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2021年の福祉を振り返って~藤井克徳さんに聞く~

記事公開日:2021年12月26日

2021年も障害者をめぐるさまざまな出来事がありました。注目のトピックスを日本障害者協議会代表の藤井克徳さんと振り返るとともに、2022年に始まる障害者福祉で期待の動きについて紹介します。

画像(藤井克徳さん)藤井克徳さん
日本障害者協議会代表。障害の種別を横断して、権利擁護に長年取り組んできた。自身は視覚に障害がある。

ホームドアに無人化 鉄道と福祉の問題

――2021年1月、駅のホーム転落によって視覚障害者の方が亡くなりました。事故防止の切り札となるホームドアの設置は、首都圏において進んできましたが、全国的に見れば設置率はおよそ10%ほどです。

藤井:本当に深刻で、命と背中合わせですね。10%をどう見るかですが、私は「まだ10%か…」という実感を持っています。この問題は財源と関係してきます。4月に、国土交通大臣と障害団体がこの問題について語り合い、そのときにホームドア問題と、精神障害者の運賃割引問題をテーマにディスカッションして、大臣は「自分としては筋道をつけたい」とおっしゃっていた。最近、鉄道の利用者に少し料金の上積みをして、そのお金を財源にホームドアの設置促進や、精神障害者の運賃割引をほかの障害者との横並びで考えていくと報道されました。その方式が良いかどうかは分かりませんが、少なくとも知恵を絞って財源を考えている。そういう点で、ホームドア問題は、障害者問題のなかでも優先して促進してほしい。今の設置の計画をいろいろと聞いていますけれど、もう少し促進できないかなと見ております。

――鉄道問題で言えば、駅の無人化がますます進んでいます。この問題については、大分県で車いす利用の方々が裁判に訴えています。

藤井:大分県には87駅ありますが、2017年現在で55の駅が無人で、さらに大分市内で無人の駅を増やしたいと。そこで2020年9月30日に裁判を起こしたという経過です。これもホームドア同様、場合によってはもっと怖い。無人というのは、障害分野にとって最大のバリアだと思っています。

――この訴訟の弁護団長である徳田靖之さんは、重い障害を持っている方々にとって、制約なしに公共交通機関が利用できることがどれほど大きな意味を持っているのか考えてほしいとおっしゃっています。

藤井:私自身も駅というのは町の表玄関であり、もうひとつの市民センターという感じがずっとしてきました。それが、ある面では奪われるわけです。社会参加にも影響してきます。

駅の問題というのは鉄道会社の経営からくるものですが、経営効率の悪いところは切り捨てるという、効率論との対置関係にあるわけです。もしこれを了解してしまうと、効率が悪いところは合理化で省かれてしまう。障害者からすると、効率論で攻められたらいちばん厳しいわけです。私たちの否定にもつながりかねない、非常に深い問題です。2020年3月の段階で国内9465駅のうち4564駅、約5割が無人駅になっています。したがって、加速を抑える点からも、大分の裁判は非常に大きな意味があります。

さらに、無人化問題は駅だけにとどまるのではなく、町の無人化、つまりコンビニエンスストアとか、いろんなところでセルフサービスが増えています。そういう点で、改めて無人化問題と障害者の社会参加という観点から、今度の動きはとても大事だと思います。

一方で、これをJRだけに被せるのは無理があります。いくつかの市では、いちばん使われる時間帯は、市役所から非常勤職員が出向くこともある。交通事業者と地方自治体と住民との協議で、どうやって空白時間を埋めるかについて知恵を出し合って、場合によっては税金の投入もあってもいいんじゃないかと。いずれにしても、人がいないのは最大のバリアであって、遠隔のカメラ操作で何とかなるものとは違います。ホームドアの問題と合わせて考えるべき大きなテーマだと思います。

――無人化は、これからの町の構造にも関わってくるということですね?

藤井:そうですね。駅の無人化問題は経営効率から始まりましたが、効率論だけで果たして社会のあり方はいいのでしょうか。無人化問題は、これからの社会のありようを考えていくうえで、凝縮した問題を秘めています。非常に大事なことで、みんなで議論すべきことだと、改めて押さえておく必要があります。裁判が良いきっかけだと思うんです。一旦、社会として立ち止まって考えてみるという意味が、この裁判には込められています。この裁判は大分で起こりましたが、レールが日本中でつながっているのと同じように、実は全国的なテーマであると私たちも注目しています。注目するだけではなく、主体的に自分との関係でこの裁判に関わってもいいんじゃないかと、それぐらいの重要なテーマだと感じています。

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収録の様子

コロナで顕在化した障害者と治療

――今年もコロナは社会に暗い影を落としました。

藤井:コロナの影響は社会全体を覆いました。障害分野にも、非常に暗い影を落としましたね。精神科病院でコロナはとても大きな影響がありました。沖縄県うるま市にある精神科病院には200ベッド以上あるんですけども、職員と患者さん合わせて197人が感染して、このうち70人以上が死亡しました。全員が患者さんでした。

――それは精神科病院で特有の事象なのでしょうか?

藤井:はい。理由のひとつは、病院の構造から来る問題です。たとえば、大部屋だったり、鍵がかかって窓が10センチしか開かなかったり、あるいは、誤って飲んではいけないということで、消毒液がない。こうした精神科病院の特有の構造です。もうひとつは、感染症を診る重点医療病院は、精神科病院の患者さんを診られないという問題です。死亡した方たちは、コロナの専門的な治療を受けられなかった。つまり、一般の病院が精神病院にいることを理由にして断ったということ。これは明らかに精神科病院がゆえの不利益といっていいと思うんです。

――改善するにはどうすればよいとお考えですか?

藤井:障害分野全体がそのような傾向ですが、もともとあった問題がコロナで顕在化しました。精神障害者の入院中心主義を、退院促進や、退院してもきちんと暮らしていけるようにする。家族依存ではなくても生きていける。そういう状況を促進することが大切だと、今回の事態から言えるのではないでしょうか。

旧優生保護法 違憲判断も賠償請求は棄却

――2020年に続いて、2021年も障害者に関わる重要な裁判がいくつもありました。未解決の問題として、旧優生保護法のもとにおける強制不妊手術に関しての裁判があります。

藤井:この問題は、日本の障害分野で最大の未決着問題だと思っています。優生保護法は戦後まもなく作られました。第1条に「この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。」とあります。「優生上の見地」というのは、優生思想の立場から。「不良な子孫」というのは、障害を持った人は障害者を産むだろうと。「出生を防止する」というのは、産ませないようにすると。こういう法律なんですね。これが48年間、日本に横たわっていて、多くの被害者は泣き寝入りでした。それが2018年に、宮城県仙台市の勇気ある女性が裁判を起こし、その裁判の報道を見た25人が立ち上がって、その不当性を訴えた。8つの地方裁判所、25人の原告、これが優生保護法の裁判です。

――ところが2021年の判決では、いずれも退けられています。

藤井:5つの裁判所の結果は敗訴となってしまいました。裁判の判決を見ていきますと、特徴があります。まず多くの判決で、幸福追求権の第13条、法の下に平等の第14条、家庭を持つ権利の第24条等において、優生保護法は違憲だったと判断しました。しかし、違憲ではあるけども、民法第724条に、不法行為があってから20年間を過ぎると損害賠償請求権を失うと書いてあるんです。これを全面に出して、憲法違反ではあるけども、この壁は裁判所としては越えられませんから、原告が求めている国家賠償請求は棄却しますと。こんなことが続いているのが現状なんですね。

これから日本は、障害分野をもっと好転させていかないといけません。でもこうした過去の検証が終わっていないと、相変わらず現状はグラグラしていることになるわけです。これからの日本の障害分野の方向性をしっかり考えていく上でも、きちんと捉えていかないといけない。過去の問題というよりは、未来ともつながるんだということを私たちは意識すべきではないでしょうか。

国連・障害者権利条約、日本にとって初の審査

――2022年には、国連の障害者権利条約で日本政府の審査が行われます。具体的にどのようなことなのでしょうか?

藤井:権利条約は全体が50箇条、そして前文が25項目からなっている、とても大きな規定です。これには良い仕掛けがあって、各国の権利条約の進捗状況を定期的に国連で審査するという規定があるんです。具体的には権利条約で障害者の社会参加に関係あるところの、第1条から第33条までが国連の審査対象で、政府が進捗状況を国連に提出します。権利条約が批准されてから2年以内に提出するのが義務で、それ以降は4年に一度ずつ。さらにすごいのは、この政府のレポートが妥当かどうか、民間もカウンターレポートを提出することができます。民間によるパラレルレポート、政府による政府報告書、これらを国連がまな板に上げて審査します。

そして大事なことは、これも大きく見れば手段に過ぎないんですね。何が目的かというと、日本国内の障害分野をもっと良くしていくために審査があるわけです。これがゴールじゃいけない。国連から日本政府に勧告がでます。勧告をもらったら、言ってみれば国連のお墨付きですから、それをテコにして、日本国内で障害のある人が住みやすいように、仕事がしやすいように、新しい動きが始まってきます。国連はこれを実施サイクルという言葉を使っています。つまり、政府レポート、審査、勧告、また政府レポート、審査、勧告というサイクル。その第一歩が本格的に始まるというのが2022年の夏なんです。

――まさに待望していたわけですね。

藤井:はい。国連は非常に厳密で、NGOの声を大事にしようという空気が強いんです。そういう点で日本の障害分野も、日本障害フォーラムと日弁連が補い合って、それぞれでレポートを出していく動きがあります。

たとえば障害者権利条約の第19条には、誰とどこで生活するかは自由であるといった記載があります。特定の生活様式、たとえば精神科病院の社会的入院や知的障害持った人の長期入所政策は、特定の生活様式に入ってしまいます。これなどは明らかに審査対象です。社会的入院問題はなかなか解決しませんでした。あるいは知的障害者の長期の入所施設偏重政策も変わってきませんでした。もしかすると、こういった部分に風穴が開くかもしれない。楽観はできませんけども、条項ごとに日本の問題点を国際的な視点からチェックし、意見を言ってくれると捉えてよいと思います。

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藤井克徳さん

期待が膨らむ統計法の改正

――2022年に統計法の改正がありますが、どのようなことを期待しますか?

藤井:日本には統計法という法律があり、このなかで特に重要な統計を基幹統計といいます。たとえば、生活のしづらさ調査や、障害者の雇用促進に関する調査は基幹統計ではありません。それが今回、初めて基幹統計のなかで障害者の実体が浮き彫りになる方法が検討されていて、実はすでに実施されています。具体的には2つの例が挙がっています。

ひとつは、社会生活基本調査。これは国民のさまざまな行動についてです。一日のうちで働く時間、余暇の時間がどれくらいか、散歩や行動時間の実態を把握する項目があります。ここに、障害がある人も、こうした行動ですなど、いろんな時間の使い方が一緒に分かるようになっていく。障害者は外出が少ない、働く時間が少ないということは、何となく分かっていましたが、これが明確になるんですね。これは2021年に調査が始まっていて、2022年の秋に結果がでます。もうひとつは、国民生活基本調査です。これは、福祉、医療、介護、所得など、生活の根幹部分をデータでだしています。ここでも障害がある人の状況が初めて一緒に調査されます。さらに障害とは何かということを勝手に決めるのではなく、EU、または国連のワシントングループによる障害を見る尺度を用います。

――障害者の状況を把握するのに国際的な基準が導入されるということですか?

藤井:はい。日本ではこれまで障害者は障害者手帳を持っている方とか、自立支援医療を受けている方で数を把握しており、現在、964万7千人という数字が障害者白書ではでています。でもこれで全部の障害者かというと、国際的な基準からいうと漏れている部分が2つあります。ひとつは認知症の方。もうひとつは谷間の障害、弱視、色覚障害、難聴、あるいは薬物依存。こういった数は分かっていませんでした。今度の統計調査では手帳所持者はもちろんのこと、認知症の方も、谷間の障害の方も数に現れてきます。ここで、ようやく障害者の数が海外と比較可能になります。日本の障害者政策の予算の割り当てが妥当かどうかもはっきりしてくるし、足りなかったということも分かりやすい。数がはっきり分かるということは、これからの政策、あるいはお金の裏づけという面でとても大きな意味があります。私は期待を持っていいと思っています。

ただし、この調査結果が宝の持ち腐れではいけません。国がデータを持つわけですから、分析、解析して活用していくこと。これは研究者とともに取り組むべきテーマだと思います。これからは障害分野に携わっている団体関係者、研究者が新しいコラボレーションで調査結果を活用していくことも、私たちに課せられるテーマだと思っています。

※この記事は、2021年12月26日(日)放送の「視覚障害ナビ・ラジオ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。番組は放送から2年間、こちらの番組HPから丸ごとお聴きいただくことができます。

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