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【特集】命と生活を支える制度 みんなの生活保護(2) 今こそ、制度を利用しよう

記事公開日:2021年11月16日

生活保護制度は私たちの命と暮らしを守るセーフティーネットです。しかし、一部の窓口では不適切な対応が行われ、申請を諦める人が多くいるとされています。本来、生活保護は権利であり、必要になったら誰もがためらうことなく利用できる制度です。番組に寄せられた声をもとに、支援現場で、生活保護行政の問題に取り組む専門家が、申請に役立つ正しい知識と具体的な手続き方法を紹介します。

「適切な対応」と「制度の知識」を

生活に困ったとき、最後のセーフティーネットであるはずの生活保護。一部の自治体では窓口が不適切な対応をするケースがあり、番組にも多くの声が寄せられています。

コロナで派遣の仕事を失い、この4月から生保開始。「今日は申請書を書きに来ました」と言ったとたん、タメ語、不機嫌、ペンを投げてよこす等。コロナで就職活動ができないのを「個人の努力が足りない」と、就職活動の交通費を出さない。この仕事したくないんだろうとケースワーカーの偏見をいつも見る。
(ぢんこふさん・40代・女性)

鬱病で仕事を辞めてしまい、家賃なども滞納、明日食べる物もなく、本当にどうしようもない状況にまで陥って初めて、色々な制度があることを知りました。もっと早く知る機会があれば、生活も心も、もっと余裕が出来たのかなと思います。「知らない人が損をする」社会はおかしいと思います。
(ねこぜさん・30代・女性)

生活に困窮する人への支援に取り組む「つくろい東京ファンド」の小林美穂子さんは、これらの声を憂慮します。

画像(つくろい東京ファンド 小林美穂子さん)

「今はコロナ禍ですから、日本中にこのような方がいらっしゃると思います。一生懸命自分の力でなんとかしなくてはと頑張るあまり、健康を損ない、家も失ってしまい、余計に事態が悪化している。回復も遅くなることがすごく多くあると思います。福祉事務所も相手の尊厳を守るような対応が必要ですし、政府も情報の周知を必死にするべきだと思います」(小林さん)

都内の福祉事務所で長年ケースワーカーとして勤めた田川英信さんは、窓口での不適切な対応には構造的な問題があると指摘します。

画像(生活保護問題対策全国会議・事務局次長 田川英信さん)

「福祉事務所の機能が構造的に弱いという問題があります。生活保護の仕事には知識と経験が必要ですが、十分な研修を受けられていない状態で仕事をさせられている。そこがいちばん大きい問題だと思います」(田川さん)

評論家の荻上チキさんは、生活保護の申請がしにくい現在の状況を教育の場から変えていく必要があると考えます。

画像(評論家 荻上チキさん)

「政治がバッシングを行ったり、メディアが偏見に満ちた報道を繰り返したりしています。そのため、生活保護を避ける方がたくさん出て、叩く方がたくさん出ているのが現状です。一方で生活保護は権利です。権利について、本来私たちは学校などで学びますが、生活保護は学ぶ機会がない。学ぶ機会を国としてしっかりと準備することが必要だと思います」(荻上さん)

生活保護の正しい知識がなく、制度とつながれなかった人がいます。マンガ家の内田かずひろさんは今年2月、生活保護の申請窓口で誤った説明を受け、申請を諦めてしまいました。住まいを失った内田さんは、つくろい東京ファンドの支援を受けて3か月間シェルターで生活。現在は新しいアパートを借り、何とか自力で生活を立て直そうとしていますが、生活保護制度に関する正しい知識を持つことの重要性を改めて感じています。

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マンガ家 内田かずひろさん

「何も知らなかったんですよ、僕。制度について知らないがゆえに、誤った説明にも気付くことができなかったので、知らないと損することが多すぎるというか。自分は、『それだったらいいや』って諦めてしまったので」(内田さん)

内田さんは、生活保護の窓口で自分と同じ思いをしてほしくないと、自身の経験から感じたことを元に描き下ろしマンガを制作してくれました。

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内田かずひろ作「あなたにも権利アリ!」

厚労省に聞く!生活保護のQ&A

生活保護の正しい知識を身につけておけば、いざという時に役立ちます。制度に関するさまざまな疑問や誤解について、厚生労働省 社会・援護局 保護課の担当者に聞きました。

Q.ネットカフェや路上で寝泊まりしている場合、生活保護は利用できない?

A.住まいがない状態で保護の申請に来られる方も非常に多い。そうした場合は現在いる場所で申請していただくことを、生活保護法上、認めています。

※生活保護法で認められている「現在地保護の原則」。住居がない、住民票がないという人も、今いる場所で申請が可能です。

Q.施設への入所は申請の条件?

A.施設への入所は申請の条件にはなっていません。福祉事務所は、本人との面接相談の中で、その方がご自身で居宅生活を営むことが可能か判断します。その結果、居宅生活が可能であると認められれば、敷金等を支給して、アパートを探していただくことになります。

※求められるのは金銭管理や家事など、基本的な生活力。すべてが完璧でなくても、アパートを借りて暮らすことが認められています。

Q.持ち家を手放さないと生活保護は利用できない?

A.居住用の持ち家は、処分価値が非常に大きい場合を除いて、保有を容認となっています。

※処分する時点での資産価値によっては、住み続けることが可能。国の示す基準では、東京23区内は2600万円以下、生活保護の基準額が低い地域では2000万円以下がひとつの目安とされています。

Q.申請すると必ず家族に連絡がいく?

A.家族への連絡(扶養照会)は、申請の条件ではありません。同居していない家族・親族に対して、「相談してからではないと、保護を申請できない」といったことはありません。

※今年3月、ケースワーカーの実務上のマニュアルである「生活保護手帳 別冊問答集」の記載が変更され、扶養照会のより柔軟な運用が可能となりました。「親が70歳以上」の場合などに加え、「10年程度 音信不通の親族」に対して、無理な扶養照会を行う必要がないこと、また「暴力や虐待被害などの経緯」がある申請者については、本人の自立を阻害する配偶者・親族への扶養照会は控えることなどが示されています。

小林さんたち つくろい東京ファンドでは、扶養照会を拒否する意向を窓口で示すための申出書を作成し、団体のホームページで無料でダウンロードできるようにしています。
「扶養照会に関する申出書」と、拒否する理由や家族関係を一覧にしたチェックシートをプリントアウトして記入し、窓口に持参することで、「扶養照会を拒否する」意思とその理由を職員に示すことができます。

※シートは、こちらのページの中の「扶養照会をされたくない事情がある場合(つくろい東京ファンド)」の項、「扶養照会に関する申出書(つくろい東京ファンド)」のリンクをご覧ください。

生活保護の申請手順

生活保護が必要になったら、正しい知識を持ってためらわずに申請することが大切です。具体的には、次の手順で進めます。

生活保護の申請手順
① 地域の福祉事務所を訪ねる
② 相談員との面接
③ 申請書に必要事項を記入
④ 審査

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生活保護の申請手順

ここで、生活保護の申請書が窓口に置いてないという、手続き上の問題点を小林さんが指摘します。

「市役所で、住民票とか印鑑証明の申請書は手に届くところにあります。それが生活保護に限っては、どこにも置いてないんです。相談したあとで、相談係の方が申請書を出すかどうかを決める。生活保護の申請で窓口へ行っても、『生活の“相談”に来られたのですね』と言われて、相談だけ長い時間聞いて、『じゃあ、頑張ってください』と追い返されてしまう。マイルドな“追い返し作戦”みたいなことも耳にします」(小林さん)

そこで、つくろい東京ファンドは、オンライン上で自分で生活保護申請書を作成できるシステムを作りました。ウェブサイトに名前や住所(現在寝泊まりをしている場所)、収入や所持金の有無など、基本情報を入力すれば、PDFの申請書が完成。東京23区内の福祉事務所には、サイト上のボタンを押すと、直接ファックス送信することができます。それ以外の地域での申請時には、印刷したものを持参することができます。

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生活保護の申請書を作成できるウェブサイト「フミダン」

※申請書作成システムは、こちらのページの「生活保護申請書のオンライン作成・FAXサービス」の項、「フミダン 生活保護申請」のリンクをご覧ください。

厚生労働省によると、生活保護の申請書に規定の書式はなく、必要な項目さえ記載していれば、「チラシの裏紙などでもok」とされています。つくろい東京ファンドでは、申請書を用意し持参することで、“相談”で終わらせず “申請の意思”があることを明確に示すことにもつながると取り組んでいます。

生活保護は誰でも使えるセーフティーネット

番組には、生活保護に対する抵抗感が見える声も寄せられています。

同居の娘が結婚予定の相手含め、親族に知られることが恥ずかしいと反対します。その上、生活費の協力もしないため、八方塞がりです。
(幸せを探してさん)

引っ越しのため部屋を探しても、生活保護受給者だと告げるだけで断られ、結局20件中1件ぐらいしか次の段階(内見)にも進めない。
(kikiさん・40代・女性)

生活保護にネガティブなイメージがあるのは、世間の見方が影響しているのも一因です。

「政治家がバッシングしたことがありました。生活保護を利用するのは恥ずかしいとか、さもしいと発言された。最近も著名人の方がホームレスや生活保護利用者はいらない、などと発言されました。こういう意識が国民全体にあると思います。私たち自身の中にもあると思います。これをなんとか変えていくためにも、行政が『生活保護は権利』だと、積極的に広報する必要があります」(田川さん)

生活保護制度は、困ったときに誰でも使えるセーフティーネットです。制度を利用して新たな一歩を踏み出した人がいます。

つくろい東京ファンドが運営するカフェでスタッフとして働く優さん(仮名)は、2年半の間、住まいがなく、ネットカフェで寝泊まりをしていました。生活保護を申請したのは5年前。当時は年齢も若く、仕事をしている自分に利用する権利があるのか分からなかったと振り返ります。

「年齢的なこともあったし、住居もなかったですし、どこから手を付けていいのか分からなかった。(生活保護制度を利用開始して)アパートに入るためのお金だったり、最初に家具を揃えるためのお金だったり、すごくありがたかったですね。こういうところまで面倒をみてくれるんだと、すごく驚いたのは覚えています」(優さん)

優さんは、生活保護を利用して初めて得たものがあります。

「決まった住まいがあるっていうのは全然違いますね。心に余裕ができます。初めてやりがいだったり、仕事に行ってみたいと自発的に思ったり。常連の方と顔あわせてみたいだとか、初めて仕事に行くのが楽しみになりましたね」(優さん)

優さんに、いま制度を必要とする人に伝えたいことを聞きました。

「制度とか利用するのは抵抗もあると思うんですけど、死んでしまったらどうしようもないというか。絶対、話を聞いてくれる人がいるし、制度を使って、何はともあれ、生きてほしい。」

制度を利用し、生きがいのある暮らしを取り戻した人がいる一方で、申請に迷っている人が大勢います。

「生活保護を利用していただいて、自分の人生を歩んでいけるんですよ。命を失うことは絶対にないと思います」(田川さん)

画像(田川英信さん)

「自己責任ではないと、重ねて申し上げたいと思います。自己責任ではないんです。私たちの生活や命より大切なものがあるわけないじゃないですか。ですから制度を利用して生活と健康を取り戻し、再建してほしい。私たちの生活保護制度だと、重ねてお伝えしたいです」(小林さん)

画像(小林美穂子さん)

「自己責任論って呪いのようなもので、繰り返し自己責任と言われているうちに、そんな気がしてきてしまう。すると身動きがとれなくなって、自分が悪いと思い込まされてしまっている。でもそれは思い込みで、命には価値があり、生活には価値がある。それらはすべて権利だと、多くの人に確認して、呪いを解いてほしいと思います」(荻上さん)

画像(荻上チキさん)

生活保護を誰もが利用しやすい制度にするために、ハートネットTVはこれからも考えていきます。

【特集】命と生活を支える制度 みんなの生活保護
(1)何が権利を阻むのか
(2)今こそ、制度を利用しよう ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2021年10月6日放送「第2夜・今こそ、制度を利用しよう」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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