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“あがるアート”(7) “当たり前”をぶっ壊そう!

記事公開日:2021年11月05日

地域を元気にしてくれる“あがるアート”。第7回は、福祉の世界に一石を投じるクリエイティブ集団「スウィング」に密着しました。メンバーは“当たり前”とされてきた価値観に疑問を投げかける活動を展開。清掃する戦隊ヒーローや、複雑なバスの路線図を丸暗記した「京都人力交通案内」など、既成概念を打ち破るパフォーマンスで大活躍です。「世の中がほんの少しでも楽しくなればいい」という「スウィング」の取り組みに迫ります。

嵐を巻き起こす福祉施設

京都市上賀茂にあるNPO法人スウィングは、障害のある人とない人、およそ40人が働いている福祉施設です。ここは今、福祉の世界に嵐を巻き起こそうとしています。

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NPO法人スウィング

施設のメンバーが取り組む主な仕事は、絵画を中心とした創作活動です。メンバーのひとり、かなえさんは、大好きな氷川きよしの写真を何十枚も切り抜き、コラージュを作成しています。

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かなえさんの作品

その隣で制作するのは杉本裕仁さん。一心不乱に嵐を描いています。
実は、嵐よりも大好きなのが…なんと!“お尻” 真ん中の赤い線は “割れ目”だそうです。

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杉本裕仁さんの描いた“お尻の絵”

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杉本裕仁さんの絵

櫻本京一さんは太さ0.03ミリという極細のペンを使って、小さな四角の集合体で抽象画を描いています。

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櫻本京一さんの絵

メンバーが制作しているのは、絵画だけではありません。辻井美紗さんが作っているのは「あずま袋」。江戸時代から庶民に親しまれてきた小物入れです。

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辻井美紗さん作「あずま袋」

メンバーたちの個性あふれる作品は、地域でも親しまれています。 京都市内にある美容院は、4年前からスウィングに絵の依頼を。毎回与えられるテーマに、メンバーたちはイメージを膨らませて制作してきました。今回のテーマは「食欲の秋」。サケをくわえたキュートな熊に「期待以上の出来栄え!」と店のスタッフは大喜び!
常連さんたちも、毎回、新しい絵を楽しみにしているといいます。

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XLさん作「熊とサケ」

別のカフェではメンバーの作品を使った「がま口財布」や「ポチ袋」などのアートグッズを販売。女性客に大人気です。

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販売されているアートグッズ

地域の名物になった“戦隊ヒーロー”

個性豊かなスウィングのメンバーを率いるのは、理事長の木ノ戸昌幸さんです。その斬新な活動方針を教えてくれました。

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スウィング理事長 木ノ戸昌幸さん

「当たり前の価値観とか、常識的な生き方をしようとしてきた、あるいは強いられた結果、ひどい目にあった人(メンバー)が多いんですね。だから、そうではない生き方、そうではない働き方を作っていこうと続けてきました」(木ノ戸さん)

年に2回発行されているフリーペーパーを見ると、テーマはこれまでのアートや福祉の価値観に一石を投じるものばかり。その真骨頂ともいえるのが、スウィングのメンバーが変身する「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー」です。

画像(まち美化戦隊ゴミコロレンジャー)

彼らが行うのは、地域の清掃活動。目的は、ゴミ拾いを魅力的な活動に一新させること。名付けて“ゴミコロリ”
堅苦しさをとっぱらったパフォーマンスは口コミで広がり、近所の人の参加も増えてきました。

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近所の人も参加する清掃活動

「障害とか健常とか関係なしに一緒になって、すごく楽しくやっていたのを見て、ぜひ参加させてくださいと。(子どもが)すごく楽しそうで、その姿に驚いてます。ふだんと全然違う表情だったので、参加させてもらっています」(子どもと清掃に参加した母親)

13年間続くこの“ゴミコロリ”は、今では地域の名物になっています。

「価値観からちょっとはみ出すことをやってみる。それは『ギリギリアウト』なんですけども、『ギリギリアウト』を狙ってやり続けているうちに、それがセーフに変わっていくんですよね。この社会、世の中で『あんなことしてもいいんだ』というのは、すごい安心感につながると思うんですよね」(木ノ戸さん)

問い続けてきた“当たり前”の価値観

スウィングがスタートしたのは2006年です。その活動の背景には、木ノ戸さんの幼い頃からの“生きづらさ”がありました。

小学校では勉強も運動も得意だったという木ノ戸さん。次第に高まっていく周囲の期待に、「出来て当たり前」というプレッシャーに押しつぶされそうになります。

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小学生時代の木ノ戸さん・右

生きることに精一杯で、死ぬことばかり考えていた日々。転機が訪れたのは20歳を過ぎた頃です。偶然参加した「大学生の不登校を考えるシンポジウム」で、ニートの若者を支援する認定NPO法人ニュースタート事務局理事、二神能基さんの言葉に木ノ戸さんは衝撃を受けます。

今の若者にですね、「他人に迷惑をかけるな」「自立せんといかん」「目的を見つけろ」。この3つぐらいの言葉で網にかけられて、動けなくなっているというのが彼らの現状です。だから次の一歩が踏み出せないんですよ。この3つの条件をクリアする次の道なんてありませんよ。だからこの言葉を外してやらないと、彼らは最初の一歩が踏み出せない。
(二神能基さんの講演(1998年))

それは、木ノ戸さんの生き方とは正反対の価値観でした。気持ちが楽になり、自分が好きなように生きればいいと気づき、28歳でスウィングを設立。“当たり前”という価値観を問い続けてきました。

「社会全体の古い価値観によって、多くの人が疲れて、悲しい思いをして、しんどい思いをして、ガチガチに縛られている。ハッピーに生きられる人は、すごい減っていると思う。無理して誰かに合わせるんじゃなくて、自分のままで生きられるって最高ですよね。スウィングが考えてることを伝えていくことで、ちょっと楽になれる人がいたらいいなという思いですね」(木ノ戸さん)

そんな木ノ戸さんの考え方に共感する人がいます。元新聞記者の稲垣えみ子さんは、「当たり前」の価値観に苦しんでいました。稲垣さんにとって、木ノ戸さんの言葉は目からウロコだったと振り返ります。

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稲垣えみ子さん

「会社にいると競争しなきゃいけない。できないと、たちまち“バツ”を貼られる。(木ノ戸さんが)『僕、人間の最大の仕事って、息をしていることだと思うんですよね』とおっしゃったんです。『息をしていることが仕事』と言ったら、だいぶハードル下がるじゃないですか。人間って本当は、生きてるだけでいいんじゃないのと思った。できることがいいことだ、昨日より今日が上にいくことがいいことだというのを変えなきゃいけないと思ってたときに、『こういう手があったのか!』と。めちゃくちゃいいなと思ったんですよね」(稲垣さん)

得意なことで社会に貢献する

世の中には数多くの仕事がありますが、その仕事を担う人だけでなく、それを得意とする人が手伝ってもいいとスウィングは考えます。

例えば、バス交通が発達した京都市内は停留所だけでも1600以上あり、観光客にとって乗り換えは至難の業です。そこで、バスの車掌さんにそっくりの格好をしたXLさんとQさんが、手づくりの「交通案内実施中」の看板を胸に掲げて乗り換えの案内をしています。

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XLさんとQさん

根っからのバスマニアのXLさんは、車内の路線図を眺めているうちに、ほぼ丸暗記。Qさんは、かつて勤めていた会社に行くのが嫌で、バスに乗って時間を潰しているうちに路線図を覚えてしまったと言います。この二人に行き先を告げると、驚きの早さで最適なバスを案内してくれるのです。

そこで、「嵐山から祇園に戻って、最後に京都駅へ行きたい」とお願いしてみると、何も見ずにスラスラと答えてくれました。

「11番で四条大宮まで行って、四条大宮から201番、203番、207番、46番。ほんで祇園からは、206番か86番に乗って京都駅に行けます」(XLさんとQさん)

「あんな格好をして、バス停であんなふうにふるまっていいんだと思えることは、何かを楽にさせる気がするんですね。お金を介さないコミュニケーションとか、お金を介さない親切という仕事。お金をたくさん得ることが、人間の自信とか安心感につながるのではないと実感しますね」(木ノ戸さん)

“当たり前”ではない図書館を作る

現在、スウィングでは新たな取り組みが始まっています。それは、学校に行きづらい子どもたちのための「居場所」作りです。

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スウィング内に作られた子どもたちの「居場所」

平日でも子どもたちが気軽に遊びに来られる場所として考えたのが図書館。スウィングを図書館として開放し、一般の人に利用してもらおうとしているのです。そして、めざす図書館のイメージも“当たり前”のものではありません。デザインを担当する坂田佐武郎さんは、木ノ戸さんのイメージする図書館に思わず膝を打ったと言います。

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グラフィックデザイナー 坂田佐武郎さん

「木ノ戸さんから、『鴨川みたいな図書館』と回答が返ってきた。走っている人もいれば、デートしてる人もいる、お酒を飲んでいる人もいる。図書館にすることで、よりそういう場所に近づけたいんだなと」(坂田さん)

図書館の蔵書は、9か所の書店にセレクトを依頼しました。集めるのは、アートや文学などあらゆるジャンルの本。これまでに2000冊を確保し、オープンに向けて着々と準備が進んでいます。

図書館の看板も出来上がりました。誰でも気軽に立ち寄れるように、京都になじみのあるバス停をイメージ。キャッチコピーは「本を読んだり、あくびをしたり」です。

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図書館の看板

「図書館はひとつの自分の理想が叶う試みだなと思った。学校がやっている時間ですから、基本的に学校に行きづらい子どもが来る。だから10年後ぐらいには、フリースクールになればいいなと思っています」(木ノ戸さん)

社会の“当たり前”を問い続けるクリエイティブ集団スウィング。世の中が今よりほんの少しでも楽しくなるために“当たり前”をぶっ壊します!

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう! ←今回の記事
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”

特設サイト あがるアート はこちら

※この記事はハートネットTV 2021年10月25日(月曜)放送「あがるアート(7)『“当たり前”をぶっ壊そう!』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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