩一歩の一歩が、なかなか一歩にならないですね。

鈴木:担当の方の前ではしっかりしているように見えても、(認知症の人には)そういう方が多いということですよね。本当につらいと思います。

一石二鳥の?リフレッシュ法

そんな介護生活のなかでも、にしおかさんは意識してリフレッシュの時間を作っています。

にしおか:息抜きしますよ。仕事もないのに仕事のふりをして、東京に出て、おしゃれなカフェのテラス席に座って、いい女気取りで、高いランチを食べたりとかしています。

鈴木:(息抜きを)全然してください。ちょっと安心しました。

画像(鈴木明子さん)

そして、にしおかさんのもうひとつの息抜き法が、野菜や果物に模様を刻んだり、彫ったりして、食卓を華やかに彩る「カービング」です。2年ほど前に、趣味で始めました。

先日は、憧れだった「龍」に挑戦。顔だけでおよそ3時間。地道に作業を続けて、見事な龍が完成しました。

画像(カービングの龍)

鈴木:すごい!器用なんですね!

スタジオにも持ってきていただきました。

にしおか:いや、不器用なんですよ。誰でも時間があればできます。これは昨日3~4時間ぐらい。

鈴木:昨日?

画像(にしおかすみこさん)

にしおか:はい。野菜は鮮度があるので。作り終わったら私、食べるので(笑)。

鈴木:集中力を要するじゃないですか。没頭というか、そういうのがリフレッシュになるんですか?

にしおか:そうですね。時間を忘れるのが、自分の癒やしにもなります。コロナ禍に入って、お金がなくて、仕事もなくて暇だったんですよ。何か趣味を見つけようと思ってSNSの動画を見ていたら、カービングが出てきたんです。それがきっかけですね。

にしおかさんは、エッセイを書くことも気持ちを整理する手段になっていると話します。

にしおか:私は日記はあまりつけない人だったんですけど、エッセイを書くことで、日記をつけるようになったんです。1年前をふりかえると、怒りにまかせて書いていたことが、今はちょっと笑えるなとか、自分の心の変化を感じることはあります。

鈴木:私、にしおかさんのエッセイを読んだときにすごく客観視している文だなと思ったんです。ただの事実だけじゃなくて、俯瞰的に見ていて、だから笑いになるというか・・・。面白くて、いろいろ問題を抱えている人たちに寄り添う文章だなと思います。

画像(にしおかすみこさん、鈴木明子さん)

にしおか:エッセイのことは家族には隠しておこうと思っていたんですよ。とくに母は書いてほしくないこともたぶんあるだろうから、言わないほうがいいだろうと思っていました。でも連載が出た初回の日に父がネットで見つけちゃったんですよね。自分の胸にしまっておけばいいのに、父もポンコツだから母にすぐ言ったんです。そうしたら母が「国民がうちの家族のことを馬鹿野郎とか、アホ野郎とか言っているって本当か!」って言うんです。みなさんの反応はめちゃくちゃ優しかったので、「そんなことないし、すごく優しかったよ」と言うと、母が、「パパが言っている」と。それで私が「今までパパが本当のことを言ったことある?」って聞くと、「ない!」って(笑)。

鈴木:(笑)

にしおか:父にはメールで謝ったんですよ。怒ってると思ったんですけど、「怒ってないよ」と。「自分のことはどうでもいいから。とにかくみんなが笑ってくれること、役に立つようなことを書きなさい。お母さんとお姉ちゃんのことは大事に書いてね」と言ってくれて、「父!」って思いましたね。

鈴木:私も会ったことないのに「父!」って思います(笑)。

にしおか:母もだいぶ時間が経ってから、「楽しく、愛してもらえるように書きなさい」と言ってくれて。そこは親だなと思うし、二人の子どもでよかったなって思いますね。

家族を支え続けるためにも“自分ファースト”で

家族の介護に向き合っていたにしおかさん。2020年の大みそかに、ある出来事が・・・。

にしおかさんは、大掃除やお節料理の準備に追われていました。

なにやら二階で母が怒鳴っている。どうやら姉が自室でウ〇〇を・・・漏らしたらしい。

姉がフローリングワイパーの柄を持ちシートをつけずに床を拭いていた。
・・・ただ、それでは床全面にコーティングされてゆく。
「いいから!」姉から柄を奪いとり「出てって!黙れ!」と言った。
「すみちゃん、あのね、わたしまだ何にも言ってないよ」と。
「うるさい!」と。
姉も、姉に声をあらげた罪悪感も全部部屋から追い出した。
強烈に臭い。ここは昨日掃除したばかりなのに。

(中略)

家を飛び出した。
もう知らない。もう嫌だ。

FRaU web連載「ポンコツ一家」(講談社)より

画像(にしおかさんと母が揉めているイラスト)

電車に駆け込んだにしおかさん。気づけば、六本木の映画館にいました。映画を見ながらひとしきり泣いて、深夜、帰宅すると、自分の部屋のドアノブにメモ紙が。母が書いたものでした。

すみへ
わすれてることも わすれたり、
言ったことも わすれたり
来年は、もっと、もっとひどくなるかもと思います!
それでも お姉ちゃんが生きてる間は、生きててやろうと思ってるので、かんべんしてちょうだい。
めいわくかけます。
ごめんなさい!
ママより

画像(にしおかさんの母が書いた手紙)

にしおか:母も戦っているんだなあと思いましたね。自分が姉のことを面倒見なきゃっていう思いもあるし、私が帰ってきちゃったことで、私に迷惑かけたくないのもあるし。たぶん、混乱しているんだと思うんですよね。でもそれを口に出さずに戦っているんだなと思いました。将来、たとえば私が認知症になったときに母みたいに踏ん張れるかなとか、あんなふうに戦えるかなとか、そういうことも思いました。

鈴木:お母さんには、お姉さんを守らなきゃいけないっていう正義感がすごくあったのでしょうね。きっとご両親にとってはお姉さんも、にしおかさんも含めて、不器用ながらにちゃんと愛情があるんだなということを改めて感じました。

にしおか:ありがとうございます。母は、症状は進行していますが、たくさん笑うようになってきました。お姉ちゃんはマイペースですね。父がいちばん“ドポンコツ”ですね(笑)。母はもう頑張らなくていいと思うんです。今まで頑張ってきたから。

画像(にしおかすみこさん)

鈴木:つらさも、葛藤もありながら、「寄り添っていきたい」という気持ちがご家族のなかに見えますね。これからも難しいかもしれないですが、逃げたいときにはあえて逃げてもいいと思います。

にしおか:これからは、とにかく“自分ファースト”でいこうと思ってるんです。難しいこともあると思うけど、自分が元気でないと家族を支えることもできないし、自分が笑ってないと、母も笑ってくれないし。「お金がない」と言ってなくても、お金がないことは気づくんですよ。とにかく自分が元気でいること。そのためには息抜きもたくさんするし、もしかしたら逃げるかもしれないし、でもそれはそれでいいかなと思って。連載に関しては正直に書いて、たくさんの方が笑ってくれたらいいですね。

※この記事はハートネットTV 2022年6月7日放送「私のリハビリ・介護 カオスな実家暮らし にしおかすみこ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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