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【特集】医療的ケア児のいま 親子の居場所と必要な支援

記事公開日:2021年05月27日

病気や障害で、たんの吸引などの医療的ケアが必要な子どもたち。全国におよそ2万人が暮らしていますが、保育所などの居場所はごくわずか。子どもたちどうしで遊べる場所も限られています。子どもの居場所が見つからず、仕事を続けるのが難しくなってしまう親たちも…。医療的ケアが必要な子どもたちの居場所と必要な支援について考えます。

保育所も施設も 空きがない預け先

神奈川県に住む五十嵐愛華(まなか)さん(3)は脳神経の難病で、体や知的な発達に遅れがあります。ご飯を口から食べることが難しく、チューブで食事を注入する「経管栄養」が必要です。誤飲や窒息に気をつけながら、1回1時間ほどかけてとります。

画像(五十嵐愛華さん)

「午前中1回、午後1回、お風呂上がってから1回、夜3時間まとめて機械を使って流すって感じで、調子が悪いときだと10ccから25ccくらいに分けて10分おきとかに入れていく感じです」(母 恵さん)

愛華さんはこの3年間、ほとんどを家で過ごしてきました。そのなかでも、周りへの興味や関心は大きく育っていきました。

画像(愛華さんと母親の恵さん)

「好奇心も強いし、人も好きなので、本来であればもっと刺激が入ればできることも増えているのかなと思うんですけど、同じ年齢の子と接触することが極端に少なくて、まねができなかったり、言葉の発育もそうだし、この子の成長自体が遅れちゃう。すごく心配ですね。できるうちにできる経験をさせたい。2人家でずっとっていうのは良くないと感じています」(母 恵さん)

母親の恵さんは、愛華さんが楽しく過ごせる居場所を探し続けてきました。

まず相談したのが、医療的ケア児を受け入れている地域の保育所。しかし、定員はすでにいっぱいでした。

次に応募したのは、「児童発達支援」の施設。専門のスタッフがいて、障害のある子どもたちが通える施設です。しかし、こちらも医療的ケア児に対応している施設はごくわずか。どこも空きがありませんでした。

愛華さんは、3つ上の兄と両親の4人家族。父親は仕事で帰りが遅く、日中は恵さんがひとりで世話をしています。

「愛華は夜寝ないから、まとめて自分が寝ることができなくて、それが一番つらいですね。体的には」(母 恵さん)

今年4月、地域の保育所がようやく受け入れてくれることになりました。同年代の友だちと過ごす、初めての機会です。しかし、通える期間は1年だけ。不安は残ったままです。

仕事を続けたいのに 医療的ケア児「小1の壁」

居場所が足りないのは、学校に入る前の子どもたちだけではありません。

東京都で弟と両親、家族4人で暮らしている村林璃香さん(6)は、難病で重い心疾患やてんかんがあります。1日5回の胃ろうでの食事や、薬の吸入などが欠かせません。

画像(村林璃香さん)

璃香さんは、1歳のとき、たまたま空きがあった児童発達支援の施設に通うことができました。充実した5年間だったといいます。

画像(児童発達支援の施設で遊ぶ璃香さん)

「うちじゃ絶対できなかったことをやってくれたりして、お友だちもいるし、居場所みたいな感じ。通園先につくとニコニコしちゃって。最初、『璃香ちゃん』って呼ばれても内にこもる感じだったんですが、結構自分でタッチでちゃんとできるようになって、それを見たときにすごく感激しました。5年間で着実に成長しました」(母 瑠美さん)

会社員として働いてきた母親の瑠美さん。璃香さんの居場所があったことで、仕事を続けてこられたといいます。

しかし、今年4月の特別支援学校への入学で、再び壁にぶつかります。児童発達支援の施設に通えるのは6歳までのため、3月で卒園。璃香さんの通う特別支援学校は原則14時まで。放課後や夏休みは利用できないため、新しい居場所を探さなければならなくなったのです。

そこで検討したのが、「放課後等デイサービス」。6歳以上の子どもたちが放課後や長期休暇に利用できるサービスです。

しかし、医療的ケア児を受け入れる施設は地域に2か所しかなく、すでに定員に達していました。

かわりに検討したのは、自費でのシッターの利用。しかし、毎月高額な費用がかかってしまいます。仕事を諦めなくてはいけないのか。瑠美さんはやるせなさを募らせていました。

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璃香さんに絵本を見せる母親の瑠美さん

「なんで子どもが医療的ケア児か健常児かで親のキャリアや考え方が変わらないといけないのか。普通の子育てしている親として働きたいというのが本心。ボランティアでも趣味でも、医ケア児の家族が自分のやりたいことをしたいなと考えたときに、その人たちをサポートできるものがない状況はやっぱり健全じゃないと思うんです」(母 瑠美さん)

安全なケアのためには多くの人手が必要

全国におよそ2万人いる医療的ケア児。ある調査では、およそ6割の保護者が子どもを預けられるところがないと回答しています。

医療的ケア児の居場所が少ない理由。それは安全にケアをするために、多くの人手が必要となるからです。

都内にある、NPO法人が運営する放課後等デイサービスでは、医療的ケア児を月にのべ80人受け入れています。胃ろうからの注入やたんの吸引など、必要なケアはさまざまです。

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都内にある放課後等デイサービスの様子

この施設では、常に3人以上の看護師で対応しています。子どもどうしがチューブを引っ張ったり、けがをしないよう、見守る人手も欠かせません。

この施設では、必要な人員を確保するため、常に厳しい経営状況と向き合ってきました。

放課後等デイサービスは、毎月およそ20万円の赤字。法人がおこなう別の事業の収益で補ってきました。支出の大半を占めるのは人件費です。

こうした施設には、利用者が支払う料金のほかに、受け入れ人数や障害の程度に応じて、自治体からの報酬が支払われます。しかし、その報酬額に、医療的ケアの難しさはあまり反映されてきませんでした。

報酬額は自分で動けるかなどによって決まります。気管切開や胃ろうなどのある医療的ケア児でも、医療的ケアを必要としないほかの障害児と同じ区分になる場合があるのです。このため、多くの施設が受け入れに踏み出せずにきたと理事長の早野節子さんはいいます。

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都内にある放課後等デイサービス 理事長 早野節子さん

「経営面ではとてもとても道は険しいので、放課後等デイサービスをやるっていうのは結構大変なんです。人も報酬も余裕がないといい活動は提供できないと思っています」(早野さん)

今年、国は制度の見直しを決めました。3年ぶりの「報酬改定」。障害の程度だけでなく、医療的ケア自体を評価する指針が示されました。

胃ろうや気管切開が医療的ケアに対応した新たな区分の対象になり、受け入れに支払われる報酬額も増加します。さらに、看護士の手配に必要な人件費も、ケアの必要な子どもを多く受け入れることで支給されやすくなりました。

この施設では、月に30万円以上の増額が見込まれます。今回の報酬改定に携わった医師の前田浩利さんはこう話します。

「実際にケアの現場でどれだけ人が必要か、現場感覚に非常に近いかたちで、ちゃんとした人に対する報酬が出されたことが大きな点です。これで医療的ケア児の行き場所が間違いなく増えていくと思います。それによって親御さんが休んだり子どもたちが集団のなかで発達することができたり。そういう場所が間違いなく地域のなかで増えていくと思います」(前田さん)

報酬が改定されても残る課題

報酬改定を受け、今年4月、東京都大田区の社会福祉法人では新しく子どもたちの居場所をつくりました。すでに10人を超える子どもたちが利用登録しています。建物は、自治体の協力で無償で提供されています。

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東京都大田区の放課後等デイサービス

この法人では8年前から6歳以下の医療的ケア児を受け入れてきましたが、就学後の居場所まではつくれずにいたと、理事長の戸枝陽基さんは話します。

「経営者としては持続可能性がない経営はできない判断なんですよね。6歳の卒園式のあとに、『親子だけで頑張っていかなきゃいけないですよね』って涙ながらにお母さんたちに言われるわけですから、何とかならないのかと、その涙を見るたびに思っていて。本当にじくじたる思いでした」(戸枝さん)

ようやく実現した放課後等デイサービス。必要な人手の確保で、細やかなケアが必要な子どもたちも受け入れることができています。

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東京都大田区の放課後等デイサービス 理事長 戸枝陽基さん

「より支援がいる人に優先的に支援が届くような態勢になったのはメリットです。事業所としては医療的ケアに対応できる訪デイが始まりやすくなったのは間違いないと思いますね」(戸枝さん)

一方で、明らかになった課題もあります。

報酬改定によって充実した医療的ケア児への手当。今回の報酬改定で多くの手当が支払われるためには、基準以上の看護師を雇うことが条件です。しかし現実には多くの看護師を雇えないところも少なくありません。

富山県高岡市で活動する社会福祉法人は、児童発達支援や放課後等デイサービスを運営してきました。医療的ケアが必要な子どもたち7人が利用しています。

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富山県高岡市の施設

この施設では、2人の看護師で、児童発達支援と放課後等デイサービスに通う子どもたちの医療的ケアにあたってきました。手を尽くしても、新たに雇える人材が見つからないと、理事長の岡本久子さんは指摘します。

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富山県高岡市の施設 理事長 岡本久子さん

「病院から福祉のほうに看護師さんを誘うのは待遇の面も大きく違うので、それを福祉の側から働きかけるってことはとても難しいと思いました。ですから看護師を採用するにあたっては大変苦労する。今回の報酬改定というのはとてもありがたいんですけれども、もう少し使いやすい制度にしていただけたらありがたかったなと思います」(岡本さん)

4月上旬。東京都杉並区の放課後等デイサービスに通いはじめた村林璃香さんの姿がありました。

入学後の居場所が見つからずにいた璃香さん。事情を聞いた施設が受け入れを決めてくれました。

友だちと過ごす、新しい日常が始まりました。母親の瑠美さんも、これまで通り仕事を続けられています。

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記念撮影をする村林璃香さんと両親

「本当に感謝しかないですね。綱渡り的にいまこうやって働くことができて、本当に運が良かっただけという感じです。預け場所がないっていう不安に、常にプレッシャーを受けるわけではなく、医ケア児本人が楽しめる場所の選択肢という意味でも、親としてもその子を預けたい場所に預けられるチョイスが増えてほしい。どんな子どもがいても本人が、親が、家族がしたい暮らしができるような世の中であってほしいなと思います」(母 瑠美さん)

【特集】医療的ケア児のいま
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(2)先輩に聞く学校の選択

※この記事はハートネットTV 2021年5月11日放送「医療的ケア児のいま 第1回 親子の居場所」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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