ハートネットTVの新企画「ふたりの台所」。一緒に暮らしているふたりの関係が、ありのままにじみ出るのが台所です。3組のカップルの台所を訪ね、さりげなくお互いの違いを受けとめあう時間を見つめました。
番組では晩ごはんを作って食べる一晩だけの時間を切り取りましたが、今回は、それぞれのカップルに1週間、夜ごはんを撮り続けてもらいました。ふたりは毎日、どんなふうに過ごしているのでしょうか。
神奈川県茅ヶ崎市の海の近く。いつも一緒に夜ごはんを作るゆうきさん(43)となつこさん(47)。真っ白な台所のデザインに一目惚れしたことが、今の家を選んだ決め手でした。台所にはゆうきさんの椅子があり、手が空いているときも、座っておしゃべりを楽しみます。
ゆうきさんは右目を失明しており、左目もほとんど見えません。料理中にこぼしたり、皿を割ったりすることは日常茶飯事です。なつこさんはそれを面白おかしくいじりながら、ワインを飲んでご機嫌。しかし、そんななつこさんにも、完璧を求める母親との関係のなかで、自分にも完璧を課してきた過去がありました。母親と距離をとり、ゆうきさんと暮らすなかで「少しずつ重荷がとれていった」というなつこさん。番組では、具を食べたいだけ詰め込んで、卵の端がまったく閉じない「はみだしオムレツ」を作っていました。ふたりの「おおらかな台所」です。
なつこさん:久しぶりの和食。鍋いっぱいの肉じゃがが、あれよあれよと…その日のうちに食べきりました!
ゆうきさん:なっちゃんの弟夫婦と一緒に作った手作りみそがうますぎて、味見でみそ汁がどんどん減っていくんです(笑)。みそを溶きおわって、塩加減をみる体でどんどん飲む。もはやそれを見越して汁も多めに作ってます。
なつこさん:大好物ばかりのメニュー。これをアテにして飲んだ日本酒も格別でした〜。
ゆうきさん:なっちゃんはワインも日本酒も好きで、私は日本酒。でもそんなに毎日飲みたいタイプではないから、これは日本酒でしょっていうときに。この日はカルパッチョがおいしそうすぎたので。
なつこさん:ホットプレートのフタが浮いちゃうくらい魚介まみれで海感まんさいです!大満足。具を楽しみたいので、みそ汁の大根とかもそうですけど、大きくゴロゴロにすることが多いです。
ゆうきさん:この日はなっちゃん、ひとりごはんの日でした。毎週土曜日は、私が離婚した元妻のところに子どもがいるので、出かけていって遊ぶ日なんです。
なつこさん:ひとりだとシンプルでやさしいものを食べたいってなります。途中で卵を入れてまろやかに。ゆうくんもつみれ汁は大好きなので、娘ちゃんと遊んで帰ってきてから食べてました。
卵が入っている水玉模様のお皿、うちで柄ものは珍しいですよね。シンプルが好きっていうのはふたりの共通した感性なので。このお皿は、実家を出るときに持ってきたものなんです。母がお皿が好きな人で、「持っていきな」って。あのときは勢いに任せて「もう出ていく!」みたいな感じではなくて、「離れた方がお互いのためになるよね」って、やりとりがありました。
なつこさん:野菜補給day!器を抱えてもりもり食べました。義務感っていうよりは、いろんな栄養素があると、体がすごくごきげんになる感じがするから。いつも具だくさんなのも、そういうところからきてると思います。
なつこさん:ゆうくんとケンカして、別々に食べました。これも普段通りの感じです(笑)。ゆうくんはラーメンで、私は何食べたっけ、覚えてないですね。
ゆうきさん:茶色ばっかりであることに違和感はないです(笑)。「おいしいね」って。めちゃめちゃおいしいから。
なつこさん:グラタンにはマカロニ、玉ねぎ、もも肉、ほうれん草と、トウモロコシ、あとウインナーを入れます。母がウインナーを入れるんですよね。普通入れるっけって言われるんですけど、それで育ってきたから。
母とはいろいろあったけど、なんだろう…料理がおいしいんですよ、すっごく。どういうときでも、愛情はそこにかけてくれてたなって感じます。ひとつひとつに心を込めてたっていうのが伝わってきてたから。口ではひどいこと言ってるんだけど、料理のやさしさだったりぬくもりだったり、そこで癒されていましたね。
神戸市内で一緒に暮らし始めて1年ほどの、なかちゃんこと仲子美穂さん(27)と、おぶちゃんこと掛水美希さん(25)。ふたりとも看護師で、シフト次第で家にいる方が夜ごはんを作ります。性格は対照的で、なかちゃんは自由奔放で冒険好き、おぶちゃんはリスクを回避する現実主義。料理も、なかちゃんは思いつきの創作料理、おぶちゃんはオーソドックスで丁寧な料理と、違いが表れています。
「なかちゃんは『できる』って思わせてくれる人」だというおぶちゃんは、彼女の影響で、自分が本当は何をしたいのか、考えるようになりました。今は、ふたりで仕事を辞め、1年かけて日本一周をすることを計画中。ふたりの「正反対を楽しむ台所」です。
なかちゃん:餃子は近所においしいお店があって、そこで買ってきました。餃子も楽しいけど、どういう料理でもいつも楽しいよね。
おぶちゃん:おかめとひょっとこの箸置きは、このあいだ遅めの夏休みで道後温泉に行ったとき、なかちゃんが気に入って買ったやつです。
なかちゃん:私は「鶏の一枚焼き」って呼んでるんですけど、皮目を下にして、焼くだけ放置でできるのにめっちゃおいしいんです。この美しい盛り付けはもちろんおぶちゃんがやりました。タッパーに入ってるのは生姜です。私がお酢と一緒に納豆に混ぜるのが好きで、たくさん刻んでストックしてあります。
おぶちゃん:私は夜に納豆を食べる習慣があまりなかったんですけど、最近食べ始めました。ネギの箸置きは、道後温泉で私が選びました。「1個ずつ好きなの買おう」っていうふうにして。
なかちゃん:きゅうりが腐りそうだったので料理しました。左が塩昆布で、右が酢の物です。きゅうりのときはいつも2種類です。
おぶちゃん:業務スーパーで1週間ぶんの食材を買いだめして、小分けにしたり冷凍したりして、そこから使っていくんです。
なかちゃん:節約はおぶの影響ですね。一緒に住むまでは、私はその日作りたい料理の材料を、その日に買うっていうふうにしてました。ぜんぜん違うやり方だけど、嫌じゃないです。こんな方法あるんや、きのこって冷凍できるんやって感じで、知識が増えて楽しいですね。あと、子どもがほしいっていうのはすごく夢としてあって、現状なかなか、女性どうしだとお金がすごくかかるんですよね。そういう意味でも、やっぱりおぶとは将来のことをしっかり考えられるから、節約しようねって毎日思える。同じ方向にふたりが向かってるからできることだと思うので。
なかちゃん:お椀のなかの白いのは、中にスープの素が入ってて、お湯をかけると割れて、周りも食べられるやつです。この日は夜ごはんのあとふたりでフットサルに行くので、ごはんで疲れないように、簡単なものにしました。木曜日はだいたいこんな感じです。
おぶちゃん:私たちはふたりともスポーツが好きで、フットサルで出会ったんです。どっちが好きになったとかっていうのは…ほぼ同時(笑)。女性とお付き合いしたことはなかったんですけど、戸惑いはなかったです。一緒に帰るようになって、あるとき、私が「振り向かせたいって思っちゃう」って言ったら、なかちゃんが「もう振り向いてる」って。
なかちゃん:ほぼ余りものです(笑)。鶏の一枚焼きのつけあわせにしてた茄子のチーズ焼きも再登場。スープもきのうと同じで、お湯をかけて崩したバージョンです。煮込みは、朝におぶが仕込みをして、「あと味付けよろしく」って感じで、先に帰ってくる私にバトンタッチしました。
おぶちゃん:ごはんはいつも十六穀米です。私の好みなんですけど、なかちゃんも好きだよね。
なかちゃん:私がひとりで食べました。おぶが夜勤のときはこういう感じか、あとは作っておいてくれるときもあります。
おぶちゃん:なかちゃんは夜勤がないので、私がひとりで食べるっていうことはあまりないです。
なかちゃん:私の実家がある山口県の郷土料理です。ホットプレートで焼いてます。レモンは絞ってつゆに入れます。
おぶちゃん:私が瓦そば、めっちゃ好きなんです。この前ふたりでなかちゃんの実家に行ったときに、なかちゃんのお母さんが買ってくれてたやつをもらいました。
東京・西武新宿線沿いの小さなアパートで、ゆっくり、真剣にシフォンケーキを作るゆきさん(43)。職業はカフェの店主です。そこに帰ってくるのが、石材の補修工のイサオさん(44)。「ちょっと話しかけないで」と集中するゆきさんに、「ふ~ん、そうなんだそうなんだ♪ へ~、そうなんだそうなんだ♪」とちょっかいを出しています。
高次脳機能障害があり、複雑な手順をこなすには時間がかかるゆきさん。「ゆっくりゆっくり」とゆきさんのペースを尊重するイサオさんと、二人三脚でリハビリをしてきました。一方のイサオさんは、子どもの頃から自分の気持ちを素直に伝えることが苦手。しかし、舞台俳優として活躍していた頃に演じた役が転機となり、「精一杯気持ちを伝えていかないと後悔する」という思いから、今では思いきりふざけて、楽しい気持ちや、好きだという気持ちを表現しています。ふたりの「本音を言える台所」です。
ゆきさん:この日、イサオくんは食欲がなかったので、半量にしています。たまにそういうことがあります。仕事でお昼に食べる時間がなくて、遅めに食べてきたときとか、「なんかもう嫌なことあって食べられない」みたいなときとか。
同棲を始めた頃は、イサオくんはあんまりそういうことを言いませんでした。でも態度には出るから、私が「何かあったら言って」と伝えたら、「ゆきちゃんまで気分が悪くなるのが嫌だから、言わなかった」って。それで私は「言ってくれた方がなんで機嫌悪いか分かるし、別に私、聞いたっていいし」と伝えました。それからは、家でもその日にあったことなどを話してくれるようになりました。私は、気持ちが落ち込んで食べられないことってあんまりないかな。
イサオさん:「ワレモノ注意」って顔にタトゥー入れておこうかな。
ゆきさん:実は壊れやすい、繊細な心を持っているんだよってことらしいです。
ゆきさん:イサオくんが作ってくれました。パスタ、チャーハン、ラーメン、豚汁とかはササッと作ってくれます。私はそういう料理は手際よくできないので、イサオくんに任せています。同時並行の感じが苦手だから。それは性格と、高次脳機能障害と、両方かな。麺のゆで汁をパスタにも入れたりしながら、その塩加減と具材の味加減と合わせて、で、麺がゆであがったときに合わせた味とかを考えるのがもう、できない(笑)。
イサオさん:ゆきちゃんが笑ってくれるならパスタでもチャーハンでも作りますよ。休日ならね。
ゆきさん:ドライカレーが辛かったので、卵を合わせたいなと思って。でもフライパンが1つしかなくて、カレーで使っちゃってるから、目玉焼きは作れないなーってなって、ポーチドエッグ。べったら漬けは、ふたりでスーパーに行ったときに、「久しぶりにお漬物食べたいね」ってイサオくんが言って、買ったものです。
イサオさん:べったらは無限に食べられる。
ゆきさん:ちゃんちゃん焼きは北海道の料理です。私の姉が何年か住んでいたことがあって。行った先で食べたのか、何かの形で聞いたのか、覚えてないです(笑)。
この日は鮭のおいしそうなのがあって、塩焼きじゃもったいないなと思って。でも前にアルミホイルでやったときに、火の通りがあんまりよくなくて、うまくいかなかったんです。それで調べたら「フライパンで作れる」ってあって、めんどくさいからこれがいいなって思って、イサオくんが「いいんじゃな~い」って言って、やってみちゃった。
イサオさん:家事は手を抜いて抜いていいんじゃな~い。手を抜いたからって愛を抜くわけじゃないんだもの。
ゆきさん:私とイサオくんのごはん茶碗、置き場所を逆にしちゃいました。写真を撮ってからイサオくんが「ゆきちゃんそんなにごはん食べられるの?」って(笑)。
このごはん茶碗は、家にあるなかでいちばん好きな器で、笠間焼です。笠間焼って、軽くてすごく使いやすくて好きです。イサオくんと毎年、笠間焼のお祭りに行ってたんですけど、そこで作家さんとお友達になって、その作家さんのお茶碗です。これ、2つの茶碗じゃなくて、どんぶりと、蓋なんです。作家さんが、「お茶碗にもできるんですよ」って。イサオくんはどんぶり、私は蓋の方を使っています。
イサオさん:笠間また行きたいね。作家さんたちが本当に素敵。作品とキャラのギャップがあるとキュンとしちゃう。
ゆきさん:肉詰めは、ちゃんとしたソースを玉ねぎとバターで作るのがめんどくさいから、ケチャップと中濃ソースで簡単に。肉詰めの肉がちょっと少ないから、スープにベーコンを入れました。
肉類の量とかは考えちゃいますね。飲食の仕事をいろいろしてきたんですけど、いちばん最初が病院の栄養士だったから、「献立」って感じで考えちゃう。厳密には管理栄養士じゃないから、私が献立を立てるわけじゃなかったんですけど、塩分量とかお肉の量とかを量って、患者さんの体調に合ったものにしていたから。
イサオさん:私は毎日、豚汁と納豆と白米でも生きていける。豚汁はおかずです。
ゆきさん:焼売はイサオくんのお母さんがくれて、すごくおいしかったです。2袋くれました。イサオくんは「肉じゃがだけでもいい、それがおかずでいい」って言ってたけど、私は「肉じゃがはメインじゃないだろ」っていう派で(笑)、副菜みたいなイメージなんです。それに、肉々しい焼売で量もあったから、そっちをメインにしました。
イサオさん:なんなら「肉じゃが丼」でも構わんよワシ。
番組では、3組の様子を料理研究家のコウケンテツさんに見てもらいました。台所を「安心できる場所、いちばん落ち着ける場所にしたい」と考えているコウさん。3組それぞれの台所模様に感銘を受け、手紙を書きました。3組からのお返事は、どんなものだったのか。番組には入りきらなかったシーンをご覧ください。
あなたにとって、台所はどんな場所ですか?
※この記事はハートネットTV 2021年10 月13日放送「ふたりの台所」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。