2022年1月。仙台で、これまでになかった手話のイベントが開かれました。その名も“手話ニュースキャスター ファンミーティング”。NHK手話ニュースで活躍する6人のキャスターが、手話の魅力たっぷりのエンターテインメントで会場をわかせました。気になる生放送の舞台裏や、SNSでバズったユニークな手話の誕生秘話など、手話の魅力がたっぷりとつまったスペシャルイベント。前編、後編にわけてお届けします。
イベントの舞台となったのは、NHK仙台放送局です。12人いる手話ニュースキャスターのうち、6人が集まりました。
NHK手話ニュースで活躍する6人のキャスター
ろう学校の教員や会社勤めをしながら、キャスターを務めているというみなさん。忙しい合間をぬって、4か月前からイベントの準備をしてきました。
イベントの準備をするキャスターたち
キャスターの那須英彰さんは準備の様子を手話で次のように話します。
那須さん:楽しくやっています。元気をもらっています。みなさんに楽しんでもらったり、喜んでもらえることをポイントに考えました。キャスターの個性も生かせるようにプログラムを組みました。(手話)
イベント当日の午後2時。お客さんがやってきました。ろうの人や難聴者だけでなく、聞こえる人、盲ろうの人など、およそ100人が集まりました。
会場には出演者たちとの合成写真が撮れるブースも。多くのファンが、この日を心待ちにしていました。
合成写真が撮れるブース
この日、いちばん会場をわかせたのは小野広祐キャスターと板鼻英二キャスターの先輩後輩コンビ! 板鼻さん、ニュースのときとは雰囲気が違ってバッチリ黒できまっています。
「それでは小野さんと板鼻さん、よろしくお願いいたします」(司会)
(会場ではキャスターの手話と同時に音声も放送)
小野:服どうしたんですか?(手話)
板鼻:きょう雪だと聞いたので、白に合わせてきました。
小野:何かこう、どこかのギャングみたいな。
板鼻:そうですか? ネクタイ外したほうがいいですかね?
小野:手話ニュースにそれで出たことあります?
板鼻:それは、うーん・・・。
まずはSNSで大きな反響をよんだ手話の紹介です。
「世界的な人気を集めている「PPAP」(ピーピーエイピー)」(ニュース音声)
ピコ太郎さんの金色の衣装も印象的でした。
板鼻:どうやって練習したんでしたっけ?(手話)
小野:金曜日に連絡が来て『ピコ太郎の表現があるので練習してください』と言われて、このストールは準備してもらいました。練習だけして、最後きちんとタイミングが合ったんですね。お互い顔を見合わせて終われたんですよね。
板鼻:そうでした(笑)。気持ちが通じ合ったんですね。
ユニークな動きで見せる手話は、まだまだあります。
「たとえばこれ、わかりますか?『NiziU(ニジュー)』ですね。たくさんの人がまねをして踊っている姿をよく見かけました」(ニュース音声)
「おととい、大阪のテーマパーク、USJ。ユニバーサル・スタジオ・ジャパンにマリオをテーマにしたエリアがオープンしました」(ニュース音声)
この回るマリオの表現は、板鼻キャスターが考えたんだとか。
板鼻:ふつう手話でマリオをやると、(右手を上げれば)わかると思うんですけど、なんかちょっと、もの足りないと思って。やっぱりニュースなのでみんなに伝えたいわけですよ。マリオってこういう(回るような)動きがあるので、回って転んでしまわないように気をつけてやりました。(手話)
板鼻英二キャスター
この日は、板鼻さんから先輩の小野さんにマリオの動きをレクチャーします。
小野:どうやればいいんですか?(手話)
板鼻:まず赤い帽子をかぶって、口ひげをつけて、右は肩の高さに手を上げ、左足を上げて回る。ちょっと右手も上下にしながら・・・。
(会場・笑い)
小野広祐キャスターと板鼻英二キャスター
そして、極めつきはこちら!
「『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』単行本、最終23巻、きょう発売」(ニュース音声)
小野:いかがですか?これ、まねできます?(手話)
板鼻:いや~どうでしょう。鬼滅の・・・、刃!
ここで、『鬼滅の刃』のニュースを伝えた那須英彰キャスター、本人の登場です。
那須:あれ?(あのときの手話表現を)忘れちゃった!(手話)
(会場・笑い)
小野広祐キャスター、那須英彰キャスター、板鼻英二キャスター
見る人を楽しませる手話の工夫。そこには、キャスターたちのこんな思いがありました。
小野:楽しいニュース、悲しいニュース、いろいろあります。でも、やっぱり手話ニュースは悲しいことで終わるのではなくて、最後は笑顔で終わりたい。キャスターたちはみんな、そのように考えています。(手話)
続いて登場したのは、木村晴美キャスターです。みなさんが気になる生放送の舞台裏を紹介しました。
手話ニュースの一日を、ストーリー仕立てで話します。
木村:きょうの夜は、手話ニュース845に出演する日だ! これから出かけなくちゃ!きょうはどれを着ようかな? これにしようかな?(手話)
毎回、服装選びには頭を悩ませると言います。
木村:手話だからあんまり派手なものでもダメだし、赤とか黄色とかの原色もダメだし。柄物もダメだし。手話がきれいに見えるような服を考えないといけません。
そして、生放送中の急な変更にも動じないと言います。
木村:え? 追加? そのニュースを追加だって。
木村晴美キャスター
実は木村さんは、27年前から手話ニュースを伝えてきた大ベテラン。初登場の様子がこちらです。
「アメリカのニューヨークで、4月17日から核をめぐる重要な会議が開かれます」(ニュース音声)
木村さんは、ろう者として初めてキャスターに採用された、いわばパイオニア。手話ニュースの創生期を支えた一人です。
毎週木曜日、手話ニュース室へ足を運びます。まずは、ニュース原稿のチェック。情報を正しく伝えるために、どんな手話を使えばよいか考えます。
この日、木村さんはある手話を調べていました。
木村:福島県の双葉町の手話です。手話ニュースで久しぶりに出てくるのですが、地名なので、どのようにあらわすのかなと思って。本当は地名をあらわすときには、その場所にいるろう者が使っている手話を選ぶのがいいんです。その地域で暮らしているろう者が実際に使っている手話を調べて、ニュースでも使うようにしています。(手話)
そして、本番直前。しっかりと手をほぐしながら、そのときを待ちます。
「こんばんは。1月20日木曜日の手話ニュース845です。東京電力福島第一原子力発電所が立地する福島県双葉町で・・・」(ニュース音声)
よどみないニュースの裏には、さまざまな努力があるのだとわかります。しかし、どんなに準備をしても、生放送ならではのトラブルもあります。
木村:時間が余っている?じゃあ調整しないとね。調整するために『明日の天気です。東北地方は全般的に晴れるでしょう』というように、ゆっくりゆっくり話します。(手話)
30年近く手話でニュースを伝えてきた木村さん。ろう者の一人として、抱き続けてきた思いがあります。
木村:手話で情報を得られる番組があると、『社会に自分の言語が認められている』という気持ちになります。アイデンティティが認められてうれしいし、自信をもつことができます。『日本語の読み書きができるから手話はいらない。字幕だけでいいんじゃないか』という意見もありますが、私はそうではないと思います。(手話)
手話ニュースキャスターたちの思いがつまったファンミーティング。後編では絵本の読み聞かせや一人芝居での豊かな手話表現を紹介します。
手話ニュースキャスターイベント
(前編)「表現豊かな手話の魅力」 ←今回の記事
(後編)「手話の魅力を広めたい」
※この記事はろうを生きる 難聴を生きる 2022年2月26日(土曜)放送「手話ニュースキャスターイベント前編」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。