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重度障害児が視線入力で真剣勝負! eスポーツで広がる可能性

記事公開日:2022年05月16日

2021年11月、重い障害のある子どもたちがオンラインで対戦する、eスポーツの全国大会が開かれました。視線をパソコンのマウスのように使う「視線入力」の技術を使い、全国各地から参加した子どもたちがゲームを通じて熱戦を展開しました。技術の進歩によって可能となった、重度障害児どうしの真剣勝負! 大会を通じて生まれた人とのつながりや、子どもたちの成長を見つめます。

視線入力装置の体験で得た感動

11歳の畑中悠翼(ゆうすけ)くんは生まれたときから重い障害があり、体を動かしたり話したりすることができません。母親の優子さんの呼びかけに反応することも困難です。優子さんは、表情や雰囲気で悠翼くんの気持ちを推し量ってきました。

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畑中悠翼くんと母親の優子さん

「悠翼が何を考えているのか知りたいといつも思っていて、言葉がしゃべれなくても、それなりに表現する方法があるんじゃないかと思っていました。『何か訓練はないですか?』と周囲に聞いても、『動けるようになってから、そういう訓練を始めましょう』と言われて。『そんなはずない』と思いながら、表現する道が閉ざされたようですごく悔しかった」(優子さん)

転機が訪れたのは3年前。知り合いにすすめられて、島根大学が主催している重度障害者向けの視線入力の体験セミナーに参加したことです。

ひらがなも読めないウチの息子には、視線入力なんて程遠い話だと思っていたのです。
でも、「重度障害者」「初めての視線入力」…というチラシの言葉が気になり、もしかしたら、悠翼もできるかな~というわずかな可能性を信じて講座を受講したのです。
(優子さんのSNS)

セミナーで優子さんが目にしたのは、重度障害児が視線入力を使って字を書き、楽しそうに会話や意思表示をしている姿でした。

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畑中優子さん

優子さんはセミナーの後すぐに視線入力の装置を自宅に取り入れました。悠翼くんが最初に取り組んだのは、モニターに映った風船を目の動きで捉えて破裂させるゲームです。眼球の動きをセンサーがキャッチすることで操作することができます。

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悠翼くんが初めて視線入力に取り組んだときの様子

「『おお、悠翼!』って、もう感動ですね。今までは何をやるにも、『これをつかんでごらん』『あれをしてごらん』って、全部手を添えながらじゃないとやらなかったのが、視線入力だと、見ているだけで悠翼が一人でパンパンパンって風船を割っていく」(優子さん)

以来2年間、できるゲームの数も増え、体調が良いときは対戦型ゲームを1日に10試合も行うことがあります。ゲームをするときは一生懸命に取り組み、やりたくないときは下を向くという悠翼くん。優子さんもそうした悠翼くんの変化を感じとっています。

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トレーニングに取り組む悠翼くん

重度障害児の可能性を知ってほしい

視線入力の体験セミナーを主催したのは島根大学の研究チームです。総合理工学部助教の伊藤史人さんは、6年前に開発リーダーとして視線入力の訓練用ソフトを作りました。その特徴は、ゲーム感覚で楽しみながら目の動きをトレーニングできるというものです。

「もしかしたら、子どもたちは体が動かないだけで、いろんなことを理解しているかもしれない。そのアウトプットをする手段が用意されたら、いろんなことができるかもしれないと思っています」(伊藤さん)

伊藤さんがその考えに確信を持ったのは、小学6年生の小野みづきさんとの出会いがきっかけです。重い障害があるみづきさんは、言葉を発することができません。何をどこまで理解しているか、知る術はありませんでした。

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左・島根大学総合理工学部 助教 伊藤史人さんと小野みづきさん

そこで、みづきさんに視線入力を試してもらうと風船割りを難なくクリア。2年間トレーニングを続けると、視線入力を通してひらがなを学び、自分の名前を打てるようになりました。周囲が思っていた以上に、みづきさんには言語理解力や知的能力があったのです。

「重度障害という状態の子どもを見たときに、『この子、何もわかってないな、何もできないな』と思い込んでしまっている。周りの人がその子(の可能性)を信じる。それがとにかく重要だと気づきました」(伊藤さん)

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島根大学総合理工学部 助教 伊藤史人さん

伊藤さんは多くの人に重度障害児が持つ可能性を知ってほしいと、全国規模のeスポーツ大会を企画します。その考えに賛同した岩手の企業が場所や人手を担い、北海道から鹿児島まで、各地の選手たちが参加することになりました。選手は自らの「視線」という手段のみを用い、誰の助けも借りずに競い合うという大会です。2020年2月に第1回を開催、去年11月に2回目が開催されました。

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第2回は全国から16人が参加

伊藤さんが企画したeスポーツ大会に悠翼くんも出場。悠翼くんが通う学校からは応援メッセージが届きました。

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eスポーツ大会当日の様子

先生:悠翼くんファイトー。

先生:がんばれよー。

優子さん:「がんばれって」って言ってるよ、悠翼。

対戦相手は、愛知の琴実さん(6歳)。より多くの面を塗っていく「対戦ぬり絵」、先に2勝したほうが勝ちです。悠翼くんは画面の真ん中のほうを塗っていくスタイル。琴美さんは上部を上手に塗っていきます。

優子さん:悠翼、がんばれ、がんばれ。

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悠翼くんと琴実さんの試合の様子

1ラウンド目は琴美さんの勝ち。

優子さん:惜しかったね。惜しい。

初めて経験する本気のぶつかり合い。2試合目も苦しい展開が続き、惜しくも負けてしまいましたが、悠翼くんは始終笑顔で、試合を楽しんでいるようでした。

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試合中の悠翼くん

「運動会に行っても、先生に押してもらいながら走っている状況だったので、この子がスポーツの大会に出ることを考えたこともなかった。笑うことが増えていて、表情が豊かになってきている感じ。勝負で言ったら負けているんですけど、負けても全然うれしい。こうやって遊べるものに出会ったことや、(息子の)勝負を応援するということが起きていることが感動でした」(優子さん)

eスポーツは人とのつながりの場

この大会に初めて出場した、鹿児島県薩摩川内市に住む17歳の中堀陽菜(ひな)さん。声を発することはできませんが、入力した文字を音声に変換する支援機器を足の親指で操って意気込みを伝えます。

「わくわくしちゃうぞー!」(陽菜さん)

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陽菜さんと母親の正美さん、姉の萌さん

陽菜さんは徐々に体の動きを奪われていくSMAという難病で、支援学校に在籍して自宅で授業を受けています。外に出て他の人と触れ合う機会が少ない陽菜さんにとって、オンラインゲームは外の世界を知る大切なツールです。視線入力を使ってさまざまな体験を楽しんでいますが、さらに多くの人とつながってほしいと母親の正美さんは考えていました。

「ふつうに子どもたちが経験できていることがこの子はできないので、視線入力によって疑似体験できて喜んでいます。でも、もっとリアルにみんなと一緒に参加できるような“つながり”とかがあるといいなと思っていました」(正美さん)

そこで参加を決めたeスポーツの大会。重い障害がある子どもたちどうしが出会い、つながる大切な場です。陽菜さんは対戦というコミュニケーションに全力で臨みます。正美さんと姉の萌さんの応援にも熱が入ります。

正美さん:塗って塗って、陽菜ちゃん!

萌さん:もっともっと!

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陽菜さんの試合の様子

正美さん、萌さん:あー、惜しい!

試合では惜しくも負けた陽菜さん。でも結果は気にしていません。

「楽しい。(今日の)日記は長い。楽しいです」(陽菜さん)

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支援機器を使った陽菜さんのメッセージ

大会で得たさまざまな経験を日記にたくさん書けると喜ぶ陽菜さん。母親の正美さんは、これからも多くの人たちとつながることで陽菜さんの成長を期待しています。

それぞれにとってのeスポーツ大会

三重県から参加した9歳の古田紘大くんは、前回大会の王者です。紘大くんは脳性まひがあり、言葉は理解していますが自分の思い通りに体を動かすことができません。

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紘大くんの母親

「ゲームはできなくて当たり前でした。お正月に親戚で集まって、テレビにゲーム機をつないで、みんなで『僕がやる』って取り合いながらやっているのを紘大は見ているだけ。羨ましそうな顔もしていて、『こうちゃんもやってみたい?』って言ったら、顔がぱっと明るくなったけど、やらせてみることはできなくて」(紘大くんの母親)

紘大くんが視線入力と出会ったのは4年前。たちまち夢中になり、練習のときは真剣そのもの。積極的なプレイスタイルが持ち味です。ゲームだと熱中でき、集中力もついてきたと母親は感じています。最近のお気に入りは視線入力で操作できるドローン。いたずら心が刺激されるようで、室内で自由にドローンを飛ばし、時にはわざと墜落させるなど、やんちゃな一面がより見えてくるようになりました。

紘大くんの対戦相手は、神奈川県から参加した7歳の吉原壮眞(そうま)くん。

出だしは赤の壮眞くんが優勢。両者譲らない戦いになりました。しかし試合後半、紘大くんは素早い動きで一気に追い抜き、勝利をおさめました。

その後も紘大くんは勝ち上がり、前回チャンピオンの貫禄を見せて、目標の2連覇を達成しました。

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紘大くんと両親

今回のeスポーツ大会に参加したのは16人。さまざまな思いを胸に臨みました。

紘大くんと対戦した壮眞くんは視線入力でユニフォームをデザインして、家族みんなが着て応援。試合には負けましたがベストドレッサー賞です。

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壮眞くんと家族

8歳の古川結莉奈さんは大会4日前まで入院していましたが、本人の強い希望で出場。日々重い障害と向き合っている家族と本人にとって、eスポーツ大会はハレの日なのです。

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古川結莉奈さん

こうした変化は周囲の人たちの考えをも変えます。悠翼くんが通う支援学校では2年前から視線入力を取り入れるようになり、特性に合わせて音を奏でたり、射的をしたり、学習内容を選んできました。教諭の小山内博仁さんはその効果を感じています。

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支援学校教諭 小山内博仁さん

「射的では確実に的を見ています。最初は真ん中しか見なくて、それがだんだんと違う場所も見るようになった。それまで漠然と見ていたのが、より目的をもって見るようになったのを感じます」(小山内さん)

図工の時間では、かつては先生が手を添えて介助していましたが、今は視線入力を使って自分一人で絵を描いています。

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視線入力で絵を描く悠翼くん

子どもたちの可能性を引き出す視線入力は、全国の重度障害児の学びの場で少しずつ広がりを見せています。

※この記事はハートネットTV 2022年2月23日(水曜)放送「視線でバトル! 重度障害児のeスポーツ大会」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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