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家族が犯罪者になってしまったら? “加害者家族”への支援を考える

記事公開日:2021年10月12日

もし、あなたの家族がある日突然、誰かを傷つけてしまったら? 罪を犯した人の親や兄弟など、いわゆる“加害者家族”の実情はあまり知られていません。家族が事件を起こしたショックや「自分が止めていれば」という自責の念、追い打ちをかける社会からの激しいバッシング。調査によると、およそ9割の人が精神的に追い詰められ、自殺を考えたといいます。全国でも数少ない支援団体の活動から、人知れず苦しみを抱えてきた加害者の家族たちの実情に迫ります。

殺人を犯した息子 母親の苦悩

ある日突然、加害者の家族となってしまった女性。息子が突如殺人事件を起こし、日常生活が一変します。

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加害者の母親

「いつもと変わらない夕飯を終えたあと、息子から『話がある』と声をかけられて、(犯行を)告げられました。何かを感じる前に、何も考えられなくなってしまった」(加害者の母親)

息子の逮捕後、女性は事件を受けとめられず、家から出られなくなってしまいます。遺族の元へ謝罪に行った夫は親の責任を厳しく追及されました。特に苦しんだのが、逮捕直後から始まったネット上のひぼう中傷です。

「息子のしたことは取り返しようのない、本当にひどい事件でした。(ひぼう中傷は)言われても仕方がない。事件を起こしたのは息子ですし、育ててきたのは自分たちです。目を背けたらいけないと、日々(書き込みを)見るんですけど、自分でも気がつかないうちに、どんどん追い詰められるというか、『親が責任を取って死ね』という書き込みを見て、その通りですとしか思えなくなってくるというか・・・」(加害者の母親)

ひぼう中傷は日に日にエスカレートし、家族全員の顔写真がネット上にさらされ、夫の会社も特定されて仕事を失いました。女性は何度も引っ越して身を隠し、名字を変えるために離婚。それでも不安と恐怖は消えず、自殺を考えるまで追い込まれました。

そして、精神的に限界を感じるなか、支援団体の存在を知ります。女性が参加したのは、加害者の家族が集まる会。事件後のストレスや、世間から孤立していく悩みなど、誰にも話せなかったことを共有できる場所です。

「大変な思いをしている方々が、こんなにもたくさんいるという衝撃がありました。心のよりどころです。最後の命綱ではないですけど、そういう意味合いが非常に強かったです。自分たちの気持ちもくんでくれて、しっかり受けとめてくださる。それだけでなく、加害した側の家族が、罪を犯した本人と事件ときちんと向き合う機会を作ってくださる。(支援団体があることで)自分たちも目をそらさずに、ここまでこられたと思っています」(加害者の母親)

加害者家族支援団体の代表 阿部恭子さんは、家族の精神的なサポートや、裁判や刑務所についての情報提供などを行っています。これまで、交通事故や性犯罪、殺人事件など、2000件以上のケースに関わってきました。

画像(これまで関わってきた資料)

もともとは被害者の支援に関心があったという阿部さん。大学院の授業で初めて、加害者家族の苦しみについて知りました。その後、同級生と一緒に家族が集まる会を手探りで立ち上げ、以来13年にわたって支援を続けてきました。

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支援団体代表 阿部恭子さん

「私も加害者家族支援に関わる前までは、悲惨な事件が起きれば被害者がかわいそうだと。悲しみと加害者への怒りで批判したい気持ちがすごく湧いてきたわけで、今も湧かないわけではないですけど、バッシングを受けなくても家族は十分傷ついています。(加害者家族は)社会に居場所がなくなってしまいます」(阿部さん)

加害者の家族をバッシングする心理

加害者の家族は具体的にどのような困難に直面するのでしょうか。

支援団体が加害者の家族に対して行ったアンケートがあります。結果を見ると、「結婚が破談になった」「進学や就職をあきらめた」「転居を余儀なくされた」という方が4割近くいました。

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加害者の家族へのアンケート結果 NPO法人 ワールドオープンハート 2014年調べ

犯罪学が専門の龍谷大学法学部教授 浜井浩一さんが、アンケート結果を分析します。

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龍谷大学法学部教授 浜井浩一さん

「加害者本人は罪を犯すと塀の中(刑務所)に入ります。そうすると、ある意味、社会からのバッシングから守られる。本人が目の前にいないので、代わりに家族をたたくわけです。最近になって、犯罪被害者の方々に対する支援が進んできていますけれども、加害者家族は当事者ではないんです。被害者でも加害者でもないわけです。だから、そういう人たちに対する支援は想定されていないので、社会の中で孤立してしまう」(浜井さん)

加害者が未成年などの場合は、保護者などが賠償責任を負う可能性はあります。しかし、当事者ではない家族が追い詰められるのはなぜでしょうか。

「日本は家族全体が非難される、ある意味“家族人質社会”みたいなところがあります。諸外国でも多少こういう傾向はあるんですけれども、家族がここまで非難されるのは日本独特の現象。家族全体がバッシングの対象になってしまう。社会的に孤立して、重大な事件の場合には自殺する人も出てしまう」(浜井さん)

そのため、加害者家族を支えるシステムが必要だと考えていますが、日本でなかなか理解を得られない理由の一つは、犯罪被害者への支援がまだまだ不十分なためだと言います。

「例えば、ノルウェーや北欧の国々は、何よりも社会的に困った人、困難に陥った人、とくに犯罪被害者の人たちに対して手厚い支援が行われています。その上で、加害者や犯罪加害者家族に対する支援も行われます。(加害者家族の支援に)後ろめたさを感じてしまうのが、日本社会のいちばん大きな問題です」(浜井さん)

被害者が望む加害者家族への対応

一方、加害者家族への支援の動きに対して、被害者や遺族はどのように受けとめているのでしょうか。

片山徒有さんは、1997年に交通事故で当時小学2年生の息子を亡くしました。現在は被害者支援団体の代表を務めています。片山さんは、被害者が望むのは加害者本人の償いと更生であり、家族へのバッシングではないと考えています。

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片山徒有さん

「加害者のご家族は加害者ではないわけですから、(怒りを)ぶつける相手が間違っていると思います。(加害者本人が)自分のしたことの社会的な責任を取るために、誠実に被害者に対応しようと思うのは、家族があればこそです。(家族が)加害者本人を支えていくことによって、より誠実に対応できると、ご家族の方にも期待しているところです」(片山さん)

浜井さんもかつて刑務所で勤務し、受刑者に接してきた経験から、片山さんの考えに同意します。

「人の命を奪った加害者に、その事件に向き合ってもらうのは相当大変です。一緒に事件に向き合ってくれる人がいるのは、事件に向き合う上で大きな支えになる。頑張って向き合ってみようという気持ちになっていく。だから、家族の果たす役割は非常に重要だと思います」(浜井さん)

罪を犯した弟と一緒に歩んでいく

夫が妻を殺害してしまったある事件。加害者の兄は事件が起きるまで、弟の妻の家族と親しく付き合っていました。

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加害者の兄

「あちらのお父さんは優しい人でした。申し訳なさが深すぎて、率直に言うと重すぎて言葉には表現できないです。いろいろな手続きをやっていかないといけないんですね。例えば保険であったり、年金であったり。いちばんつらいのが、被害者側の親族と一緒に連携しなければいけない手続きもあるんです。それは本当に苦しかったです」(被告人の兄)

弟の裁判が始まり、男性は支援団体の阿部さんと相談して、弁護側の証人として法廷に立つことを決めました。

精神的な負担を減らすために、裁判には阿部さんも同行します。

「家族としてはいちばん緊張するところです。自分の姿をさらして法廷に立つわけですから、周りの人の目があります。自分が加害者家族ということをカミングアウトせざるを得ない状況になる。家族にとっては本当に一大事なんです」(阿部さん)

男性は裁判で、弟夫婦の相談に乗れなかった後悔や更生を支える決意を1時間にわたって語りました。そして最後に、「私は何があってもお前の兄だということは伝えたいと思います」と述べました。

「僕が情状証人で話したことがいいのか悪いのかはわからないですけれども、一つ一つ心を込めて、魂を込めて話させて頂きました。裁判が始まると、知らなかった事実がどんどん聞こえてきた。あちらのお父さんの悲痛な叫び、実際に声も聞こえてくる。あと、目の前で弟が手錠をかけられたり、はずされたりしました。そうすると、立っている気持ちがそがれていく。心を込めて話すとか、魂を込めて話すとか、阿部さんがいなければできませんでした」(被告人の兄)

裁判では家族が支援を約束していることもあり、被告人の更生可能性が認められました。判決は10年以上の懲役刑。刑の確定から2か月後、男性は弟が収監されている刑務所に面会に行きました。

「僕は兄として罪を償わせることをしなければいけない。働かせて、稼ぎを得て、それを慰謝料にあてることはわかるんですけれども、弟の罪の大きさはそれで償えるものではないですから。一緒に歩んでいく。そういうふうに思っています」(被告人の兄)

面会できたのは30分。弟は「被害者に申し訳ない」と話し、謝罪の手紙を書きたいと男性に伝えました。

なぜ加害者の家族を支えるのか?

加害者が誠意をもって被害者と向き合うためには、家族に対する支援が必要です。

「弁護士を紹介したり、生活上の問題があれば生活保護につないだりすることが必要です。拘置所から刑務所に移る場合には、どうやって連絡をとったらいいのかもわからないと思います。そういうところも支援していくことが大事。受刑が始まったら、今度は罪を償って戻ってくる体制づくりになります。そこから先は家族に寄り添いながら、一緒になって本人に対していろんな働きかけをしていく。あるいは家族を受け入れるための準備を家族とともにやっていくという役割になります。精神的な支えもすごく大きいと思います」(浜井さん)

加害者の家族を支えることは、社会的にも意味があると考えられます。刑務所から出所して、5年以内に罪を犯して再び刑務所に入った人の割合は、満期の出所で47.9%。一方、刑期の途中で仮釈放になった場合、再入率は29.8%と大きな差が出ています。

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出所受刑者の再犯率 出典:令和2年犯罪白書

「仮釈放になる人は、家族などに引受人のいる人です。引受人のいない人は、どんなにまじめにつとめても仮釈放にならず、満期釈放になります。満期釈放になった場合には、突然社会に放り出されますが、仮釈放になれば保護観察がつきます。保護観察はたんに監視するだけではなく、本人の社会復帰を支援する役割も担っています。家族共々サポートを受けながら立ち直りをしていくので、再犯率がこれだけ大きく違ってきます」(浜井さん)

再犯が減るということは新たな被害者を生まないことにつながります。被害者支援はもちろん大切で、さらに進めていく必要があります。同時に、加害者の家族にも目を向けて、双方を支援していくことが大切です。

※この記事はハートネットTV 2021年9月28日(火曜)放送「“加害者家族”を支えるということ」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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