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“あがるアート”(6)アートでいきいきと生きる

記事公開日:2021年09月13日

みんなの気分や地域の魅力をあげる“あがるアート”。第6回は、岡山の福祉事業所「ありがとうファーム」の取り組みです。40人のメンバーが絵画やアクセサリーなどのアートグッズの制作に打ち込んでいます。なかでも企業の廃材を使った編み物グッズは女性に大人気。さらに、全国の福祉事業所にも編み方のノウハウを伝授し、障害のある人たちの収入アップにつなげてきました。「いきいきと堂々と人生を生きる」をモットーに活動するありがとうファーム。企業をパートナーにいきいきと生きるためのヒントを探ります。

「とにかくやってみる」が価値を生む

今年7月、オフィスの一角にカラフルな自動販売機が設置され、職場の雰囲気が明るくなったと人気を集めています。

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カナッペさんがデザインした自動販売機

この自動販売機は、飲み物が1本売れるたびに、売り上げの一部が描いたアーティストに支払われます。企画したのは、大手飲料メーカーの担当者です。

「どの絵もすばらしく、どの絵もエネルギッシュ。皆さまの活動が形として表せられたらすばらしいなと思いまして、依頼をしたところです」(大手飲料メーカーの担当者)

そんな、みんなの気分をあげる“あがるアート”が岡山市内のいたるところにあり、地域の魅力もあげています。

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工事現場

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シャッター

市内にある商店街の一角で活動している「ありがとうファーム」は、精神障害や発達障害のある人が働いている福祉事業所です。現在のメンバーは90人で、そのうちの40人がアートを仕事にしています。地元の商店街でメンバーが自ら運営している飲食店と、アート活動で事業を展開。年間の売り上げは3200万円、メンバーには月々およそ7万5千円の給料が支払われます。

今、好調なのが、企業や個人から提供された廃材で作ったアートグッズです。市内にある、のぼり旗の大手製造会社では、毎月、製造過程で排出されるポリエステルの廃材をお金をかけて、産廃業者に処分してもらっていました。その量はなんと!毎月10トンにも上り、悩みのタネでした。

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のぼり旗の切れ端

のぼりの会社から相談を受けたありがとうファームの会長・木庭寛樹さんは、のぼりの廃材を見てひらめきます。

「僕が編み物チームに『これ編んでごらん』って言ったんです。そしたら『社長、こんなのが編み物になるわけないじゃない』とみんなに馬鹿にされたけど『いいからやってみ?』って言った」(木庭さん)

ありがとうファームのモットーは「とにかくやってみる」。そこで、編み物アーティストの内山瑛里さんが制作を託され、半信半疑でやってみると、アート作品が誕生したのです。

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のぼり旗の切れ端で作った傘カバー

「自分が思った通りのかたちができるようになってから、すごく楽しくなりました。今はのぼりを触るのが楽しいですね」(内山さん)

あがるアートで収入もあがる

廃材はアイデア次第でいろいろな編み物グッズが作れることも分かりました。

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廃材から作ったアマビエ

編み物グッズは地域でも人気が高まっていきます。今年5月、市内のお弁当屋さんがノベルティーグッズとしてお客さんに配ったところ大好評。お店を経営する岡崎真理さんも大喜びです。

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廃材から作ったバッグ

「開口一番、みんな『かわいい』って言われる。それものぼりの端材であることがすごく興味深くお客さんも感じて頂いているので、そこはウィンウィンウィン」(岡崎さん)

「とにかくやってみる」の精神でやってみたら、ビジネスチャンスをつかんだのでした。

さらに、これで終わらないのがありがとうファームです。編み物グッズの制作に挑戦したいという全国の福祉事業所に廃材を送り、編み方などのノウハウを伝授しています。商品の本体価格の70%を制作した福祉事業所に支払い、一緒にビジネスをやっていこうというのです。

「今、こういうご時世で仕事が減っている実情があって、仕事をひとつでも増やしたいのが一番の理由です。色とかもきれいなので、編んでカタチにしてというのが、取り組んでもらっている利用者さんはとても楽しんでいます。いつでも関わっていきたいと思っています」(広島の福祉事業所のスタッフ)

現在、編み物グッズは全国7か所の事業所が制作に参加し、障害のある人の収入アップにつながっています。

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ありがとうファームの会長・木庭寛樹さん

「自分が良ければいいじゃんと思ってない。世の中が変わってほしいと真剣に思っている。それを僕らが世の中に見せていこうと。みんなが『あんなもんでできるんだ』って思ったら変わる。みんなが本当は働ける力を持っているというのが見えたら、社会は変わるでしょう」(木庭さん)

会社の危機を救った1枚の絵

4年前にありがとうファームがアートを事業につなげるきっかけとなった絵があります。

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メンバーが描いた風車

ありがとうファームがスタートしたのは2014年。20人ほどのメンバーが素麺の箱の組み立てを仕事にしていました。ところが3年後、岡山に激震が走ります。県内の福祉事業所が経営悪化のため相次いで倒産。雇用契約を結んでいた500人を超える利用者が一斉に解雇されたのです。

木庭さんの事業所の経営も決して順調ではありませんでした。その時、目に飛び込んできたのが「風車の絵」です。風車以外にもメンバーの描いた個性的な絵が事業所にあふれていました。その絵を見た木庭さんはひらめき、メンバーの絵をレンタルするビジネスを始めてみようと考え、これがヒットしたのです。

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メンバーの絵のレンタルリスト

企業は毎月好きな絵を自由に選べて、掲げた部屋の雰囲気を変えられます。木庭さんの事業所はリース契約によって毎月一定の収入が得られ、レンタル料の70%が描いた作者に支払われる仕組みです。現在、岡山県内の企業17社と契約し、50点の作品が飾られています。

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岡山コンベンションセンターに展示された絵

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地ビール醸造所に展示された絵

さらに、絵には工夫があります。作者の顔写真と名前が添えられ、QRコードを読み取ると過去の作品が閲覧できるようになっているのです。

画像(絵に添えられた作者のプロフィールとQRコード)

作者の人となりや人生を知ってもらうことで、作者を応援したいという企業が口コミで広がっています。

「生きる方法をみんなで考えて、楽しみながら生きていこうやというのが僕らの最初のコンセプトだった。『いきいきと堂々と人生を生きる』、もうこれが一番でしょ」(木庭さん)

さらに広がる活躍の場

ありがとうファームのメンバーの活躍の場はどんどん広がり、スイーツのパッケージに起用されて大手百貨店で販売されています。みずみずしい表現力が決め手になり、岡山産のフルーツゼリーのパッケージに採用されました。

画像(フルーツゼリーのパッケージ)

岡山名物のきびだんごは、桃太郎が描かれています。

画像(きびだんごのパッケージ)

すべて色鉛筆で描かれた鮮やかなデザインは、多くの女性が思わず手を伸ばしています。

画像(ゼリーのパッケージ)

百貨店の売り上げもあがり、きびだんごだけでも毎日3万円~5万円くらいの売れ行きです。青果加工・販売会社を経営する平野幸司さんは、引き続き絵を描いてほしいと希望します。

「プロのデザイナーにパッケージをお願いすることは多いですが、このようにリアルで、温かみがある絵をなかなか描いてくれる方はいらっしゃらない。我々のオリジナル商品よりもこちらの商品の方が売れるんです」(平野さん)

一大プロジェクトがスタート!

今年6月、ありがとうファームに新しい依頼が入りました。

創業70年の和菓子屋さんの顔にもなっているパッケージには、岡山ゆかりの詩人画家、竹久夢二の絵が使われています。

画像(和菓子のパッケージ)

お店の経営者の眞殿昌宏さんは、夢二の絵を使いながらもインパクトのあるものにリニューアルするのが希望です。

「竹久夢二さんの絵をもっと知って頂いたり、郷土岡山の人たちが誇りに思えるものに、もっとスポットライトが当たればいいな」(眞殿さん)

そこで、依頼を受けたメンバーが向かったのは、竹久夢二の美術館。所蔵作品は資料と合わせると3000点もあります。その中から今回は美人画3点「憩い」「藤」「稲荷山」を自由にアレンジしていいと、美術館も全面協力してくれました。

画像(竹久夢二の美人画3点「憩い」「藤」「稲荷山」 夢二郷土美術館所蔵)

さらに、学芸員の小嶋ひろみさんから、夢二の世界観についてのレクチャーまでしてもらいました。

「自分の美しいと感じたものを、自分の感じたように描くのがいいんだよと夢二さんも言ってます。みなさんも感じた印象で、自由に絵を描いて頂ければと思っています」(小嶋さん)

早速、メンバー独自の夢二式美人画の制作がスタート。2年前、ありがとうファームのメンバーに加わったカナッペさんは、ポップなキャラクターと斬新な色使いを得意としています。そして、表現したのは犬の美人画です。

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カナッペさんの作品「ふじノはなちゃん」

「美人って人それぞれだから。あまり美人って気にしなくてもいいんじゃないかと思って。好きなように描いちゃいました」(カナッペさん)

画像(アーティスト カナッペさん)

パーキンソン病の影響で集中力が長続きしない橋本賢二さんは、一気呵成に描き上げます。今回はわずか20分で描き上げました。

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橋本賢二さんの作品「美人画2」

「全然描けないときもあるんですよ。苦しんでいるときは描けないんですけど。気分がいいときは集中して描けるときが多いですね。今日は結構いいんじゃないですか」(橋本さん)

画像(アーティスト 橋本賢二さん)

河原神一さんは、「まゆみ」という名前の美人が大阪にある百貨店のカフェで自分を待っているという想定で絵を描きました。

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河原神一さんの作品「待ち人いずこにて待ち人いずこへ」

夢二式美人画プロジェクトには、ありがとうファームのアート集団26人に加えて、地域のデイサービスに通う子どもたち17人も参加。そして、みんなの絵を一枚にまとめて包装紙が完成しました。

画像(みんなの絵を一枚にまとめてできた包装紙)

プロジェクトで活躍した橋本さんが、今後の抱負を語ります。

「今後、これを糧にもっと人を感動させられるような絵を描けたらなと思っています」(橋本さん)

子どもたちに伝えるアートの楽しさ

ありがとうファームのメンバーのアート活動は、自らの作品制作だけではありません。この日、メンバーは放課後デイサービスに向かいました。週に一度開かれるアートの出張授業です。今回の課題は廃材を使った工作。カナッペさんや橋本さんの指導のもと、子どもたちは「家」や「うさぎ」など、それぞれ自由に個性あふれる作品を作りました。

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「家」

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「うさぎ」

デイサービスのスタッフ重栖三矢さんは子どもたちの楽しそうな様子を見て、ありがとうファームの授業に意義を感じています。

「僕たちとは違う目線で子どもたちとかかわってくれる。ひとつひとつできたという経験を子どもたちは実感していると思う」(重栖さん)

みんなを生き生きとさせる“あがるアート”。ありがとうファームの活躍の場はまだまだ広がります。

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア
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※この記事はハートネットTV 2021年9月6日(月曜)放送「あがるアート(6)『アートでいきいき!』」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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