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【特集】医療的ケア児のいま 先輩に聞く学校の選択

記事公開日:2021年05月27日

全国におよそ2万人いるとされる医療的ケア児。その医療的ケア児と家族にとって悩みが尽きないのが「学校生活」です。どうすれば望む教育を受けられるのか?保護者の負担を軽くするためには?現在すでに学校生活を送っている親子にお話をうかがいながら、医療的ケア児の学校生活について考えます。

未就学児の親が抱える不安

未就学の医療的ケア児が直面するのが、進学する学校の選択です。地域の小学校に通えるのか、それとも特別支援学校のほうがいいのか。現在すでに学校に通っている医療的ケア児のみなさんは、どのように学校を決めたのでしょうか。

広島市在住の正木篤さん(中1)は、人工呼吸器のほか、胃ろうやたんの吸引などの医療的ケアが必要ですが、小学校から地域の学校に通っています。進路の選択はどのようにしてきたのでしょうか。母親の寧子さんにお聞きしました。

画像(正木篤さんと母親の正木寧子さん)

「幼稚園を選ぶ段階で、家族でいろいろ話をして、公立幼稚園の未就園児の教室に通い、本人の様子を見て決めることになりました。行くたびに篤がすごく楽しそうにしていたのがすごく印象的で、周りの子どもたちとの関わりもよかったので、そのまま地域の幼稚園に進んで、小学校を決めました。学校は最初からすべてうまくいったわけじゃなかったんですけど、いろんなアイデアを学校から出してくれるようになりました。クラスの友だちも、篤がいることがふつうの日常になっていって、何より篤自身が学校にいることですごく安心できる。『ここに僕の居場所があるんだ』と思っているのが見て取れたので、親としてもすごく嬉しく思いました」(母 正木寧子さん)

一方で、横浜市にお住まいの綾優太さん(小6)は、特別支援学校に通っています。優太さんも人工呼吸器を使っていて、たんの吸引などが必要です。父親の崇さんに、進学先をどうやって決めたのかうかがいました。

画像(綾優太さんと父親の綾崇さん)

「優太は、健常児のお子さんがいる保育園に通っていて、その様子を見ていたんですけど、小学校で健常児のお子さんと同じペースで教育を受けるよりは、支援学校で教育を受けられたほうがこの子のペースに合っているのかなと。実際に入ってみて、彼のペースでできる部分が広がっているなという感じが確かにあります。支援学校の先生は障害児の扱いに慣れていらっしゃるし、数も多いのでよく関わってくださいます」(父 綾崇さん)

進学先についてそれぞれの選択をした正木さんと綾さん。お二人の話を受けて、NPO法人地域ケアさぽーと研究所理事の下川和洋さんはこう話します。

画像(NPO法人地域ケアさぽーと研究所 理事 下川和洋さん)

「大切なことは、どんなに障害が重くても本人に望む進学先を聞くこと。大人だけで勝手に決めるのはまずいと思います。実際に体験してみて、子ども自身のなかでどんな学校生活を過ごすのかイメージをつける。そして、そこで得られた表情とかを、私たち大人がしっかりと受け止める必要があると思います。また、文部科学省は「就学先の決定後も柔軟に就学先を見直していく」としています。場合によっては軌道修正することも選択肢に入れ、柔軟に考えていきましょう」(下川さん)

いろいろな選択肢がある学校選び。下川さんによると、学校選びの相談先は主に3つあるといいます。1つ目は教育委員会の就学相談、2つ目は地域の学校が行う学校公開や説明会、3つ目は各地にある親の会です。それらの相談先に相談する際には、どんなことに気をつけたらいいのでしょうか。

「早ければ早いほどいいかもしれませんね。というのは一般的に通常学校に看護師はいませんし、バリアフリーの環境も整っていません。国の財政支援としてさまざまな施策はありますが、(入学)間際になってエレベーターや、スロープ、看護師などをつけてほしいと言われても、自治体で用意ができないことがありますので、早め早めの相談が望まれるかなと思います。そしてポイントは、法令で“本人や保護者の意見を最大限尊重する”と決まっていますので、教育委員会がある程度、進路選択を誘導するような場合もありますが、そういうときがあっても、自分たちはどういう進路を望んでいるか言い続ける。それはとても大切だと思います」(下川さん)

進学先を決めるための交渉は、保護者からの主体的な働きかけが必要だと指摘する下川さん。評論家の荻上チキさんは、だからこそ同じ境遇にある人からの情報が大事になると話します。

画像(評論家 荻上チキさん)

「親の会や、当事者の方、地域のNPOなどとつながって、たとえば『行政に伝えるときに誰が話を聞いてくれやすいよ』とか、『前例としてこういう方がいるので、そのようにうちの子もしてくれませんか』というコミュニケーションがしやすくなるためにも、ほかの親御さんとつながってチームを組んだり、知識を得ておいたりするのも重要だと思います。本来はそういうものがなくても、どの地域でも、どの行政でも、適切にサービスを提供してくれるのがベストなんですが、いまはまだその途中にあるので、そうした連携が必要だと思いますね」(荻上さん)

付き添いはどうしたらいい? 進学後も続く負担

医療的ケア児が進学すると、保護者の付き添いを求められることがあり負担を感じる人も少なくありません。

東京都にお住まいの大津和沙さんも、将来の学校生活に不安を抱えているひとりです。息子の碧人さん(4)は、人工呼吸器や胃ろうなどの医療的ケアがあります。「付き添いの期間はどのくらいなのか」、「付き添いをしながら仕事は続けられるのか」和沙さんの悩みは尽きないといいます。

画像(大津碧人さんと母親の和沙さん)

綾さんは、優太さんの付き添いの状況はどうだったのでしょうか。

画像(綾優太さん、父親の綾崇さん)

「最初に学校側から求められ、つい最近まで5年間付き添いました。付き添いを外すことができたのは、教育委員会が方針を変えたことがいちばん大きいです。付き添いのペースは、妻がだいたい週に1回、残りは私。2人とも仕事を持っていますので。付き添いの間、教室の隅っこに用意されたイスと机で、パソコンをパチパチ叩きながら仕事をする感じでしたね。私は自営業者なので、付き添いが始まるだいぶ前から、パソコンひとつで仕事ができるように、スタッフを増やすなど徐々にお金をかけて備えました。付き添いは、朝の9時から長いと午後の3時くらいまでですが、登下校の時間もかかります。支援学校は近所にないことが多く、うちでは片道30分、自分で車を運転していきますので、それなりに時間がかかります」(父 綾崇さん)

正木さんは、篤さんが小学4年生のときまで付き添いをしていました。学校と交渉していくなかでどういったことを工夫してきたのでしょうか。

画像(正木篤さん、母親の正木寧子さん)

「学校側が主導で、学校と教育委員会とうち(保護者、本人)の話し合いをする場を継続的に、2か月に1回ぐらい、作ってくれています。付き添いがまだ続いていたときに、そのことを必ず話題にして、こちらの思いを伝えてきました。そうすることで、対立するというよりは学校や教育委員会と同じ方向を向いて、『(付き添いを)外すためにはどういうことを整備していけばいいのか』という話し合いを建設的にしてきたという経緯があります。付き添いを続けるのは、親ももちろん負担があるんですけど、本人にとってもよくない。3年生ぐらいになってくると、親が学校にいると本人がだんだん嫌になってくるのもわかってきたので、よくないと学校も思っていましたし、私たちも同じ思いという感じでした」(母 正木寧子さん)

付き添いを続けることは、子どもにとっても負担になるという声。荻上さんは、付き添いへの公的な支援の必要性を指摘します。

「学校に通うことは、子離れ、親離れの練習の期間でもあります。そうすると、付き添いの際の医療的ケアを他の人に任せる、他の人にされる、いろんな人たちと親の目のないところで友人関係などを築くといった、すごく大事な状況を経験できる場面になるわけですよね。ですから、いろんなところでの医療的ケアに公的な支援をすること。通学と下校についても送迎であるとかいろいろな支援があるほうが望ましいですよね」(荻上さん)

文部科学省が3年前に行った調査によると、保護者が付き添う理由として多いのが、「看護師が常駐でない」「看護師は常駐だが学校が希望している」といったものです。

画像

出典:文部科学省調査より

「このときの調査は、だいたい460人ぐらい保護者が付き添っているという実態がありましたが、その2年前は826人でした。その間に、文部科学省が保護者の付き添いは『真に必要と考えられる場合に限る』という通知を出したんです。そういう意味では半減したのですが、半減した割にはまだこれらの理由が残っている。なぜかというと、看護師が行うケアの種類を絞ってしまったり、看護師がいても万が一のために学校が心配だから付き添ってほしい、その分のリスクを保護者に負担してもらうという考え方なんでしょうね。各学校と教育委員会がローカルルールを作っていくなかで、地域間格差が生じてきているんです」(下川さん)

期待される新法案 より充実した支援へ向けて

状況や地域によってまだまだ負担感が目立つ、医療的ケア児への付き添い。こうした現状を受けて、「医療的ケア児支援法案」という新たな法案が今国会に提出される予定です。

画像(医療的ケア児支援法案のポイント)

主な内容は次の3つ。
・保護者が付き添わなくても通学できるよう看護師を配置する
・居住する地域にかかわらず等しく適切な支援を受けられるようにする
・家族からの相談に応じる支援センターを各都道府県に設置する

この法案によって、格差是正が進むことを期待していると下川さんは言います。

「実際に地域の小学校に入学を希望したけども入学が叶わず、転居したらすぐに小学校に通えるようになったという事例があります。このように、地方分権や医療機関の社会資源の違いから地域間格差があるのは仕方がないのですが、この法案にあるように『地域にかかわらず』というところがとても大切で、この法律によって少しでも格差是正が進むことを期待しております」(下川さん)

医療的ケア児のための情報がまだまだ十分とはいえないなか、医療的ケア児をサポートするために情報を発信している団体があります。

NPO法人代表の金澤裕香さんです。医療的ケア児に関する情報をウェブサイトで発信しています。

画像(NPO法人 代表 金澤裕香さん)

金澤さん自身も医療的ケア児の母親。1年半前に娘の菜生(なお)さん(享年6)を亡くしました。

この団体では、当事者親子の体験談や、子どもの発達段階に応じたさまざまなノウハウを公開しています。学校生活についても、入学前に準備するべきことなど具体的なノウハウが満載です。

画像(金澤さんが運営するウェブサイト)

「医療的ケアの子育てに必要な情報が、このサイトを見れば一発でわかるよというところを目指しています。ほかにも、全国にこうやってがんばっているお子さんがいるんだよ、仲間がいるんだよっていうのを知ってもらう。孤独な気持ちにさせないということはすごく意識しています」(金澤さん)

医療的ケア児に対する支援が、より充実する兆しが見えているいま。荻上さんは“つながること”が大切だと話します。

「まだモヤモヤされている方はたくさんいらっしゃると思います。いろんなプラットホームとかウェブサイトを通じて相談できるようにしたり、先輩方とのつながりをより進めていったりすることが必要だと思いますね。みなさん、ぜひつながって、医療的ケアがあっても当たり前に子どもたちが学べるように、これからも一緒に考えていきましょう」(荻上さん)

【特集】医療的ケア児のいま
(1)親子の居場所と必要な支援
(2)先輩に聞く学校の選択 ←今回の記事

※この記事はハートネットTV 2021年5月12日放送「医療的ケア児のいま 第2回 先輩に聞きたい!進路相談会」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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