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医療的ケア児の困りごと・相談 支援者・先輩からのアドバイス

記事公開日:2021年07月05日

病気や障害で、たんの吸引などの医療的ケアが必要な子どもたち。全国におよそ2万人が暮らしています。その医療的ケア児と家族にとって悩みが尽きないのが「学校生活」です。「みんなの声「『医療的ケア児』の学校生活について」」には、当事者や家族から様々な困りごとや相談が寄せられました。番組内で紹介しきれなかった質問や困りごとについて、専門家やすでに学校に通っている親子の方々に話を聞きました。

画像(下川和洋さん顔写真)下川和洋さん(NPO法人地域ケアさぽーと研究所 理事)
医療的ケア児の学校教育に精通。全国で研修会を行う。



画像(正木篤さんと母親の正木寧子さん顔写真)正木篤さん(中1)と母親の正木寧子さん
地域の学校に通学。たんの吸引や胃ろう、人工呼吸器が必要。



画像(父親の綾崇さんと綾優太さん顔写真)父親の綾崇さんと綾優太さん(小6)
特別支援学校に通学。たんの吸引や人工呼吸器が必要。

就学前の準備

― 未就学の医療的ケア児を育てる保護者からは、入学への準備をどう進めればいいか悩んでいるという声が多く寄せられました。どこに相談するのがよいのでしょうか?

下川:学校を選ぶための相談先として、私からは主に3つ提案があります。1つ目は教育委員会が行う「就学相談」。子どもに適した教育環境を準備するために専門家と相談ができる場です。2つ目は各地域の学校が開催する見学会や説明会。実際の学校生活の現場を子どもと見学することができるだけでなく、必要に応じて個別の相談を受け付けてくれるケースもあるので積極的に活用してほしいです。そして3つ目が、親の会などの当事者団体です。すでに経験を積んできた先輩からリアルな体験談を聞く事ができるのはもちろんですが、気軽に悩み事などを共有できる仲間も心強い存在になると思います。

呼吸器っ子だって、ひとりの子どもです

先天性の神経疾患で24時間人工呼吸器を使用する息子はこの春、市立の支援学校に入学しました。就学相談では、一貫して姉の通う地元小学校への入学を希望しましたが「前例がなく、安全に学校生活を送れる体制が整わない」という理由で、支援学校以外の選択肢は与えられませんでした。

Kママ/神奈川県/母親

― 一方、寄せられた声のなかには、就学相談を利用したが希望がかなわなかったというものもあります。なぜ、このようなことが起きるのでしょうか?

下川:一概には言えないですが、就学相談が、本来、保護者や子どもの希望を最大限かなえるための場にも関わらず、進路を誘導されてしまうケースも散見されます。そこには学校側の事情も関係しています。一般に地域の学校には看護師が配置されていなく、バリアフリー環境が整っていないところがほとんどのため、入学時期の間際にエレベーターやスロープ、看護師が必要となっても、もう間に合わないと対応に消極的になる例があります。環境を整備してもらうためには、前もって新たに予算をつけてもらう必要があるので、早めに希望を伝えることが望まれます。また、入学前から学校の運動会や学芸会などの学校行事に地域住民として参加しつつ、子どものことを知ってもらうことも一つの手かと思います。

― 他にも交渉にあたって気をつけるべき点はありますか?

下川:交渉を続ける中で精神的に疲弊し、「自分たちが間違っているのではないか」と譲歩する保護者が少なくありません。本来であれば、保護者が頑張らないと対応が変わらないということ自体がおかしいのですが、主張し続けないと希望が通りにくいのが現状となってしまっている印象です。理不尽な対応を受けたときは「障害者差別解消法で合理的配慮が義務づけられている」といった事実や根拠を相手に伝えながら、希望を曲げなくてよいということをまずは知ってもらいたいです。また、その際に主治医の意見や協力は、学校や教育委員会の理解を得るために重要です。

正木:私は、それぞれの地域で活動している就学を応援してくれそうな団体について調べることをあわせてお勧めします。「バクバクの会」などの当事者団体や地域のCIL(自立生活支援センター)を通じて、支援者や同じような立場の家族と繋がることもできるかと思います。「地域の学校に入学する」という意思を伝えてもまともに取り合ってもらえない、あるいは話し合いが難航する場合は、先に述べたような団体や支援者に、一緒に交渉に来てもらうことも方法のひとつです。我が家の場合も就学にあたって協力してくれた市議会議員の存在がとても大きな助けになりました。

親子にかかるさまざまな負担

12年目の待機

重心の特別支援学校に通学している子供の保護者です。
子供は人工呼吸器を24時間使用しているので、学校の看護師による医療的ケアを受けることはできません。今年で高等部三年生。入学時からずっと待機をしています。学校の今までの歴史によるルールと言われ全く納得できないです。子供の成長には、学校には保護者は全くいらないな、いない方が絶対伸びるだろうなと12年学校に待機して思った事です。

紫陽花/静岡県/母親

― 番組のホームページには「付き添い」に関する体験談が多く寄せられました。番組に出演した綾さん、正木さん家族も付き添いに悩まされてきたといいます。綾さんは特別支援学校で付き添いと仕事の両立を5年間継続してきました。

綾:教室の隅っこにイスと机が用意されていたので、そこでパソコンで仕事をしていました。インターネット環境もなかったので、スマホのテザリング機能を駆使していましたね。「お父さん!」と呼ばれたら、仕事を中断して息子のところに行って、たんの吸引などをするという感じでした。

― 当時、付き添い生活についてはどう考えていましたか?

綾:当初は、「先生はこうやって子どもたちに接しているんだ」と学校の様子を見られるのもおもしろいと思っていたんですが、デメリットも感じるようになりました。やはり、子どもにとっても親が学校にいることが普通になると、親離れしにくくなるんですよね。息子の場合、授業がつまらなくなると父親を呼び、たんの吸引を要求するということもありました。ようやく付き添いが外れてから、学校から「優太君が友だちや先生との交流を楽しんでいる」という話を聞くので、親のいない環境での学びが大切だと感じています。

― 正木さんは地域の学校で小学校4年生まで付き添いを続けてきました。学校や教育委員会と交渉を重ねてきたといいます。

正木:私の場合、入学直後の教室内待機のあと、別室待機や一時外出を許可してもらったりするなど、段階的に付き添いを軽くしてもらいました。それを実現するため、1か月か2か月に一度、学校で、教育委員会、学校側、保護者・本人で情報共有の場を持ち、話し合いを続けました。やはり、付き添いが長期化していくと「保護者も子どもが心配で付き添いをしている」「好きでやっている」など学校側から誤解されてしまうケースもあると思うので、こちらの希望を伝え続けました。

もうひとつ意識していたのは、付き添いをなくすのが親の負担を減らすためだけではなく「子どものため」のものだという視点です。友だちとコミュニケーションをとりたくても近くに親がいると話しにくいこともあるでしょうし、付き添いは子どもの可能性を狭めているという課題を強く伝え続けた結果、学校側もより問題意識を持ってくれたように感じます。

人工呼吸器使用児は訪問学級しか無理なの??

人工呼吸器を使用している我が娘。支援学校入学のときから「訪問組(教員が家に通う訪問学級)」に。通学するには確かに大変なことも多い。学校送迎に通学バスは使えないし、通学にヘルパーは利用できないので家族のみでの対応するとなると、通えないことも多い。けど、それだけの理由なのかな?体調がよいときは通学して友達に会いたいし学校の雰囲気を感じたい。学校看護師もいるのに、人工呼吸器使用児は訪問組になるのは何故?

眠り姫のかぁちゃん /大分県 /母親

下川:これまで付き添いの負担について触れてきましたが、保護者のなかには仕事の都合や家庭の事情などで学校への付き添いができない人も、もちろんいます。その結果、保護者が付き添いできない=子どもが十分に学べないということにつながっていきます。特別支援学校では教員が自宅に通う訪問教育も実施していますが、週3回・1回2時間程度が一般的なので、学びの機会が限定されているのが現状です。

子どもたちの学びを守るため

これまでも番組で継続的に取材してきた山田萌々華さん(中1)。
特別支援学校に通い始めたときから学校に通いたいと要望し続けてきましたが、5年間、訪問教育を受けてきました。人工呼吸器をつけている萌々華さんは親の付き添いを求められましたが、共働きのため、訪問教育しか選択肢がありませんでした。自宅で先生と二人で学ぶ訪問教育の授業は週に3日、2時間ずつ。母親の美樹さんは学習の遅れも心配だったといいます。

「早く学校に行って勉強したり、お友だちと遊んだりしたいです。お友だちをいっぱい作ったり、理科とかの勉強を頑張ったりしたいです。理科が好きなので虫を飼ったり、花を育てたりとかやってみたい」(萌々華さん)

学校生活への夢を口にしていた萌々華さん。去年、教育委員会が人工呼吸器を必要とする子どもが保護者の付き添いなしでの通学を認め、ようやく通学が実現。はじめて教室で友人と学び、学校生活を満喫しています。しかし、ケアにあたる看護師が不足しているという理由で、現在も週2回しか通学できていません。今年、中学生になった萌々華さん、入学式で「これからたくさん友達をつくり、勉強や部活動を頑張りながらみんなで仲良く学園生活を楽しみたいです」と将来の目標を語っていました。

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萌々華さんの初登校日

子どもたちにとって、学校生活を送ることのできる時間は限られています。学びの機会を守るために大人たちは何ができるのでしょうか。

執筆者:小黒陽平(NHKディレクター)

※2021年6月11日、医療的ケア児やその家族を支援する「医療的ケア児支援法」が成立しました。法律では、子どもや家族が住んでいる地域にかかわらず適切な支援を受けられることを基本理念に位置づけ、国や自治体に支援の責務があると明記しています。

そのうえで、学校や幼稚園、保育所の設置者に対し、保護者の付き添いがなくても、たんの吸引などのケアができる看護師や保育士などを配置することや、家族からの相談に応じるための支援センターを各都道府県に設置することなどを求めています。

法律はことし秋にも施行予定。今後、状況が改善していくことが期待されます。

【特集】医療的ケア児のいま
(1)親子の居場所と必要な支援
(2)先輩に聞く学校の選択
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※この記事はハートネットTV 2021年5月12日放送「医療的ケア児のいま 第2回 先輩に聞きたい!進路相談会」に関連して取材したものです。

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