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「聞こえない子どものこころのケア」

記事公開日:2021年11月20日

「聞こえない自分に自信が持てない」「悩んでも手話で相談できる場所がない」。そんな、ろう・難聴の子どもたちの心の問題はこれまで見過ごされてきました。悩みは深く、深刻な状況に追い込まれる子どももいます。聞こえない子どもたちの心を支えるには何が必要か考えます。

見過ごされてきた聞こえない子どもの悩み

2016年に起きた熊本地震。市内のろう学校も大きな被害に見舞われました。中でも深刻な問題となったのが、生徒たちの心のケアです。

浮き彫りになったのは、聞こえない子どもたちを支える体制が整っていないという現実でした。熊本聾学校教諭の山本理恵さんはこう話します。

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熊本聾学校教諭 山本理恵さん

「子どもたちは耳鳴りがするとかですね。地震で壊れたものを見るのが怖い。それから建物のひびが怖い。手足の震えがある。熊本県には、手話でカウンセリングできる臨床心理士の先生がいらっしゃいません。聴覚障害への理解があり、手話ができるスクールカウンセラーの確保が課題です」(山本さん)

聞こえない子どもたちの心の問題は、長年見過ごされてきました。自分に自信が持てないまま、悩みや苦しみを深めていく子どもも少なくありません。

ろう学校に通う中学3年生の大野君(仮名)と田原君(仮名)は同じ野球チームに所属し、手話で何でも語り合える仲です。野球を楽しむ2人ですが、日々の暮らしの中で、孤独を感じることがしばしばあるといいます。通っているろう学校では口話で話す生徒が増え、友だちの会話や授業に追いつけなくなりました。

画像(野球を楽しむ大野君と田原君)

大野君:いちばん嫌なのは、みんなが話している時間です。みんなが自分のことを見て、自分がいることをわかっているのに、そのうえで口話でしゃべっているのがすごく嫌なんです。わざと保健室に行ったりすることも多いです。(手話)

田原君も同じような経験を重ねてきました。

田原君:話していて、それに合わせた返事をしたときに聞き間違えて、まったく別の内容の話をして、すごい顔で見られたときは恥ずかしいし、つらいなと思ったことがある。

本当はもっと自分らしくいたいのに、いられない。聞こえない自分を否定してしまうこともあるといいます。

田原君:聞こえない自分が嫌なときがある。たまに、ろう者と聴者どっちがいい?と聞かれたときに、聴者のほうがいいと答えるときもある。僕とは違う聞こえる人たちと比べて、やっぱり聞こえないほうがすごく損をして、つらくなっているんじゃないかと思い始めて、ろう者として生きるのは嫌だと思うときがあります。

聞こえない子どもと親に寄り添うさまざまな支援

そんな、ろう・難聴の生徒たちの悩みを受け止め続けているのが臨床心理士の中尾恵弥子さんです。手話ができるスクールカウンセラーとして活動しています。

「いつも次にカウンセラーが来る日を保健室の先生方が案内してくださっていて、生徒さんたちが申し込んでくださっています。きょうは全部で6人くらいですかね。毎回このくらいの人数の生徒が来てくれています」(中尾さん)

スクールカウンセラーが在籍しているろう学校は、全国の聾学校のおよそ3割。手話でカウンセリングできる人は限られ、中尾さんは大阪にあるすべてのろう学校を一人で回っています。これまで、生徒たちが置かれている厳しい状況を目の当たりにしてきました。

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臨床心理士・スクールカウンセラー 中尾恵弥子さん

「コミュニケーションの問題が大きくありまして、聞こえる人のようにどこに行っても相談ができる、カウンセリングを受けられる環境が、とても少ないと思っています。自分の中にため込んでいくしかない、誰もわかってくれないという思いが募っていったときに、SOSとして、たとえばリストカットということも最近では多いです。『全部わかる』とか『しっかり伝わっている』とか、そういう実感が自信につながっていくと思うんですね。(一部の生徒たちは)どうしても周りの人の顔色を見て、表情を見て、自分の評価につなげる形になってしまうので、常に不安だと思います」(中尾さん)

多くの生徒が「聞こえない自分に自信が持てない」という悩みを抱えていると話す中尾さん。そんな状況を少しでも変えたいと、中尾さんが仲間とともに始めた取り組みがあります。0歳から3歳の聞こえない子どもと、その親たちが集う場所「こめっこ」です。

画像(「こめっこ」の集まりに参加している親子)

実は、聞こえない子どもの9割は聞こえる親のもとに生まれてくるといわれます。そこで聞こえない子どもが安心して過ごせるよう、親子で遊びながら手話を学べるようにしています。「こめっこ」では、親子のコミュニケーションが子どもの心に大きな影響を与えると考えているのです。

NPOこめっこのスーパーバイザーで神戸大学教授の川﨑佳子さんは親子の最初の関係性が大事だと話します。

「(子どもが)生まれて、いちばん最初に愛着を体験するのは、パパママを中心とする養育者だと思うんですよね。でも(親子が)いちばん最初の時点で通じない。何を言ってるのかということが、相手からの表出がわからない。こちらも赤ちゃんなりに何かを思っているけれども、通じることがない。いつも不安げなママの顔がそこにあるとか、心の中が心配でいっぱいであることを体験すると、自分が『ありのままでよし』ではないということを赤ちゃんは学んでしまうと思うんですよね」(川﨑さん)

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NPOこめっこスーパーバイザー・神戸大学教授 川﨑佳子さん

手話を学び、親子関係に変化が生まれたという家族がいます。小橋史佳さんと千穂子さんは、かつて息子の令旺(れお)君が聞こえないことを悲観することもあったといいます。しかし、少しずつ手話でコミュニケーションがとれるようになると、親子の笑顔が自然に増えていきました。

画像(小橋史佳さんと千穂子さん)

「難聴の度合いも重いのでしゃべることはないんですけど、何を言いたいのか身ぶりや手話で伝わってくるし、私たちが手話でお話しすればわかってくれるので、わかるし伝わるっていうのが本人も楽しいんだろうなっていうのが伝わってきて。これがなかったら、声もたぶん届かないし相手も伝えられないから、どうなっていたんだろうって逆に不安な感じです」(千穂子さん)

聞こえないままで大丈夫。「こめっこ」では親子の安心感を育んでいきます。

「子どもにとって、本当に安心しながらいい愛着関係、対人関係、人と関わる能力の発達を支援することから始まって、最終的には自分自身をありのままでよしとする。OKだと、堂々と生きていける」(川﨑さん)

自分の思いを認めて、前に進みたい

中学3年生の田原君と大野君は、今も悩みと向き合う日々が続いています。

画像(大野君と田原君)

田原君:つらすぎて逃げたいと思うときもあったりする。だけど、そういういろんな思いを自分で認めている。認めたうえで、それでも僕は前に進みたいとか、僕は生きたいとか、そういう気持ちが前はなかった。最近はそう思い始めた。(手話)

大野君:(周りの)みんなは思っていないと思うけど、自分だけ透明人間になった感じがする。本当に実在していないような感じがします。

大野君は最近、クラスのみんなにあることを伝えました。

-口話だけではなく、手話も使って話をしてほしい。

大野君:(みんなに話す)前はいつもどおり口話で話している人がいたんですけど、(話した)あとは口話を使っている人もいれば、手話を使っている人もいる。少しずつ口話の人たちが減ってきた。手話を使う人たちが増えたなとは思います。手話を使う人が増えて本当にうれしかったんですけど、聴覚障害が重い人への理解がもっと深まってほしいと思います。

人知れずに心に傷を抱えてきた、聞こえない子どもたち。「このままで大丈夫」だと信じられるように、社会全体で見守り、支えていくことが必要です。

※この記事はろうを生きる 難聴を生きる 2021年11月20日(土曜)放送「聞こえない子どものこころのケア」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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