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“あがるアート”(5)全国で動き出したアイデア

記事公開日:2021年08月05日

みんなを元気にしてくれる力に満ちた作品、“あがるアート”。昨年12月には「あがるアートの会議」を開催し、各界のスペシャリストと全国200人を超える視聴者が、オンラインでアートの可能性について語り合いました。会議から7か月、魅力的なアイデアはその後どうなったのか? “あがるアートのご意見番”、映画監督の安藤桃子さんと一緒に全国各地の活動を見ていきます。

ハッピーを次につなげるホスピタルアート

昨年12月の「あがるアートの会議」では、視聴者のみなさんからたくさんの“あがるアイデア”をいただきました。その中でスタッフが気になったのが、次のメール。

佐野正子さん(東京都)
病院で発表の場を求めているアーティストの作品を展示。QRコードで情報を提供するまちの病院の画廊化計画!

一体どんな計画なのでしょうか? 佐野さんがアート・ディレクターとして勤める病院を訪ねました。

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東京・墨田区 賛育会病院の壁に描かれた“ハッピーサークル”と佐野さん

大きなリボンの下にアヤメの折り紙が飾られています。ここは出産を終えた母親とその家族が記念写真を撮影する場所です。

「“ハッピーサークル”という名前がついています」(佐野さん)

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“ハッピーサークル”の前で記念撮影をする親子

佐野さんは、医療現場に快適さや癒やしを生み出す、ホスピタルアートに取り組んでいます。その活動は、無機質だった病院の雰囲気を変えるだけではありません。制作には医師や看護師、入院患者やその家族が参加。みんなの力で病院全体を盛り上げていくことを大事にしています。

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“ハッピーサークル”に絵の具を塗る子どもと女性スタッフ

「心の温度が0.5度あがるぐらいのポッと温かくなる瞬間が、アートに接することによって訪れるといいかなと思います」(佐野さん)

さらに佐野さんは、廊下を使った新しいホスピタルアートを考えています。

「コロナが終息したら、ここで町の病院の画廊化計画・・・なんてことを妄想したりしています。たとえば作家の方の情報や作品の情報をQRコードに登録しておいて、そこからアクセスすれば、その作品や作家のことがわかるようになっているとか。地域とのつながりも考えるとそのようにできたら最高かなと思います」(佐野さん)

“あがるアートのご意見番”、映画監督の安藤桃子さんは、佐野さんの活動に感動したと話します。

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映画監督 安藤桃子さん

「誰かに発注してっていうんじゃない、一緒に作っていくっていうことにすごく感動しました。患者さんや、そのとき入院していたお子さんを抱っこして、一緒にこの旗一つひとつを塗っている。入院している人のつらさとか、しんどさ、その人にしかわからない気持ちもいっぱいあると思うんですけど、その人たちがそれをハッピーにして、また次につなげていく、ここがすごくポイントなんだなと思いました。ホスピタルアートって、もしかしたら癒やしとか生きていくための希望とかを、いちばん必要としている場所かもしれないって思いました」(安藤さん)

コロナ禍がきっかけで生まれた病院テレビ

ホスピタルアートといえば、「あがるアートの会議」にスペシャリストとして参加いただいた森合音さん。森さんがホスピタルアート・ディレクターとして勤めている香川県・善通寺市の病院では、これまでにさまざまな作品が誕生し、みんなの心を癒やし、元気にしてきました。

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コロナ前のアート活動

しかし、コロナ禍で200人以上いたボランティアが出入りできなくなるなど、活動が困難になりました。そこで、新しい活動「病院テレビ」を立ち上げることに。独自のコンテンツを院内に設置したテレビで放送しようというものです。

たとえば、今年1月、入院している子どもたちのために開かれたギャラリー展の開催までを記録したドキュメンタリーや、おととし3月、およそ200人の病院スタッフやボランティアが関わった院内の壁画制作の記録。さらに地元アーティストによるパフォーマンスなど、企画が目白押しです。

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安藤桃子さんと森合音さん

「外来の待合室でそういうことを放送できたら、もっといろんなコミュニケーションのあり方が図れるんじゃないかと。患者さんのご家族が会えないっていうことも象徴的ですけど、それだけじゃなくて、どんどん分断が進んでいったからこそ、あえてつながりを意識するようなプロジェクトの実践とか、共有とか、すごく大事なような気がしますね」(森さん)

「すごいですね。病院でそれをやることがスタンダードな日が来るんじゃないの? 森さん、期待しまくってます。楽しみ。またご報告お待ちしてます」(安藤さん)

筋肉とリボン?! “土木女子”が身に着けるワッペン

建設業界でも、“あがるアート”の新しい活動がスタートしました。

去年だけで34万人が減少したという日本の労働力人口。とりわけ、建設業界で働く人は20年間で3割減と、担い手不足が深刻な社会問題となっています。

そこで、国土交通省が頼ったのは佐賀にある福祉事業所・PICFA(ピクファ)。現在21人のアーティストが活動しています。

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福祉サービス事業所PICFA(ピクファ)

この日、やってきたのは土木建設現場で働く技術者で、“土木女子”と呼ばれている20代の女性たち。依頼の内容は作業着に着けるワッペンをデザインしてもらい、イケてる職場感をアピールしたいというものです。

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国土交通省九州地方整備局 松本結子さん

「女性も男性と一緒に仕事ができるし、女性だからできないとかそういったこともありません。もっと気軽に女性技術者を知ってもらうだけでもいいと思います」(国土交通省九州地方整備局 松本結子さん)

どんなワッペンにしたいか? 土木女子のみなさんとPICFAのアーティストがアイデアを出し合います。

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意見を出し合うPICFAのアーティストたち

さらに、翌日案内されたのは、護岸工事が進む福岡・柳川市の現場。ふだんやっている仕事をアーティストに見てもらい、デザインのイメージを膨らませてもらおうというのです。実際に見なければわからなかった緻密な作業に、アーティストたちも興味津々です。

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技術者の女性とPICFAのアーティスト松永真奈さん

「女性がこうやってでるってところがやっぱり想像できなかったんですよ。男性がやっていると思っていた。ぜんぜん意識が変わりましたね」(PICFAのアーティスト)

事業所に戻って、さっそくラフスケッチを始めたアーティストたち。現場のにぎやかな雰囲気とは打って変わって全集中! 女性の横顔のシルエットに街を描き入れたり、筋肉とリボンでたくましさとかわいらしさを表現したり。わずか30分で、50点近くのアイデアが生まれました。一体どんなワッペンになるのでしょうか?

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PICFAが描いたワッペンのラフスケッチ

「超楽しみ。あのワッペン、全部作ってほしいぐらい。ステッカーでもいいかもしれない。一気にでてすごいですね。ワッペンもそうなんですけど、みんな同じの着なきゃいけないっていうことを、楽しめるようになったらいいのかな。私はピンクが好きなのよ!っていう方はピンクの作業着でしたらいいし、男性もおしゃれが好きだったらそういうのを着たらいいし。ある程度自由で、それこそ自分の表現をできるようになったら現場も華やぐだろうし、いいのかなって。“あがる”現場になりそう」(安藤さん)

バラバラだからいい アートセータープロジェクト

「あがるアートの会議」で立ち上がったコラボレーション企画も、着々と進んでいます。

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実業家 遠山正道さんが着ていたセーター

この企画は、実業家の遠山正道さんが着ていたセーターがきっかけです。ロンドンのとある作家の作品で、毛糸の太さも編み目の詰まり具合もバラバラなセーターを見て、「自由奔放さなら、うちのアーティストも負けてはいない」とPICFA代表の原田啓之さん。既成概念を打ち破るセーターの制作プロジェクトが始動しました。

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セーター制作の打合せ PICFAのアーティストと原田さん

会議のあと、すぐに編み物が好きなメンバーを集めた原田さん。メンバーが思い思いに編んだパーツを組み合わせ、1着のセーターにしようと考えたのです。

メンバーの女性:これは2色の青と白で編みますか?

原田:今後、色味をどうするかとか、これから詰めていこうかなと。

色だけでなく、毛糸の種類や編み方もみんなで話し合います。さっそく、サンプル作りにとりかかったメンバー。

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サンプルセーターを編むアーティスト

バラバラな個性が交わることで、よりアーティスティックな作品ができそうです。

「誰々ちゃんのパートはここに置こうとか、それが袖になるとか、腰のとこにくるとか。この目のうちのここにはこういうストーリー、コミュニケーションがあったっていうことがきっと伝わると思うので、それってすごいことですよね」(安藤さん)

原田さんと遠山さんの打ち合わせも盛り上がっています。

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オンラインで打ち合わせをする原田さんと遠山さん

原田:本当に自由度が高くなりそうなんですよね。本人たちの感性が1枚1枚に表れるものになってくれたらいいなって。一つひとつに個体差があってよし。

遠山:いやもうバラバラでいいと思うね。むしろ、左右がアンバランスになったり、身頃が前と後ろでずれちゃったり、できあがってしまった不思議な造形を愉快に楽しめるような。

原田:そういう形の出し方でいけると、いわゆるこれがアートとして着てもらえる楽しさだったり。あと着方もたぶん、その人によって見出してくれそうな気がするんですよね。

好調なアートセータープロジェクト。原田さんはその未来に期待を寄せています。

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PICFA 施設長 原田啓之さん

「1点モノ制作みたいになってくるので、ハイブランドというか、障害者が作ったから安くではなく、感性が引き立ったからこの値段っていうところで、作り込みができていけるとユニークなものになるんじゃないかなと思っています」(原田さん)

全国各地でどんどん芽吹き始めた“あがるアート”。安藤さんはどう感じたのでしょうか。

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映画監督 安藤桃子さん

「いつか、一緒に作りたいです。そんな気持ちが盛り上がって、ワクワクして、あがってきました。これがアートなんですね。今までの時代も、アートが社会を変えてきたといっても過言ではないと思います。すっごくしんどい時代も、どんなときも、みんな最終的に心の潤いとかときめくこと、ワクワクすること、そういうことを取り戻したいって。やっぱり生きてる幸せを感じたいっていうところから、必ず心の栄養にたどり着くと思うので、そういうふうにみんなが幸せになっていくように、気づいたら、『あれ?全部解決してたね』『そこにはいつもアートがあったよね』っていう将来、未来をすごく楽しみにしています。なんか、それが実現しそうな気しかしていません」(安藤さん)

みんなを元気にする“あがるアート”。
今後の展開がますます楽しみです。

“あがるアート”
(1)障害者と企業が生み出す新しい価値
(2)一発逆転のアート作品!
(3)アートが地域の風景を変えた!
(4)デジタルが生み出す可能性
(5)全国で動き出したアイデア ←今回の記事
(6)アートでいきいきと生きる
(7)福祉と社会の“当たり前”をぶっ壊そう!
(8)PICFA(ピクファ)のアートプロジェクト
(9)「ありのままに生きる」自然生クラブの日々
(10)あがるアートの会議2021 【前編】
(11)あがるアートの会議2021 【後編】
(12)アートを仕事につなげるGood Job!センター香芝の挑戦
(13)障害のあるアーティストと学生がつくる「シブヤフォント」
(14)「るんびにい美術館」板垣崇志さんが伝える “命の言い分”
(15)安藤桃子が訪ねる あがるアートの旅~ホスピタルアート~

特設サイト あがるアート はこちら

※この記事はハートネットTV 2021年7月19日放送「あがるアートFile5 あがるアートの会議 その後スペシャル!」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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