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在留資格がないから、しようがない?(1)サヘル・ローズさんの思い

記事公開日:2022年03月23日

『マイスモールランド』は、日本で育ったクルド人の高校生・サーリャの物語。2022年5月に映画が公開、テレビドラマ版は3月24日にBS1で放送です。サーリャと家族は日本で難民申請をしたものの認定されず、在留資格を失い、就労や移動を制限されます。生活が厳しくなるなか「しようがないよ」とつぶやくサーリャ。国のルールだから、生活できなくてもしようがない?サーリャの親族役で出演したサヘル・ローズさんは、その問いにNOと答えます。8歳の頃にイランから来日し、近年は難民の支援活動もしているサヘルさんの、作品への強い思いを聞きました。

撮影は、知らない言葉なのになつかしく

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[ドラマより]サヘルさん(左)は主人公サーリャの親族ロナヒ役

サヘル・ローズさんが今回演じたのは、主人公サーリャの親戚のクルド人女性役。監督とプロデューサーから出演オファーがありました。台詞は、全編クルド語とトルコ語。サヘルさんは、この作品に惹かれたものの、引き受けるかどうか迷ったといいます。

「言葉の問題だけでなく、難民の方々の思いを代弁するということは、責任重大だと思いました。ただ出たいというだけでは成り立たない。ちゃんと理解をしなければならないし、敬意を払いたかったので、私が出演するのは難しいと思ったんです。でも監督とプロデューサーの方から温かいメッセージをいただいて、そしてお会いしたときの監督のまなざしがすごくまっすぐで。
今回はクルドの方々に焦点をあてていますが、世界中で難民となってしまう方々は同じ思いをしていくので、そういう方々のためにもこういう作品は必要だと思いました。それに関わることは必然かもしれないし、声をかけてもらえたことはありがたいと思い、やると決めました」(サヘルさん)

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[ドラマより]クルド人の結婚式 紫のドレスがサヘルさん演じるロナヒ

撮影では、在日クルド人の出演者との交流もありました。クランクイン前にクルド語のワークショップをしたり、伝統的な踊りを踊ったり。演じる者同士が言葉の通じない現場で、互いの距離は少しずつ縮まっていったといいます。

「結婚式のシーンの撮影では、出身地域も年齢もさまざまなクルドの方々が来ていました。私たちはせりふは暗記していましたが、せりふ以外のことはわからない。言葉が分からないけど声をかけられるし、私も一生懸命ペルシャ語で返したりするのね、『伝わるかな-!?』と思いながら(笑)。でも途中から何となく心が通じ合える。私の国にも、国を持てなかったイラン系クルドの方々がたくさんいるので、近くに感じられました」

サヘルさんは、自分を産んだ親を知らず、イラン人の養母と日本で暮らしてきました。今回の撮影現場では自分のルーツに思いを馳せることになりました。

「私自身、どこで産まれたのか、どんな産みの親だったのか、知らないんですよね、自分でも。たまに『顔がクルドに似てるよね』と言われることがあって、『もしかしたらイラン系クルド人だったのかな』と考えました。知らないからこそ、その可能性だってあるわけじゃないですか。自分のいろんなことを照らし合わせながら、ちょっと懐かしい気持ちになりながら、不思議な感覚でそこ(撮影現場)にいましたね。」

描ききれない、痛み ― 無期限の「収容」と「待つこと」

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[ドラマより]主人公サーリャ一家は在留資格を失う

「みんなで作品をつくることができた」と感じつつも、サヘルさんは別の葛藤も抱えていました。
「どんなに映画で伝えようと思っても、彼らの痛みまでは表現しきれないんですよ」。

『マイスモールランド』では、主人公の父親が入管施設に収容されるシーンが登場します。日本では、難民認定申請が認められず強制退去を命じられた人は、送還まで収容されることが入管法で定められています。
サヘルさんは7年前から、収容施設の電話通訳をしてきました。収容されたイラン人が施設内の診療所やカウンセリングを利用する際、医療者と当事者の間で、電話を介して通訳を担うボランティアです。サヘルさんはそこで、在留資格を失った人の声を聞いてきました。

「収容されている環境が残酷だと耳にするんですよね。食事は冷たい、人間として扱われないと。『日本は難民を受け入れているって聞いたから来たのに、来てみたらその間口はあまりにも狭すぎる。だったら難民は受け入れないと言ってくれた方が別の選択ができた』と」

「忘れられないお父さんがいて。通訳は自分の名前は伝えられないし、言われたこと以外は通訳できない決まりですが、『もう殺してくれ、いっそのこと。幻聴が聞こえるんだ』というんです。壁を頭に打ちつけて『死んだ方がいいんだ、僕は居場所がない。いっそのこと殺してほしい』って、泣きながら。家族にも電話ができないんです、お金がないから。国に戻る場合も、自分たちでチケットを買いなさいと言われるけど、買えない。家族は、自分と急に連絡が取れなくなって居場所がわからなくなっているから、電話ごしで、もしくは(外部の病院などへ)通訳についていくときに、こそっと電話番号を渡されるわけですよ。『家族に電話をしてほしい』って。『生きてるから、それだけ伝えてほしい』とか『仕送りができなくなっちゃってごめんと連絡して』とか。そういうことに触れると・・・すごく心が苦しくなる」

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[ドラマより]ロナヒは収容された夫を2年待つ

さらに見えにくい痛みもあります。それは、収容された人を「待っている人」の心の傷。
サヘルさんが演じたロナヒは、夫が収容されて2年という設定です。日本では退去を命じられた場合、収容期間に上限がありません。親やパートナー、子どもたちも、待たされ続けることになります。
「ずーっと、待つって・・・」。ロナヒの心情を思い、サヘルさんはしばらく言葉につまりました。

「本当に生活が厳しい状況で、とにかく家族の帰りを待っている。家族が、お互いの居場所なので。難民になってしまう方々にとって唯一の帰れる場所。帰る“国“はないけれども、帰る家と待ってくれる人がいる。それがもう、その人にとって“故郷”なんですよ。
今回は収容されたケースですけれども、例えば今ロシアとウクライナの件でも、多くの難民って、女性と子ども。兵士として戦場に出ている自分の夫が帰ってくるかどうかもわからない。かつ、生き延びたとしても、自分たちがいるところに夫がたどり着くかどうか、連絡の術もなくなっていく。永遠に帰ってくるかどうか分からないなか生きている方々って、現在進行形で増えてしまっているわけですよね」

サヘルさんはドラマで、切ない表情でロナヒのつらさを表現しました。しかし今、少し反省があるといいます。待たされ続ける人の痛みをちゃんと伝えることができたのか、作品が完成した後も考え続けています。

「こんなこと言っちゃいけないんですけど、もっと(演技が)違ってたのかもって。私は自分が『苦しい』時の気持ちを思い出して演じたけど、苦しいときほど人は強がるし、笑っている。私の演じたような“ロナヒ”もいたかもしれないけど、違った角度もあるんだろうなって・・・すごく難しかったです。
こんなに甘くないよって思われるかもしれない。私が当事者を傷つけることがなければいいな、それが一番怖いなと思います」

人の命を救えるのは、信頼

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[ドラマより]子どもたちを気遣うロナヒ

主人公のサーリャは、収容は免れたものの、就労や登録地域外への移動を禁じられ、医療保険に入ることができない、仮放免となります。正規の在留資格ではないため、そのあまりの不自由さに「屋根のない収容」と呼ぶ人もいる不安定な身分です。出入国在留管理庁の統計によると、仮放免者(収容令書・退去強制令書によるもの)の数は、5781人に及びます(2020年12月末時点)。

「今回の作品にも明確に出ていますけど、仮放免の方々だって、働けなくなるわけですよね。それって食べていけないんですよ。そのルールって何?食べられないんだよ?補償もなにもない。追い込んで、彼らがここにいられないようにしているルールとしか思えないことが多くあり、人道的ではないと感じます」

アルバイトを続けられなくなったサーリャは、一緒にアルバイトをしていた高校生の聡太の心配に対して「しようがないよ」とつぶやきます。入管法で決められたことだから、母国に帰れないのは個人の事情だから、「生きていけない状態におかれてもしようがない」のか。サヘルさんは、異を唱えます。

「本当に、しようがなくないよって思いました。それって本当に残酷です。じゃあ、あなたはそれで生きていけますか?家族を守れますか?『しようがない』『これは規則ですから』となってしまってはいけないと思うのです。
(母国に)帰ることで命を奪われてしまう、家族を守れなくなってしまう。もしくは自分の国に仕事がなかったり、女性として立場が危うかったり、そういう人たちの中には正当な理由もあるわけです。その証明をみせなさいと言われても、戦禍を逃れた人たちが自分の(証明)書類をかき集めることはすごく難しい。
規則が人の命を救うわけじゃない。人を救えるのは、生身の人間からの信頼。最初から疑ってしまったら、そこで関係性が途絶えてしまう。信じてくれる人たちがいれば、彼ら彼女らもこの国に対してちゃんと恩返しをして生きようとする。
日本の社会は、外国の方の力を借りて築かれています。たとえば高い建物だって、違った国籍の人たちと一緒につくってきている。私たちはもう関わり合っているんです、無意識にいろんなところで」

ふたつの国の狭間で、“小さな世界”にこもる子どもたち

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[ドラマより]サーリャと妹と弟は日本育ち

在留資格を失った人々が立たされる現状に憤りながら、もう一方でサヘルさんは、作中で描かれる、日本で育ったクルド人の子どもたちに思いを寄せていました。

「台本を読んだときに、サーリャが幼い自分に思えたんですよ。私は難民ではなかったけれど。私も中東のイメージが悪い時期は、自分がイラン人だと言いたくなかったです。祖国を嫌いになることもありました、正直。
異国の地で子どもたちは言葉を早く習得する、でも親は追いつけない。習慣文化も違う、寂しい思いをしている。親が学校に来ても、みんなと見た目が違う。なかなか来てほしくないし、来ても自分がいつも通訳をしていたり、病院に行くのも、家賃を払うのも計算するのも書類を書くのも、全部、赤いランドセルを背負った自分だった。誰にも助けを求めることができなかったです。
あの年齢で、等身大を生きられないっていうのは、すごく苦しいことなんです。でもきっとそういう思いをしている外国籍の子はたくさんいると思います。学校で宿題を渡される、でも親は日本語が分からない、誰も教えてくれない、地域にも面倒を見てくれる人がいない。
みんな自分たちのコミュニティーの中でしか生きられない。本当に“マイスモールランド”。地域と関わらないからこそ、小さな世界にこもるしかない」

日本は「子どもの権利条約」を批准しているため、国籍や在留資格に関わらず、すべての子どもに教育を受ける権利が保障されています。学校へ通い、日本人の友だちもできていく。それにも関わらず、ひとたび在留資格を失うと、法務省からは日本を退去しほとんど知らない国籍国で生きていくことを要求されてしまいます。
サヘルさんは、子どもたちが国のルールに翻弄されることを心配しています。

「私もそうだけど、いま急にイランに戻ってくださいって言われたら、もちろん1カ月くらいの間なら、いいかもしれない。でも日本の文化の中で育って、日本がもう1つのふるさとの自分からすると、何度も根っこを引き抜かれて鉢に植え替えられても、ある程度伸びた根っこをちぎられちゃうと、もうさすがに、栄養が行き届かなくなってしまう」

矢を向けるのではなく、議論していくために

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[ドラマより]ラーメンを食べるサーリャ一家

10代の少女の目線から、さまざまなテーマを照らし出す今回の作品。サヘルさんは、これまで難民や外国人の置かれた現状に関心のなかった人にも知ってもらうきっかけになるのではと期待しています。

「難民とかいう問題以前に、家の飾りや食事風景もすてきですし、お父さんの亡くなった奥さんとの出会いや思い、ひとつひとつの会話の中に彼らの日常が伝わってくると思うので、そういうのをみると「なんだ、みんなふつうの人たちなんだ」って、興味を持ってもらえるんじゃないかな。
こういう問題提起をすると「入管が悪者」みたいになるんですけど、悪者をつくることが解決策ではないので。入管の中にもこの問題を疑問に思いながら働いている人もいる。現状を変えていくのは国の制度であり、その国の制度を変えるのは国民の意識だと私は思っていて。
大事なのは、社会全体で向き合うこと。誰かに矢を向けることではなく、社会全体で『どうしようか~これね』ってちゃんと議論を、優しく、していくこと。思いやりをもって、時間をかけて向き合っていくことが、種まきになっていくんじゃないかなと思います」

執筆者:乾英理子(NHKディレクター)

※この記事は、2022年3月24日放送、国際共同制作ドラマ「マイスモールランド」(BS1)を基に取材、作成しました。映画「マイスモールランド」は、第72回ベルリン国際映画祭にて日本作品で初めてアムネスティ国際映画賞・特別表彰を授与されました。

在留資格がないから、しようがない?
(1)サヘル・ローズさんの思い ←今回の記事
(2)国際人権法研究者・阿部浩己さんと考える
(3)大澤優真さんの医療支援

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