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生活保護を必要としている人、そして現場で働く人へ(1)専門家からのアドバイス 申請・利用について

記事公開日:2022年03月15日

市民生活を支える“砦”となるはずのセーフティーネット「生活保護制度」。2021年10月に放送した「みんなの生活保護!」には大きな反響が寄せられました。今回は番組内で答えきれなかった「預金があると生活保護を申請できない?」「扶養照会をされるときは?」など、寄せられた質問について生活保護問題対策全国会議・事務局次長の田川英信さんに答えていただきました。

画像(田川英信さん顔写真)田川英信さん 生活保護問題対策全国会議 事務局次長
都内自治体のケースワーカーとして10年間勤務し、保護担当係長も経験。社会福祉士。
生活保護問題全般に取り組み、講演会活動などを精力的に行っている。

子どもの進学のための預金があると生活保護を申請できない?

――2人の子どもがいる、ひとり親の女性から「子どもの高校進学のために50万円を貯金していたが、その貯金があると生活保護の申請は無理と言われた。無一文にならないと申請できないのでしょうか」という質問が届いています。こうしたケースは多いのでしょうか?

田川:多いですね。「申請は無理」と言われると、預金が5万円やゼロになっても申請に行くのを諦めてしまう方が結構いらっしゃいます。生活保護が必要かどうかの判断は、1か月の最低生活費、つまり保護基準から導きだします。保護基準は世帯の人数によって異なり、その基準以下でないと生活保護は開始できません。この女性は子どもを入れると3人世帯。女性や子どもの年齢、家賃の基準が不明ですが、保護基準が3人で50万円以上になることはありませんから、確かにこの申請は却下されてしまいます。

前提として、生活保護開始のときに持っていてもいいお金は、その世帯の保護基準の半分以下です。もし、保護基準の半分を超える手持ち金があると、初回の保護費が減らされます。ですから窓口では、保護基準12万円の方は「手持ち金が6万円を切るようになったら相談に来て」と言われることが多い。

ですが、この女性が50万円を持っていてもいい方法があります。学資保険です。学資保険の場合は、50万円以下だとそれは手持ち金とは考えないことになっています。仮に解約したら50万円近くあったとしても、生活保護開始時の手持ち金はゼロという評価になります。この女性も、もしそのお金が学資保険であれば、生活保護の開始ができました。

――「今後、生活保護を利用する可能性があるかもしれない」という段階で学資保険に切り替えることはできるのでしょうか?

田川:保険に入る・入らないの自由はありますから、生活保護申請までの間に切り替えることは構いません。「お金を隠匿した」と厳しい見方をするケースワーカーもいるかもしれませんが、何もやましいことはありません。また、高校進学時の費用については、全部ではありませんが、必要に応じて一時扶助というかたちで基本生活費とは別枠で支給されます。 例えば通学に必要であれば自転車購入費用、駅の駐輪場にとめる必要があるなら駐輪場代も出ます。一方で、携帯代は出ません。微妙なのが電子辞書代です。電子辞書代は「全員が揃える」と言われている場合は出ますが、ふつうの辞書か電子辞書か選べるなら、電子辞書代としては出ません。

――その場合、学校からの証明は必要でしょうか?

田川:学校からの案内文書で大丈夫です。「全員が買うもの」と書いてあるものは費用が支給されますが、「希望者のみ買うもの」などと記載されているものは出ません。

――一時扶助から支給されることを考えると、高校進学時の費用として貯金している50万円を維持しようとするよりも、学資保険に切り替えて、生活保護を利用する手もあるということですね。

田川:そうですね。中学生の場合には、就学援助制度がありますが、生活保護からもでる部分があります。たとえば給食費は、教育扶助として出ます。ですから、早めに生活保護につながるほうがよいと思います。東京都では被保護者自立支援事業を実施し、一定の学年の子どもの塾代を支給できる制度を作っています。これは生活保護法ではなく都独自の事業ですから、全額が地方自治体負担になります。全部の自治体でできないのが残念ですが、東京都がそういう事業をやることによって、国の制度が変わってきている面もあります。自治体のそういった取り組みは、国の制度自体を変えていくという意味でも大事だと思います。

入院中は生活保護費が出なくなる?制度の誤解

――続いては、生活保護を利用されている方が入院した場合について。「入院が1か月以上だと、生活保護費が全額カットされてしまう。家賃、光熱費、携帯代金をどうやって払えばいいのでしょうか」という声が届いています。

田川:この方は制度を誤解されていると思います。「生活保護費が全額カット」ということはなく、家賃は出ます。たとえば10月5日に入院して11月5日まで入院していると、1か月を超えるため、11月1日付けで保護費の基準変更があって、11月1日から「月に23,110円」(2021年度。冬季加算は除く)という全国共通の入院基準額に変わります。

いわゆる生活費の中の生活扶助部分は個人によって違いますが、加算を除いて、安い方で68,000円くらい、高い方で8万円くらいある金額が、23,110円に変わるわけです。家賃など住宅扶助はそれまで通りです。ただし、光熱水費や携帯代は23,110円の中でやりくりしないといけません。光熱水費の基本料金は使わなくてもかかってきますし、今は携帯があるから余計にかかります。ほかにも、たとえば病院に入院した場合のパジャマ代は自費です。自分のパジャマを持ち込む場合はいいのですが、病院から病衣の指定があると、月に2万円近くかかるところもあります。

また、10月1日から11月3日まで入院していたら、このときは保護費の基準変更は翌月11月1日にならず、10月1日からです。10月1日から保護費が下がります。10月2日に入院すると1か月と3日入院していても影響を受けるのは11月分の3日間の保護費だけですから、そういうことを知っているといいと思います。
一方で1か月以内に退院すると保護費の変更はありません。私がケースワーカーとして担当していたときは、まだ入院の必要があるのに、1か月を超えないよう、無理に退院してしまう方もありました。

――23,110円という金額で、やりくりは可能なものなのでしょうか? それとも、制度上、改めたほうがいいポイントがあるのでしょうか?

田川:私は足りないと思っています。かつて病衣は保険請求でした。生活保護の場合は、保険請求の場合、自己負担なしで使えます。ところが制度が変わって自己負担になりましたから、本来であれば入院基準額を上げなければつじつまが合わない。それをしていないのが非常に問題なわけです。福祉事務所からも金額を上げてほしいという要求を出しており、少しずつ良くはなってきているので、いずれ少しは改善されるかなと思っています。

一人暮らしを始めて、生活保護を利用したい

――家族との不仲や、両親の高齢化などを理由に「一人暮らしをして生活保護を利用したいが、アパートが見つからない」という声が多く寄せられています。生活保護を受けるには、どのような条件が必要なのかあらためて教えてください。

田川:生活保護には「世帯単位の原則」というものがあります。生活保護を開始するには、他の家族と別世帯になる、別生計になることが必要です。たとえば、「離婚はしてないけども、夫のDVから逃げたいと思っている。ただし、ずっと家計は一緒で、自分がお金を一定預かって、それで世帯全員で賄っている」といった女性の場合は、家を出る、あるいは家を出たという形で、別世帯、別生計とならなければ開始ができないのです。こういうケースで私に言えるのは、「家を出る」ということしかありません。

申請の流れは、まず家を出る状態にして、福祉事務所に相談し、「生活保護が開始したら貸せる」という物件の見積もりを持って行きます。そこで、その物件に住みたいことを伝えると、生活保護が開始になった段階で敷金・礼金などが一時扶助で出ます。

ほかには、小さな子どもを連れた母子から「今夜、泊まるところがない」といった相談もあります。そうした場合、自治体では一時的に暮らせる場所を設けているところも多くあるので、ぜひ相談してください。また、生活保護の住宅扶助でホテル代も一定限度出ます。

東京の場合は単身世帯の住宅扶助基準が53,700円ですが、特別基準といって、その1.3倍額の69,800円までホテル代を出すことができます。さらに、コロナウィルスの影響による緊急事態宣言の期間中は、東京都では69,800円ではやりくりできない場合があるということで、特別基準で月に12万円までホテル代を出せることになっていました。また、東京都以外の自治体でも、単身の保護世帯基準の1.3倍額までは、ホテル代がでました。この情報は、保護手帳にも、生活保護の別冊問答集にも載っていない情報ですが、去年から複数回、同じ通知が厚生労働省から出ています。

――ホテル代が出ることを知っているのと、知らないのでは大きく違いますね。ただ、地域によっては、ホテルがなく、二の足を踏む方もいると思います。

田川:私も以前、千葉県の山間部の方に「ホテルなんてない」と言われたことがあります。でも、地元の市町村で生活保護を開始して、寝泊まりするのが千葉市でもいいんです。あるいは、千葉市で生活保護相談をしてもいい。家を出た以上、どこで相談するかは自由です。住まいがない方は、相談するのは特定の市町村ではなく、どこでもいいんです。

――家を出て、一人で生活保護を利用しながら生活を立て直したいと思っているときには、できるだけスムーズに個別の事情に対応いただきたいですね。

田川:そうですね。たとえば「親が高齢になって、将来の生活が不安。自立して一人で暮らしたい」という希望を持っている方に、役所の人が「実家で暮らせるんだったら、家を出ないほうがいいんじゃない?」と言うこともありますが、どこに暮らすかどうかは本人の自由です。一人暮らしをして生活ができないのであれば、当然、生活保護が利用できます。
もし、アパートが見つからないときは、「セーフティネット住宅情報提供システム」と検索してみてください。2017年に改正された住宅セーフティネット法は、高齢者や障害者、子育て世代、低所得者、被災者など、住居をなかなか確保できない方たちが住まいに困らないようにする制度なんです。そのなかで居住支援をやっている自治体もあり、物件の斡旋を受けられる可能性があります。 また、「生活保護 アパート探し」などのキーワードでインターネットを検索すると、専門の不動産屋会社が見つかります。なかには悪質なところもあるので要注意ですが、物件がないわけではありません。生活保護の方であれば家賃が確実に入る、ということで歓迎する貸主もいるんです。ですから、アパートが見つからなくても、悲観されることなく、自治体の支援を受けてください。保護が決まれば、アパートは見つかると思います。

事情があるにもかかわらず、扶養照会をされるときは?

――扶養照会についてお聞きします。「折り合いが悪い家族に扶養照会をしないでほしいと伝えたのに、扶養照会をされてしまった」「70代の弟が生活保護を申請したところ、長期に交流のない80代で非課税世帯の姉に扶養照会が届いた」という声が届いています。扶養照会のことはどう考えればいいのでしょうか?

田川:扶養照会が生活保護のハードルになっているという方がたくさんいらっしゃいます。私も現場でそういう方を多く見てきました。扶養照会の話をすると、「申請を諦める」と帰られた方もいます。2021年2月と3月に2回、厚生労働省が制度の運用を改定しました。その中身は「扶養照会は期待ができる場合にのみ実施し、可能性が期待できないときは、扶養照会を省略していい」ということを言っています。とくにおおむね70代を超えた高齢者は扶養の期待可能性がないと判断して、扶養照会をしなくていいと言っています。ほかには非課税世帯や、「10年程度」交流がない場合も同じです。それ以外にも、扶養義務者に借金を重ねている、相続で対立しているなどの具体例を出した上で、その場合にはもう期待可能性がないため扶養照会を省略していいという書き方に変えています。

扶養照会の届けは書式が決まっており、勤務先や収入を書くのは、厚生労働省の雛形がそうなっているからです。ですから、本当は厚生労働省の雛形を変えてもらいたいんです。生活保護問題対策全国会議が一般社団法人つくろい東京ファンドとともに、扶養照会の扶養義務に関して運用を改めよと厚生労働省に申し入れをした際、「雛形自体が圧迫になっているから書き改めてほしい」と伝えていますが、今のところ変わっていないようです。

今回、厚生労働省が生活保護担当宛てに改めて出したのが、「扶養照会を拒否する場合には拒否する理由とともに、扶養の期待可能性があるかどうかをご本人からの慎重に聞き取ってください」という内容です。扶養照会を強く拒んで、理由がそれなりのものであれば、「扶養照会を省略する」と生活保護担当がケース記録に書いて問題ありません。ケース記録に何も書かずに、扶養照会をしないと、国や都道府県から「扶養照会をするように」と言われてしまいます。扶養照会をするならする。しなかったらしなかった理由を書いておくことが必要になっています。

――扶養義務は、関係性によって強さが違うのでしょうか?

田川:扶養義務が強いのは、まず夫婦間です。そして、中学3年生以下の子どもに対する親。強い扶養義務というのは、「自分の食べるご飯を半分にしてでも扶養しなさい」というようなもので、実際に扶養するかどうかは別として、扶養義務自体はあります。ただ、扶養というのは特殊で、当事者間の関係性も影響します。仲がいい兄弟だったらなんとかしてあげたい、親子だったらなんとかしてあげたいと思うかもしれませんが、仲が悪い兄弟や親子も多くいます。そうした場合は、たとえ扶養義務者にお金があったとしても「扶養したくない」と思うのは当然で、それは認められます。お金があるから即、扶養しなければならないわけではありません。

日本の法制度は前近代的と言われています。諸外国には、税金や社会保険料を払ったら、あとは国や自治体が生活できない人の面倒を見るのが当たり前の国もあります。ところが、日本は扶養義務者の範囲が広く、兄弟、ましてや3親等について扶養義務を課す場合があるのは日本ぐらいです。

実際の日本の扶養意識はすごく変わってきています。たとえば30年前は兄弟姉妹の間で起きる扶養の争いは、「兄弟姉妹で扶養するかどうか、するとしたらどの程度か」といったものでしたが、今の争いの中心は、「年老いた親の面倒を誰がみるのか」になってきています。すなわち、兄弟姉妹間でも扶養の意識がすごく薄れている。ところが、扶養義務は明治時代にできた旧民法の流れを汲んでいて、家族主義が非常に根強かった時代の、家族がしっかりと構築されていた時代の法律のままきているため、変えなければいけないと思います。
扶養義務で難しいのは、扶養照会をすることによって、親族間の関係が絶たれることがしばしばあることです。例えば「家族の恥」と言われ、一切、連絡がこなくなったなど、いろんなことがある。ですから自治体は扶養照会を慎重にしなければいけませんし、厚生労働省もさらに運用を変えてほしいと思っています。

恥ずかしい話ですが、私自身、ケースワーカーになりたての頃、細かく扶養照会をしていましたが、その後、扶養照会によって家族上の悲劇が起きるとわかってからは、事情を考えずに扶養照会していたことを後悔しました。

――当初の田川さんと同じように、知らないために一生懸命に扶養照会をやってらっしゃるケースワーカーさんがいる可能性はありますか?

田川:たくさんいると思います。

就職活動の費用は支給されない?

――生活保護を利用している方から「就職活動に必要な費用を出してもらえない」という声が届いています。実際はどうなのでしょうか?

田川::就職活動の費用のうち、たとえば面接に行った、ハローワークに行ったなどの交通費は出ます。おそらくこの方が指摘しているのは、役所での面接だと思います。たとえば福祉事務所が就労支援事業を委託している委託先に相談・面接に行くのに、行き先が役所の場合であれば、交通費が出ません。
これがたとえば、企業の事業所など役所ではない場所に通う形であれば交通費が出るといった違いがあります。役所へ向かう交通費は想定しておらず、それが要因としてあるのかなと思いました。

――役所以外へ面接に行った場合は、交通費を支払ってもらうために、切符を買ったときの領収書などが必要なのでしょうか?

田川:「Suica」や「PASMO」などのICカードが使えるのであれば、そうしたもので記録を残しておいたほうがいいと思います。ただ、実際に面接に行った場合には、会社から(書類など)何かもらうと思うので、それでも大丈夫です。車を持っている方の交通費をどうするかは少し難しい面がありますが、ガソリン代は計算して出ます。ハローワークは専門の職員がついてくれて、カレンダーみたいなものにハンコを押してくれます。それを提出すれば交通費を出してくれます。

また、就職が決まったときの話になりますが、国の制度の「就職支度費」を使って、就職時に必要な衣服や靴などを買うことができます。ところが、以前は就職支度費のなかには、最初の給料が出るまでの通勤費が入っていませんでした。たとえばホームレスだった方が仕事が決まっても、通勤するお金がやりくりできなくて、結局通勤ができずに仕事がダメになってしまうこともありました。

そこで東京都が、初めての給料が出るまでの通勤費を独自事業として支給することにし通勤に困らないようにしました。それが効果があると国にも伝わり、国が「就職支度費のなかに初めての給料が出るまでの交通費も含めてよい」と運用を変えました。
このように自治体の実践は、生活保護の分野で非常に大きいんです。たとえば今年は扶養義務についての運用が大きく変わりました。いろんなものが少しずつ現場の声を聞きながら良くなっているので、ぜひ自治体には頑張ってほしいと思います。ほかにも東京都では、面接のための衣服や靴などの費用を独自にだせるようにしており、国にも要望しています。

生活保護を必要としている人、現場で働く人へ 専門家からのアドバイス
(1)生活保護の申請・利用について ←今回の記事
(2)身近で使いやすい制度にするために必要なこと

タイトル画:内田かずひろ

※この記事はハートネットTV 2021年10月5日放送「みんなの生活保護! 第1夜・権利を阻むもの」、6日放送「みんなの生活保護! 第2夜・今こそ、制度を活用しよう」に関連して作成しました。

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