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ギャンブル依存症 当事者と家族の孤独な戦い

記事公開日:2018年03月30日

衝動を抑えられず、ギャンブルを続けてしまう精神疾患「ギャンブル依存症」。厚生労働省が2017年に発表した調査によると、ギャンブル依存症の疑いがある人は全国で推計320万人。しかし、どこに相談したらよいか分からず、孤立する当事者や家族が多くいます。

ギャンブル依存症と気づかず診断までに10年

2016年12月、カジノを含むIR・統合型リゾート施設の整備を推進する法律(IR推進法)が成立し、これまで日本では違法とされてきたカジノが法的に認められる可能性が出てきました。そんな中、今注目を集めているのが「ギャンブル依存症」の問題です。

日本には、パチンコなどですでにギャンブル依存症になっている人が320万人いると言われています。その割合は、海外と比べて突出して高いと言われているにも関わらず、そもそも病気としての理解が十分進んでいません。

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関東に暮らす小川明さん(30代・仮名)は、月に1度、支援者と共に長崎の精神科病院を訪ねています。明さんの弟の穣(みのる)さん(30代・仮名)が、ギャンブル依存症で今年8月に入院しました。

病的にパチンコにのめりこむ生活を10年以上続けてきた穣さん。それが回復可能な病気とは気づけず、家族も借金を肩代わりすることで、結果的に病を助長していました。

「(パチンコを始めたきっかけは)結婚生活がうまくいかなくて、その現実から逃げたいみたいな感じで。たまたま入ったパチンコ屋でやって。それからもう、どんどんはまっていって。コントロールできないぐらいになってしまいましたね。」(穣さん)

「『パチンコしてそんな楽しいの?』って言ったら、『苦しい。』って言うんだよね。『何でそんな苦しいのに行くの?』って聞いても、『分からない。』って。楽しいわけないって、あんな思いして、分かってるんですよね。家族にお金無心してるとか。そんな思いしたお金で行ってることも分かっていながら、止められない。聞いていて恐ろしくなりましたね。」(明さん)

人付き合いの苦手な穣さんは定職に就くことができず、両親にパチンコ代を要求するようになります。額が千円、2千円から次第に増え、毎日2万円に。年金で暮らす両親が出せなくなると、親戚に借りるよう迫ったり、包丁を持ち暴れてしまうようになった穣さん。明さんは「弟が刑務所入るか、親が自殺するか、どっちかしかないかなって。ちょっともう、手に負えなくなっちゃっていて。」と当時の状況を話します。

次第に追い詰められていった家族は、警察に相談。精神科病院への入院を勧められます。穣さん自身もギャンブルへの衝動を抑えたいと訴え、全員で精神科病院へ向かいました。

しかし、病院は受け入れを拒否。その理由は、ギャンブル依存症はまだ医療関係者の間でも病気としての認知も低く、効果的な治療法も確立していないため提供できる診療がないからというものでした。

精神保健福祉センターからも家族で対処するよう言われ、頼るところもなく途方に暮れる明さん一家。受け入れ先が見つからない中、暴力は日に日に激しくなりました。両親は穣さんから逃げるため、路上に停めた車の中で寝泊まりするようになります。

そんなとき、兄の明さんがインターネットで民間の支援団体を見つけ、すがる思いで連絡。その紹介で長崎の精神科病院に入院し、穣さんはギャンブル依存症と診断されました。ここに辿り着くまでに10年以上。今ようやく、治療をしながら自立への道を探り始めています。

長年ギャンブル依存症の診療を行ってきた精神科医の佐藤拓さんによると、国内の医療機関などの対応にはまだばらつきがあり、明さん家族のように、相談しても受け皿がなく、当事者家族で問題を抱え込みがちになってしまうケースは珍しくないと言います。
また、佐藤さんはギャンブル依存症には、もう一つ難しい側面があると指摘します。

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「ギャンブル依存症は、よく“否認の病”と言われています。本人が精神的な病気や障害という認識を持つわけではなく、例えばギャンブルの問題が生じたときにも『自分でお金をなんとか工面したい』と考えるわけです。それで問題をどんどん深刻化させていく。一方で家族は家族で、自分たちがなんとかこの問題を解決していかなければいけないということで、治療や支援につなげると考えるよりは、自分たちでお金の工面をしたりする。そういった中で、本人にしろ家族にしろ、もう打つ手がないところまで行き詰まってしまい、病状を深刻化させてしまうケースが多いのではないかと考えられます。」(佐藤医師)

深刻な場合は第三者の介入も

家族で抱え込んだ結果、本人が自殺に至ってしまう危険もあるという「ギャンブル依存症」。そういった危険を避けるため、行政や医療機関の受け皿の充実はもとより、自ら病気と認識できずに診療にいけない人に対し、第三者が介入することが有効な場合があります。

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ギャンブル依存症の当事者と家族を支援する民間団体“ギャンブル依存症問題を考える会”代表の田中紀子さん。“りこさん”と呼ばれている田中さんのもとには、毎月100件以上の相談がきます。その多くが、家族が抱え込んだ結果、深刻化したケースだといいます。

りこさん自身も、かつて夫と共にギャンブル依存症を発症。そこから回復した過去があります。りこさんは経験から、支援のために時には家族関係にも介入することが大切だと考えています。

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ある日、りこさんのもとをみーさん(仮名)が訪れました。28歳の息子が野球賭博を覚え、不安にかられて相談しに来たのです。野球賭博は違法行為。誰にも相談できず、みーさんは借金を高齢の両親と肩代わりしてきました。

今回の野球賭博の借金180万以外に、これまで肩代わりした総額は500~600万に上ると話すみーさん。りこさんはみーさんに、自分が直接息子に会って話すことを約束しました。

後日、りこさんはみーさんの息子の啓太さん(仮名・20代)に会い、啓太さんに寄り沿いながら、話を聞いたうえで、回復の道筋を具体的に示しました。

田中:言わせてもらえれば、回復施設は君みたいな子は合うよ、絶対。チームプレーとかずっと得意でやってきたんでしょ? 野球とか、合宿とかもやっているし、人付き合いが苦手でもないよね?
啓太:はい。
田中:行ってみたら、絶対に肩の荷が下りると思うよ。

勧めたのは、ギャンブル依存症から抜け出したい人たちが共同生活を送り、一緒に回復を目指す施設。そこへ入ることを条件に、債務先への連絡を自分が行うとアドバイスしました。啓太さんは家族と相談の上、施設に入る日を連絡すると約束しました。

しかし、その2週間後。りこさんの自宅を、急遽みーさんが訪ねてきました。結局、啓太さんは病気を自分で治すと主張し、回復施設に行くことを拒否。再び野球賭博に手を出した結果、闇金に追いかけられていると言います。みーさんは消費者金融から30万を借り、闇金にお金を支払ってしまいました。

当事者だけでなく、家族の暮らしと心も追い詰めていくギャンブル依存症。家族が、借金を肩代わりすることで、ギャンブル依存が悪化するケースは少なくありません。ここで、りこさんは、諦めることなく「介入」を続けます。

りこさんは再び啓太さんを訪ねました。これ以上、状況が悪化する前に回復施設で支援を受けるよう、説得を試みます。

田中:ギャンブル依存症っていう病気で、こういうふうになったのは分かるでしょ?もう自分ではやめられなかったこと。やめられないんだよ。
田中:だから、みんながもう、「自分たちに、できることはない。」って、腹くくったわけよ。で、君は?
啓太:もうなんか、いいです、分かりました。行くんで、ちょっとタバコ買ってきていいですか。
田中:じゃあ、一緒に行くから。
啓太:一緒に行かなくていい。1人にさせろよ。いきなり来て、話なんかできるわけないだろう。いいからもう、放っておけよ、行くんだから。行くって決めただろう! 話をして。

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激しく抵抗する啓太さんに、りこさんは一歩も譲りません。施設に行けば回復の可能性がありますが、このまま放置すれば、本人も家族も苦しむ結末になると確信しているからです。

祖父の説得も加わり、押し問答の末に回復施設に行くことを決めた啓太さん。今、施設で仲間と一緒に回復プログラムを受けています。母のみーさんも紹介された家族会に入り、息子との関わり方を見つめ直しています。

受け皿の拡充と支援の周知が課題

介入後の支援には、だいたい3つのパターンがあると田中さん。まず1つは、“専門の病院”につなげていくパターン。もう1つは、啓太さんのように民間の回復施設で回復するパターン。最後は“自助グループ”に通ってもらうパターンで、それぞれのケースに分けて支援をつなげます。

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その後、依存症の人は自分のやってきたことを振り返り、なぜ依存することが必要だったのか、自分の人間関係において、どういったところが問題だったかなどを振り返っていくプログラムを受けることになります。

田中さんはかつて自らがギャンブル依存に苦しんだ経験から、こう説明します。

「依存症者ってすごく引き裂かれる2つの感情があるんですね。『やめたくない』とか『やめることが怖い』っていうネガティブな気持ちもすごく強いんですけれど。心のどこかでは、『もうやめなきゃいけない』とか『やめたい』っていう気持ちもあるんです。だから、やめたいっていう気持ちのほうが上回るように、わたしのほうが引っ張り上げるイメージです。わたしの中には、その2つの感情があるということを自分も経験していて、すごくよく分かるので。『これが必ず彼のためになる。』ということを、自分の中でも信じて。ぐいっと引っ張り上げるような感じでやります。」(田中さん)

さらに田中さんは、海外では“インタベンショニスト(介入者)”が何万人もいることをあげ、介入ができる人が増えると共に、支援する団体や方法があることを、当事者やその家族にももっと知ってもらいたいと訴えます。

今ギャンブル依存症に苦しむ人への対策や支援の見通しがない状況で、新たにカジノの実施を巡る議論が始まろうとしています。この病気の早急な対策を含め、広い視点で議論が進むことが望まれます。

田中紀子さんからのメッセージ

「依存症の反対語は、つながり。誰かとつながっていれば、回復の希望は必ず見えてくる」

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「自分や家族がギャンブル依存症かもしれないと感じたら、まず自助グループに行ってみましょう。また、一度行ってみたら『自分には合わない』と決めつけず、最低でも6回は通ってみることが大事です。ギャンブル依存症は、自分1人の力で回復を目指すことは難しいため、同じ問題を解決した人の力を借りながら、回復を目指していきましょう。また、ご自身が他のギャンブル依存症に苦しむ方を助けていくことも、回復につながります。Addiction(依存症)の反対語はConnection(つながり)と言われていて、人とのつながりや、助け合いがとても大切な役割を果たします。最初の頃は、回復できるという希望も自信も持てず、誰も信じられないかもしれません。けれども自助グループ等につながり続けていれば、回復の希望は必ず見えてきます。」

ギャンブル依存症チェックリスト

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自分が病的なギャンブル依存症かどうか、知りたい方のために当事者の自助グループが使っている診断チェックリストです。7つ以上当てはまる人は病的な依存症の可能性が極めて高いと言われています。7つ以上当てはまったという方は1人で抱え込まず、自助グループなどにご相談ください。医療機関なども紹介してくれます。

□ 1、ギャンブルのために仕事や学業がおろそかになることがありましたか?
□ 2、ギャンブルのために家庭が不幸になることがありましたか?
□ 3、ギャンブルのために評判が悪くなることがありましたか?
□ 4、ギャンブルをした後で自責の念を感じることがありましたか?
□ 5、借金を払うためのお金を工面するためや、お金に困っているときになんとかしようとしてギャンブルをすることがありましたか?
□ 6、ギャンブルのために意欲や能率が落ちることがありましたか?
□ 7、負けた後で、すぐにまたやって、負けを取り戻さなければと思うことがありましたか?
□ 8、勝った後で、すぐにまたやって、もっと勝ちたいという強い欲求を感じることがありましか?
□ 9、一文無しになるまでギャンブルをすることがよくありましたか?
□ 10、ギャンブルの資金を作るために借金をすることがありましたか?か?
□ 11、ギャンブルの資金を作るために、自分や家族のものを売ることがありましたか?
□ 12、正常な支払いのために「ギャンブルの元手」を使うのを渋ることがありましたか?
□ 13、ギャンブルのために家族の幸せをかえりみないようになることがありましたか?
□ 14、予定していたよりも長くギャンブルをしてしまうことがありましたか?
□ 15、悩みやトラブルから逃げようとしてギャンブルをすることがありましたか?
□ 16、ギャンブルの資金を工面するために法律に触れることをしたとか、しようと考えることがありましたか?
□ 17、ギャンブルのために不眠になることがありましたか?
□ 18、口論や失望や欲求不満のためにギャンブルをしたいという衝動にかられたことがありましたか?
□ 19、良いことがあると2・3時間ギャンブルをして祝おうという欲求がおきることがありましたか?
□ 20、ギャンブルが原因で自殺しようと考えることがありましたか?

※この記事はハートネットTV 2017年10月31日(火)放送「シリーズ 依存症 第1回 ギャンブル依存症 ―孤立する当事者と家族―」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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