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コロナで取り残される子どもたち(1) 教育の機会を守りたい

記事公開日:2021年02月24日

コロナ禍の今、子どもたちの学びの機会が危機に瀕しています。保護者の年収や家庭環境の違いで、勉強のサポートやオンライン教育を受ける機会に大きな格差が生まれています。子どもたちの学びをどう守るのか。奮闘するNPOの活動から、格差是正に何が必要かを探ります。

コロナで深刻化する家庭の教育環境

都内に住む中学3年生のハルナさん(仮名)は母親と妹の3人家族で、公立高校の受験を控えています。将来の夢は保育士ですが、勉強はうまく進んでいません。つまずきの始まりは去年3月のこと。新型コロナの感染拡大にともなう学校の一斉休校で、ハルナさんはおよそ2か月間の自主学習となりました。

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自宅で自主学習をするハルナさん

学校からは大量のプリントやドリルが配布されましたが、例題があるだけで解き方などは自力で考えます。身近にいる唯一の大人は母親ですが、知的障害のある妹の世話で手一杯です。家族の収入では生活するのがやっとで、塾に通うこともできません。

休校が明けると授業のスピードが速くなったと感じたハルナさんは、次第についていけなくなり、焦りを募らせました。そんなハルナさんに対し、学校からは意外な言葉が返ってきたと母親が振り返ります。

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ハルナさんの母親

「学校の先生まで『じゃあ、塾で聞けば?』という感じだった。『えっ、じゃあ塾行ってない子は誰に聞くの?』と(思った)。必然的に、塾に行けない子はわからないままで、高校受験も失敗するという図ができてしまってる」(ハルナさんの母親)

そんなハルナさん親子を救ったのは、NPOが運営する八王子つばめ塾です。一般の塾に通えない子どもたちを対象にした「無料塾」で、社会人や大学生のボランティアが無料で勉強を教えています。現在、中学3年生を中心に45人の子どもたちが参加し、ハルナさんも去年7月から通っています。

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八王子つばめ塾の様子

NPO代表の小宮位之さんは、子どもたちの教育環境が日増しに深刻化しているなか、学習支援だけでは本当の解決には至らないと言います。

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NPO代表 小宮位之さん

「お金を持っていて塾に通わせることのできる家庭と、お金がなくて通うことができない家庭は、そのまま差が出てしまう。母子家庭でお母さんが忙しく働いているとか、共働きの家庭だって仕事するのに必死。そうすると塾にも行かせてあげられないし、勉強も毎日見られるわけでもない。それを解消するために私どもも頑張ってるわけですけど、拭えない子もなかにはいます。コロナの影響は今でも軽視できません」(小宮さん)

困難なときは助けの声をあげてほしい

新型コロナによって、多くの世帯が経済的打撃を受けています。なかでもシングルマザーの世帯はより深刻で、アンケート調査でおよそ70%が「雇用形態の変更や収入減などの影響があった」と回答しています。

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出典:「NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ及びシングルマザー調査プロジェクト」調べ

一方で、支援の手が届きにくいケースがあることが見えてきました。

シングルマザーの渡辺さん(仮名)は、中学生と高校生の娘と暮らしています。コロナの影響で業務時間が短縮され、月およそ4万円の減収。それでも渡辺さんは、ギリギリまで自分の力で乗り切ると決めていました。

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シングルマザーの渡辺さん(仮名)

「ひとり親だからかわいそうと思われるのも嫌だし、あわれみの目で見られて助けられるのも余計つらい。あと、子どもの前では毅然とした母でいたい。人の力を借りる、イコール弱いお母さんだと子どもが心配してしまう。母のプライドじゃないですけど、あえて外の力を借りないようにしていた」(渡辺さん)

母親としての意地で助けを求めずにいた渡辺さんですが、教育費のあてにしていた児童扶養手当が今年からひと月およそ4000円減額。コロナ前の収入によって算出されたためです。塾や習い事に通わすことができず、子どもたちは家にこもりがちに。渡辺さんは限界を感じました。

そこで、若者へのキャリア支援を行っているNPO法人カタリバに救いを求めます。団体では、コロナ禍で学びの場を守るため、生活の苦しい世帯にパソコンやWi-Fiを貸し出し、オンラインの環境づくりを支援。友達同士のおしゃべりの場や、英語やイラストの授業など、多様なプログラムを用意しています。

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NPOが用意しているオンラインプログラム

社会とのつながりを持てた渡辺さんの娘が、プログラムに参加した感想を語ります。

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渡辺さんの娘

「人に頼っていいのかなってずっと思っていて。一人で抱え込んでいたので、頼っていいんだなって、初めて知りました」(渡辺さんの娘)

助けを求めることにためらいがあった渡辺さんですが、今では同じような心境にあるシングルマザーに伝えたいことがあります。

「自分のプライドが子どもの環境を制限している。私が人の力を借りないと、こんなにも可能性を狭めていたんだなと思った。子どもたちのためにと考えてくれる人が、こんなにいるんだということを知ったのがすごく驚きでした。そこで得たものはすごく大きかったです」(渡辺さん)

学びたい気持ちを育むには

コロナによって、より浮き彫りになる教育の格差。今こそ、子どもたちを取り残さないという意識が必要だと、大阪府立大学教授の山野則子さんは指摘します。

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大阪府立大学教授 山野則子さん

「見えづらかった人が、ある意味見えるようになってきた。だから何かにつながっていくことがすごく大事だと思う。支援が必要な人と、メニューがまだまだつながっていないから、大変な状況にある人が複数いる。そこをつなぐことがいちばん重要だと思います」(山野さん)

さらに山野さんは、学びの格差をなくすには、より深い部分に目を向けるべきだと言います。

「学びたいと思えるのはすごく力のいることです。本当は言語化できないで、そう思っている人はいっぱいいる。まずは、学びたいという気持ちにモチベーションを上げるところから支援を始めないと。自分の気持ちを言えるとか、『私学びたい』という気持ちを気付かせてあげたり、モチベーションをつくるところから支援がいる」(山野さん)

学びたいという意欲そのものを持ちづらくなっている子どもたち。学習を支援するNPO法人Learning for Allでは、2年前に中高生向けの居場所を開設しました。そこではスタッフが見守るなかで、子どもたちはゲームや勉強など思い思いの時間を過ごします。

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NPO法人Learning for Allが開設した「居場所」の様子

代表の李炯植(りひょんしぎ)さんは、自由な空間こそが、学ぶ意欲を持てずにいる子どもたちに一歩を踏み出すきっかけを与えると考えます。

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NPO法人代表 李炯植さん

「家にも学校にも居場所がなかったり、安心して自分のありのままを受けとめられる空間や、人とのつながりがないお子さんがたくさんいらっしゃいます。何かの支援をするためには、まず子どもたちがありのままを承認される空間を提供するのが重要なので、居場所はその第一歩を提供できる拠点だと思っています」(李さん)

12月に16歳の誕生日を迎えたユウマさん(仮名)は、1年半前から李さんが開設した「居場所」に通っています。中学時代は不登校で、高校へ進学する意欲はまったくありませんでした。前向きな未来を描きにくいのは、過去の記憶が影響していました。

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ユウマさん

「担任の先生に呼び出されて、『お前はなめくじと一緒だ』と言われたのは覚えてますね。頭が悪いというか、勉強ができない人って見られてたのは確かです」(ユウマさん)

自分にできることは何もないと考えていたユウマさん。中学卒業後に就職し、再起を図ろうとしていました。ところが去年4月、新型コロナの影響で就職は取り消しになります。自宅以外で唯一落ち着いて過ごせるこの居場所が、心のよりどころになりました。

ユウマさんは居場所に来たら、同い年のトモヤさん(仮名)とよく話をします。トモヤさんも中学時代は不登校で、いろいろな悩みを抱えていました。しかし今では定時制高校に通い、ユウマさんにも高校へ行くことをすすめています。こうしてトモヤさんの学校生活を聞くうちに、ユウマさんにある気持ちの芽生えがありました。

「あいつと一緒に中学不登校だった。(トモヤさんが)定時に行くって言って、『大丈夫、行けるのかな?』と思ってたけど、ちゃんと友達もできたし、楽しそうにしてる。考え直すと学校は、いいところなんだろうなという考えに変わった」(ユウマさん)

NPOのスタッフは子どもたちの様子を見守りながら、本人の希望を叶えるためのアシストもしています。車やバイクに興味があるユウマさんからの相談に、スタッフも応援を約束しました。

「親以外に『じゃあ、ほかのことしてみる?』みたいな提案をしてくれたのが大きかったですね。(就職が)なくなってどうしようって悩んでたときも、定時制の高校とか、通信制の高校もあるよってスタッフが教えてくれた。すごい助かりましたね」(ユウマさん)

コロナ禍で行き場を失う子どもたち。学びたくても学べない子どもたちは、きっかけがあれば学ぶ意欲を持てます。しかし、その支えの多くは、民間の熱意に頼らざるをえない状況です。

問われているのは社会の姿勢

コロナの感染拡大で、子どもたちはより厳しい状況に追い込まれています。八王子つばめ塾では学習支援に加え、困窮世帯への食料支援も始めていました。もはやNPOの支援は学習だけにとどまらないと、代表の小宮さんは考えています。

「ご飯をどうしようという不安のなかにいると、安心して学習ができないと僕はいつも思ってるんです。ある程度食べることが安心できて、そのあとに勉強だと思うんですよ」(小宮さん)

この日、小宮さんの元に1人の高校生が合格通知書を持ってきました。

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小宮さんに合格通知書を見せる高校生

「家が経済的に困っているときに本当に助かりました。先生たちにメンタル面もすごい支えてもらってました」(高校生)

コロナで取り残される子どもを出さないため、大人は何ができるのか。

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NPO法人代表 小宮位之さん

「『格差が生まれてもしょうがないや』としている社会は、その子の家庭の問題じゃなくて、周りの社会の問題だと思う。厳しい状況のご家庭に生まれたからそうなっているのを、仕方ないと見るか、周りがバックアップして少しでも格差をなくしていくのか。どっちの社会を日本が目指すのか問われていると思います」(小宮さん)

コロナで取り残される子どもたち
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(2)私たちの声を聞いてほしい

※この記事はハートネットTV 2021年2月2日(火曜)放送「コロナで取り残される子どもたち(1)「教育の機会を守りたい」を基に作成しました。情報は放送時点でのものです。

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