ハートネットメニューへ移動 メインコンテンツへ移動

“あがるアート”(9) 筑波山の麓で「ありのままに生きる」自然生クラブの日々

記事公開日:2021年12月15日

みんなの気分をあげる“あがるアート”。今回の舞台は茨城県つくば市。筑波山を望む自然豊かな土地で農業を営みながら、あふれ出る創作意欲をキャンバスや舞踊で表現するアーティストたちのグループが「自然生(じねんじょ)クラブ」です。農業とアートを通じて、『ありのままに生きる』ことを実践するアーティストたちの日々を見つめます。

自然のエネルギーが創作意欲をかきたてる

筑波山を望む自然豊かな土地で活動する「自然生(じねんじょ)クラブ」。知的障害や自閉症などのある23人が所属し、メンバーの半数が敷地内のグループホームで共同生活を送っています。地域のボランティアを含めて26人のスタッフで運営してきました。

画像

NPO法人 自然生クラブ

天気に恵まれれば、アトリエとダンススタジオのある「田井ミュージアム」まで30分かけて歩きます。

画像

自然のなかを歩くメンバー

「空もよく見えるし、筑波山を眺めながら(歩く)。素晴らしいロケーションだし、歩くといろんな発見をするんですよ。植物とか、バッタとかね。自然のエネルギーをたっぷり吸収して、創作活動にいいと思うよ」(施設長・柳瀬敬さん)

メンバーはミュージアムで週2回、思い思いの創作に取り組み、スタッフはそれを見守ります。

画像

創作活動を行うメンバー

「『今日は上手に描く練習をしましょう』とか、そういう技術的な指導はしないです。形じゃなくて、自分の中から湧き上がるものを絵画でも大事にしてもらいたいので、最低限のことだけをしています」(スタッフ)

11年前、自然生クラブに参加し、人や動植物をモチーフに幅広く作品を手掛けてきた森下慶一さん。2020年にはつくば市内の業務用倉庫に、彼の目に映る筑波山の姿を描き上げました。

画像

森下慶一さんの壁画

「絵を描きたくて、描きたくて、楽しいから。なんで私って鳥たちの絵とか昆虫たちの絵とか描けるんだろうって、不思議に思うんです」(森下さん)

依頼したのは、つくば市の建設会社社長の堀峰也さんです。

「弊社の倉庫を建てる時に自然生クラブさんに行って『描いていただけませんか』ってお願いしました。このつくばにある筑波山がメインになっていて、そこに神聖なる守り神がいるみたいなので、ものすごく鳥肌が立つくらい感動しました」(堀さん)

生み出される作品は稀有な存在

自然生クラブのメンバーの高田祐さんは、10年以上「迷路」と題した絵だけを描き続けてきました。その複雑な作品は見る人を魅了します。

画像

高田祐さんの作品「迷路」

「全部塗りつぶすことがあるんです。またその上に新たな迷路を描き続ける。いろいろお話をしていたら、実はこれ、二階建てだと。それを聞いてから見方が変わりました」(スタッフ)

作品性の高い障害者のアートを広める活動をしている福祉実験ユニット「ヘラルボニー」の松田崇弥さんも、高田さんの「迷路」に心を打たれたひとりです。自然生クラブとのコラボレーションで作成したエコバックやマスクなどは、日本各地で好意的に受け止められています。

画像

渋谷に展示されたコラボレーション作品

「作品として純粋に、非常に大きな力があると思っている。コレクターの方々もそういう視点で見ている。高田祐さんのファンは東京にもいて、尊敬すると言っていました。自然生クラブさんが面白いところは、いろいろな経験の中から生まれてきたものが、一人ひとり発露している。すごく稀有だと思います」(松田さん)

花が咲くように人は表現できる

自然生クラブは1990年に設立、知的障害のあるメンバーとの共同生活と農業を開始しました。約8ヘクタールの農地を借り、米や野菜などを自給しています。20年以上無農薬栽培を続け、採れたての野菜を支援者に送ってきました。

画像

自然生クラブが収穫した野菜

「農業と福祉って全然別じゃなくて、共に生きるという意味では一緒だった。作物と共に暮らしていこう。それは命を大事にすることだし、その命に向き合うことからスタートしたかった」(柳瀬さん)

大学で教育学を修めた柳瀬さんは、群馬県の私立校教員になります。

画像

群馬の教員時代の柳瀬さん

「そこで出会った子どもたちは、ハンディキャップあるとか、いろんな子でした。山に入って、植物のことをやったり、森のことを学んだり、すごく楽しかった。楽しかったんだけど、本当の生活じゃないなって。学校で守られてるしね。本当の豊かさとか生活を考えた時に、真剣に生きたいって(思った)」(柳瀬さん)

そして、自身の思いを実現するために、自然生クラブ創設と同時に障害のあるメンバーたちと絵画や音楽などといったアート活動を始めます。

画像

創設当時の自然生クラブ

「太鼓ってすごくシンプルな楽器だから、ドンってやれば鳴る。歌をうたったり、自然の中で口笛吹くみたいに、鼻歌をうたうみたいに。アートというか、音楽が出てきたんだよね。無心に、夢中になって、表現活動をする。植物って花を咲かせる。花が咲くように、どんな人も何かを表現するんだと思うんだよね。自然に生まれてくるものなんだよね。それにフタしようと思っても、フタできないんだよね。溢れてくる、漏れ出す」(柳瀬さん)

内側にあるものを引き出す

自然生クラブの創作活動のひとつに、即興ダンスのワークショップがあります。スタッフでバレエ講師の山本早苗さんは、5年前にダンスを始めた坂本大知さんに大きな期待をかけています。

画像

即興ダンスを行う山本早苗さん(右)と坂本大知さん

「大ちゃんは柔らかくて柔軟で、素直でピュアな感じ。同時にすごく若さとエネルギーを感じるし、一緒に踊っていて可能性もすごく感じます。最初は自分から積極的に踊るという感じでは全然なかったんですよね」(山本さん)

大知さんは高校卒業後に親元を離れて自然生クラブに入所。週末になると母の英子さんが身の回りの物を持って訪問することがあります。 英子さんが入所前の大地さんの様子を語ってくれました。

画像

坂本大知さんの母 英子さん

「まだミルクを飲んでいるくらいの時から、目線を合わさないとか、抱っこをすると反っちゃうとか、体が接触するのが嫌で・・・。自閉症なんですけども、演目があって形があるものは、きっちりできる。踊りもソーラン節みたいな、振り付けがあると教えてもらえれば踊れる。でも、アドリブで『好きに叩いてください』と言ったら、ぴたっと動かなくなっちゃう。何をやったらいいんだろうという、タイプでしたね」(英子さん)

アドリブで踊れなかった大知さんですが、ふとしたきっかけで変化が見られたのです。

「ある時、内側から感じるんだよって声をかけた。音楽も体の内側から聴くんだよって話をしたあたりから、振り付けじゃない踊りを踊り始めたんですね」(山本さん)

英子さんも大知さんの成長を感じています。

「自然生クラブに入って成長したなって思うのは、アドリブがすごくできるようになったこと。自分で考えて、それを表現する力はぐっと伸びた。嬉しかったですよね。すごいなと思って」(英子さん)

湧き上がるエネルギーが爆発

9月中旬、稲刈りをして農地の整備をする柳瀬さんたちスタッフの姿がありました。一週間後に開催される収穫祭の準備です。収穫祭ではスタッフとメンバーたちが太鼓演奏と田楽舞を行います。自然生クラブは1996年から11回の海外公演を行ってきました。中でも田楽舞は海外のフェスティバルで高い評価を得てきました。

「みんなでわーっと収穫する喜びとか、そういうのが自然に表現できればよくて、それが田楽踊りになる。田楽って、稲作の儀礼です。みんなで共同作業するための労働歌であり、鼓舞する音楽だよね。田んぼも、ある意味ではひとつのアートなんだよね」(柳瀬さん)

9月19日、家族もボランティアで参加して、収穫祭が始まりました。

画像

ボランティアで収穫祭に参加した家族

「コミュニケーションというか、保護者同士が仲良くなったり。お手伝いもとっても楽しいんですよね」(ボランティアで参加した家族)

自然生流の田楽舞では、太鼓、篠笛などによるメンバー・スタッフの演奏を背に、大知さんはソロダンスを披露します。母親の英子さんが見守るなか、見事に踊り切りました。

画像

田楽舞を踊る大知さん

収穫祭を終えた参加者たちはみな充実した表情で、互いを笑顔でねぎらいました。

画像

自然生クラブ代表 柳瀬敬さん

「湧き上がってくるエネルギー。こういう気持ちになかなか今、なれないじゃないですか。生きててよかったって思えることが、幸せなんじゃないですかね」(柳瀬さん)

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう!
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々 ←今回の記事
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”

特設サイト あがるアート はこちら

※この記事はハートネットTV 2021年11月22日(月曜)放送「あがるアート(9)『自然・生・芸術』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

あわせて読みたい

新着記事