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バリフリ・タウン(3) 認知症の人でも楽しく働ける! 京都のSitteプロジェクト

記事公開日:2021年09月29日

認知症の人が暮らしやすいまち、バリアフリーなまちづくりを紹介する「バリフリ・タウン」。今回取り上げる京都のデイサービスでは、認知症の人たちが企業と連携し、ものづくりをしています。まな板、さい銭箱型貯金箱、ひのきのコースターなど魅力的な商品の数々。そしてなにより、認知症の人たちがとても楽しそうに働いているのが特徴です。認知症があってもいきいきと働ける、その秘けつは何なのか。介護施設で見つけた知恵と工夫に注目します。

認知症でも働きたい! Sitteプロジェクト

京都市右京区の西院デイサービスセンターでは、3年前から地元企業と連携して木製品を作っています。作業は毎週月曜日の1時間。働きたいと希望した人が仕事として参加する「Sitteプロジェクト」です。

画像(Sitteプロジェクト)

Sitteとは「知って」のこと。認知症や障害があってもできることがあると知ってほしい。そんな思いが込められています。

このデイサービスには、毎日およそ30人のお年寄りが通っています。そのうち8割が認知症の人たち。この日は11人のメンバーが2階の一室に集合し、京都京北産のひのきを使ったまな板のやすりがけをしていました。メンバーは、いきいきとした表情でまな板をなめらかに磨き上げていきます。

3年前に認知症の診断を受けたメンバーの柳瀬喜美子さん(83)はとても真剣な顔つきで、黙々とまな板にやすりをかけていきます。

画像(Sitteメンバー 柳瀬喜美子さん)

「きれいになっていくのが気持ちええ」(柳瀬さん)

京都福祉サービス協会の河本歩美さんは、Sitteプロジェクトについてこう話します。

画像(京都福祉サービス協会 地域共生社会推進センター代表 河本歩美さん)

「デイサービスにただ楽しみに行くだけじゃなくて、お仕事させてほしいと思っている人がおられて。社会の中でいつまでもその人らしく活躍したり、役割を持てたりっていう取り組みをどうしたらいいのかなって考えたときに出てきたのが“働く”ということ」(河本さん)

メンバーが作った木製品は京都市内の雑貨店で売られています。

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雑貨店で販売されている木製品

まな板やカッティングボードなど手間ひまかけた商品の数々。1万円を超える高額なものもありますが、在庫がなくなるほどの人気です。商品開発担当の吉村佳小里さんはSitteのメンバーに期待を寄せています。

「貴重な人材といいますか、貴重な手仕事ができる手を持っていらっしゃる方たちなので。期待以上のものができるというのはすごく可能性があると思っています」(吉村さん)

はんこ、仲間、お給料 いきいきと働くためのアイデア

Sitteプロジェクトでは、認知症の人たちがいきいきと働くために、さまざまなアイデアが活用されています。認知症介護研究・研修東京センター研究部長の永田久美子さんとバリフリポイントを見ていきましょう。

画像(認知症介護研究・研修東京センター研究部長の永田久美子さん)

バリフリポイント① 自らはんこを押して働くスイッチON
作業前に必ず“出勤簿”にはんこを押します。これによって働くスイッチが入るというメンバー。さらに、ついたはんこの数が働いた実績だと一目でわかるため、やりがいにもつながっているようです。

画像(バリフリポイント 自らはんこを押して働くスイッチON)

「よくあるのは『きょう参加してるよね』って職員側がチェックしていく。そうじゃない。自分が働いている、その証しに自分がちゃんとチェックする。働く場に切り替わっていく大事な場面かなと思いました」(永田さん)

3年前から働いているメンバーの白石初枝さん(90)は、80歳を過ぎたころからしだいに物忘れが進み、見えないものが見えるという症状も出始め、認知症と診断されました。そんな白石さんですが、90歳のいまでも働きたいという意欲にあふれています。

画像(Sitteメンバー 白石初枝さん)

「(働くことは)好きです、大好き。一生懸命やれば皆さん、その努力を見て認めてもらえると思います」(白石さん)

バリフリポイント② 仲間がいることでもうひと頑張りできる
メンバーの仕事ぶりは、作業は大胆だけど早く削ることができる人、ゆっくりだけど丁寧に磨く人など、さまざま。ここではノルマはなく、みんな集中して自分のペースで行っています。

画像(バリフリポイント 仲間がいることでもうひと頑張りできる)

どうしてそんなに頑張れるのか、Sitteメンバーの海老愛子さん(93)と嶋絹江さんとに聞いてみました。

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海老愛子さんと嶋絹江さん

嶋さん「最初はね、大変やなと思っていたけどだんだん慣れてきて、みんな手伝ってくれて楽しくなってきた」

海老さん「嶋さんが一生懸命やってはる。えらいと思うわ。私は見習わなと思っています。みんなええ友だち」

嶋さん「ええ友だちやね」

仲間がいることでもうひと頑張り!という気分になるようです。

バリフリポイント③ 金券で地域との結びつきが生まれる
メンバーのやる気をさらに上げるために渡されるのが「給料」です。まな板1枚仕上げると、500円分の金券がもらえるのです。この金券はメンバー専用に作られたもので、地元の商店街のみで使えます。

画像(Sitteメンバー用の金券)

金券の仕組みは、まず製品をお店に納品。材料費を引いたすべてのお金を商店街で金券に替えます。それをメンバーに歩合で分けます。金券にすることで地元商店街での買い物が増え、地域との結びつきが生まれるのです。

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Sitte金券の仕組み

介護サービスの利用者が、有償ボランティアとして働いて対価を得ることを国も推奨しており、この金券のアイデアには商店街も大いに賛同しています。

京都三条会商店街専務理事の馬場雅規さんもこの取り組みに積極的です。

画像(京都三条会商店街 専務理事 馬場雅規さん)

「すごくいいことだと思うんです。ぜひね、もっともっと何か要望があれば商店街に言っていただいて、この商店街でできる限りのことはしていきたいですね」(馬場さん)

高校生と一緒に新規プロジェクト開始

6月、Sitteのメンバーに新たな仕事の依頼がありました。

声をかけたのは、京都市北部にある北桑田高校。府内で唯一、林業の専門学科があり、企業や法人から仕事を受け、製品の加工・販売を手がけています

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北桑田高校の生徒が作業する様子

今回の依頼主は、1200年の歴史を持つ京都・鞍馬寺。台風により倒れた木を再利用し、関係者への記念品を制作してほしいというもの。

画像(鞍馬寺)

「この仕事を一緒にやりませんか」と高校がSitteのメンバーに持ちかけたのでした。

北桑田高等学校京都フォレスト科教諭の原田真自さんがメンバーに語りかけます。

画像(北桑田高等学校 京都フォレスト科教諭 原田真自さん)

「7月上旬までにまずは10枚ぐらい、最終的に全部で50枚ぐらい納めます。作業に対する対価はお支払いしようと思うんですけど、角とか木口を磨く作業で1枚100円ぐらい出せるのですが、その値段でやってもらえますか?」(原田さん)

画像(リモート会議に出席するSitteのメンバーたち)

田端さん「皆さんお受けして大丈夫ですか?」

メンバー「OKですよ」

田端さん「大丈夫ということでぜひよろしくお願いします」

このメンバーの様子を見て、永田さんは認知症の人が決定プロセスに関わることが大切だと指摘します。

「プロセスの中で最初からしっかりと入っていく。本人が最初から入るというのがすごくバリアフリーのポイントです。いままでだと本人は決められたあと、本人抜きで決めてしまった部分だけ参加という、それがもう当たり前のようにやられていたけど、本人を抜きに決めてしまうってこと自体が大きなバリア。企画段階からちゃんと参加していて、とても大事なすてきなシーンだと思いました」(永田さん)

作業はまず、高校生らがデザインを考え、木材を加工。表面に書かれているのは、自然を大切に守り続けたいという鞍馬寺の言葉。そして、最終的な仕上げをSitteのメンバーが請け負います。

バリフリポイント④ 背景を知ることで働く意識を明確にする
高校生との打合せから1週間後。製品が届きました。作業にとりかかる前に、作業療法士の田端重樹さんから大事なお話があります。

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Sitteメンバーに語りかける作業療法士の田端重樹さん

「作業に入る前にちょっと5分ぐらいしゃべらせてくださいね。鞍馬の山全体を苑と呼んで環境を守りましょうとしはったのが、短歌を書かれた管長さん」(田端さん)

いきいき働くためのバリフリ・ポイント。それは、製品の背景を知ること。

画像(バリフリポイント 背景を知ることで社会とのつながりを実感)

これから仕上げる製品は、どのように生まれ、誰の元へ届くのか。職員が丁寧に伝えます。ただ作業をするのではなく、製品の背景を知ることで込められた思いや社会とのつながりを実感するのです。期待に応えようとみんな、力が入ります。

作業は2種類の紙やすりを使っています。目の粗いやすりで、1時間。目の細かいやすりで30分かけて仕上げていきます。

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完成した製品

メンバー11人で、2日間かけて12個を完成。まさに心を込めて磨き上げられた逸品です。

「認知症になって、できないように見えるのは、眠っている力がいっぱいあるのに出せないでいる環境とか、ご自身の気持ちもある。無理だって決めつけないで、やっぱり本人がやりたいならやってみようかという“やってみるチャンス”を絶対に奪わない。これこそバリアフリーポイントだと思いますよね」(永田さん)

働くことで元気に 認知症の人の新しい可能性

納品もメンバー自ら行います。今回は柳瀬さんと白石さんが代表で届けます。車で1時間後に到着。学生と合流です。

柳瀬さん・白石さん「どうぞ」

高校生「ありがとうございます。確かに受け取りました」

「すげえ。俺らよりクオリティ高い?」

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製品に釘づけになる北桑田高校の皆さん

完成品の品質の高さは高校生の期待以上だったようです。

「どの面もまったく同じ触り心地なので一つも手抜きがなくて。できる最大限のことをやってくれたんだと思います」(北桑田高等学校3年 和田直弥さん)

「認知症って僕の印象ではあんまり動けない、病気の方々なんであまり仕事とかできないのかなってイメージがあったんですけど、それがこんなにすごい技術を持っていて、ちゃんとできると思い知らされました」(北桑田高等学校3年 岩本凪都さん)

高校生とのコラボ製品、無事納品です。

画像(Sitteメンバーと北桑田高校の皆さん)

「記念すべき心を込めた作品ができました。次も続けて頑張りましょう。えいえいおー!」

画像(認知症介護研究・研修東京センター研究部長 永田久美子さん)

「働くって自分の存在価値がしっかりと自分でも実感できるし、周りにもわかってもらえる。そんな瞬間瞬間なんじゃないかなって思います」(永田さん)

工夫しだいで無理なく働ける。そして、働くことで元気になる。Sitteの取り組みは、認知症の人の新しい可能性に気づかせてくれます。

バリフリ・タウン
(1)認知症の人が生き生きできる“場所”
(2)認知症の人との外出
(3)認知症の人でも楽しく働ける! 京都のSitteプロジェクト ←今回の記事
(4)認知症の人が地域を元気にする!
(5)認知症当事者の声から始まるバリアフリーなまちづくり
(6)認知症の仲間とつくる、仕事と働く場所
(7)チーム上京!地域の力でウインドサーフィンに挑戦
(8)認知症当事者と家族が幸せに暮らす取り組み
(9)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 前編
(10)認知症バリアフリーのまち大集合!2023 後編

※この記事はハートネットTV 2021年9月20日放送「バリフリ・タウン(3) “働く”を楽しもう!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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