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聞こえない学生の就活を応援! (後編) 面接の不安と悩み

記事公開日:2021年02月27日

聞こえない学生の就活に関する疑問やお悩みに、企業の人事担当者などが回答するトーク企画の後編。今回は、「手話で面接を受けたい」という“ろう”の学生の悩みについて考えます。模擬面接をしてみたところ「手話通訳を介した会話がうまく伝わるか不安」「面接官の質問を深読みしてしまう」といった悩みが浮上しました。面接で手話通訳をつける際のポイントや本番の注意点とは?

手話面接の悩み

「手話面接を希望する」と話すのは大学3年生の法戸拓武さん。日常会話は手話で、高校までろう学校に通い、現在は聞こえる学生と一緒に大学生活を送っています。

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法戸拓武さん

聞こえない学生の進学率はこの14年でおよそ1.7倍。就職活動においても、チャレンジできる職種が年々広がってきているといいます。

画像(聴覚障害のある学生の数)

出典:独立行政法人日本学業支援機構より抜粋

一方で「面接」に不安があるという法戸さん。状況を知るため、事前に模擬面接を実施しました。面接官役は番組スタッフが担当します。

画像(模擬面接にのぞむ法戸拓武さん)

「法戸さんは、ご自身の強みはどんなところだと考えていますか」(面接官役)

法戸さん:私自身の強みは共感力です。(手話)

「自分が共感できているか、いないかを判断するのは難しいんじゃないかなと思うんですけども」(面接官役)

法戸さん:そうですね。共感というのは簡単に見てすぐに分かるというものではないと思うんですね。その人の行動を見たりとか、たとえばしゃべり方を見たりとか、話す内容を考えたりとか・・・。

難しい質問にも堂々と答え、不安を抱いているようには見えません。法戸さんは何を不安に感じているのでしょうか。

法戸さん:手話通訳者がついての面接は1対1ではなく、第三者を介すことになります。自分の考えていることが違う形で相手に伝わってしまうのではないかと思います。それに加えて考えすぎてしまうところがあったなと思いました。質問された内容を深読みしすぎてしまうことがあるんですね。

お悩み① 話が正しく伝わっているか不安

模擬面接を通じ見えてきたお悩みは2つ。1つ目は「手話が正しく伝わっているかどうか」、2つ目は「面接官の質問を深読みしてしまうこと」です。

画像(法戸拓武さんの2つのお悩み)

まずは1つ目のお悩みについて、アドバイザー陣が解決策を提案します。

筑波技術大学教授の加藤伸子さんは大学で教べんをとるかたわら、多くの聞こえない学生の就職活動を支援しています。加藤さんは手話で面接を行う場合、事前の打ち合わせが大切だと考えています。

画像(筑波技術大学 加藤伸子教授)

「前もって通訳の方と十分面談する時間をとっていただければなと思います。自分の手話表現をどんな日本語にかえてほしいのか。あるいは自分の書いた内容を、通訳の方はどんな手話表現で表してくださるのか。お互いに確認いただけると、コミュニケーションがずいぶんスムーズになっていくと思います。あるいは『ちょっとどうかな?』と思ったら、手書きで書いた物を指さしながら説明いただくと、内容が伝わりやすくなるのかなと思います」(加藤さん)

法戸さんには疑問が浮かびます。

法戸さん:相手と私で手書きのやり取りをすると、時間がかかって面接の時間が延びて、迷惑がかかるのではないか。もしこの人が会社に入ったら、コミュニケーションに時間がかかると見られてしまう心配があります。(手話)

法戸さんの心配に対して、NEC人材組織開発部の中山洋子さんはこう答えます。

画像(NEC人材組織開発部 中山洋子さん)

「そこは不安に思わなくて大丈夫です。あくまでも面談は法戸さんご自身を知る場なので、時間をかけてでも理解していきたいと考えていますし、聴覚(障害)の方ですと、実際面接を設定するときに書いたりする時間も含めて少し長めの設定にしています。当社は、手話通訳を介さずに会社と応募者と直接のコミュニケーションをとっております。その理由は、入社したあとに日常の業務の引き継ぎとかで、口話、筆談、チャットというようなコミュニケーションの取り方になっているので、面接のときに入社後の環境と同じような形でお願いしているということがあります」(中山さん)

日本IBM人事D&I担当の杉田緑さんの会社では、聞こえない社員とのやり取りをチャットや音声認識アプリで行うことが多いといいます。

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日本IBM人事D&I担当 杉田緑さん

「面接において真に必要な場面があれば、企業側が手話(通訳)を手配することもあり得ます。ただ入社後については、手話(通訳)を手配できるイベント(場面)というのは限られている企業が多いと思います。じゃあ(面接)当日、伝わりきらない部分をどうしていくかというときに第三者を挟んだコミュニケーションを続けながらも、たとえばチャットで同時に質問してみるというのも、一つ、手としてありだと思います。実際、コロナ禍で在宅勤務が進んでいくなかで、チャットでいろんな質問をやり取りするケースはこれまで以上にすごく増えていて、逆にチャンスだと思うんですね。あらゆる企業で日常になってきているところも多いので、そこはぜひ前向きに捉えていただければと思います」(杉田さん)

また、ある調査によると多くの企業でコミュニケーションの手段として筆談を用いていることも分かりました。

画像(聞こえない若者に聞いた職場での情報保障)

出典:一般社団法人 日本聴覚医学会

法戸さん:自分の場合、筆談もできますし、手話通訳をつけていただいてのコミュニケーションどちらもできるので、その場面によって考えていきたいと思いました。

「ご本人が自分の話しやすいような環境で、十分に自分の思いを伝えられるということも、とても大切だと思います。どういう方法が良いのか相談するなど、丁寧にやり取りするといいのではないかなと思いました」(加藤さん)

画像(面接のポイント。大切なのは自分の考えを伝えやすい方法を学生自身が選ぶ)

手話通訳を希望してもよいし、チャットを選択してもよい。大切なのは自分の考えを伝えやすい方法を学生自身が選ぶことだといいます。

お悩み② 面接官の質問を深読みしてしまう

法戸さんのお悩み、2つ目は「面接官の質問を深読みしてしまう」というものです。

「多くの聴覚障害の社員の方と接していて、聞こえる側が口話で話をしていることに対して、いろいろ類推してくれているなと思うことがあります。ですので、文字に書くとか、パソコンで打つとか、なるべくテキストのやり取りをさせていただいているんですけれども…」(中山さん)

法戸さん:すみません、ちょっと訂正していいですか? いま自分が話したことと少しズレが生じているように思います。先ほど話した「深読み」というのは、質問された言葉の真意というか、どういう意図で質問されているかを深読みしてしまうということです。(手話)

「たとえばいまのやり取りのように、「違うんです。自分が言いたいことはこういうことなんです」と言うのは、コミュニケーションの一環だと思っています」(中山さん)

杉田さんも中山さんと同じ意見です。

画像(面接のポイント。面接の途中でも分からないことがあったら確認する)

「聞き返すことはまったく悪いことではありません。『自身はこういうふうに理解したけれども、それでも正しいですか』といった認識合わせはすごく大事だと思います。実際に会社に入ったあとも、最初はさまざまな専門ワードがいろいろあって、分からないことが多いんですね。障害の有無にかかわらず、そういったときに、『自身はこういうふうに理解して、明日までにこういうことをしていくつもりだけど、それで正しいですか?』といったコミュニケーションができると、この先の仕事がすごくしやすくなると思います」(杉田さん)

面接の途中でも分からないことがあったら確認する。自分の考えを明確にするのもコミュニケーションの一つです。

「今の私にできること」を前向きに伝えよう

最後に、企業のお二人から学生へエールをいただきました。

「当社単体では75人ぐらい、グループ全体では200人くらい聴覚障害の方が働いていらっしゃるんですけど、会社は『障害のあるあなた』を見ているわけではなくて、これまで障害とともに生きてきた『今のあなた』を見ているので、『今のあなた』を見せていただければなと思います」(中山さん)

「弊社の聴覚障害のある社員の中では、専門性を認められて、海外のお客様を支援するために南アフリカまで数か月間出張されていた方もいます。インターン生などを見ていても、最初は『私はこれができないんです』というところから始まって、聞こえない特性があるなかで、何が強みでどんなことがしたいのか、徐々に自信を持って伝えられるようになっています。ぜひみなさんも、やりたいことをやってみる。そんな前向きな姿勢を持って取り組んでいただきたいと思います」(杉田さん)

面接について不安を抱えていた法戸さんですが、今回の経験がいかせそうだと話します。

画像(トーク企画に参加してくれたみなさん)

法戸さん:きょう学んだことや知ったこと、たとえばコミュニケーションの取り方をいかして、ろう者である自分をもっと強く出して企業の面接を頑張りたいと思います。ありがとうございました。(手話)

聞こえない学生の就活を応援!
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※この記事はろうを生きる 難聴を生きる 2021年2月27日(土曜)放送「就活応援企画・後編~面接の極意~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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