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これだけは知ってほしい!コロナハラスメントのこと

記事公開日:2021年03月01日

まだまだ終息の兆しが見えない、新型コロナウイルス。長引くコロナ禍は、私たちの人間関係に悪い影響を及ぼしています。コロナをきっかけとした差別や嫌がらせ、いわゆる“コロナハラスメント”です。お互いに傷つけないために大切なことは何なのか、考えます。

“コロナハラスメント”の実態とは

コロナをきっかけにした嫌がらせや差別などの“コロナハラスメント”。評論家の荻上チキさんはどう見ているのでしょうか。

画像(評論家 荻上チキさん)

「こういった言葉が作られること自体が、物事の深刻さと、多くの人が経験しているんだということを浮き彫りにしていますよね。まず一つは、『出て行け』『感染するな』とひどいことを言われてしまう心理的な攻撃があります。また、コロナ関連で雇用主から『なんで休むんだ』と責められたり、雇用調整助成金などを申請してもらえず、その分シフトを減らされたり、解雇されたりする経済面のハラスメントもあります。心理面、経済面、制度面などいろんな観点で考えることが必要だと思います」(荻上さん)

埼玉県でカフェを経営している小島大補さんは、2020年4月に新型コロナウイルスに感染したとき周囲の言動に変化が表れたと話します。

画像(カフェ経営 小島大補さん)

「感染したあと2週間ほど入院し、そのあと療養期間に入り、6月にお店を再開しました。そのなかで、来てくれないお客さんが目立ったりとか、設備関係の掃除とかがキャンセルになってしまったりとか。あとは、感染したことをテレビや新聞で取材を受けさせてもらったんですが、公言したことに対してお叱りの言葉を受けたりとか。コロナを出してしまった地域だと思われて、お客さんが来てくれなくなることを嫌がってしまったのかな、と思います」(小島さん)

ハラスメントになるかならないかはコミュニケーションしだい

番組には、「知らず知らずのうちに自分がハラスメントをしているかもしれない」という声も届きました。

画像(会社員 まりんさん)

「自分が感染することも怖い、家族に感染することも怖い。自分が感染したことによって、職場がどうなるか、ということも怖い。家族、友人、恋人、職場、それぞれ全部にみんなが責任を負って動いているので、まずは怖いっていうのがあります」(まりんさん)

一方でまりんさんは、漠然とした不安や恐怖によって、自分自身が攻撃的になっていないかと恐れを感じているそうです。

「マスクができない人もいるとも聞くので、マスクをしてないだけで『なんで?』って思ってしまうと、事情がある人を変に責め立ててしまう。(事情がある人が)『周りの目が怖い』ってなってしまうと、ちょっと違ってきてしまうのかなって思います」(まりんさん)

不安や恐怖から誰かを傷つけてしまっているかもしれないという、まりんさんの声。荻上さんは、立ち止まって考えることで、コロナハラスメントを適切なコミュニケーションに変えることができると話します。

「私たちも普段からマスクしましょう、手洗いしましょうと言っていますね。これを、たとえば咳エチケットという言葉で言ったり、マナーとかルールという言葉に置き換えたりすると、いつしか道徳の話にすり替わる。リスクの話とモラルの話が割と重なるところが出てくるわけですよね。実際、確かにマスクをしない方がいると感染リスクが高まるかも、と身構える。これは重要な知恵ではありますが、身構えることと『マスクをしなさい』と言うことはまた別。身構えたときに、『マスクはどうされたんですか』『マスクは今できないんですか』と別のコミュニケーションの仕方もあるわけです。なので、具体的なリスク意識を持って、相手の行動が気になったときにどんなアクションをするか、一つひとつ考えることで、ハラスメントになるのか、それともコミュニケーションになるのかが変わると思います」(荻上さん)

さらにコロナハラスメントをしてしまう人の背景には“不安”があるとも指摘します。

「『これに不安を感じるから気をつけよう』『これが怖いから避けよう』というのは自分を守るため。攻撃もそうなんですよ。何かを攻撃することで身を守ることにつながるんです。ただ、コロナに感染した方を攻撃するのは、攻撃することによって『だらしない人、守らなかった人が感染したに違いない』という感覚を強めてしまい、『守ってる自分は大事に違いない』という信念も重なっている。そうやって、本来であれば被害者であるはずの感染した方を排除してしまうことが、ある意味、感染を言いづらくして、相談しづらい状況を生んでしまう。より安全な状況にするためにこそ、お互いにコミュニケーションしていくという前提を作りたいですね」(荻上さん)

医療従事者でも陥るコロナハラスメント

新型コロナ対応の最前線である医療現場でもコロナハラスメントがあると話すのは、看護師のマツモトさん(仮名)です。

マツモトさんは、ドライブスルーでのPCR検査を担当している看護師です。先月、微熱が出たためPCR検査を受けました。結果を待つ間、勤め先の院長にかけられた言葉に深く傷つけられたと言います。

画像(看護師 マツモトさん(仮名))

「院長に『もしマツモトさんが本当に陽性だったらどうしてくれるの』『これでもし閉院に追い込まれたら、マツモトさんのせいだからね』っていう言い方をされたんです。コロナの陽性患者さんを非難しちゃいけない立場にいる先生からそういう言葉が出たことで、本当に頭の中が真っ白になって、何も言葉が出てこなかった。そしたら追い打ちをかけるように『冗談じゃないから、本気だから』って言われて、もうビックリして泣いちゃいました」(マツモトさん)

その後、マツモトさんは陰性であることがわかりましたが、院長との関係はギスギスしたままだと言います。

一方、救急外来で働く看護師のサトウさんは、感染対策をきちんと行っているのに、管理部門の担当者に「救急外来のスタッフは共用のロッカーを使わないように」と言われたと話します。

画像(看護師 サトウさん(仮名))

「昨年の5月、いわゆる第一波と呼ばれていたときの話になります。当時、コロナウイルスは風邪の一種、もちろん感染力が強い、重症化しやすいという特徴はあるんですが、それでも適切な感染対策をしていれば防げるということで、私たち救急外来のスタッフは理解して対応していました。しかしあるとき、ロッカールームや、共用の職員食堂も使わないようにと通達されました。感染対策のため仕方ないのかな、と思ったんですけども、のちに『救急外来のスタッフがなんで食堂を使っているんだ』というクレームがあったと知りました。同じ医療者、ともに闘う仲間からそう見られていたと思うと、もう本当に心が痛かったことを鮮明に覚えています」(サトウさん)

医療機関を変えた“当事者意識”

その後、サトウさんの病院は状況が変わり、ハラスメントと言われるような攻撃的な雰囲気はほぼなくなってきていると言います。きっかけは一般病棟で1人の陽性患者が出たことでした。

「それまでは、コロナに対応している救急外来だけが汚染区域ではないかという、対岸の火事、他人事のような雰囲気があったんですけど、『自分たちのいる病棟でも出た。救急外来だけではないぞ。全体でみんなが力を合わせてやらなきゃいけない』という気持ちに切り替わったのが、そのときだったのかなと思います。自分たちが当事者なんだ、という意識を持てた。そしてその意識をみんなで共有できたこと、それが今いる職場でコロナハラスメントがなくなった理由かな、と私は思っています」(サトウさん)

サトウさんの職場を変えた当事者意識。別の医療機関では、一般の人の当事者意識が窮地を救いました。

都内にある永寿総合病院。感染拡大当初、大規模なクラスターが発生しました。世間から非難され、経営の危機すらささやかれていたとき、病院にあるものが届けられました。

画像(「頑張れ、永寿病院」と書かれた横断幕)

「頑張れ、永寿病院」と書かれた横断幕。送り主は、同じ町内会の副会長、山下さんでした。

画像(東上野二丁目町会 山下隆利さん)

この山下さんの行動をきっかけに、町内の焼き肉屋さんやウナギ屋さんがお弁当を届けるなど、応援の輪が少しずつ広がっていきました。

やがて町のいたる所で病院を応援するメッセージが掲げられるようになったのです。

画像(「がんばって 永寿病院」と書かれた掲示物)

「自分が背伸びしないで簡単にできることをしていけば、輪が広がって、ものすごい支援につながると思います。医療従事者に対するハラスメントをしてもコロナが終わるわけじゃない」(山下さん)

ここまで医療機関の窮地を救った当事者意識を見てきました。お互いに傷つけないためには大切なことは何なのでしょうか。

画像

スタジオの様子

「感染対策をしても陽性者は出るし、大きく報じられてしまいます。働いていて、自分たちは加害者なのか、と自信を失ったときも正直ありました。でも、こうやって少しでも応援してくれる人がいて、自分たちはちゃんと頑張れているんだ、と思うだけでも、病院で働いている人は救われたと思います。こういう輪が広がってくれると私たちも自信を持ってもっと取り組めるかな、と思っています」(サトウさん)

「攻撃してしまうのも、疲れとか、弱さとか、そういうものだと思うので、もちろん攻撃はしてはいけないのですが、攻撃とか嫌なことが起きたとき『相手はどうしてこういうことを言うのだろう』と、一歩立ち止まって考えてみるのも大事かなと思います」(小島さん)

「身近な人が感染すると当事者意識が高まって、コロナ対策を一生懸命するようになる、という研究があります。メディア経由で著名な方が感染したこと知って、親しみ持っているから、『他人事じゃないな』と思うということが取り上げられている。当事者意識は一つのキーワード。自分が感染したときに同じような言葉を向けられる社会が許容できるかどうか、それを考え続けるのが大事かなと思いますね」(荻上さん)

立ち止まって、相手のことを少し想像することが、アライさんになる第一歩になりそうです。

※この記事はハートネットTV 2020年2月17日(水曜)放送「これだけは知ってほしい!~コロナ ハラスメントのこと~」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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