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自分の“苦手”と向き合い続けて ~NHKハート展2021 障害のある人たちの詩の世界(2)より~

記事公開日:2021年08月13日

気持ちをうまく伝えることができないもどかしさ・・・そんな思いを綴った2つの詩をご紹介します。
障害のある人たちの詩を紹介する展覧会「NHKハート展」、過去25年の入選作から“今こそ読んでほしい”と選ばれた作品です。作者をたずね詩の背景にある物語をひも解きます。

「叱られたとき」遠藤真宏さん 2012年入選

画像(「叱られたとき」をイメージしたイラスト)
「叱られたとき」
叱られたとき
何も言えないボク
心がつたえられなくて
心のさけびが「ウー」としか言えない
心がさみしくなってしまう
楽しいことばっかりじゃなくて
分かり合えないことも
生きていることなんだ

この詩を書いたのは、茨城県に暮らす遠藤真宏さん(27歳)。知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断を受けており、自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だと言います。

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遠藤真宏さん

真宏さんが「叱られたとき」を書いたのは18歳のときのこと。高校のサッカー部で後輩を指導しようとしたものの、言いたいことをうまく伝えることができずに、相手を泣かせてしまいました。帰宅後、母の礼子(あやこ)さんに事情を問われましたが、自分の言い分を伝えることができず、もどかしさを募らせました。
そのときの経験をもとに書いたのが「叱られたとき」です。
両親は、この詩を通して初めて真宏さんの胸の内を知ったと言います。

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母・礼子さんと父・正己さん

「そこまで考えるようになったんだって思う部分がありました」(母・礼子さん)

「真宏は年相応の悩みを抱えていた。それを親が見くびっていた部分があったと思う」(父・正己さん)

それから9年。真宏さんは今、知的障害のある人が多く働く食品トレーのリサイクル工場で、種類ごとにトレーを選別する仕事をしています。そしてなんと、強い向上心が評価され、同じレーンで働くメンバーをまとめるリーダーを任されるまでになっています。

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真宏さんの職場

真宏さんの今の課題は、同僚とのコミュニケーション。どんなふうにメンバーへ声をかければチーム一丸となって生産性を上げることができるか、日々模索を続けています。「叱られたとき」を書いた当時と違うのは、自分ひとりで悩みを抱え込まずに人に相談するよう心がけていること。「困ったときは相談する」ことを大切にしています。

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働く真宏さん

これからの目標は、今のポジションよりさらに上の「主任補佐」になること。そのためにも、同僚とのコミュニケーションの取り方に磨きをかけていきたいと言います。

そんな真宏さんは今回、あらためて自分の気持ちを文章につづりました。そして、家族の前で発表することにしました。

「未来の自分へ」
27才になってもなやみごとはなくならないし
失敗することもあるし
おこづかいをつかいすぎてしまうこともあるし
もやもやすることもある。
まちがってしまうのが人間だけど
1つでもまちがいを減らしたいから勉強します。
それでもわからないことは相談します。
ずっとチャレンジして
みんながたよれる主任補佐になります。
未来の自分はそうなれていますか?
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家族の前で「未来の自分へ」を読み上げた真宏さん

「これからも成長していく」。そんな真宏さんの決意を受け、両親もメッセージを送りました。

仲間の大切さを実感できたことはとてもうれしく思います。
1人じゃできないことも2人・3人と増えるたびにたくさんのことができるようになるかもしれないし、みんなでできれば最高じゃん!
きっと笑顔になれるはずだね。笑顔が増えたら幸せが増えるはず。
そんなふうに考えることができたら障害はまったく関係ないよね。
みんな姿形が違うようにひとりひとりの個性を武器に失敗を恐れない気持ちを大切にしていこうね。
18歳のころ感じた気持ちからさらに成長した君に出会えて私はうれしくて誇らしくて幸せです。
まだまだこれからだけど、いつでも君のまわりには家族、会社の仲間、乗馬の仲間、がいるから失敗して相談して成長してください。
みんな君の味方です。
そしてありがとうね。
(母・礼子さん)
真宏のふつうの人と違う部分も全部ひっくるめて、真宏にしかできない生き方が「個性」だと思ってます。真宏にしか歩けない道があるんですよ、これまでも、これからも。
障害があろうがなかろうが生きるのはつらいことの連続です。父ですらつらいこともあります。それは人間関係であったり、仕事関係であったり、家庭関係であったり。次々とやってくる困難の壁を飛び越えるか、ぶち破るか、逃げるかの選択肢を葛藤しながら選んで生きていく。
一度大きな壁を乗り越えても映画のようにそこで終わることなく、またやってくる壁と日々たたかい続けなきゃいけない。それが生きている間はずっと続いていく。(中略)
真宏も日々やってくる壁と向かい合って答えを出そうとたたかっている。(中略)
今、できないことは決して悪いことじゃないから。今日越えられない壁も越えるための歩みを止めなければいつかは越える。その越えたときの真宏なりの答えを真宏自身で発見したときの喜びもこの壁の先にある。
(父・正己さん))

「叱られたとき」の背景には、自らの障害特性と向き合い成長を続ける真宏さんと、その姿を温かく見守り続ける家族の物語ありました。

「雪」石黒竜さん 2009年入選

画像(「雪」をイメージしたイラスト)
「雪」
誰かにきかれた 「雪ってやだよね」
だから答えた 「やだよね」って
でもホントはそうは思わない
ホントは好きだ ぬれるし、冷たいし、足をとられるし、歩きずらいし、車は動かないし、
子供っぽいし。
でもそれでもいい 僕は雪にふれると「生きてる」って実感する 雪が手にふれとけて、
「ああ、僕は血がかよって生きてるんだ」そう思う
だからも一度質問されたらこうこたえる
「ごめんウソ、ホントは、・・・・大好き」

この詩を書いたのは、神奈川県に暮らす石黒竜さん(30歳)。小学生のときアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)と診断されました。まわりの空気を読むのが苦手で、学生時代はずっと人間関係に悩み続けました。当時を振り返り、石黒さんは「友達の作り方を誰かに教えてほしかった」と言います。

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石黒竜さん

「人との付き合い方がよく分からなかったので。誰かに教わるものじゃないじゃないですか、友達の作り方って。(自然に)学んでいくものだと思うんですけど、僕はそれがどうしても分からなかったのでいつも空回りしていましたね」(石黒さん)

そんな石黒さんが「雪」を書いたのは高校3年生のとき。クラスメイトと話を合わせた方がいいのか、自分の気持ちを主張してもいいのか。人付き合いに悩み揺れ動く自分の気持ちを表現しました。

「数少ないながらも友達はいたんですけど、その友達に嫌われたくないからなんでしょうね、きっと。
だからこそ流されていたのかな。でもそれでいてちょっと(自分の気持ちを主張する)勇気も持ってみたいと願っていたのかな」(石黒さん)

石黒さんは高校卒業後、障害者雇用として自動車関連の工場で働きました。しかし、職場の人間関係につまずき、3年前にうつ病を発症。休職を経て、おととし退職しました。

「どうしても仕事に対して怖いイメージができちゃったので。(退職してからは)お昼からお酒を飲んだりパチンコ屋に行ったりして。結局『俺はなんてやつなんだ』と自己嫌悪に陥っちゃったりして」

人付き合いに悩み続け、働くことが出来なくなってしまった石黒さん。しかし、もう一度立ち上がり、元気に働く姿を家族に見てもらいたいと、去年の春から新たな一歩を踏み出しました。障害のある人が一般企業への就職に向けた訓練を行う福祉作業所で、ビルの清掃などの仕事に取り組み始めたのです。

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清掃の仕事に取り組む石黒さん

石黒さんは今の職場で苦手な人付き合いを克服しようと、あいさつや感謝の言葉を積極的に伝えるよう心がけています。撮影で職場を訪れた際も、同僚や近所の人たちと仲良く話し合っている姿が印象的でした。

そんな石黒さんは今回、高校生のときに書いた「雪」を振り返り、新たな詩をつづりました。

「雪解け」
古いアルバムをめくる
あふれ出すのは ほこりの匂いと青臭い想い出
雪のふる帰り道に命を感じたあの日
あの時の僕はいつも悩み泣いていた
見えない明日に
自分の無力さに
いつも泣いていた
あの日の「僕」に「私」は笑顔で返す
大丈夫だよって、泣かなくてもいいよ
だって私は知っている、1人じゃないから
たとえむくわれなくても
だれかが僕を見ていてくれるから
もう雪がなくても命の意味をしったから
アルバムを閉じて窓をあける
外には桜の花が笑ってた
どこまでも、大きく空にむかって

NHKハート展2021 障害のある人たちの詩の世界
成長と挑戦の物語
表現することの喜び
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※この記事はハートネットTV 2021年8月17日放送「NHKハート展2021~障害のある人たちの詩の世界(2)~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

執筆者:白田一生(番組ディレクター)

「NHKハート展」の入選作や展示については、詳しくはこちらをご覧ください。

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