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知られざる「ゲーム障害」の実態

記事公開日:2018年06月06日

オンラインゲームなどに熱中し生活に支障をきたす症状「ゲーム障害」。WHO(世界保健機関)は新たな病気として国際疾病分類に加える見通しです。このままではいけないと思いながらも1日20時間をもゲームに費やしてしまう男性、恋愛ゲームに70万円近く課金しているという女性。2人の生活を追いながら、知られざる「ゲーム障害」の実態に迫ります。

海外では死亡例も ゲーム障害の実態

インターネットでつながる人々が共に楽しむオンラインゲーム。ここ数年、「eスポーツ」としても認知されるようになっています。一方で、暇つぶしのつもりだったはずが、ゲーム中心の生活から心や体がむしばまれる人がいま増えています。

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番組ホームページには本人や家族からの心の叫びが寄せられています。

「スマートフォンゲームにどっぷりとはまってしまい、衝動的な課金にも手を出しました。寂しさから依存しているのだと思います。日常的に付き合う友人がいません。カウンセリングを受けようと思ったのですが、生身の人の前で自分のクズで醜い面を晒すことが怖くて、踏ん切りがつきません。助けてほしいです。」(大学3年・女性)

「息子は昼夜逆転生活で、大学生ですが行かないので単位は取れていません。1日1食、風呂も入らないまま、まるで鬱のように感じることが多々あります」(20歳の息子をもつ母親)

海外では長時間ゲームを続けた若者が下半身がうっ血し、死亡した事例もあると言い、WHO(世界保健機関)もゲーム障害を新たな病気として認める方針を示しています。

日本で初めて「ネット依存」の専門外来を設けた久里浜医療センター。「ゲーム障害」治療の第一人者、精神科医の樋口進さんは年間1,500人以上の患者を診察しています。

「ゲーム障害は一言で言うと、ゲームのしすぎで生活に支障が出ている状況」(樋口さん)

さらにゲーム障害は、部屋にこもることにより、肺機能や持久力の低下等、明確な体力の低下をももたらすと樋口さんは指摘しています。

また、樋口さんによると、「ネット依存」の専門外来を訪れるのはいわゆる「オンラインゲーム」のユーザーが多いと言います。その“ある特徴”が、ゲームへの依存度を一層高めている可能性を指摘します。

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「仲間と共同して何かのゲームをしていく。“君がいなければ、うちのゲームは駄目なんだ”みたいな感じで必要とされたりですね、そういうふうなものが、ゲームへの依存を非常に質的に高めているんじゃないかと思います。」(樋口さん)

1日20時間をオンラインゲームで消費

ゲーム障害の実態とはどういうものなのか。

あんどぅさん(25歳)は、貯金を切り崩しながら、千葉県内のシェアハウスの一室で、ゲーム漬けの生活を1年以上続けていると言います。あんどぅさんがのめり込んでいるのは、世界で最も人気だという無料のオンラインゲーム。その時つながった世界各国の見知らぬ誰かと時を共にします。

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「チームを組んで、敵の本拠地を壊せば勝ちというゲームですね。こういうオンラインゲームだと画面の向こうにいるのは生身の人間なので、生身の人間ならではの動きや反応が得られるので楽しい。」(あんどぅさん)

あんどぅさんの日常を固定カメラで撮影してみると、まだ日も高い午後1時にゲームを始め、ゲーム中は両手以外、微動だにしません。初めて手を止めたのは、1回戦が終了したとき。そしてまた2回戦が始まります。このゲームに終わりはないのです。
ゲームを終えたときには午前4時になっていました。その間、席を立ったのは食事1回、トイレ2回の合計3回のみ。

「極力何かをしたくないのがあって。トイレ行くのもだるいし、極度に疲れやすくなった。お風呂も3日に1度しか入らなくて、ずっとべたべたで。」(あんどぅさん)

変化は、体型にも顕著に表れていました。

「こっちに来た当初は、ジーパンが結構ぴったりだったんですけれども、実はいま両手が入って、しかもまだまだ・・・(空きがある)。すごい痩せちゃいましたね。」(あんどぅさん)

契機は現実での挫折 ゲームが心の隙間を埋める

子どもの頃はどこにでもいるゲーム好きの少年だったというあんどぅさんの「転機」となったのは、20歳の時に勤めたデザイン会社での出来事でした。新卒で勤めた地元の中小企業は、世間一般で言うところの“ブラック企業”でした。

「一番印象的だったのが、僕のお世話係をしてた先輩がいたんですけど、あまりの業務の多さに僕の目の前でパタンて倒れちゃいまして。翌日ぐらいにその先輩のお母さんが(中略)うちの子を休ませてあげて下さいって会社に謝りに来た」(あんどぅさん)

こうした経験が、あんどぅさんのなかの“心の闇”を徐々に膨らませていきました。

「当時は毎日、自殺を考えてましたね。死んだら明日仕事行かなくていいってことを・・・。もう会社で働くことが怖くなっちゃって。」(あんどぅさん)

そんなとき、心の隙間を埋めてくれたのがゲームの世界。3年間勤めた会社を辞め、実家でゲーム中心の生活が始まりました。そんな生活を変えたくて1人暮らしを始めたものの、再起をかけたデザインの仕事はうまくいきませんでした。

「気持ち的に後ろ向きになっちゃったんで。逃避するってことが、さらに生活の一部としてルーチン化してしまいました。」(あんどぅさん)

一日中誰とも話さない、出口の見えない日々が続きます。

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「もう最低限生きてて。この先もずっと引きこもってゲームができる環境があればいいなと。」(あんどぅさん)

医師の樋口さんによると、「ゲーム障害」を脳科学の観点からとして見たとき、依存になりやすい傾向は、衝動を制御できないことと関連があると言います。

「脳の中にはいわゆる『理性の脳』があり、これは通常前頭前野、脳のいちばん前の部分と言われているんですけれど、この部分が自分たちの行動に対してコントロールしています。この理性の脳の働きっていうのは、年とともにだんだん成熟してくるのですが、未成年の頃っていうのは大人に比べるとただでさえ理性の脳の働きが低くなっている。それと同時にですね、ゲームをやってどんどん依存行動がひどくなっていくと、一様にこの前頭前野の働きが悪くなるということが言われています。つまり行動のコントロールがなかなかできなくなってしまうということがある。これは薬物とかアルコールでもみられることなんです。」(樋口さん)

樋口さんはまた、対人関係がうまくいかず、現実社会のなかで居場所を見つけられない人がゲーム障害になりやすい傾向があることを指摘します。

「現実社会のなかで、周りの方々が評価できるような(中略)ものを持っているケースの場合には、やっぱりなりづらいということが分かっている」(樋口さん)

“課金システム”のもたらす高揚感

10代女性のぺんぎんさんは、学生の時から恋愛ゲームのとりこになったと言います。

「もうずっと依存している自覚はあります。ゲームがなくなったら自分は趣味も働く意味も失い、死んだような生活になるのではないかと不安で仕方ありません」(ぺんぎんさん)

ぺんぎんさんが夢中になっているのは学園恋愛ゲームの中にいるキャラクター。ゲームには、さまざまなシチュエーションの物語が用意されています。原則無料ではあるものの、刺激の高い物語を楽しむには、課金システムでお金を払う必要があります。1回300円~1万円と価格はさまざまです。

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ゲームで叶う理想の恋愛。“恋愛”を続けるために、ぺんぎんさんはこのゲームに70万近くの額を使ってきたと言います。

ぺんぎんさんがゲームにはまったのは中学3年生の時。きっかけは両親の離婚でした。

「両親の失敗を見てきてるので、恋愛とか結婚とかにはもう夢持たないみたいな。キャラクターの方が、完璧っていうか、自分のこと急に嫌いになったりとかもしないし、ずっと好きでいてくれるものなんで…。」(ぺんぎんさん)

そして、ゲームへの依存を加速させたのが、一度味わったらやめられない刺激だったと言います。

「目当てのカードを、(課金システムで)引いた時の高揚感。キャラクターが好きっていうのも大事ですけど、その感覚が忘れられないから、何回も(課金システムを)回してしまうのかなっていうところもやっぱあります。」(ぺんぎんさん)

ゲームにつぎ込むお金を稼ぐため、ぺんぎんさんは大学には進まず、週5日アルバイトをしながら実家で暮らし、ゲームを続けています。

「課金をしたいっていう気持ちで仕事続けているところもあるので。生きる意味までいくとちょっと重すぎますけど、でも本当にもうそれくらい大きい存在にはなってます。」(ぺんぎんさん)

課金システムと依存の関係性。樋口さんはその「ギャンブル性」について次のように指摘します。

「アイテムが欲しいという気持ちにプラス、一種のギャンブル性がそこに入っているということがあって(中略)これもまたやっぱり依存性を高めている1つの要因になっているんじゃないかなと思います。」(樋口さん)

オンラインゲームなどにのめり込み生活に支障をきたす「ゲーム障害」。
eスポーツへの注目も高まり、ゲームを含め「ネット依存」の傾向にある人が今後も増えていくことが予想されるなか、そのギャンブル性からも依存を高める「ゲーム障害」は見過ごすことのできない課題となってきています。

※この記事は2018年05月29日(火)放送のハートネットTV「シリーズ ゲーム障害 第1回▽わたしって“病気”ですか…?」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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