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福祉の知識をイチから! 視覚障害(1)視覚に頼らない生活の工夫

記事公開日:2022年03月28日

福祉の知識がイチから学べるハートネットTVの新企画「フクチッチ」。今回のテーマは「視覚障害」。視覚に障害がある人がどんな生活を送っているのか、気になったことはありませんか? 全盲や弱視の方の生活に密着すると、そこでは驚きの工夫が次々と登場。そして、専門家に教えていただくのは、江戸時代の視覚障害がある偉人たちの活躍について。当事者が知ってほしい視覚障害のアレコレを一緒に学んでいきましょう!

視覚障害者は日本に何人いる?

日本に視覚障害者はどれくらいいるかご存知ですか?
日本には、およそ31万人(厚生労働省 平成28年)の視覚障害者がいます。これは障害者手帳を取得した人の数で、実際には、視覚に障害がある人はおよそ164万人(日本眼科医会の調査)いるという推計もあります。推計数から計算すると、日本で75人に1人ぐらいの割合で視覚に障害がある人がいるということになります。

視覚に頼らないメークや外出、自炊 ~全盲の石田さんの場合~

“見えない”“見えにくい”状況での暮らしとはどんなものなのでしょう?
全盲の石田さんと弱視の高田さんに普段の生活を見せてもらいました。まずは石田さんから・・・

画像(メークは感触を頼りに)

石田さんは毎朝、メークをしてから外出します。デスクの上にはメーク道具だけを並べて、容器の形で化粧品の種類を判別していきます。視覚を頼りにしないので、鏡は見ずに手や顔の感覚だけで仕上げます。

画像

ファンデーションを塗る石田由香理さん

石田さんが使うのは液体タイプのファンデーション。手のひらの感覚でいつもの使用量を取り出します。顔にムラなく塗るのは指先の感覚が頼りです。「触って分かるまでつけちゃうと、つけ過ぎ」(石田さん)なのだそう。

次はマスカラです。まつ毛にブラシがあたる感覚を頼りに、ブラシを小刻みに動かします。まぶたに触れずにまつ毛を根元から立ち上げます。

画像(マスカラをつける石田さん)

鏡を見ていても、マスカラがまぶたについてしまうことはよくありますが、石田さんからすると・・・

「ヘタに(鏡を)見ながらやるから、みんなまぶたにつくんじゃないのかな。まつ毛に当たっているのは、なんとなく分かるので、感覚でやったほうがうまくいきますよ」(石田さん)

画像(外を歩くとき白杖は欠かせない)

メークを終えたら、白杖(はくじょう)を持って外出です。外を歩くときに白杖は欠かせません。

画像(白杖を持って歩く石田さん)

「基本的には自分の前に障害物がないかどうかと、段差や落ちているものがないかどうかを、杖で確認しながら歩いています。歩くときの目の代わりですよね。私ほど見えていなければ絶対に必要です」(石田さん)

地下鉄の駅に着きました。白杖で段差を確認しながら、階段を降ります。

画像(反響音などで壁や柱の存在を感じる)

ホームで電車を待っているときのこと。石田さんは、近くにある大きな柱の存在に触れてもいないのに気がつきました。

画像(地下鉄のホームに立つ石田さん)

「近くに大きいものがあるなと思って。何かはわからないけど、壁とか柱とか、これぐらい大きいと音の反響とかでなんとなく存在が分かります」(石田さん)

画像(炒め具合は箸から伝わる感触や音で判断)

石田さんは毎日自炊をしています。この日の昼食は野菜炒め。慣れた手つきで包丁で人参を切り始めました。手の感覚だけで、同じ厚みにそろえて切っていきます。
フライパンに油を入れるときは、注ぎ口とフライパンの油を指先で確認しながら分量を調節します。
焼き加減は箸から伝わってくる感触で具材の硬さを感じ取り、判断します。「特に卵は固まってきたなとお箸で分かりやすい食材ですね」(石田さん)

画像(人参を切る石田さん)

石田さんが手際よく調理できるのは、すべてのモノの位置を記憶しているからです。そのため、知らないうちにモノの位置が変わると困るそうです。

「遊びにきた人とかに、いちばんやられたくないのは、家の物の配置を勝手に変えること。右に置いてあった醤油が、左に置かれるだけでも分からなくなるし。ティッシュを使ってちょっとそこに置きっぱなしみたいなのも、もう私からするとティッシュが行方不明状態になってしまいます」(石田さん)

趣味のランニングは伴走者と一緒に
石田さんは視覚に障害がある人と伴走者(ガイドランナー)が集まるサークルで毎週のように汗を流してきました。去年、初めて出場したハーフマラソンでは2時間を切る好タイムを記録!

飲食店で働く現場に密着 ~弱視の高田さんの場合~

視覚障害者の中には弱視の人も含まれています。
高田唯さんは左目は光を感じるのみ。右目は視力が0.03から0.06ぐらいです。そのため、かなり近づかないと文字などを認識できません。高田さんは通勤や職場でさまざまな工夫をして弱視をカバーしています。

画像(必需品は「ルーペ」と「スマホ」)

通勤のとき。高田さんは慣れた道では白杖は使いません。必需品は12.5倍まで倍率が上がる「ルーペ」と「スマートフォン」です。

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高田唯さん

たとえば、道路脇にある自動販売機の商品名などは裸眼では見えません。でも、スマートフォンのカメラ機能を使って文字を拡大すると、読むことができます。

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スマートフォンで自動販売機の文字を拡大する高田唯さん

「これがあれば商品名が読める。欲しい飲みものは何段目にあるなと思って押せる」(石田さん)

画像(分からなくならないように自分ルールを決めている)

勤め先の飲食店に到着しました。
まずとりかかったのは、テーブルセッティング。手慣れた様子で進めていますが、実は、弱視のために作業した範囲が分からなくなるときがあるため、ちょっとした工夫をしています。

「本来だったら『このテーブルは拭いてあるわ』って目視で分かるはずなんですけど、それが分からないから、拭くテーブルやイスの順番を自分ルールで決めています」(高田さん)

画像(飲食店でテーブルセッティングをする高田唯さん)
画像(声かけなどスタッフがサポートしてくれる)

料理をテーブルに運ぶこともあります。伝票の数字を正確に読み取ることが難しいため、テーブル番号は口頭で確認します。

高田:3(番テーブル)ですよね?

同僚:31、31。

高田:あ、31か。

職場の仲間も高田さんが弱視であることを理解しています。

「料理を提供するときに、この料理は『○番さんです』とか、(声で)指示をもらっています」(高田さん)

画像(飲食店でスタッフに質問する高田唯さん)
心に残る面接
~高田さんの就活秘話~


「うちのギョーザ、好きかい?」

高田さんが働くのは中華料理店です。採用面接を受けるとき、高田さんは自分が弱視であることをあらかじめ伝えていましたが、面接で最初に質問されたのは障害のことではなく、「うちの看板料理のギョーザ、好きかい?」でした。予期せぬ質問でしたが、ますます、このお店で働きたい!と思ったそうです。

画像(ギョーザは好き?)

さまざまな工夫をかさね、生活を送っている石田さんと高田さん。
視覚障害者への教育を研究している奈良里沙さんに、視覚障害者の暮らしについて解説してもらいました。

画像(視覚障害教育研究者 奈良里紗さん)

「目が見えない、見えにくい中で生活したり働いたりすることは特別なことに思えますが、実は誰でも工夫すればできることがほとんどなのです。みなさんも同じ状況になればたぶん同じことができます。一方で、視覚障害者だからといって、全員が同じ暮らしをしているとは限りません。石田さんの部屋はすごく片付いていると思うんですけど、残念ながら私の部屋はテレビに出せないぐらい(笑)。視覚障害者だからこうだ、と “ステレオタイプ”に決めつけないことも大事です」(奈良さん)

「視覚を使わない」ことで個性を発揮した偉人たち

便利になっているようで、視覚に障害がある人にはまだまだ親切な環境とはいえない現代。では、昔はどうだったのでしょうか。

全盲の文化人類学者で、障害者文化に詳しい国立民族学博物館の准教授・広瀬浩二郎さんに聞きました。広瀬さんによると、江戸時代は視覚障害に対する意識が現代とは違っていて、視覚に障害のある人たちが個性を発揮し、活躍していたと言います。

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全盲の文化人類学者 国立民族学博物館准教授 広瀬浩二郎さん

「江戸時代以前は視覚障害者に対して『視覚を使えない』ではなく、『視覚を使わない』というとらえ方をして、そこに強みを見いだそうという発想がありました。視覚を使わない代わりに聴覚や触覚があるじゃないかということで、鍼灸の名人や、有名な音曲をたくさん作った人もいます」(広瀬さん)

例えば、音楽の分野では、お正月によく耳にする、箏の名曲「六段の調」など数々の代表作がある八橋検校(やつはしけんぎょう)がいます。日本の音楽界に多大な功績を残した人物です。

画像(八橋検校)

そして、鍼(はり)の名人・杉山和一。鍼治療の主流となっている、管に針を入れて刺す「管鍼法(かんしんほう)」を発明したとされ、鍼灸の礎を築きました。※諸説あり

画像(杉山和一)

そんな偉人たちのなかで、広瀬さんが注目するのは全盲の国学者・塙 保己一(はなわ ほきいち)です。

画像(塙 保己一)

文字が読めないなか、耳で聞いた記憶を頼りに古代から近世までの膨大な文学書や歴史書を再編成し、「群書類従(ぐんしょるいじゅう)」という666冊の史料集にまとめあげました。これは今も日本史や国文学の研究に使われる重要な史料です。

画像(群書類従)

「お弟子さんが史料を読んで、説明して、それを聞いて覚えるわけですから、超人的な記憶力を持っていたのは確か。『視覚を使わない』のは大変なハンディキャップですけど、逆にそこから聞いて覚えるという能力が開花した。そういう側面があるんじゃないかなと思います」(広瀬さん)

時は移り、明治時代に入ると、視覚障害者をめぐる環境は大きく変化します。「富国強兵」が叫ばれるなか、文字を読むことができず、兵士にもなれない視覚障害者は、社会の隅に追いやられたと広瀬さんは話します。

「とくに近代以降は学校教育も始まりますし、情報を文字で伝えることが当たり前になっていくわけです。日本だけではなく世界において、視覚によって情報をより早く、より多く伝えるんだというトレンドがずっと支配的になっていく。そういうなかで、『視覚を使わない』ことで個性を発揮していた人たちが、だんだん『視覚を使えない』人たちとして虐げられていく。近代化と視覚障害者の間にはそういう大きな関係があると思います」(広瀬さん)

常識の危うさ
~全盲の国学者・塙保己一の逸話~


「目が見えるというのも、不自由なものじゃ」

ある夜、保己一が弟子たちに講義をしていたとき、風でろうそくの灯りが消えてしまいました。暗闇の中で弟子たちは大慌てする中、全盲の保己一だけは落ち着き払っています。そして、「さてさて、目が見えるというのも、不自由なものじゃ…」とつぶやいたそうです。

「今の我々の常識だと、視覚障害者が不便で、目が見える人が便利なわけです。でもたかがフーッと風が吹いてきてろうそくの火が消えてしまうだけで、僕らが当たり前に思っている常識はひっくり返ってしまう。それぐらい、僕らが寄りかかっている常識って実は危ういものなのだと。今の時代にも知ってもらいたいエピソードですね」(文化人類学者・広瀬浩二郎さん)

視覚障害教育研究者の奈良さんが視覚に障害のある人との向き合い方について、フクチッチのスタジオでこんな話をしてくれました。

「学校で学芸会をやるときに、私のような目が見えにくいクラスメイトが『主役をやりたい』と言ったらどうしますか? 『主役をやっていいよ』とか『ここは読むからサポートするよ』と言ってくれるクラスメイトがいてくれるかどうかが、とても大事なのです。その一方で、支援する、されるっていう関係性が作られやすいのが、障害のある人とない人なんです。どうやって決めたら公平に決められるのか、そこを考えられる関係性が大切なのかなと思います」(奈良さん)

フクチッチ視覚障害編(2)は、視覚障害のある若者たちの座談会をご紹介。激辛のからしを一口でパクっと食べちゃう「ポテサラトラップ」!?実は、生活に欠かせないはずの白杖が街で出しづらい!?。など見えないがゆえの失敗談や本音トークは“気づき”の連続です!

福祉の知識をイチから学ぶ“フクチッチ”
視覚障害(1)視覚に頼らない生活の工夫 ←今回の記事
視覚障害(2)声かけ&映画の音声ガイド

※この記事はハートネットTV 2022年1月10日放送「福祉の知識がイチから学べる新企画!“フクチッチ”」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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