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続くコロナ禍 障害者が安心して支援を受けられる社会とは

記事公開日:2022年02月28日

世界中で猛威を振るい続けている新型コロナウイルス感染症。重度の障害がある人たちは、先の見えなさに不安を抱えながら生活をしています。感染したことで受けられなくなる支援、それは家族の負担に直結していきます。コロナ禍によって浮き彫りになったように見える課題も、実は従来からあった社会制度の不十分さが根底にあります。重度の障害がある人やその家族が安心できる支援について、専門家と一緒に考えます。

重度の障害がある人の困難な状況

2021年秋にいったん落ち着いたかに見える新型コロナウイルス感染症。障害のある人の自立生活支援を行う海老原宏美さんは、重度の障害がある人たちの置かれている状況について、まだ安心できる状況ではないと話します。

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自立生活センター東大和 理事長 海老原宏美さん

「感染リスクがゼロになったわけではないので、私たちのように命がかかっているようなリスクがある人たちがずっと怯え続けているのは変わりません。また、感染が拡大している間は重度障害者に対する福祉支援のあり方やトリアージを含めた医療のあり方について議論されてきましたが、その議論もシューっとすぼまってしまったんじゃないかという不安は残っています」(海老原さん)

評論家の荻上チキさんも、これまでの支援のあり方を検証する必要があると指摘します。

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荻上チキさん

「第6波を前に、何が不十分だったのかを検討することが必要な状況にもかかわらず、感染拡大期のさまざまなケアはもう終わりなんだというムードが高まってしまうと問題なので、いろんなものをすべてあぶり出す時期だと思います」(荻上さん)

新型コロナに感染したことで、重度の知的障害のある人やその家族は実際にどのような課題に直面したのでしょうか。

静岡県浜松市に住む安藤槙さん(35)は重度の知的障害があります。食事や入浴など、日常生活には介助が欠かせません。週6日、1日8時間、施設に通っています。

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安藤さん親子

しかし2021年6月、通っている施設でクラスターが発生。槙さんも感染し、自宅療養を余儀なくされました。自宅では福祉サービスを利用していなかった槙さん。新たに利用するためには自治体に申請し、事業所を探す必要があるため、すぐにサービスを受けることはできませんでした。

頼れる先がなく、槙さんの介護は母の幸枝さん(68)が一手に引き受けることに。2週間に及んだ隔離生活は感染リスクと隣合わせの不安な日々でした。

「娘と2人で並んで寝ているときは、本当にどうなるんだろうとか、命の危険があるかもしれないとか、私ももし感染してしまったら、この子の世話を誰が見るんだろうとか(考えました)」(幸枝さん)

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母の幸枝さん

慎さんが通う施設では、利用者38人中18人が感染し、ほとんどの人が自宅療養となりました。その結果、介護する家族にも感染が拡大。40人規模のクラスターになりました。

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若森さん親子

若森梢さん(35)と母の幸子さん(70)は自宅療養で家庭内感染しました。はじめに梢さんが陽性になり、その後、介護をしていた幸子さんも感染しました。

梢さんは脱水症状がひどくなり入院。しかし、病院では梢さんの生活の対応が難しいと連絡があり、幸子さんは介助のため、梢さんと同じ部屋に入院することにしました。

入院後、幸子さんはコロナによる肺炎症状が悪化。それでも娘の介護を続けざるを得ませんでした。「寝られず、ずっと起きている感覚」だったと話す幸子さん。自身の体調が悪化するなかでの娘の介護。幸子さんは精神的にも追い詰められていきました。そのときの心境を綴った日記には「イラだちがあり、ついキックが出てしまった」と後悔の念が記されています。

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母の幸子さんが書いた日記

「理性ではわかっていてもどうにもならない。キックが出てしまったらなくてよかったと思う。本当にそんなの初めてですね。あとは自己嫌悪でした」(幸子さん)

体調が急変する可能性もあるなかで、幸子さんの頭を過ぎったのは「娘がもし、一人残されたら」という不安でした。

「先々この子たちどうするんだろうと思う不安がいちばん大きいです。コロナはそのときで終わるけれど、親亡き後は一生ですので、そっちのほうが怖い」(幸子さん)

新型コロナによって浮き彫りになった課題

新型コロナによって浮き彫りになった「緊急時のサポートが少ない」「入院のハードルが高い」という2つの課題。

まず、ひとつ目の「緊急時のサポートが少ない」ことについて、海老原さんはこのようなケースは多いと話します。

「私は相談支援専門員としてサービスのコーディネートもしていますが、とくに知的障害がある方に対しては『おうちの中には家族がいるでしょう』ということで、行政から支給決定が出されにくい現状が強いですね。
知的障害がある人には通所や外で使えるサービスはあるけど、家の中に入ったら家族がすべてを引き受けているため、知的障害がある人の生活そのものを支える方法を知っているサポーターがすごく少ないのが現状です。
加えて、緊急一時保護的に使われていることもあるショートステイや短期入所も感染リスクのため使えないわけです。いざという時に使えない福祉って、本当に福祉なのかなって思います。普段からそういう課題はあったはずですが、コロナをきっかけにしてますます顕在化したという実感があります」(海老原さん)

画像(海老原宏美さん)

ふたつ目の課題である「入院のハードルが高い」ことについて、重度知的障害や発達障害のある人たちの診療や支援にあたる児童精神科医の吉川徹さんは言います。

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児童精神科医 吉川徹さん

「入院以前に、まずかかりつけのお医者さんを見つけることが難しい。さらに入院できる医療機関が限られているというのは全国的によくある状況で、新型コロナについてはますます難しくなります。
新型コロナの病棟は原則として付き添いができないのですが、仮に付き添いができたとしても交代が難しいため、24時間ずっと1人で付き添わなければいけない。その人員が確保できるかということが課題になると思います。
かかりつけの医療機関があったとしても、新型コロナの場合はそことは違う医療機関に入院することが多いので、それも入院がより難しくなる理由かもしれません」(吉川さん)

こうしたなか、厚生労働省は新型コロナに感染した障害者への対応について、障害特性にあわせた受け入れ医療機関・宿泊療養施設の検討をするように、そして感染対策に十分留意しつつ支援者の付き添いは積極的に検討するようにと通達を出しています。

画像(厚生労働省 令和3年1月27日付事務連絡)

しかし、慎さん親子が住む静岡県浜松市ではこうした取り組みはなく、国が通達を出していても、現場ではなかなか対応ができていないのが現状です。

影響をまぬがれない福祉サービス

新型コロナの影響は、ヘルパーによる介助など“普段の福祉サービス”にも及びます。

2021年10月に発表された障害のある人たちへのアンケート調査によると、「新型コロナによって普段使っている福祉サービスを利用できないことはありましたか」という問いに対し、「あった」「部分的にあった」と答えた人がおよそ6割に上りました。

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出典:障害連(障害者の生活保障を要求する連絡会議)10月発表)

都内で知的障害者のヘルパーをしている寺本晃久さんは、この日、鈴木貴(たかし)さん(26)の外出支援を行っていました。

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鈴木貴さんとヘルパーの寺本晃久さん

貴さんは自分で行動を制御することが難しく、転倒やけがのリスクがあるため常に介助が必要です。貴さんはいま、4つの事業所を利用しながら介助を受けて暮らしています。

寺本さんが運営する訪問介護事業所では、地域で暮らす重度の知的障害者およそ20人の生活介助や外出支援を行っています。利用者の多くは1人暮らしで、食事など身の回りの介助が欠かせません。

都内で感染が拡大した2021年夏、スタッフ1名に陽性反応が出たため、事業は危機的状況に陥りました。このとき陽性となったヘルパーは自宅療養になり、介助を受けていた利用者は通所施設の利用ができなくなりました。

自宅待機となった利用者の介助時間は急増。ギリギリの人数で運営しており、人員の補填も難しい状況でした。その結果、少ない人数で長時間の介助を行わざるを得なくなったのです。

画像(寺本さんの事業者の状況)

「ヘルパーがいないと、利用者さんが今日のごはんが食べられないとか、食べられないだけならまだしも、即、命の危険にさらされる。1人で危険回避ができない方もいらっしゃいます」(寺本さん)

こうした訪問介護事業について、厚生労働省はコロナ禍においてもサービスを継続的に提供するよう求めています。

画像(厚生労働省 令和2年3月19日付事務連絡)

しかし、財政的な支援は乏しく、大きな負担となっています。ヘルパーが1人陽性になっただけでも、検査費用や給与補償などで20万円近くの赤字が発生するといいます。これは小規模な福祉事業所にとって決して小さな金額ではありません。

「行政側からはほぼ何もバックアップがないなかで、事業の継続はしなさいと。ちょっとした支援費の上乗せ分だけはあったけれど、自腹になっちゃいますよね。ヘルパーの事業所は小規模なところが多いので、(感染者対応の)ノウハウや、財政的なバックアップがあればよかったと思います」(寺本さん)

危機のときにこそ力を発揮できる福祉制度を

事業者が持ち出しで利用者のためのサービスを支えているという現状。海老原さんの事業所でも費用面の負担が大きかったといいます。

「私の事業所では幸い感染者や濃厚接触者は出なかったのですが、マスクやアルコール、検査キットなど予防に必要なものにとてもお金がかかりました。また、電車通勤のヘルパーさんがたくさんいらっしゃるので、電車の中で感染するリスクをいかに減らすかということで、事業所の近くにマンションを借り、一時期そこに滞在しながら派遣に行けるような形をとりました。事業所の車でヘルパーさんを送迎して派遣を続けるようなことも一時期ありました。行政からそのようなことに対しての補助はないので、自己負担になります」(海老原さん)

画像(スタジオの様子)

荻上さんは、障害者の介助に携わる人など「エッセンシャルワーカー」が軽んじられている現状の見直しが必要だと話します。

「重度の障害がある方には、新型コロナの感染に関わらず、『今のケアが打ち切られた途端に亡くなってしまうかもしれない』というリスク意識があります。現場では、平時から“人“と“金”がとにかく必要な状況なのに、国や行政から『大変なんですね。わかりました。でもお金は渡しません』『頑張ってください。でも人は送れません』という対応をされたのでは二重、三重に“置いていかれた感”があります。そうした状況を共有して、今後の平時の福祉のあり方を見直してほしいと思いますね」(荻上さん)

吉川さんは、これから必要なことについて次のように話します。

「それぞれの自治体は、保健所など実際の入院調整にあたる部門に対して、障害のある方への対応をどうするのかについて改めて周知していくことと、その情報を活用できる人員の余裕が必要だと思います。また、一般の方に向けて、できれば自治体などが作っている発熱外来のリストに、『どんな障害に対応できるか』などを記載するといいのではと考えています。平時からそれぞれの医療機関がどんな障害に対応できるのか、データベースの整備や更新を続け、それを周知することが必要だと思います」(吉川さん)

新型コロナによって浮き彫りになったさまざまな課題。重度の障害がある方が安心して暮らせる社会にするためには何が大切なのでしょうか。

画像(海老原宏美さん)

「感染したときの医療に対しての不安はすごく大きいんです。夢を語らせていただくなら、住み慣れた場所で、病院で受けられるような医療、つまり自宅で病院と同じような医療を受けられるような、地域医療みたいなものが今後発達していくといいかなと思います。
危機のときにこそ力を発揮できる福祉制度のあり方ってどういうものなんだろうということを、当事者を入れた形で参画して作っていけたらいいなと思いますね」(海老原さん)

※この記事はハートネットTV 2021年11月9日放送「新型コロナ 障害者はいま」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

海老原宏美さんは、2021年12月24日に急逝されました。謹んでご冥福をお祈りするとともに、海老原さんが語り続けてこられた福祉に関する課題の数々を私たちは胸に刻み、これからも取材と発信を続けていきます。

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