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生活保護を必要としている人、そして現場で働く人へ(2)身近で使いやすい制度にするために必要なこと

記事公開日:2022年03月15日

市民生活を支える“砦”となるはずのセーフティーネット「生活保護制度」。どうすれば、生活保護はもっと身近で使いやすい制度になるのでしょうか。ケースワーカーの労働実態は? 生活保護の問題点やあり方について、元ケースワーカーで生活保護問題対策全国会議 事務局次長の田川英信さんにわかりやすく答えていただきました。

画像(田川英信さん顔写真)田川英信さん 生活保護問題対策全国会議 事務局次長
都内自治体のケースワーカーとして10年間勤務し、保護担当係長も経験。社会福祉士。
生活保護問題全般に取り組み、講演会活動などを精力的に行っている。

「若いから生活保護はだめ」はどうすればいい?

――若さを理由に生活保護の申請を阻まれたという声が届いています。1人は、当時、原因不明だった体調不良で限界を感じ、生活保護の相談に行ったところ「あなたはまだ若いし、ハキハキものを言えるからもう少し頑張ってみたら」と言われた方。結局、発達障害と双極性障害と診断され、障害者手帳を持つようになると申請がスムーズに進み、生活保護を利用しているそうです。もう1人は、30歳当時、10歳と7歳の子どもがいるひとり親の方。生活保護の申請に行った先で「その若さで市民の税金の上にあぐらをかく気か。全部税金なんですよ?!」(投稿原文より引用)と怒声を浴びせられたそうです。こうした対応、田川さんはどう考えていますか?

田川:どちらも非常に残念な話です。こうした対応はあってはいけませんし、違法です。これでは行政に対する信頼もなくなります。いわゆる水際作戦です。

――こうしたケースがあると、「自分は若いから生活保護が利用できない」と思い込んでしまう人もでてくるように思います。

田川:そうですね。今、困っていれば、仮に働く能力があっても、生活保護の利用はできます。こうした水際作戦のような対応が起きるのは、現場の人が研修をきちんと受けずに仕事をさせられていることが背景にあります。

――1人目の方は、障害者手帳を持つようになってから生活保護の利用を開始されたということです。

田川:もちろん障害者手帳がなくても、生活保護は利用できますし、しなければなりません。

「働きなさい」「納税の義務がある」と言われるのが怖い

――生活保護の申請段階や利用開始後の仕事についての声も届いています。ASD・ADHD不注意優勢型と診断された52歳の男性は、「働けるかどうか聞かれるのが怖い。働けるなら働きなさいと言われ、生活保護の話を打ち切られたら生活できない」と寄せてくださいました。

田川:これは取り越し苦労です。申請段階でたとえ働けたとしても、現在、働いていない、あるいは働いていても収入が少なければ生活保護の開始はできます。開始したあとの「働いてくださいね」という就労支援はあります。ですが、いま働けるけれど、困っている方に「働いたらいいんだから」と言って話を打ち切るのは違法です。もし自治体でそういう対応があれば、いわゆる水際作戦で大きな問題になります。ですから、心配しなくても大丈夫です。

たとえば保護が開始したあとに、求職活動を一生懸命にやっていない、本当に働く気がないということで、「稼働能力を活用していない」として生活保護が廃止になったりする場合がありますが、裁判ではその多くが原告側、すなわち生活保護利用者が勝っています。ある会社に応募さえすれば採用される、あるいは会社側が採用すると言っており、本人がその気になればすぐに働ける、という状況ではない限り、自治体が「稼働能力を活用してない」=「保護廃止に値する」とは言えないということになっているので、安心していいと思います。

この方のようにASDやADHDがある場合、役所が病院に「検診書」、つまり稼働能力の調査を依頼します。この方が働けるのかどうか、仮に働くとしたらどの程度の時間が可能か、あるいはどういう職種がいいか、そういったことについて医師の見解を問います。たとえば症状や特性によっては、他者との関係がうまくいかずに、仕事が長続きしないケースもあるので、医師の判断を受けて役所としても、「のんびり仕事を探しましょう」という形になります。

――生活保護を利用しているものの、行政の担当者から「早く働いてください、国民には納税の義務がある、あなたに職業の選択はない」(投稿原文より引用)と発言されたという声も届いています。

田川:これは言ってはいけない言葉です。「職業の選択の自由はない」と言われたということですが、職業には向き不向きがあります。選択の自由がないということはありません。たとえば、パソコンがまったくできない人に事務仕事をしろと言っても無理ですし、体が弱い人に土木作業をしろと言っても無理でしょう。ただ、あまり選り好みできないという面はあります。たとえばその人にふさわしい仕事があるのに「もっとほかにいい仕事はないのか」と言っても、なかなか認められにくい。働けるならとりあえず働いて、次にいい仕事が見つかったら転職すればいいんじゃない?というかたちになることが多いですね。

――これから生活保護を利用しようとしている人や、生活に困窮して窓口を訪れる人に対して、「納税の義務がある」という発言についてはどう感じますか?

田川:これは、「申請するな」と言っているのと同じで、非常に問題だと思います。体よく追い返すための手段として「甘えるな。税金で成り立っているんだから自分でなんとかしろ」などと言っているだけで、やってはいけないことです。
ではなぜ、こんなことをやるかといえば、やはり研修不足、人権教育の不足があげられます。市民のなかには「(生活保護を利用している人が)自分の税金でパチンコに行ったり、酒を飲んだりするのは許せない」というようなことを言う人もいますが、それと同じような感覚を持っている職員が自治体にもいるわけです。本当はしっかりした研修を終えている方がこの仕事に就かなければいけないのですが、そうなっていないところがあるんですね。

――「自分が払っている税金を使われて腹が立つ」のような心理と、どう向き合ったらいいのでしょうか?

田川:そもそも、一度支給された生活保護費は使い道が自由です。これは最高裁の裁判例でもそうなっています。私が勤めていた区役所でも、住民の方から「保護費をもらっている誰々が、公園で酒を飲んでるから注意しろ」といった電話がありました。そうしたとき、私は「いったん支給されたお金は自由に使っていいんです。もしそれでやりくりできない場合は、こちらで生活のあり方を変えるように働きかけはします。いただいた情報は受け取りますが、許されない話じゃないんです」と説明していましたが、たいてい苦情を言った方に怒られてしまうんです。それでも、保護費の使い方は自由ですから、そうした周知もしなければいけないと思います。

――支給された保護費を、生活を脅かすほどお酒などに使ってしまう人には何らかの支援や指導が必要ではありますが、制度上許されている使途にまで過干渉になると、自分が生活保護を利用する立場になったときに肩身が狭くなるのではないでしょうか。

田川:似たようなケースで「食料は配給制にしろ」「生活保護世帯の人が暮らす住宅を作って、そこに住んでもらえばいい」など、いろんなことを言う人がいますが、残念なことに自治体からもこうした声が上がることがあります。そうした人権感覚というか、「生活保護世帯なんだから窮屈な生活をしろ」といった考えが、日本人の中に染み付いてしまっている。それがずっと受け継がれているので、非常に苦しい、生きづらい日本になっているんじゃないかと思います。

市民的な自由は生活保護世帯にも当然あって、それを制限するのは、自分がいざ困ったときに自分の首を絞めることになるということを伝えたいですね。困ったときはお互い様だし、生活困窮に陥るのは誰にもありうることです。たとえばコロナ以前に年に1000万円以上の収入があった人が今ホームレスになっていたりもします。本当に明日は我が身だと思います。困ったときにも肩身を狭くして生きなくてすむような社会にしたいと思います。

――生活保護世帯に対する辛辣な意見は、「自分も苦しいなかで頑張っているのにずるい」というような気持ちが根底にあるのかもしれません。市民的な自由を制限することは、いつか自分の首を絞めることになる。つまり、自分のための社会保障なんですね。

田川:1年ほど前に実施されたあるアンケート調査では、低所得者が生活保護世帯を批判してるのではなく、中流家庭以上のほうが生活保護に対するバッシングがひどかったことがわかりました。自分の所得が高くてこんなに税金を払っているのに、なんで生活保護世帯やホームレスに金を使うんだという感覚を持っている方が多いようです。

ほかにも「生活保護基準を下げろ」と言う人がいますが、実は、生活保護基準は、生活保護を利用してない方にも影響があります。国民健康保険料や介護保険料の減免、障害世帯の施設利用料、就学援助などです。たとえば就学援助は、「生活保護基準の1.1倍や1.2倍まで利用できる」など、自治体によって決められています。つまり、もし生活保護基準が下がると、就学援助をこれまで使っていた方が使えなくなります。
ほかにも住民税にも影響しますし、国民健康保険や介護保険料の減免を受けることができなくなったりもします。地方制度では、たとえば東京都のシルバーパス(都営地下鉄やバスを低負担で利用できるパス)の利用料にも影響します。
生活保護世帯の首を絞めるのは、自分の首を絞めていると同じだということを考えていただきたいと思います。

ケースワーカーの労働実態は?

――「ケースワーカーの労働実態を報道し、改善していかないと生活保護利用希望者への不適切な対応はなくならないのでは」という現場で働く方への懸念も寄せられました。

田川:ケースワーカーは精神的な負担があり、労働時間も長くなりがちです。昼間は訪問して、勤務時間外にケース記録を書くといったことを日常的にやっている職員もいます。業務が追いつかず、精神疾患になるケースワーカーの方もいますし、ケース記録を1年書けていない人もいます。そうすると、いま何が起きているのか、どうなっているのかがわかりません。たとえば、生活保護を受けている人が入っている施設から「危篤だから親族に連絡してください」という電話があっても、ケース記録上は家にいることになっていたりすることさえありました。

ケースワーカーは自分に余裕がないと援助ができません。余裕を持てる人員体制と、余裕を持って仕事ができる経験、研修の蓄積をケースワーカーが持てるように、体制を整えていただけたらと思います。生活保護の職場は、自治体のなかで不人気の職場トップ3にたいてい入っていて、なりたいという異動希望者があまりいません。でも、実際にはやりがいもありますし、非常に喜びを感じる可能性のある職場でもある。そういう職場に変えていかないと、住民の命も救えないし、いわゆる水際作戦のような不適切な運用、違法な運用が消えないと思います。

――田川さんご自身は長年ケースワーカーとして働き、保護担当係長、さらに嘱託職員としても生活保護の現場を経験されました。どういうところにやりがいを感じられていましたか?

田川:いちばんのやりがいは、利用されている方が明るくなっていく姿を見られることです。仕事を見つけて生活保護を利用しなくてすむようになった方や、なかなか服薬できなかった方が通院して作業所に通えるようになった様子を見られることも喜びです。あるいは虐待のある家族をチームで連携して支援し、対応できたというのもやりがいのひとつです。たくさんのやりがいがあります。

ケースワーカーは、人生経験があればあるほど、対応しやすい職場だと思います。なかにはケースワーカーを若手にはさせず、一定年齢以上しか就けないとしている自治体もあります。
間違った正義感から「生活保護なんか受けないほうがいい」「どっちみちこいつら不正受給するんだ」といった感覚で対応することがないように、しっかりした研修が必要だと思います。

生活保護の利用をためらっている方、現場で働く方へ

――今、生活保護の利用をためらっている方、そして現場で奮闘されている自治体のケースワーカーの皆さんに、これだけはぜひ心に留めておいてほしいというメッセージをお願いします。

田川:生活に困っている方は、ぜひ役所に相談に行っていただきたいということです。頑張っている自治体がたくさんありますから、救われる可能性があります。もし、だめでも各地にある生活保護利用を支援する法律家ネットワークに相談すると弁護士や司法書士が無料で支援してくれますし、ほかにもNPOの支援団体がありますので、ぜひ利用してください。利用することで、自分一人ではうまくいかなかったことが、すんなりいくこともあります。

現場で頑張っているケースワーカーの皆さんは、本当に大変な仕事をやっていらっしゃると思います。ただし、やってはいけないこと、違法なことをしている自治体があるのもまた事実です。その背景は、現場のケースワーカーが悪いのではなく、そういう仕事や状態にさせられているということだと私は思っています。その場合は、体制を変えることが必要ですから、働きにくいとか、働きづらいと思っている方は、ぜひ現場で、たとえば労働組合も含めて声を上げて、変えていくことが必要になると思います。

そして、制度が実情に合わない、もっとこんな制度があったら支援できるのに、というのがあったら積極的に制度改善のための「改正意見」(福祉事務所から実状に合わせて改善を求める制度)を厚生労働省に出してほしいと思います。
生活保護は硬直した、ずっと同じ制度ではなく、年ごとに少しずつ変わり、少しずつ良くなっています。現場の声を上げないことには、厚生労働省は動きません。自治体の現場にいる方は、ぜひ声を上げてほしいと思います。

生活保護を必要としている人、現場で働く人へ 専門家からのアドバイス
(1)生活保護の申請・利用について
(2)身近で使いやすい制度にするために必要なこと ←今回の記事

タイトル画:内田かずひろ

※この記事はハートネットTV 2021年10月5日放送「みんなの生活保護! 第1夜・権利を阻むもの」、6日放送「みんなの生活保護! 第2夜・今こそ、制度を活用しよう」に関連して作成しました。

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