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医療的ケア児 受け入れが進まない教育現場のいま

記事公開日:2018年06月20日

いま、学校に通いたくても、ほかの子と同じように通えない障害のある子どもたちがいます。人工呼吸器などの医療的ケアが必要な子どもたちです。教育委員会や学校から「ケアを行える人材がいない」「万が一、事故などが起きても責任をとれない」と言われ、他の子と関わることなく毎日を自宅で過ごす子ども、本人が学校に行けても保護者が常に教室に付き添って見守らなければならず重い負担を強いられている家族が大勢います。医療的ケアが必要な子どもたちが、望む教育を受けられない現状を考えます。

“学校に通えない”医療的ケア児の現状

医療的ケア児とは、気管切開をしていて痰の吸引が必要、口から食事をとれない場合に経管栄養でお腹から栄養をとるなど、生活する上で医療が必要な子どもたちのこと。医療的ケア児の数は全国で1万7,000人。10年前に比べて1.8倍に増えています。

これを受けて2016年、児童福祉法が改正。医療的ケア児の存在が初めて法律に明記され、医療や福祉に加えて、教育の面でも支援が受けられるように努めなければいけないことになりました。しかし、まだ支援は充実しているとはいえず、現実には、医療的ケアが理由で学校に通えなかったり、学校に通わせるために家族が重い負担を強いられたりしているケースが少なくありません。

ハートネットTVには、医療的ケア児の家族から多くの声が寄せられています。

「学校に通わなくていい」と言われているよう。(おはなさん・東京都・母親)

拒否ばかりで世の中から見捨てられている気が。(すぎろうさん・母親)

みんなと同じように通わせるのは無理?(ももさん・埼玉県・母親)

医療的ケア児を在宅医療で支える小児科医の前田浩利さんはこう話します。

「背景には何よりも小児科の医療技術が進歩してきたということがあります。日本は新生児の救命率世界一。皆さん、体調が安定していて、家で暮らせる、地域で暮らせるということで我々医師が判断をして、地域に送り出している、そういう子どもたちがまず増えてきたという背景があります。しかし、その子どもたちを支える社会制度の側が、医療技術、あるいは医療技術が作った新しい事態に対して、まだついていけてないということがあると思います。」(前田さん)

学校に受け入れてもらえないもどかしさ

東京都・目黒区に住む山田美樹さん。9歳になる娘の萌々華さんは先天性の難病のため、経管栄養や人工呼吸器などの医療的ケアが必要です。

車いすに乗れば外出は可能なため小学校への通学を希望しましたが、実現していません。共働きの両親が出かけると、毎日、ヘルパーとお留守番。友だちは、いつもそばにいてくれるぬいぐるみたちです。

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生後8か月までは入院生活だった萌々華さん。その後は自宅で生活できるようになり、医師からは「小学校への通学も可能」と言われます。しかし地元の学校からは、受け入れの態勢を作れないと断られました。かわりに勧められたのは、看護師が常駐する特別支援学校。ところがここでも通学は許可されませんでした。医療的ケアのなかでも、人工呼吸器のある子どもは親の付き添いが必要と教育委員会が判断したのです。親が仕事のため付き添えない萌々華さんは、断念するしかありませんでした。

東京都教育庁の主任指導主事はこう説明します。
「校長先生が学校を管理する責任として判断できる内容は、教育的な内容、管理の内容という形になりますから、そのときに本人の医療的な判断というのはできないので、例えば体調管理の部分も含めて保護者にご協力をお願いしています。」(主任指導主事)

現在、萌々華さんは、通学できないかわりに、特別支援学校の教員による「訪問教育」を受けています。授業は週に3日、2時間ずつ。時間が少ないため、前の学年の学習内容も終えていません。

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母の美樹さんは、萌々華さんが学校に通えていない現状に不安を感じています。先生とヘルパーとだけ過ごす日々が始まって、もう3年目です。

「不安はありますよね。本人はお友だちいらないとかって言っちゃうけどたぶんそれは本心ではないと思うので。全然みんなと同じようにやっていけるのになっていうのがあるだけに、いまの状況がちょっともどかしいというか。」(美樹さん)

医療的ケア児の通学で疲弊する家族

一方で、子どもが学校に通うために、大きな負担を強いられる家族もあります。

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国の調査では、親が学校に付き添っている事例は小中学校と特別支援学校合わせて1,200件。また、訪問教育・学校に通えずに自宅にいる事例も、2,200件近くもあります。
「医療はすごく進歩したんですけど、それを支える部分として、まだまだ私たちからするとかなり、何年も前の感覚が地域に根付く残ってるんですね」(前田さん)

そのような現状が伝わってくる書き込みも寄せられています。

「学校に『看護師をつけた前例がない』と言われ不安になっています。」(お花大好きさん・母親・滋賀県)

児童福祉法が改正され、障害者差別禁止法が定められているいま、こうした対応は法律違反になりかねません。障害を持った子どもや医療的ケアが必要な子どもへの体制整備に努める義務があるのです。

医療的ケア児が普通に通学するためのポイント

医療的ケア児の支援が進まない現状を、どうしたら変えていけるのでしょうか。前田医師は2つのポイントを挙げます。1つ目は「医療的ケアを行う人材の確保」です。

国は2016年度から、医療的ケア児の通学支援として、小中学校に看護師を1,200人配置するための費用の一部を自治体に補助する予算を組んでいます。しかし、看護師が少なく、雇うのに苦労する地域もあります。看護師不足はどうしたら解消できるのでしょうか。

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「国はヘルパーさんが一部の医療的ケアの気管内の吸引、口腔内の吸引、胃ろうに関してやっていいと、数年前に解禁にしています。ですから、看護師さん以外の専門職で、そういったケアができる人材を増やしていくことですね。」(前田さん)

医療的ケア児の支援が進まない現状を変えるポイントの2つ目は、「リスク回避」です。学校のなかで、子どもの安全をどう考えるか。

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特別支援学校のアンケートで、親が付き添いをする理由として、付き添い800件のうち半数が「看護師はいるが、学校が付き添うよう求める」ということでした。

「各都道府県に教育委員会が持っている医療的ケア委員会というものがあり、そこで学校でやれる医療的ケアのほとんどを決めています。例えば、病院において、あるいは在宅医療においては、看護師さんが人工呼吸器を操作する、取り外しをするというのは当たり前のことです。しかし、学校では看護師さんであっても、人工呼吸器は触ってはならないという制限が多くの自治体でつけられてしまっています。」(前田さん)

なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

「いま、医療的ケアが地域でも普通に行われているということを多くの学校関係者がご存知ないのかなということがありますね。機械も進歩しているし、管理技術もすごく進歩していて、そういった子どもたちも非常に安全に地域で暮らせるようになっているんですが、そういったことが上手く、教育側に伝わってないんですね。いま、学校の医療的ケアに関しては学校の校長先生が、責任をとるというふうにほとんどの医療的ケア委員会に作られる文書にはかいてある。でも、私たち専門家から言わせると、それは無理だろうと。校長先生に気の毒だろうと。そういったことは医師が、きちんと責任を持つその連携の仕組みを作っていく必要があるんじゃないかと思います。」(前田さん)

医療的ケア児が一緒に学ぶ教室

地域によっては、医療的ケアの子どもたちが普通に学校に通えているところもあります。大阪府では、10年以上前から看護師資格のある介助員を小中学校へ配置する費用を補助したり、医療的ケアの技術を学ぶ研修を開いたりして、ケアの担い手を掘り起こすなど、学校の環境を整えてきました。医療的ケア児を受け入れている学校で子どもたちはどのような様子なのでしょうか。

箕面市の豊川北小学校です。6年生の巽 康裕くんは、人工呼吸器や経管栄養など、複数の医療的ケアが必要です。しかし、学校に親の付き添いはありません。看護師が康裕くんのケアを1年生のときから担当してきました。康裕くんは毎日、ほかの子どもと一緒に授業を受けています。康裕くんの障害も、医療的ケアも、子どもたちにとって当たり前のものです。

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去年、康裕くんは初めてプールの授業にも参加しました。学校が何度も保護者や主治医と相談し、実現しました。

康裕くんの担任・羽地 健さんはこう話します。
「先生たちの気持ちが同じ方向を向いたということが一番大きいんじゃないかなと思います。『これは無理やろ』と思ってたら足は重たくなりますね。何もできなくなっちゃいますね、そうなると。」(羽地さん)

法律が改正されてもなお、ほかの子と同じように学校に通えない医療的ケア児。今後ますますの支援策が期待されます。

※この記事はハートネットTV 2017年5月2日放送「ハートネットTV シリーズ 障害のある子どもと学校第1回 医療的ケア児」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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