ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

福祉の知識をイチから! 車いす(2)快適で安全な車いすを求めて

記事公開日:2022年07月19日

福祉の知識がイチから学べるハートネットTVの新シリーズ「フクチッチ」。車いすについて学んでいくと、車いすにはいろいろな種類があり、ユーザーが求めている機能もさまざまだとわかります。そこで、4人のユーザーに集まっていただき、座談会を開催!本音トークがどんどん飛び出します。さらに車いす工場にも潜入!重い障害のある人のために電動車いすを作る職人の思いにも迫ります。

車いすユーザー座談会① ここがすごい!私の車いす

手動や電動などさまざまな種類がある車いすですが、使う人に合わせてさらに細かな調整や工夫が加えられています。

そこで、今回はそれぞれ異なる障害がある4人の車いすユーザーに集まっていただき、 “わたしのこだわりポイント”を教えてもらいました。

画像(座談会に参加したみなさん)

モデルの葦原海さん。事故で両脚を切断しました。葦原さんの車いす選びのポイントは「プリクラ」でした。

「16歳のときに車いすを作って、そのとき高校生で、めちゃくちゃプリクラを撮っていたの。当時は(撮影する)カメラが固定だったから顔がカメラに届かなくて、写らない。だから、ひじ掛けに乗って撮ってたんだよね。片手を離せるからポーズが取れるし。(車いすを選ぶときに)ひじ掛けが跳ね上げできるものも勧められたんだけど、動いたら困る(笑)。不安定になるので固定でお願いしますって、プリクラ用にこの車いすにしました」(葦原さん)

画像

葦原海さん

YouTuber(ユーチューバー)の渋谷真子さん。脊髄損傷で下半身がまひしています。渋谷さんが目指したのは、骨盤を立たせ、背筋をピンと伸ばした姿勢。見た目にこだわる一方で、注意したことがあるといいます。

「私は姿勢を良くしたいけど、自分で姿勢を維持することはまひでできないから、背もたれをオリジナルで作っちゃった。グッと腰を押してもらって、背中はちょっとゆったりめにしています。下半身まひだと褥瘡(床ずれ)を気にしなきゃいけないんです。褥瘡は放置するとジュクジュクになって穴が開いて、細菌が入って死んでしまうこともある。本当に命に関わるので、いちばん大切なのは、いかに褥瘡にならないか。脊髄損傷の人には褥瘡と姿勢が重要。でも、脳性まひの子も、いい姿勢を保つのは大変なんじゃないかなと思います」(渋谷さん)

画像

渋谷さんの車いすの背もたれ

脳性まひがあるソーシャルワーカーの林田光来さんはこう答えます。

「自分に合った車いすに座るのはすごく大事だと思います。私は主に両足と右手にまひがあるのですが、車いすに座るときの姿勢は、今、履いているこの靴じゃないと安定して座れない。この靴は両足で1キロちょっとあるので、重りになって体を起こして車いすに座れるんです」(林田さん)

画像(林田さんの靴)

4人の中でいちばん大きい多機能型の電動車いすに乗る、会社員の髙木沙祐里さん。筋ジストロフィーです。この車いすによって生活が大きく変わったそうです。

「私の車いすにはリフト機能があるんです。ひざが伸びきるまでリフトを上げると、私は立ち上がれます。2年前に乗り換えたんですけど、座った状態だと服を脱げないので、この車いすでトイレの自立ができるようになりました。こんな使い方をしている人はいないかもしれないですけど、トイレの自立ができれば仕事もできるし、一人で外出もできるし、かなり自立できるようになりました」(髙木さん)

画像

髙木さんが使っている車いす

それぞれのこだわりが詰まっている車いすですが、そもそもこの車いすは、どのように手に入れることができるのでしょうか。

補装具費支給制度により車いすの購入代金は行政から補助が出るものの、制度を使う際は、「その車いすが自立した生活を送る上で必要」と行政に認められなければなりません。

また、耐用年数が定められており、車いすの場合は6年です。

座談会のみなさんは、手に入れるまでにさまざまな苦労があったようです。

画像(座談会の様子)

髙木:車いすを変えるための申請をするときに行政の方とやり取りしたんですけど、とてもエネルギーを使うものでした。本当は行政とのやり取りにエネルギーを使わなくてもいいはずなのに、でもそこで力尽きちゃう人も現実にいるんですよね。そういう人が力尽きないような世の中になってほしいと思います。

葦原:申請にエネルギー使うよね。最初、病院で車いす選びになったときに、簡易電動か手動かの2択でした。6年前の当時は今より電動アシスト付き車いすを使ってる人が少なかったから、主治医も「まだ使っている人が少ないから危ないです」みたいな・・・。でも、父が「電動アシスト付き車いすが私に適していることを説明する文書」をA4用紙2枚くらい作って、主治医に提出したんです。父親の力がなかったら、今この車いすには乗れていないだろうなと思います。

苦労して、ようやく手に入れることのできる車いす。それだけに、車いすユーザーにとっては特別なものであることを理解してほしいという意見も。

渋谷:ただの“車いす”として見るんじゃなくて、その人たちの体の一部として大切に扱ってほしいですね。機能がめちゃくちゃ詰まってるわけですし、福祉のモノというよりは、かわいいとか、かっこいいとか、高級車みたいな感じで見てほしいなって思います。

林田:私はベビーカーの次に乗ったのが車いすなんです。もちろん乗り物ですが、アイデンティティーみたいなところもあります。だから、車いすをなかったことにしてほしくないし、車いすだけを見てほしいわけでもない。私という人間の中の一部に“車いす”という大事なパーツがあることを知ってほしいと思います。

車いすにかかる費用について、福祉機器に詳しい福祉工学研究者の硯川潤さんに伺いました。

画像

福祉工学研究者 硯川潤さん

「おしゃれな靴を履くときは自費ですよね。それは障害者にとっても一緒。ファッションの一部として、自分でどんどんカスタマイズしていけばいいんです。ただし、たとえば僕が使っているこの車いすは、軽自動車1台分ぐらいの費用がかかっています。乗りやすいものとか、軽くて楽に操作ができるものになると、かなり値段が高くなっていきます。手動の車いすは、行政からの補助は10万円が上限になっていますが、こだわりのある方はそれより高いものを選ばれていると思います」(硯川さん)

車いすの背もたれを自作!渋谷さんの場合

画像

渋谷真子さん

渋谷さんの場合、車いすの本体自体は50万円ほど。褥瘡に気をつけながら姿勢をよくするために、カーボン製の背もたれを自作しました。その背もたれの製作費用として、10万円ほど自己負担したそうです。

車いすユーザー座談会② 車いすが引き寄せるものとは?

車いすユーザー4人の本音トークはまだまだ続きます。車いすの魅力に引き寄せられてくるものがあるとか・・・。

渋谷:私、犬とか動物が苦手だけど、車いすの車輪に興味が湧くのか、散歩してる犬がめちゃくちゃ寄ってくるんです。

葦原:わかる!広島の宮島に行ったとき、何も持ってなくても鹿が寄ってくるの。

画像(車いすに近寄ってくる動物たち イラストイメージ)

渋谷:車いすに乗っていると目線が低いから、人の目線より動物の目線のほうが怖い(笑)。

車いすが引き寄せるのは動物だけではないようです。

髙木:街で子どもたちが結構、興味を示してくれるときもあって。そういうときは「いじる?」って言って声かけちゃいますね。

林田:私もいじってほしいタイプで、気にしないで声をかけてたんだけど、あまりにもぐるぐるしすぎて壊れちゃって。その場で動かなくなっちゃった。

画像(車いすに興味を持つ子ども イラストイメージ)

車いす製作の現場から 安全な車いすを提供したい

ユーザーのさまざまな要望を反映して作られている車いす。その製作の現場はどのようになっているのでしょうか。岐阜県養老町にある車いすの製造会社にお邪魔しました。

画像(車いす工場)

病院などの施設で使われる一般的な車いすから、ユーザーの体の特徴に合わせたオーダーメイドのもの。さらに、トップアスリートが使う競技用のものまで、およそ200種類の車いすを作っていると話すのは、社長の松永紀之さん。年間生産台数はおよそ10万台です。

国内トップシェアを誇るこのメーカーでは、量産を続けていく中に最も重要な工程があるといいます。

案内された場所からは「ドンドンドン・・・」と大きな音が。車いすに、ボールの形状をした約25キロのおもりを叩きつけています。

画像

重りを車いすに叩きつける試験

「これは衝撃を与えたときに壊れないかどうかという試験ですね。普通こんなにハードな使い方はしないというのを試験で再現して、はじめて乗っている人の安全が確保されます。」(松永さん)

長い距離を走っても、車いすが壊れないかを調べる試験では、デコボコのローラーの上をまる2日、70キロも走行させます。人の代わりに乗せるおもりの重さは100キロだそう。

画像

ローラーの上を走行する試験

新しい車いすを開発する度に過酷な試験を繰り返すのには理由があります。

画像

松永紀之さん

「ユーザーには、ひょっとしたら壊れるんじゃないかという心配を絶対にしてもらいたくない。そのために私たちは安全な車いすを作っています」(松永さん)

車いすの安全性について、硯川さんはこう話します。

「車いすの安全性は本人のためでもありますし、安全性が高くないと周りの人に危害を加えてしまう可能性もあります。国際的な規格で安全性の基準が定められていて、それを基準に各国がそれぞれ独自の基準で安全性を担保しています。どれだけ確認して作られた車いすでも、日常生活で非常に長い間使われると思わぬ壊れ方をすることがあります。そういうときに大事になってくるのが、使う側の意識です。自分の体の一部として、メンテナンスを日常的にして、変な音がしたら車いす屋さんに早めに連絡をするなど、そういう心がけが大事かなと思います」(硯川さん)

オーダーメイドで希望に応える 電動車いす職人の思い

使う人の特性や暮らし、希望に合わせた電動車いすを作る職人がいます。その仕事を見せていただきました。

画像

電動車いす職人 浅見一志さん

電動車いす職人の浅見一志さんは、重い障害がある人のための電動車いすを作っています。あごや黒目などのわずかな動きで操作できるのが特徴です。

「(黒目の動きで操作する車いすは)筋肉が弱って、自分でスイッチが押せないけれども、体を動かしたいという気持ちから注文をいただきました。体が動かなくなっても、気持ちさえあれば動くことができると思います」(浅見さん)

浅見さんの車いす作りはオーダーメイドです。工房の従業員6人で、さまざまなパーツを手作りします。

「どうしてもメーカーはいちばん売れるラインを作ります。ですから、そこから外れた人とか、ちょっと手が届かないという製品があるので、そこをつなぐのが私の仕事かなと思っています。経営は15年やっているんですけど、すごく厳しい。(続けられているのは)奇跡ですね。でも、作ったもので人の生活が変わったり、できることが増えたりしていく様子を見られるのはすごく楽しい仕事だなと思っています」(浅見さん)

浅見さんの車いすで、生活が大きく変わった人がいます。横平明奈(みいな)さん、高校1年生です。明奈さんは、全身の筋力が衰える難病、脊髄性筋萎縮症です。

画像(横平明奈さん)

2021年から浅見さんが作った車いすを使い始めました。ゆっくりと動かすことができる左手の親指で車いすを操作します。

画像(横平明奈さん)

明奈さんが使いやすいようにと、浅見さんが特にこだわったことがあります。明奈さんの生活に欠かせない酸素ボンベなど医療機器の配置です。

画像

車いすの収納部分

「『一緒に作る』っていうのをキャッチフレーズにしているんですけど、作っているときのやり取りがすごかった。ボンベの位置とか、3回くらい変わりました」(浅見さん)

「何回も何回も調整していただいて、ようやくこの形になって、何不自由なくお出かけできるのは浅見さんのおかげです」(母・裕子さん)

完成までに要した期間はおよそ1年3か月。浅見さんを後押ししたのは、明奈さんの意思の強さだったといいます。

「スイッチを積極的に自分で押そうとしている。お父さんとの会話でも、眉でコミュニケーションをとっていたんですけど、すごく自分の強い意思を表現されていた。年頃の女の子が動きたくないわけないじゃないですか」(浅見さん)

このオーダーメイドの車いすで、明奈さんは初めて自分の力だけで移動することができるようになりました。

母:『ラブライブ!』(アニメ)の聖地に行くのが本人の夢なので、沼津と原宿に自分で行くって言っています。淡島だね。

明奈:あわしま、8月。

母:夏休みね。

父:行きたいなって。

ある映画の上映会にやってきた明奈さん。電動車いすで映画館の中を自在に動き回ります。

画像(映画館の館内を車いすで移動する明奈さん)

明奈さんを出迎えた浅見さんは嬉しそうに目を細めます。

「車いすはその人を表すものなのかなと思います。体の一部とよく言われますが、車いすがなかったら、たぶん心もふさいでしまうし、つまらなくなってしまうので、心の一部なのかもしれませんね。」(浅見さん)

明奈さんの強い意志と、作り手の浅見さんの思いが詰まった電動車いす。使う人の希望を叶える、浅見さんの電動車いす作りはこれからも続きます。

福祉の知識をイチから学ぶ“フクチッチ”
視覚障害(1) 視覚に頼らない生活の工夫
視覚障害(2) 声かけ&映画の音声ガイド
車いす(1) 電動と手動 それぞれの暮らし
車いす(2) 快適で安全な車いすを求めて ←今回の記事
社交不安症(1) 視線恐怖と会食恐怖
社交不安症(2) 学校生活の不安・恐怖と克服法
障害者と選挙(1) 誰もが投票できる制度とは
障害者と選挙(2) 投票所と情報のバリア

※この記事はハートネットTV 2022年4月11日放送「フクチッチ「車いす」(後編)」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事